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キューブリックはアポロ計画捏造に加担していた!?奇抜な解釈で巨匠の脳内を分析した映画

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映画『ROOM237』より


スタンリー・キューブリック監督が1980年に発表した、ステディカムを用いた美しいカメラワークと悪夢的なイメージでその後のホラーの潮流を変えた作品として知られる映画『シャイニング』。この作品を5人のキューブリック研究家が独自の解釈により読み解いていくドキュメンタリー『ROOM237』が1月25日(土)より公開される。『シャイニング』本作はもちろん、キューブリック監督のフィルモグラフィーを検証しながら、『シャイニング』の舞台となるオーバールックの見取り図の再現や本編を逆再生するなど、大胆な手法を駆使して、アポロ計画捏造への加担やホロコーストとの関連など、コメンテーターたちの奇想天外な持論が映像化されている。今作の監督ロドニー・アッシャーに、制作の経緯について聞いた。



究極的にイジってそこからまた新たな解釈を見出す




── この映画『ROOM237』は、巧みな編集のテクニックにより、キューブリックの全作品の映像以外にも『大統領の陰謀』『カプリコン・1』など、色々な映画のフッテージがたくさん詰め込まれています。キューブリック作品以外の映画の引用というのは、どんな基準で選ばれたのでしょうか?



編集は自分自身で自宅のスタジオで編集しましたが、この映画を作るにあたって一番楽しい過程でした。どのシーンにどの映画の映像を使うか、というのは特に法則や基準はなかったんです。わりと恣意的に選んで使っています。ただ、言いたいことはもちろんあって、一つは『シャイニング』が本当は何を意味しているのか?を様々な視点で論じている人がたくさんいるということ。もう一つは、映画の力、イメージの力がいかにすごいかということ。


やはり人の発言や考えは、過去に観てきたものから影響を受けていると思います。『ROOM237』では、人に影響を与えうる、“ある映画のあるシーン”をいくつも散りばめました。映画・映像のイメージの力はとても強いということを伝えるために、このような構成にしました。この映像はハマるな、これはハマらないな、っていう非常に感覚的なチョイスでしたね。



webDICE_ロドニー・アッシャー監督写真B (C)Photography by Joseph Cultice

『ROOM237』のロドニー・アッシャー監督 ©Joseph Cultice




ひとつ例をあげると、5人のコメンテーターのうちのひとり、ビル・ブレイクモアがコメントするところで、ウェンディ・カルロスのスコアが冒頭の空撮シーンで鳴り響きますよね。そこで先住民についての考察がコメントされます。この冒頭シーンはヘリから空撮していますが、幽霊とか魂が人間を見下ろしている、というような感覚になるシーンですよね。だから魂・幽体・幽霊が観ているんだと、いうことを暗示するシーンを、何か違う映画から映像を持ってくるべきだと思いました。幽霊などは、現代ホラーだとCGで作っているから全然怖くない、伝わらないと思い、無声映画時代のムルナウの『ファウスト』を使うことにしました。『ファウスト』のワンシーンでは、馬に乗った騎手たちが骸骨の幽霊になって見下ろしているシーンがあるのですが、まさにヘリからの空撮をなぞっていると思いました。




この『ファウスト』で描いているテーマもまた『シャイニング』ととても重なるところがあって、例えばジャックが自分の魂を悪魔に売るという話ですから、ジャックがゴールドルームのバーで「1杯でもいいから飲みたい、飲めるんだったら悪魔に魂を売る」と言うと本当にバーテンが出てくるシーンは、とても『ファウスト』的だなと思ったりしました。あの冒頭の空撮シーンは、騎手たちがお城の上を飛ぶ『ファウスト』のシーンとイメージが重なります。


これは僕の説なんですが、実はキューブリックは、あらゆるホラー映画を観ていたらしいので、『シャイニング』も『ファウスト』にインスピレーションされていたのではないかと。そういう意味では僕は6人目のコメンテーターになるかもしれませね。





webDICE_「ROOM237」 メイン

映画『ROOM237』より



── キューブリックがあらゆるホラー映画を観ていた、というのはどこかから聞いた話なのですか?



どこで読んだかは覚えていないんですが、以前、何かの文献で、『シャイニング』の準備をするにあたり、ありとあらゆるホラー映画を観て研究したと読んだことがあります。




── 5人のコメンテーターのうち、ある人は自分の専門的な学術的な知識から、例えばギリシャ神話のミノタウルスやホロコーストを引っ張り出してくる。またある人は舞台となるオーバールック・ホテルの見取り図を作ったり、主人公ジャック・トランスの息子ダニーの三輪車のルート図を作ったりする。さらには、キューブリックがNASAのアポロ計画における月面着陸映像の捏造に加担していると断言する人もいる。そうした学術的な検証や物理的な検証など、いろんな解釈や視点が盛り込まれていて非常に面白いですが、監督自身このドキュメンタリーの興味深い点、非常に気に入っている点を教えてください。



そうですね、5人それぞれが全く違う視点で語っているというところに気付いていただけて、とても嬉しいです。やはり意識して異なるフィールドからのコメンテーターを持ってきています。それぞれ何かに関する専門家であったり、興味の方向が違う人たちに語ってもらいました。



僕がこれが面白かったと感じたことをひとつ挙げるとしたら、本編を逆再生して重ねていくところ。これは非常に斬新というか、21世紀的な映画の見方、分析の仕方だなと思いました。やはり我々の映画との付き合い方というのは、劇場で見て、批評を読んで、そのうちテレビで見られるようになり、そしてVHSが出てきて、DVDになったりと、どんどん進化しているわけですよね。ホテルの中をダニーがどのように進んでいるか、その地図をデジタルで作ったり、フレームをフリーズしてみたり、映像を色々といじってみることができるようになったわけです。この逆再生というのは映画そのものを改編というか、究極的にイジってそこからまた新たな解釈を見出すとていう、一番新しい見方なのではと思います。




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映画『ROOM237』より



237号室の中で起きることは、映画そのものの縮図




──この映画のタイトルについてお聞きします。もちろんこれは『シャイニング』の劇中でジャック・トランスが全裸の美女と出会い、実は老婆の亡霊だったというあの部屋ですよね。例えばベタな言い方ですが、『ミステリー・オブ・オーバールック・ホテル』みたいなタイトルではなく、『ROOM237』にしたというのは、やはりあの部屋が『シャイニング』を象徴する空間である、という考えからなのでしょうか?



おっしゃるとおり、あの部屋というのは映画の核であって、ホテルの核でもあるんです。あの237号室の中で起きることは、映画そのものの縮図なんです。それから、あの部屋でダニーに何が起きたのか、というのをわざわざカットしてますよね。そういう意味では非常に重要なシーンなのだと思います。あとは原作の217号室から237号室に替えたという事実もあります。それともうひとつ面白いのは、本編の尺的にもちょうど真ん中にくるんですよね。あのシーンは、ど真ん中にあるんです。




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映画『ROOM237』より




── 監督が以前撮った短編『The S From Hell』は、スクリーン・ジェムズという映画配給会社のロゴマークを巡るドキュメンタリーですね。この作品からは、監督自身が非常に個人的なトラウマや恐怖感のようなものを感じました。この映画を撮った動機は何でしょうか?




この映画はおっしゃるとおり、スクリーン・ジェムズのロゴがトラウマになってしまう子供たちの話です。これは僕自身も1970年代のテレビ局のとあるロゴに妙な恐怖を覚えることがあったんです。このスクリーン・ジェムズの話はネット上で、誰かのオンラインジャーナルで見つけました。それを読んでいて、僕も3歳だった頃、こんな体験したなと、妙な子供に戻るような気持ちになったんです。カーペットで何時間も何時間もひとりでテレビを見ていて、見ているアニメは非常にカラフルで、ポップで楽しんですが、テレビ局のロゴが出てくると、これがとってもごつごつしていてロボットのようで、なんか妙に恐怖をあおるような、奇妙なロゴだったんです。2、3歳ですから、なんか違和感というか、いやな気持ちになるんですけれど、それを言語化できなかった。この体験を見事に代弁してくれているのが、このオンラインジャーナルで見つけたスクリーン・ジェムズで、このロゴでトラウマになる子供たちが、僕自身のようだ思ったのが、きっかけでした。



自分自身も仕事でグラフィックスやアニメをやったりしてきているので、ロゴの裏にある意図にも興味があります。要はブランドを推すためのものなんですが、そこから意外と子供が怖がってしまうんだという、意外な反応が返ってきたりすることに、面白みを感じるんですよね。




── この映画がこんなに世界中で公開されるなんて奇跡だ、驚きだって言っていましたが、これから公開される日本について監督自身なにかイメージをお持ちでしょうか?たとえば日本の映画、アニメ、コミックなどのカルチャーについては興味がありますか?




日本の専門家でもなんでもないんですが、日本の漫画やアニメ、映画には興味があります。アニメでは特に『マッハGoGoGo』や『宇宙戦艦ヤマト』が好きです。手塚治虫作品にも親しんできましたし、ゴジラの映画も好んで観たりしましたね。80年代から90年代にかけては塚本晋也監督の『鉄男』や『東京フィスト』に、こんな奇天烈な作品観たことないと、びっくりしました。あとは『盲獣』、鈴木清順監督の『東京流れ者』が好きです。日本には行ったことがなないので、いつか行ってみたいです。というか、今回の『ROOM237』で来日したかったな(笑)と思っています。



(オフィシャル・インタビューより)











ロドニー・アッシャー プロフィール


数多くの短編映画、CM作品、ミュージック・ビデオを手がけてきた映像クリエイター。9分間のホラー・ドキュメンタリー『The S from Hell』(2010)を監督したのち、その作風をさらに押し進めた『ROOM237』を2012年に完成。多方面から高い評価を得たこの作品は、オースティン・ファンタスティック映画祭の監督賞、インターナショナル・ドキュメンタリー・アソシエーションの編集賞を受賞した。待機中の新作にはホラー・アンソロジー『ABC・オブ・デス』(2012)の第2弾『ABCs of Death 2』があり、日本から参加する園子温監督らとともにオムニバスの一編の監督を務める。











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映画『ROOM237』

2014年1月25日(土)よりシネクイント他全国順次公開



監督:ロドニー・アッシャー

出演:ビル・ブレイクモア、ジェフリー・コックス、ジュリ・カーンズ、ジョン・フェル・ライアン、ジェイ・ウェイドナー

製作:ティム・カーク

作曲:ジョナサン・スナイプス

アニメーション&ポスター・アート:カルロス・ラモス

音響デザイン:イアン・ハーゾン

2012年/アメリカ/英語/103分

原題:ROOM237

配給:ブロードメディア・スタジオ




公式サイト:http://www.room237.jp

公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/映画ROOM237/176100905920236

公式Twitter:https://twitter.com/ROOM237_eiga



▼映画『ROOM237』予告編


[youtube:6aqJC1Jw7X4]

離婚した両親のトラブルを子どもの視点から描いたら?映画『メイジーの瞳』の試み

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映画『メイジーの瞳』より ©2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.



ニューヨークを舞台に、離婚した両親と、ふたりの間を行き来することになった子どもを巡る人間関係を、親に翻弄される6歳の少女の視点から描いた映画『メイジーの瞳』が1月31日(金)より公開される。「ねじの回転」「デイジー・ミラー」などで知られる作家・ヘンリー・ジェイムズの小説を脚色、父役にスティーブ・クーガン、母役にジュリアン・ムーア、そして母の新しいパートナーをアレキサンダー・スカルスガルドと演技派が参加。さらにタイトルロールの少女メイジー役のオナタ・アプリールの、まさに瞳で語るような抑えた演技とその存在感、そして最後に下した「決断」が忘れられない余韻を残す作品だ。今作のスコット・マクギーとデヴィッド・シーゲル両監督に制作の経緯について聞いた。




希望の見えるストーリーに描きたかった




── 最初に、ヘンリー・ジェイムズの小説を現代の設定で映画化しようとしたきっかけは?



デヴィッド・シーゲル(以下、デヴィッド):脚本は私たちが書いたわけではなくて、もともとナンシー・ドインとキャロル・カートライトによって何年か前に書かれていたものでした。ですので、ヘンリー・ジェイムズの小説を現代の設定で映画化しようとしたのは私たちのアイデアではありませんでした。ですが、この脚本を読んだときに、非常にデリケートな視点で描かれているというところにとても興味を持ち、これをぜひ映画にしたいと思いました。6歳の子供の視点からストーリーが語られるというところにとても惹かれたのです。

ふたりの脚本はニューヨークを舞台に設定されていて、そこに少し手を加えたりしていきました。もともとの原作は悲観的に描かれていて、メイジーがシニカルに育っていく話だったのですが、映画は希望の見えるストーリーに描きたかったのです。



スコット・マクギー(以下、スコット):実はヘンリー・ジェイムズの原作「メイジーの知ったこと」もメイジーの視点から書かれているという、とても実験的な小説になっています。原作の時点から子供の視点というコンセプトは始まっているんです。




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映画『メイジーの瞳』のデヴィッド・シーゲル監督(左)とスコット・マクギー監督(右)


── メイジーの視点から見た日常生活がとてもリアルに描かれていると感じました。



スコット:映画を制作する上で役に立ったのが、私たちが「プログラム」と呼んでいる、いわゆるコンセプトのことです。制作のうえで何かを決めるときに、それを元にして決めようという強いプログラムがあります。今作においてそれは「あらゆるものを子供の視点から見たい」ということでした。



例えば、撮影スタッフとは照明を温かい色合いで子供のイノセントな感じが出るようにしようとか、楽天的な感じが出るようにということで、色合い、セットデザイン、壁の色に至るまで細かく相談しました。登場人物の衣装も明るい感じを心がけ、特にメイジーの洋服にはその楽しさが出るようにしたいと衣装担当のステイシー・バタットと話をしました。カメラワークやストーリーテリングについても、必ずしも肉体的なメイジーの視点ということに限らず、メイジーの心理的な空間を画で語ることができるようにしました。つまり、メイジーがいま何に注意しているのか、それがデザインに表れるようにしてきました。あるいは逆に彼女の表情を映す事によって、彼女が感じていることを見てとってもらようにしたり、そうした方法を組み合わせて撮影していきました。



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映画『メイジーの瞳』より ©2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.



── メイジー役にオナタ・アプリールを起用した理由を教えてください。



デヴィッド:自らの内面あるいは自分が何を考えているのかということを非常にシンプルに伝えることができる能力がるということだと思います。それがカメラを前にして自然にできること、これは6歳に限らずどんな年齢の役者でもなかなかない、特別な才能だと思います。彼女には圧倒的な存在感と注意力がありました。演技学校に行っているいわゆる子役ではなく、自然な演技ができる子を探していたのです。



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映画『メイジーの瞳』より ©2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.



── そのほかの出演キャストについて、母親スザンナ役のジュリアン・ムーアにはどのような印象を持っていますか。




スコット:私たちが脚本を読んだ時に、既に彼女は脚本を読んで今作に興味を持っていたということを聞いていました。正直なところジュリアン・ムーアが興味を持っているということで、私たちもこの脚本に関心を寄せるようになったのです。というのは、いちど彼女と仕事してみたいと思っていたからです。彼女はアメリカでも、とても得がたい特別な女優だと思います。幅広く面白い役柄を演じてきた多彩な人であり、数多くの映画に出てきました。そして私たちが尊敬しているのは、とても難しい複雑な役柄を立体的に表現できるということ。どんな難しい役でも、かならず人間性を表してくれるので、その役どころがたとえとっつきにくくても観客はどこかで共感することができる。今作のスザンヌ役には、特にそういう才能が大切だと思いましたので、ジュリアン・ムーアはパーフェクトな選択だと思いました。




── スザンナの新しいパートナーになる男・リンカーン役のアレキサンダー・スカルガルドについては?



スコット:実は私は、アレキサンダーがこれまで出演していた作品を知りませんでした。ですが、ロサンゼルスで彼と会ったときにすごく性格のいい人だなと思いました。そこで感じた、温かさや非常にシンプルな優しさを、撮影現場にも持ちこみ、キャラクターにもそのクオリティを吹き込んでくれたのです。彼がこれまで演じてきたのは、どちらかというと陰のある役で、そうした優しさを持つ役で有名な人ではありませんが、実はそうした温かさが彼自身の人柄の中にあるのです。



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映画『メイジーの瞳』より ©2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.


親が自分の欲望や野心を横に置くことができずに子供を横に追いやってしまう



── 本作を通じて、監督は、子育てには何が一番大切だと思われますか?



デヴィッド:その質問は、この映画のテーマの範囲を越えているかなと思いますね(笑)。メイジーの瞳の中で起こっていることは、子育てのうまくいかないケースが出ていると思うんですね。つまり、父親と母親が社会における自分の欲望や野心を横に置くことができないために自分たちの子供を横に追いやって、メイジーのように子供が孤立感を覚えたり、傷ついたりしている。そういうことは良くないと思います。




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映画『メイジーの瞳』より ©2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.


── スコット監督は高校生の頃、滋賀県に留学されていたそうですね。日本の好きな監督や映画を教えてください。



スコット: 18歳の時から留学で日本に来ているので、日本の文化は私の人格形成に非常に大きな影響を与えたと言ってもいいと思います。とても若い時に形成された、自分の世界観を形作ってくれたのも日本だと思っていますので、日本文化、日本人のユーモア感覚、そしてもちろん日本の食べ物を非常に近しく思っています。ですので、日本に来るたびに自分が若い時に影響を受けたものと再びつながることができてとてもうれしく思います。実は、日本の映画は大学生になるまであまり観たことがありませんでした。ですが、その後大学院で60年代の日本の映画を勉強しました。好きな映画はたくさんあります。私とデヴィッドが1作目『Suture』(1993年)を制作するときにとても影響を受けたのが勅使河原宏監督の『他人の顔』です。他にも鈴木清順監督や、野村芳太郎監督など挙げればリストは長くなります。黒沢清監督、是枝裕和監督も好きです。




── 最後に、あらためて今作のここを観てほしいというポイントがあれば教えてください。



デヴィッド:この映画は6歳の子供の視点から見た映画ですが、その6歳の感じている経験を、そして彼女の内面を観客のみなさんに感じていただければと思っています。そして観ていただいた方が、自分の中の本質的な、非常に原始的なところに触れて、心を動かされればいいなと思っています。この映画の中になにか普遍的なものを感じていただければ嬉しいです。




(オフィシャル・インタビューより)











スコット・マクギー & デヴィッド・シーゲル プロフィール



マクギーは、アメリカ、カリフォルニア州で生まれ育ち、コロンビア大学で学士号を取得し、カリフォルニア大学バークレー校で映画理論と日本映画史を学ぶ。シーゲルは、ニューヨーク州で生まれ、カリフォルニア大学バークレー校で文学士号を、ロードアイランド造形大学で美術学修士号を取得する。1990年に初めて二人で短編映画の製作を始めて以来、チームとして常に一緒に活動している。1993年、長編映画デビュー作『Suture』がサンダンス映画祭で絶賛され、インディペンデント・スピリット賞新人作品賞にノミネートされ、注目される。続いて、主演のティルダ・スウィントンが、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされた『ディープ・エンド』(2001)、リチャード・ギア、ジュリエット・ビノシュ共演の『綴り字のシーズン』(2005)、ジョゼフ・ゴードン=レヴィット主演の『ハーフ・デイズ』(2009)を監督する。瑞々しい才能が世界各国の映画祭で高く評価され、今最も期待されている監督チームである。












映画『メイジーの瞳』

2014年1月31日(金)TOHOシネマズ シャンテ、シネマライズほか全国順次公開




NYに暮らす6歳のメイジー。アートディーラーの父とロック歌手の母が離婚、彼らの家を10日ごとに行き来することになった。メイジーは自分のシッターだったマーゴが、父の新居にいることに戸惑うが、元々仲良しだった彼女にすぐに打ち解ける。母が再婚した心優しいリンカーンも、メイジーの大切な友だちになった。自分のことに忙しい両親は、次第にそれぞれのパートナーにメイジーの世話を押し付け、彼らの気まぐれに我慢の限界を超えたマーゴとリンカーンは家を出て行く。母はツアーに向かい、メイジーは独り夜の街に置き去りにされてしまうのだが──。




監督:スコット・マクギー、デヴィッド・シーゲル

原作:ヘンリー・ジェイムズ

製作:ダニエラ・タップリン・ランドバーグ、リーヴァ・マーカー

衣装デザイン:ステイシー・バタット

出演:ジュリアン・ムーア、アレクサンダー・スカルスガルド、オナタ・アプリール、ジョアンナ・ヴァンダーハム、スティーブ・クーガン

原題:WHAT MAISIE KNEW

2013年/アメリカ/99分/カラー

配給:ギャガ

©2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.




公式サイト:http://maisie.gaga.ne.jp/

公式Facebook:https://www.facebook.com/gagajapan

公式Twitter:https://twitter.com/gagamovie



▼映画『メイジーの瞳』予告編


[youtube:K__GSFHS5bU]

インドネシアの監督が日本の製作環境から学んだこととは?『KILLERS/キラーズ』監督に聞く

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映画『KILLERS/キラーズ』より ©2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films


インドネシアと日本初の合作映画として、2014年1月20日、第30回サンダンス映画祭にてワールドプレミア上映された『KILLERS/キラーズ』が2月1日(土)より日本で公開される。東京とジャカルタを舞台に、殺人とネット上のスナッフ・ヴィデオにのめりこむふたりの男の攻防を描く今作。アジア映画界のなかでもとりわけホラーのジャンルで注目を集めるインドネシア発のスピード感溢れる編集や映像感覚、そこに『冷たい熱帯魚』などに代表される日本映画が持つ細やかな心理描写とスプラッター的効果が融合。これまでにないエンターテインメント作品に仕上がっている。監督のモー・ブラザーズことティモ・ジャヤントとキモ・スタンボエルに日本とインドネシアの混成スタッフによる製作環境について聞いた。




主人公・野村は社会を超越した神




── ではまず、プロジェクト発端の経緯から教えてください。



キモ・スタンボエル(以下、キモ):企画の経緯は、2009年にすでにモー・ブラザーズで作っていた『マカブル 永遠の血族』がサンダンス映画祭で上映されたときに、脚本の牛山拓二さんが 「スプラッター映画を作ろう」 と声をかけてくれたのが始まりでした。



ティモ・ジャヤント(以下、ティモ):二人の男性がマスクをつけてお互いが殺人を犯し、撮影をし、競い合うという内容ですが、キャラクター重視の映画をという提案の上で、物語をつくりあげていきました。



キモ:共同製作なので、両国からの出資を集めは苦労しましたね。



ティモ:2年半かかりました。プロデューサー千葉善紀さんと西村信次郎さんに会い、日活とインドネシアから資金を集め、2012年から本格始動しました。





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映画『KILLERS/キラーズ』のティモ・ジャヤント監督(左)、キモ・スタンボエル監督(右)





── 東京を舞台に、殺人の工程を撮影しネットにアップロードする男・野村と、その映像をジャカルタで偶然目撃し、異様な世界にのめり込んでいく男・バユというそれぞれのキャラクターをどのように作り上げていったのか教えてください。



ティモ:北村一輝さん演じる野村は、社会から生まれたキャラクターではあるけど、モンスターなんです。社会を超越した神であり、自分以上の存在はいない、と思っているキャラクターです。そして、モンスターはただのモンスターであるという思いが込められています。一方、ジャカルタのバユは、良き人間として生きようとします。ジャカルタは実際にバイオレンスに溢れた街ですから、生きようとすればするほど抑圧されてしまうという、野村とは対照的なキャラクターにしました。




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映画『KILLERS/キラーズ』より ©2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films




── 初めての日本とインドネシアとの合作映画ということで、二つの国の製作現場を経験していかがでしたか?



ティモ:日本の古典的な撮影方法については尊敬に値します。ただ私の持っているアイディアはクレイジーなものが多いので、はじめのほうは心配しました。結果的に日本のスタッフとうまく合致したので、満足しています。



── 日本の映画システムの手法のなかで、インドネシアの映画製作に取り込んだら、と思うところはありましたか?



ティモ:ひとつ例を挙げるとすると、今回の編集を担当したのはインドネシア人で、彼はインドネシアで撮影したシーンも日本で撮影したシーンも両方編集したのですが、なぜか日本のシーンだけ先に上がってきたのです。どうしてか聞いてみたところ、日本人の役者はどのカットも同じテイクを繰り返すことができる。しかしインドネシアの俳優は毎回テイクによってアクションや演技が異なるので選ぶのが難しい、というのです。インドネシアも、一貫して同じ演技ができる日本の俳優の演技は、学ぶべきところかもしれないですね。



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映画『KILLERS/キラーズ』より ©2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films


── 野村を演じた北村一輝さんとの撮影はいかがでしたか。



ティモ:野村は、殺人鬼を演じながらもカリスマ性を放つ、独特の魅力のある俳優が必要だと感じていました。そこで紹介されたのが北村一輝さんでした。第一印象は三池監督作品に出演する北村さんの印象が強く、どんなふうに野村を演じるのか想像がつきませんでした。北村さんの役はモンスターであり、嫌なやつ。しかし、それだけではなく、カリスマ的で見入ってしまうキャラクターです。北村さんのカリスマ性を感じていました。



キモ:お会いした瞬間、求めていた資質と魅力を備えた役者だと確信しました。実際に北村さんは野村のようなクレイジーではないですが、野村が見えるんです。過去の出演作も拝見し、役者のなかでも監督のビジョンを演じ切る、すごい才能を持った役者です。




── では、ジャカルタのジャーナリストを演じたオカ・アンタラについては?



キモ:北村さんは個性的で強い顔をしているので、バユ役にはバランスをとって、俳優としても素晴らしいオカさんにしました。



ティモ:オカさんはガタイがいいので体重を減らすように、北村さんにはスマートに今の身体をキープしてくださいとリクエストしました。






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映画『KILLERS/キラーズ』より ©2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films



バイオレンスをそれが当たり前として描かないこと





── 野村、そしてバユともに、ストーリーが進むにつれて精神的に追い詰められていきますが、その精神状態をどのように演出しようと思いましたか?



ティモ:役者を苦悩させるのも一つのやり方です。50%は俳優のキャスティングにかかっています。体験していない感情を想像するのは難しいので、経験豊富な方をと思いました。いい例はオカさんです。自分自身の立場に置きかえ、役に入り込んでくれました。



男性の映画作家はセックスとバイオレンスに惹かれてしまう傾向にあると思います。バイオレンスを扱うときに気を付けるのは、それが当たり前として描かないこと。まるで暴力があった後に対価が描かれていないのは映画監督として無責任だと考えています。自分の身に起こるとすれば大きな痛みを伴うことを踏まえた上で、どのような結果になるのか描くということに気を付けています。






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映画『KILLERS/キラーズ』より ©2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films


── 日本映画で影響を受けた作品や監督について教えてください。



ティモ:映画監督になるきっかけは、黒澤明の『赤ひげ』を観たときです。強く映画監督になりたいと思いました。



キモ:ホラー映画としては、『リング』に多大なる影響を受けました。同じアジア人として、日本の文化に共鳴しますね。





── アクションシーンもふんだんに盛り込まれていますが、撮影現場で危険はありませんでしたか?



ティモ:インドネシアでの撮影開始から1時間後、車でバユが引かれるシーンを撮りました。ところが、ぶつかる手前でブレーキを踏まなければいけないところを運転者が忘れてしまい、本当にぶつかってしまったんです。大きなけがはなかったのは幸いでした。



ティモ:ラストシーンを15階建ての廃墟で撮影しましたが、実はここは安全基準を満たしてない建物。エレベーターも機能していなく、15階まで階段であがるのが大変でした。



── 監督がおっしゃるように、手加減のないバイオレンス描写の先に、暴力と社会の関係性を考えさせられる作品だと思います。



ティモ:北村さん演じる野村はバイオレンスを謳歌したキャラクター。一方、インドネシアのバユは、バイオレンスのスパイラルから逃げられない。二人とも人生においてバイオレンスが鍵となるキャラクター。日常生活でもバイオレンスは関係しています。人にとってバイオレンスとは何なのか?人生にどういう影響を与えるのか?と、考えるきっかけになればと思います。




(オフィシャル・インタビューより)












モー・ブラザーズ (ティモ・ジャヤント/キモ・スタンボエル) プロフィール



ティモ・ジャヤント、キモ・スタンボエルという実は血縁ではない親友二人組。2002年オーストラリアで通ったSCHOOL OF VISUAL ARTS映画学校で出会い、コンビを結成。2003年「ALONE」そして2007年「DARA」という異色スラッシャー短編で映画業界の脚光を浴びる。2009年、シンガポールの出資を受けて、スラッシャーの合作映画『マカブル 永遠の血族』を完成し、同年の韓国プチョン映画祭で最優秀女優賞をはじめ、シッチェス映画祭など数多くのファンタスティック映画祭に招待された。『マカブル 永遠の血族』は世界10カ国以上で劇場公開が決まり、北米の配給は『冷たい熱帯魚』のセイレント・メディアが担当した。












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映画『KILLERS/キラーズ』より (C) 2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films



映画『KILLERS/キラーズ』

2014年2月1日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開



東京──。無機質な「処刑室」で、今日もまた1人の女が無残に殺された。鈍器で殴られた頭から鮮血がほとばしり、肉体が痙攣しながら動かなくなっていくさまを、じっくりとビデオカメラで撮影する野村。彼はその一部始終を捉えた映像を編集し、インターネットの動画サイトにアップするのを習慣にしていた。ジャカルタ──。フリー・ジャーナリストのバユは、正義感に溢れる勤勉実直な男。だが、町の有力者ダルマの汚職事件を追求したことから卑劣な罠にはめられ、取材を断念。忸怩たる思いを抱えながらも、別居中の妻・ディナと娘・エリへの愛を支えに、灰色の日々を生き抜いていた。だが、あるときパソコンを開いていたバユの目に、日本人の若い女性が惨殺されるスナッフ・ビデオの映像が飛び込んでくる。




出演:北村一輝、オカ・アンタラ、高梨臨、ルナ・マヤ、黒川芽以、でんでん、レイ・サヘタピー

製作総指揮:ギャレス・エヴァンス

脚本:ティモ・ジャヤント、牛山拓二

監督:モー・ブラザーズ

製作:日活、ゲリラメラフィルムズ

協力:ポイント・セット

配給:日活

©2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films

2013年/カラー/HD/シネスコ/5.1ch/日本・インドネシア/138分/原題『KILLERS』/R-18+



公式サイト:http://www.killers-movie.com

公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/KILLERSキラーズ/252201808267838

公式Twitter:https://twitter.com/killers_movie





▼映画『KILLERS/キラーズ』予告編


[youtube:g2VtEkK3hZQ]

ロン・ハワード監督が映画『ラッシュ/プライドと友情』のリアルなレースシーン撮影のために試みたこと

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映画『ラッシュ/プライドと友情』より c2013 RUSH FILMS LIMITED/EGOLITOSSELL FILM AND ACTION IMAGE.ALL RIGHTS RESERVED.



ロン・ハワード監督が、F1の黄金期である1970年代に活躍したレーサー、ジェームス・ハントとニキ・ラウダというライバル同士の深い繋がりを描く『ラッシュ/プライドと友情』が2月7日(金)より公開される。『アポロ13』『ビューティフル・マインド』『シンデレラマン』などこれまでも実在の人物を主題に作品を手がけてきたロン・ハワード監督が、ダイナミックなレースシーンやふたりの関係をどのように描こうとしたのか。今回のインタビューでは、F1レースを題材にしたきっかけから、危険と隣り合わせだった撮影現場の様子までが語られた。




観客をF1マシンの運転席に座らせ、ドライバーたちの気分を味あわせる



──今作の物語については『フロスト×ニクソン』で仕事をした脚本のピーター・モーガンから最初に話があったそうですね。



脚本作りの早い段階で聞いて、すぐに興味を持った。「とても面白そうな物語だ。F1のファンではないし特に詳しいわけでもないが、その世界に興味があるし、今までにこういった映画を作った人はいない」と即答したよ。描かれている人物たちも素晴らしい。2人の魅力溢れる人物、観客の心を揺さぶる映画としての可能性と、「F1マシンの運転席に座り、ドライバーの気持ちになる」というこれまで味わったことのないリアルな感覚に、絶対に素晴らしい映画になると感じていた。




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映画『ラッシュ/プライドと友情』のロン・ハワード監督


──当時はF1のファンではなかったそうですが、実際に見たことはあったのでしょうか?



ジョージ・ルーカスが大ファンで、7、8年前、フランスで彼に招待されてモナコGPを見に行った。生で見るのはその時が初めてで、本格的にのめり込んでいったのは、2年前のシルバーストーンでニキ・ラウダと一緒にテレビで観戦した時からだ。彼は解説の仕事のためにレースを見ていた。その時に彼が、各ドライバーが次にどんな行動をして、マシンがどんな状態なのかということを教えてくれたんだけど、彼はテレビの解説者よりも先にすべてを言い当てていた。本当にすごかったよ。立ち上がってトイレに行くこともできなかったほどだ。最先端のテクノロジーとスポーツの精神とすごいスピードを競い合う勇気が混ざり合うと、面白いドラマが生まれるということが分かってきたんだ。




──1970年代のジェームス・ハントとニキ・ラウダのライバル関係のことはご存じでしたか?



いや、知らなかった。後になって雑誌や新聞で事故の写真を見たのを覚えている。でもピーター・モーガンが素晴らしい脚本を書いてくれた。ジェームス・ハントとニキ・ラウダの敵対するだけの関係ではなく、2人の持つ魅力と感情の複雑さを掘り下げて描いている。彼は、どのようにすれば観客と登場人物の距離を近づけることができるかも把握しているんだ。



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──1970年代が舞台の映画ということも気に入った理由でしょうか?あなたにとって70年代とはどのような時代でしたか?



前後の10年と比べても、野性的で官能的な時代だったと言える。60年代後の改革期と80年代のエイズ時代の前は、性革命にブレーキがかけられた。60年代からの反動もあったし、新たに見つけた自由が決定的になったとも言える、いろいろなことが起こっていた時代だ。拡大し続けるメディアが、我々の考えるセレブやチャンピオン、そして我々自身の有り方を変えた。最高だったよ。束縛されることもなく、それゆえに大変な目に遭った人もたくさんいた。なぜならルールが変わり、境界線が広がったことで、人々がちょっとした未知の世界へ飛び出して行ったからだ。そうした記憶を呼び起こせるのは面白いと思った。



──ジェームス・ハントの酒と女に没頭する型破りな人生を観客に見せることについて、ハントにネガティブな印象を与えないよう気を配りましたか?



脚本の段階からそのことは考えていた。私とピーターは大勢の関係者にインタビューしたが、皆が彼のことを愛し、尊敬していて、悪く言う人はひとりもいなかった。だからこれは彼の生き方なんだということを理解し、尊重しなければならない。彼はサーキット上で自分自身を表現し、サーキットの外でもうひとりの自分を表現していたが、どちらの彼もそう違いのないものだった。そのことはとても興味深いよ。



一方のラウダも、チャンピオンになることを第一に考え、結果を残す模範的なアスリートの先駆けとして、非常に興味をそそられる人物だと思った。ジェームスの生き方を否定せずに、理解することが何よりも重要だった。それをやってしまうとせっかくの物語を不当に扱い、歪めることにもなりかねない。ジェームスが感情的な部分で苦しんでいたのは知っているし、ラウダも同様に自分の見た目の変化や感情的であることに悩んでいた。ふたりとも頂点を目指すという野心のために犠牲を払っていたんだ。



──そのような部分はジェームス・ハントを演じたクリス・ヘムズワースとニキ・ラウダを演じたダニエル・ブリュールの演技にも反映されていますか?



当時のF1レースは特に危険なスポーツだった。面白かったのはクリスとダニエルにはそのことを話していないのに、演技に反映していたということだ。映画で描かれている6年の間に、ドライバーたちの勇気と威厳、マシンを通して自分の存在を示すという行為に払う危険の度合いは増していき、暗くなる物語の中でふたりは成長していく。ジェームスでさえ、無謀だった過去の自分にすがろうとしているように感じられるようになる。プロとして何かの道を極めていくということは、生死をかけた問題になってくるのだと私は思う。ふたりのドライバーと同じように、ふたりの俳優がそれを見つけ表現しているんだ。






──クリスとダニエルはどのようにしてこの役を手に入れたんですか?



ダニエルはピーターの推薦だった。私も彼の演技は他の作品で見たことがあったし、気に入っていた。実際にダニエルと会い、ラウダとダニエルの写真を確認してニキの出っ歯と体型の問題をどうするか話し合った時に、彼は付け歯をするなど、そういった部分も含めて役作りすることを望んでいたし、ピッタリだと思った。



──クリス・ヘムズワースについては?



クリスは自分で役を勝ち取った。我々が候補者を考えていた時に、彼は『アベンジャーズ』の現場で作ったオーディション用の映像を送ってきたんだ。クリスはサーファーだが、ジェームスはそうではなかった。だがジェームスにはカリフォルニア特有のカッコよさが漂っていたんだ。クリス自身が持つ雰囲気としぐさを持っていたし、ジェームスのインタビュー映像を見てオーディションのために役作りまでしていたことには本当に驚かされたよ。彼は「ジェームスになるために体を絞ります、見ててください」と言い、体重を13キロ~18キロ落としてきたんだ。




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映画『ラッシュ/プライドと友情』より c2013 RUSH FILMS LIMITED/EGOLITOSSELL FILM AND ACTION IMAGE.ALL RIGHTS RESERVED.



ドライバーの精神状態という観点からレースを撮る




──レースのシーンについては、どのような構想をもとに撮影したのですか?



『ビューティフル・マインド』の撮影にあたり、数式を用いて理論的な数学者たちと話をしたことで、彼らには奥深い感性があることが分かった。さらに『シンデレラマン』のときは、シュガー・レイ・レナードといったボクサーたちと話をして、反射神経が求められるスポーツ選手は誰もが、大抵の人がその価値を理解できないような対象物に対し、体や心が適応できており、非常に高い関係性を築けていることに気づいた。そして今回、ラウダと話をした時に、彼は「マシンに乗った時の自身との一体感」を述べていた。私は「ちょっと待てよ。これは他にも何かあるな」と思ったんだ。そこで私は他のドライバーたちに運転中に何が見えていたのか?何を感じていたのか?を聞き始めた。マシンやコースに対して、ドライバーの感覚でしか分からない“いい日”と“悪い日”があるということに気づき始めた。私はレース中のドライバーの精神状態という観点からレースを考えてみようと思い始めたんだ。



そのアイデアを実現させるために、撮影監督のアンソニー・ドッド・マントルと編集のダニエル・P・ヘンリーとマイク・ヒルに考えを伝え、彼らのアイデアと合わせて少し変わった方法でレースのシーンを撮ることになった。





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映画『ラッシュ/プライドと友情』より c2013 RUSH FILMS LIMITED/EGOLITOSSELL FILM AND ACTION IMAGE.ALL RIGHTS RESERVED.




──サーキット上では具体的にどのようにして撮影を行ないましたか?例えば観客に臨場感を与えるためにはどのようにカメラを配置したのでしょうか?



撮り始めた時はもっとたくさんCGを使おうと思っていたんだ。マシンは普通に撮影し、マシン同士が接近し追い抜いたりする危険なシーンはCGにしようと考えていた。だが最初のテスト撮影でニュルブルクリンクに行った時、歴史に名を残す名ドライバーたちが数百万ドルの価値があるマシンをスピンしながら本気で操っているのを目にした。そして彼らと話をし、追い抜きのシーンを撮らせてもらったんだ。彼らはスタントドライバーではないので、無茶なお願いはできなかったけれど、その次にレプリカの車を運転していたドライバーたちのテクニックを見せてもらった。彼らは接触させることも、スピンさせることも、追い抜くこともできる。その時に、実際にカメラで撮ろうと思ったんだ。現場に来る前の“危ないことはせずに安全に撮ろう”というリラックスした気持ちから、“これならすごい映像が撮れる、気を抜かずにやろう”という気持ちになった。幸いなことに大きなトラブルはなかったけれど、雨の日の撮影時に予定にないスピンをしてしまったシーンの1つが映画の中で実際に使われている。何事もなく撮影が終わってよかったよ。



──あなたもF1マシンに乗ってスピンしたんですか?



そう。運転が必要になる役者たちを連れてドライビングスクールに行ったんだ。彼らにも経験させたかったしね。そこでドライバーが操れるパワーのすごさに驚いたし、公道を走っている高性能の車とは、加速力、シャーシの軽さ、ハンドルの感度など何もかもが違うということを知った。しかもその時に乗っていたのは練習用のマシンでレース用ではない。誰かが「サラブレッドに乗っているようだ」と言っていたよ。完全にコントロールすることはできないんだ。小さな動き1つで車はその方向に向きを変えるように設計され作られている。たとえ何もない真っ直ぐな道でもコントロールできない。サーキット上で思い通りのラインを走ること自体がすごいことなんだ。



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──クリスとダニエルは可能な限り自分たちで運転しようとしていましたか?



もちろん、車同士の距離が近づくような危険なシーンの運転はしないものの、ピットストップのシーンは自分たちで運転ができるようになっておく必要があった。ヘルメットのバイザーを上げた時に、彼らの顔が見えるシーンを撮影したかったからね。そして再びバイザーを下ろしコースに戻っていく。それだけでも周りには大勢の人がいるから危険だった。そして、レーサーとしての雰囲気を出す必要があったんだ。レース中のシーンは、彼らをグリーンスクリーンの前にある実物大のマシンに座らせてカメラで撮影し、それをCGではめ込む。だが実際に彼らが運転しているシーンもかなりあって、観客が後ろに映る直線のシーンではマシンにカメラを乗せて撮っているから、本当に彼らが運転しているということが分かると思う。



──撮影された映像と当時のレース映像を混ぜていますが、どのような試みだったか説明してもらえますか?



観客に今見ている映像は1976年のものだと思い込ませるために、映画製作の最新技術を用いて何でもやった。記録映像、CG、実写、本物のマシン、レプリカのマシン。『フォレスト・ガンプ』と同じ手法を使っているところもあるよ。グリーンスクリーンの前に置いたマシンを撮影し、それを過去のレース映像に混ぜ込む。背景はそのまま使い、細かい部分に修正を加えるんだ。




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非日常を身近にする楽しさを観客に与えたい




──ニュルブルクリンクでのラウダのクラッシュのシーンにも、当時の映像が入っているんですか?



あのシーンは完璧に再現している。当時撮影された8ミリカメラの映像を映画の他の場所で使っているんだ。そこにも編集を加えたり、絵コンテを描いてシークエンスをデザインし、とにかく細心の注意を払って作っている。



──ラウダが事故から復帰し、76年のチャンピオンになるまでの経過も、ありのまま描かれています。



病院のシーンを撮っている数日は気持ちが落ち込んだ。ケガの特殊メイクの出来が素晴らしくて見るのも怖いくらいだったんだ。本物の病院で撮影をしたが、病院はいつでも怖い場所だね。これは皆が楽しくなる映画だけど、あの3日間だけは皆の気持ちも落ち込んでいたと思うよ。



──この映画はF1ファンとそうでない人と、どちらに観てほしいですか?



私の目的は最初から変わっていない。F1のことを知らない人や好きじゃない人も、登場人物たちが織りなす人間ドラマに魅了されること。彼らがどのような人生を生き、彼らを愛する人たちがどのような人生を生きたのか。そして当時のF1はどんな感じだったかを楽しんでほしいね。そしてF1が好きで詳しい人には、そういったドラマチックな要素に加えて、F1がどれだけ愛されていたのかということと、あの年の真実がリアルに描かれているということを感じてほしい。



──『ラッシュ/プライドと友情』は、『アポロ13』と同じように専門的な分野の話に焦点を当てながら人々を楽しませる魅力がある作品だと思います。



そうだね。さらに、『バックドラフト』のような“危険”も含まれている。『アポロ13』と『バックドラフト』を合わせた感じだ。『バックドラフト』の物語はフィクションだがリアリティを追求した。この3作品には共通点があって、炎の中に飛び込むこと、月に行くこと、さらにF1マシンを運転するという、非日常的なことを身近にし、人々を楽しませ夢中にさせる何かがある。空想の物語も好きだが、ドラマで夢中になると、そこで起きていることがまるで自分に起きたように驚いてしまう。私はその感覚を観客に与えることを望んでいるんだ。



(オフィシャル・インタビューより)










ロン・ハワード プロフィール




1954年、アメリカ生まれ。子役として芸能活動を開始し、青年期には『アメリカン・グラフィティ』(73)などの作品に出演して活躍していたが、1976年にコメディ『バニシング IN TURBO』(76)で監督デビュー。その後、『コクーン』(85)、『バックマン家の人々』(89)、『バックドラフト』(91)などの作品が興行的にも批評的にも成功し、一流監督の仲間入りを果たす。アカデミー会員からの評価も高く、95年には『アポロ13』(95)がアカデミー賞9部門にノミネートされ、同作は編集賞と音響賞を受賞。01年には『ビューティフル・マインド』(01)で初めてアカデミー賞監督賞を受賞し、この映画は他に作品賞、脚色賞、助演女優賞も獲得した。











映画『ラッシュ/プライドと友情』

2014年2月7日(金)よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー




1976年、F1黄金時代。世界を熱狂させた二人のレーサーがいた。ドライビングテクも私生活も情熱型のジェームス・ハントと、レース運びも人生も頭脳派のニキ・ラウダだ。シーズンはラウダの圧倒的なリードで幕を開けた。チャンピオンが確実視されたその時、全てが変わった。壮絶なクラッシュ。ラウダは瀕死の重傷により再起は絶望的だった。事故の一因は自分だ、との自責の念を払いのけるかのように、残りのレースに全霊をかけたハントがチャンピオンの座に手をかけた時、ラウダは再びサーキットに戻ってきた。変わり果てた姿で。ポイント差僅か、最終決戦の地富士スピードウェイで、ライバルを超えた絆を胸に二人は限界の先へとアクセルを踏み込む。




監督:ロン・ハワード

出演:クリス・ヘムズワース、ダニエル・ブリュール、オリヴィア・ワイルド、アレクサンドラ・マリア・ララ
脚本:ピーター・モーガン

配給:ギャガ

提供:ギャガ、ポニーキャニオン

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▼映画『ラッシュ/プライドと友情』予告編


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映画『スノーピアサー』ポン・ジュノ監督が国際的なキャストとスタッフを起用し描く「人間の条件」

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映画『スノーピアサー』のポン・ジュノ監督



『グエムル-漢江の怪物-』『母なる証明』で知られる韓国のポン・ジュノ監督が、クリス・エヴァンスやソン・ガンホ、ティルダ・スウィントンといったインターナショナル・キャストを迎え完成させた『スノーピアサー』が2月7日(金)より公開される。氷河期になった近未来、生き残った人類を乗せ走り続ける列車の中を舞台に、富裕層による支配に抵抗する乗客たちの闘いを描いている。ポン・ジュノ監督に話を聞いた。




最終的な編集権も私に委ねられた




──監督が原作の「LE TRANSPERCENEIGE」に出会ったのはいつですか?



私はマンガマニアなのですが、よく行くコミック専門書店で2005年1月に偶然この原作に出会いました。初めは表紙に載っていた列車そのものに惹かれました。列車ほどドラマティックで映画的な空間はない、と “列車の中で起きる出来事”ということに興味を惹かれたんです。次に、列車に乗っている人たちにも魅力を感じました。前方車両はお金持ちで権力のある人、後方車両には貧しくて力のない人が乗っていて、その両者が衝突する。非常に独特で、すっかりその世界にハマりました。立ち読みで全巻を読破し、その場でこれを映画にしようと決めたんです。



──原作との出会いから、実際に映画化するまで時間がかかっていますね。



原作と出会った頃は、『グエムル-漢江の怪物-』のプリ・プロダクションに入っていたんです。しかもその時すでに女優のキム・ヘジャと、「『グエムル』の次は『母なる証明』を撮ろう」と約束していたので、時間が経ってしまいました。『スノーピアサー』の脚本に本格的に取り掛かったのは、2010年で、それから3年をかけ、ようやく韓国、ヨーロッパ、日本での公開に辿り着いたのです。




──今回、「脚色」とクレジットされていますが、原作をどのように映像化しようという狙いがあったのでしょうか。



原作からは、「地球が新たな氷河期に突入し、生き残った人類はみな一台の列車に乗っていて、前方車両はお金持ちで権力のある人、後方車両は貧困な人たちが乗っている」という基本設定を持ってきました。登場人物たちのキャラクターや、主人公が前方車両へ向かって進んでいくというストーリー、革命や暴動といったコンセプトは新たに作り直したものです。原作コミックと同じ部分を探すのが難しいくらい変えています。原作が書かれたのは1980年代半ばですが、富裕層と貧困層の格差といった問題が、原作から30年経ったいま世界中で起きている。80年代にそういった問題意識を持っていた原作者は偉大だなと思います。



──あえてコミックからインスパイアされたシーンを挙げるとするとどこでしょうか?



植物園の車両のシーンは、コミックに出てきたものと、映画に出てきたものとほぼ同じです。それから、私たちはグリーンハウスと呼んでいたんですが、野菜や果物がある車両も、ほんとうにコミックの画を元にして、同じように作りました。それから、ソン・ガンホが初めて登場するシーンに出てくる監獄も、原作のパートIIにある、まるで死体の安置所のような引き出し式の監獄という設定から映し込みました。



──脚本はケリー・マスターソンとの共同脚本ですね。



私が脚色する作業は2011年には終わり、次にセリフの英語訳の作業に入りました。この作品は英語がメインの作品なので、英語部分に手を加えて仕上げる必要がありました。私が書いた韓国語のセリフをそのまま翻訳して俳優に読ませるのではなく、英語のセリフとしてパワフルに書ける人を探していたんです。ちょうどその頃、シドニー・ルメットの遺作『その土曜日、7時58分』を観て、男性キャラクターの描写にものすごくパワーがあるなと思いました。そこで脚本のケリー・マスターソンにすぐ連絡を取りました。この作品では父と息子の関係が描かれていたんですが、『スノーピアサー』でも後方車両から反乱を企てる男・カーティスと老賢者ギリアムとの間に、父と息子の関係を暗示するようなところがあるので、そのためにも彼の手が必要だと思ったのです。



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映画『スノーピアサー』より ©2013 SNOWPIERCER LTD.CO. ALL RIGHTS RESERVED




──企画当初から、このような豪華なキャスティングを想定されていたんですか?



『スノーピアサー』のストーリー自体が、人類の最後の生き残りが一台の列車に乗っているというものなので、いろんな国の人が集まるということは自然な流れでした。でも、華やかなハリウッド俳優を起用することを最初から考えていたわけではありません。演技の上手な人を見つけていくうち、このような顔ぶれが揃いました。



──監督は極限状態に込められた人間の本性を探ってみたい、といつも言われていますが、今回クリス・エヴァンスもいつになく研ぎ澄まされた、追い詰められた表情を見せていましたが、どのように演出したのでしょうか。聞いたところによると、監督はとても穏やかな方で、声を荒らげたりする演出はされないということなのですが。



まず、そもそも私があんな筋肉質のクリス・エヴァンスを殴ることなんてぜったいできないですよ(笑)。彼はすごくアクションが得意で、スタントの担当が「彼はアクション・マシーンだ」と感嘆していたことがありましたが、それ以上に彼自身はとても繊細で内向的なところもあるのが魅力だと思います。『キャプテン・アメリカ』のはずなのに(笑)。



彼が演じるカーティスは、17年間列車の中に閉じ込められ、長い時間が経っても決して忘れられない暗い過去があります。暗闇から永遠に抜け出せない過去を背負った男です。チェコのセットに彼が初めて来たときに、「最後尾のセットに3、4時間いさせてください、17年間彼がどんな思いでいたのかを少しでも知りたいし、想像してみたいんです」と言われたのです。それくらい彼は一生懸命がんばって準備してくれました。




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映画『スノーピアサー』より ©2013 SNOWPIERCER LTD.CO. ALL RIGHTS RESERVED



──ソン・ガンホとは、『殺人の追憶』『グエムル』に続いて3作目ですね。



私はとても人見知りで寂しがり屋なので、新しい顔ぶれの中に、気の置けない、一緒にいて楽な人が一人はいてほしいと思っていました。それで脚本を書く前に、ソン・ガンホとコ・アソンに「再来年あたりに『スノーピアサー』という映画を撮るつもりなんだけど、お二人には出てもらいたい」と、事前に頼んでいたのです。





──それでは、ティルダ・スウィントンを起用した理由は?



ティルダについては脚本を書きあげる前からオファーしていました。とにかく何か一緒に作品を撮ろうと話していたんです。実は、私はもともとティルダのファンだったんですが、彼女が『グエムル』が好きだとインタビューで話している記事を読んだことがあったんです。そこで、2011年のカンヌ国際映画祭で彼女に会った時に「一緒に仕事をしましょう」と約束をしました。ただ、脚本を書いている時、彼女に適した役がないことに気づきました。そこで、もともと中年男性の設定だったメイソン役を、性別を男性から女性に変えて彼女にオファーしたんです。



──全体を通した緊迫感のなかに、ティルダ・スウィントンが演じる総理の過剰な振る舞いは笑いを誘います。



彼女はほんとうにがらりと自分を変えたい!と言っていたんです。顔もまったく違うものにしてルックスを変えたいという希望がすごく強くて、いちど「スコットランドの自宅に招待する」と言われて、私と衣装の担当とプロデューサーで、彼女の家に行ったんです。そうしたら、ひとしきり、まるでショーのように、自分で自分をコーディネートした姿を見せてくれました。もちろん、映画で準備した衣装もあり、家に古くからあった、昔の眼鏡や差し歯を持ってきたり、豚の鼻をつけてみたり、一連のショーを見せてくれて、面白かったです。



演技については、ふたりでメイソンがどんなキャラクターなのかを話し合い、非常に野望のある欲望の強い女性だったという性格づけをしました。だからこそ、大げさに演説もしていたんです。将校たちの前でヒステリックになっているのは、彼女がおそらくかつて将校たちの部屋の掃除や洗濯をする下働きだったのを経て、今やナンバーツーになったという設定を考えていたからです。その総理が後列車両の人々に、メイソンの「ポジションをわきまえ『靴』になりなさい」と警告するシーンや演説シーンは、ケリー・マスターソンの力による部分が大きいです。



──ハリウッドでは、ファイナルカットの権限はスタジオやプロデューサーが持っていますが、今作に関しては?



今回の作品の予算はハリウッドでは中間クラスだと思うのですが、アジアや韓国からみたら高いバジェットになります。幸い今回は制作会社が韓国だったんです。メインとなる会社もCJ ENTERTAINMENTでしたので、私のコントロールがきくような状況を保つことができました。最終的な編集権も私に委ねられたことは幸運だったと思います。



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映画『スノーピアサー』より ©2013 SNOWPIERCER LTD.CO. ALL RIGHTS RESERVED



── 一本の映画のなかに異なるルック、異なる話法が複数登場していますが、通して観ると統一感を持っています。こうした演出は意図されていたのでしょうか。



列車という設定自体がそうした印象を与えたのではないかと思います。人々は車両によって隔離されていて、今回の場合は最後尾といちばん前にいる富裕層とはまったく違う世界です。お金持ちの人たちの車両のなかにも水族館やプール、学校といった世界が存在していています。そのため、それぞれ違ったデザインする必要がありました。その反面、一貫性については、同じ幅と高さの車両のなかの出来事ですから、意識せずとも出るものだと思いました。そのような統一感は、ラストにガラリと変わります。



── 監督が持っているヴィジョンはどのように現場のスタッフや俳優に伝えたのでしょうか。



子供の頃からマンガをよく書いていて、コンテもよく自分で書きます。ストーリーボードの作家やコンテの作家に任せることもありますが、最終的なショットは自分で組み立てて行かなければいけません。ですから、最初のコンテやストーリーボードと、仕上がった作品がほぼ一緒、ということが今までも大半でした。




そうした、コンテ通りの画しか撮影しないというやり方を見た俳優たちは驚いたようでした。アメリカでは、後で編集しやすいように、マスターを撮って、リカバリー・ショットのためにもう一台置いて撮ったり、同じ演技でも数回やってみたり、私のやり方とは全く異なります。ジョン・ハートはそうした方法を「ヒッチコック式な撮影方法ですね」と言ってくださったのですが、韓国では予算がないことが多く、正確に必要なものだけ撮るということに慣れているので、自ずとそういうやり方になってきたんです。その代り、韓国の場合は現場で編集ができるよう編集の機材を置いているので、ミスを減らすことができました。



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映画『スノーピアサー』より ©2013 SNOWPIERCER LTD.CO. ALL RIGHTS RESERVED



──これだけの大規模な撮影において、指示系統は英語でしたか?映画のなかのような自動翻訳機はなかったと思いますが、どのようにコミュニケーションをとったのでしょうか?



今回は、韓国、チェコ、イギリス、アメリカのスタッフがミックスされていた状態でした。進行についての話し合いをするときは英語でやるようにしていました。あらかじめ韓国のスタッフも、英語のうまい人たちを選んでおいたんです。『ヘルボーイ』など、チェコで撮影されたハリウッド映画はたくさんあるので、チェコにいる人で英語ができる人をやはり現地で事前に選んでおいたんです。そして、いまこうしてインタビューを受けているように、通訳者がいましたので、言語はそれほど大きな問題にはなりませんでした。



実は、映画を作るメカニズムは根本的にどこの国でも同じなので、世界の人たちが混じっていても、だいたいパターンは一緒です。『グエムル -漢江の怪物-』ではアメリカのコンピューター・グラフィックスの技術者や、オーストラリアやニュージーランドの特殊効果のスタッフと仕事をしたことがありましたし、『シェイキング東京』(オムニバス『TOKYO!』)のときにも100%日本人のスタッフのなか、香川照之さんや蒼井優さんとの仕事の経験があったので、今回もとても自然にできました。



弱者の物語を伝えたい



── 今作もそうですが、監督の作品に登場する子どもは、いつも深く印象に残ります。スピルバーグでもなく、エドワード・ヤンでもない、監督固有の子どもを描く表現があると感じます。



監督の立場から言うと、子役を使うのはほんとうに難しいのです。よく、「動物と子どもは難しい」と言われているので、できれば避けたいところではあるのですが、『スノーピアサー』では、教室の車両がとても大事な位置づけになっています。今回、列車そのものがひとつのシステムなのですが、では人はそのシステムをどのように維持しているのか、それを示すためにも、子どもへの教育や洗脳の部分を出さなければいけなかったのです。そこで子供たちは「ウィルフォード社のエンジンは永遠だ」と、歌も歌わされ、非常に和やかに見えるけれど、おぞましいシーンになったと思います。『グエムル』のときには、ひとりの幼い少女が犠牲になりましたし、私は子どもが弱者だということを物語のなかで伝えたかったのです。





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映画『スノーピアサー』より ©2013 SNOWPIERCER LTD.CO. ALL RIGHTS RESERVED



──本作をふくめ、これまでのポン・ジュノ監督の映画は、娯楽作品でありながら社会性も伴っています。



私は映画を作る時に、こうしたメッセージを盛り込みたいから映画を撮ろう、とは考えません。あくまでも映画的な楽しみは何か、映画的な興奮は何かを念頭に置いて撮っています。ただ、それだけを考えてしまうと、上辺だけの映画になってしまう。映画的興奮というのは本当に人の気持ちを揺さぶるものであってほしい。そして人生は社会性、政治性と切り離せません。人生を描こうとすると、そういったものは結果的に盛り込まれるのではないかと思います。



──監督の初期の作品は、韓国の社会が大きく変化していくことがストーリーの背景に常にあったと思います。今回は、いろんな国のキャストが揃って、扱われている背景もスケールが大きくなっていますが、監督が興味を持っている対象は大きく変化していっているのでしょうか。



自分が常に描きたいと思っているのは、人間とはどういうものなのか、という人間の条件なんです。今回は、SFという設定を借り、韓国的な特徴やローカル色を一切省いて、いますが、これまでの物語の延長線上でもあるわけです。『殺人の追憶』では80年代を舞台に犯人を捕まえられない刑事がもがいていて、『グエムル-漢江の怪物-』では漢江の川沿いで売店をやっているちょっとマヌケな家族が出てきて怪物を捕まえようともがいている。今回はそういった設定のかわりに、列車という独特の舞台を用意して、列車の中でもがく人たちを描くことで、人間とシステムとは何なのかという本質をよりストレートに突き詰めていきたいと思ったのです。

(2013年12月4日、渋谷にて インタビュー・文:駒井憲嗣)











ポン・ジュノ プロフィール



1969年9月14日、大韓民国出身、ソウル在住。延世大学社会学科卒業後、95年、16mm短編のインディペンデント映画『White Man』等を監督。2000年に劇場映画長編デビュー作となる『吠える犬は噛まない』を発表。監督・脚本を務めた本作で高い評価を受け、一躍注目を浴びる存在となる。03年『殺人の追憶』を手掛け、大ヒットを記録。カンヌ国際映画祭をはじめ、その名は世界へと一気に広がっていく。 06年、韓国歴代動員史上1位を獲得した『グエムル-漢江の怪物-』を発表。同年のカンヌ国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭でも絶賛されたこの作品で、若くして韓国を代表する監督としての地位を確立した。08年初の海外監督作品として選んだ『TOKYO!』に、ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックスと共に参加。3部作のうちの一編『TOKYO!<シェイキング東京>』を、主演に香川照之、そのほかキャストに蒼井優、竹中直人らを迎えて東京で撮影。09年『母なる証明』を発表。カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品され、サンフランシスコ批評家協会外国語映画賞、ロサンゼルス批評家協会主演女優賞ほか多数の賞を受賞した。
















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映画『スノーピアサー』より ©2013 SNOWPIERCER LTD.CO. ALL RIGHTS RESERVED


映画『スノーピアサー』

2014年2月7日(金)、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー



2014年7月1日。地球温暖化を阻止するために、先進国78カ国でCW-7と呼ばれる薬品が散布され、地球上はすべて氷河期のように深い雪で覆われた。かろうじて生き残った人類は皆、一台の列車「スノーピアサー」に乗って地球上を移動し始める。17年後の2031年。その列車では、多くの人間が後方の車両に押し込められ、奴隷のような生活を強いられる一方、一部の上流階級は前方車両で、雪に覆われる前の地球と変わらない贅沢な生活をしている。そんな状況を見かねた後方車両の乗客の一人、カーティスは、仲間を引き連れて、反乱を試みて先頭車両を目指すのだが……。



監督:ポン・ジュノ

出演:クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ、ティルダ・スウィントン、オクタヴィア・スペンサー、ジェイミー・ベル、ユエン・ブレムナー、ジョン・ハート、エド・ハリス

原作:「LE TRANSPERCENEIGE」ジャン=マルク・ロシェット、ベンジャミン・ルグランド、ジャック・ロブ

脚本:ポン・ジュノ、ケリー・マスターソン

撮影:ホン・ギョンピョ

音楽:マルコ・ベルトラミ

VFX:エリック・ダースト

2013年/韓国、アメリカ、フランス/125分

配給:ビターズ・エンド、KADOKAWA




公式サイト:http://www.snowpiercer.jp/

公式Facebook:https://www.facebook.com/snowpiercer.jp

公式Twitter:https://twitter.com/snowpiercer_jp







▼映画『スノーピアサー』予告編



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メロドラマは真実を描くことができる─ジェームズ・グレイ監督が『エヴァの告白』に反映させた自身のルーツ

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映画『エヴァの告白』より © 2013 Wild Bunch S.A. and Worldview Entertainment Holdings LLC


『リトル・オデッサ』『アンダーカヴァー』などを手がけるジェームズ・グレイ監督が、マリオン・コティヤールを主演に迎えた『エヴァの告白』が2月7日(金)より公開される。20世紀初頭のニューヨーク、ポーランドからの移民である厳格なカトリック教徒の女性・エヴァをマリオン・コティヤールが演じ、入国審査を拒否されながらもひたむきに生きようとする彼女と、ホアキン・フェニックスそしてジェレミー・レナー演じるエヴァをめぐる男たちとの愛憎をドラマティックに描きだしている。自らがロシア系ユダヤ人であるジェームズ・グレイ監督が今作の制作と自身のルーツについて語った。



憧れや不安、恐怖を抱えた移民というプロセスを捉える



──『エヴァの告白』は1920年代のニューヨークが舞台となっていますが、監督にとって以前から撮りたいと考えていたテーマだったのでしょうか?



この映画はとても個人的な意味を持っており、私自身の家族に多くのつながりがありますが、自伝的というわけでは全くありません。「個人的」というのは、自分にとって密接な問題や感情を含み、深く理解できて、どう表現したらよいかも分かっているという意味で、自分の人生の出来事を扱う「自伝」とは異なります。私の祖父母はロシア──時代によってはウクライナというべきですが──のオストロポルという、キエフからそう遠くない町から移ってきました。私の祖母の両親はポグロム(ユダヤ人の虐殺)の際、白軍によって殺害されました。1923年には、祖父母は、今作の舞台でもあるエリス島からアメリカ合衆国に入りました。もちろん、エリス島に関して多くの話を聞き、随分夢中になりました。私がその地に初めて行ったのは1988年でしたが、島を再興する前だったので、まるで時が止まったかのようでしたよ。部分的に記入したままの移民申請書が床に散らばった様子が心に焼き付いて……私には幽霊、それも自分の一族中の幽霊がとりついているように思えました。ですから、その強烈なイメージを基に映画を作りたいとずっと思っていたのです。



また一方、母方の曾祖父がハーウィッツというロウアー・イーストサイドのレストランを経営していて、いかがわしい人々をいろいろ知っていたんです。彼らについて調べはじめたところ、地元で売春斡旋をしていたマックス・ホックスティムという人物を見つけました。こうして、エリス島にやってきて、アメリカに入国できない独身女性を自分のハーレムに連れてくる、というブルーノの物語を作り上げました。東ヨーロッパからアメリカへやってきた祖父母が感じた、なじめないという辛さと組み合わせて、興味深い物語となったと思います。移民というプロセスは、多くの憧れや不安、そしてもちろん恐怖に満ちたものだったのです。


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映画『エヴァの告白』のジェームズ・グレイ監督



──監督ご自身のロシア系ユダヤ人の家族と、今作のエヴァとの大きな違いは、エヴァはポーランド人でカトリック教徒だということです。なぜそのような変更をしたのでしょうか?



最初に、今作ではエヴァを、ロウアー・イーストサイドでも、孤立した存在にしたかったからです。そこはユダヤ系の移民が大半でしたから、エヴァにはその場に溶け込んで欲しくなかった。そして、この物語のテーマが、どんな人間でも忘れられたり憎まれたりすべきではない、という思想を持っているからです。私は、どれほどひどい人でも、皆吟味する価値があるものだと信じています。それはとても聖フランシスコ的な考えです。ロベール・ブレッソンと『田舎司祭の日記』、特にその中の告解の場面のことが頭にありました。禁欲的で神話的な要素が欲しかったのです。ですが、この映画は単にブレッソンへのオマージュというわけではありません。部分的には、オペラやメロドラマの伝統にも影響を受けています。大げさな感情やドラマティックな状況を通して、より偉大な真実を目の当たりにすることができます。だからこそ、この映画にはプッチーニや、グノー、ワーグナーの音楽をつけたのです。



──監督のこれまでの作品は男性が主人公でしたが、今作は始めて女性の主人公を中心に据えて取り組んでいますね。



私はプッチーニのオペラ『修道女アンジェリカ』にとても興味を持っていました。尼僧の女性に焦点を当てた純粋なメロドラマで、並外れて感情豊かでドラマティックな状況を描いています。正しく表現されれば、メロドラマは最も美しいものです。作品を作るアーティストもその感情が真実だと信じ、嘘がないからです。プッチーニのこのオペレッタを、私はロサンゼルスで観たのですが、ウィリアム・フリードキンが演出していました。終盤では泣きましたよ。『エヴァの告白』はこの路線で行こう、と本当に努力しました。主人公を女性にしたので、西洋文化において男性のペルソナの一部となっているマッチョの要素を使わずして、感情の大きな動きを模索することができました。エヴァは自分自身の運命を把握していますが、同時に犠牲者でもあります。エヴァは、実際犯したかどうかは別にしても、自分自身の罪に対して罪悪感を持っています。そして、とても力強い女性です。



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映画『エヴァの告白』より © 2013 Wild Bunch S.A. and Worldview Entertainment Holdings LLC




──エヴァ役はマリオン・コティヤールのために書いたのですか?



そうです。彼女が出演している作品は観たことがなかったのですが、友人のギヨーム・カネを通して、彼のパートナーであるマリオンに会いました。ギヨームとディナーに行ったら、マリオンも来たんです。その美しい顔を見て、カール・テオドア・ドライヤーの『裁かるるジャンヌ』に出ているルネ・ファルコネッティを思い出しました。「この女性なら何も台詞を言う必要はないな」と感じるほど、本当に表情が豊かでした。彼女なら、サイレント映画にも出られるでしょう!



私がこの映画をマリオンのために書いたのは、これが移民についての物語であり、彼女ならとても言葉にならない魂の状態を伝えられると思ったからです。彼女なしではこの映画を作ることはできなかったでしょう。もちろんエヴァがポーランド人であるという設定は大きな難関でしたが、結局は素晴らしい結果になりました。ある日、私はマリオンの叔母を演じた女優に、マリオンのポーランド語をどう思うかと聞きました。その女優はマリオンのポーランド語は素晴らしいが、若干ドイツ語訛りがあると言うのです。マリオンに聞いてみると彼女の答えはこうでした。「そうよ、エヴァはドイツとポーランドの間のシュレジエン出身でしょ。わざとやってるの」。マリオンはそこまで徹底してるんです!感服です。




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映画『エヴァの告白』より © 2013 Wild Bunch S.A. and Worldview Entertainment Holdings LLC



── 敵対する従兄弟同士、ホアキン・フェニックス(ブルーノ)とジェレミー・レナー(オーランド)についてはどうでしょう?



ブルーノ役もホアキンのために書きました。ホアキンと私はとても仲が良く、彼は常に私が表現しようとしているものを理解してくれる偉大な俳優です。演じる役柄の内面をよく伝えることができるので、映画全体を通して、彼の役は策略家としてつかみどころがなく、移り気にするという計画でした……。ブルーノは本当にぞっとするようなキャラクターですからね。しかし、彼もまた生き残るのに必死で、ひねくれたものであるとはいえ、ある種の愛すら経験します。彼もまた贖われるべき存在なのです。



マジシャンのオーランドに関しては、私は彼をトラブルメーカーでもあるロマンチックなヒーローにしたかったのです。ずんぐりしていると同時に優雅でもあるという風貌がよいと思いました。この人物は、マジシャンであり読心術師でもあったテッド・アンネマンをモデルにしています。オーランドがあらゆる点で驚くべき人物だということを、ジェレミーは完璧に理解していました。空気より軽く、しかしまた自己破壊的な要素も持ち合わせていますし、家がなく、常に移動しています。オーランドにはどこか聖なる愚者といった雰囲気があります。ジェレミーはこうした難しい役を軽々とカメラの前で演じることができます。とても独創的なんです。私は本当に彼の大ファンなんですよ。



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映画『エヴァの告白』より © 2013 Wild Bunch S.A. and Worldview Entertainment Holdings LLC

マリオン・コティヤールの姿に『裁かるるジャンヌ』を思い出した




移民受け入れをテーマに始めてエリス島現地で撮影




──オーランドがエリス島の移民のためにショーを行うというシーンがあります。あれはあなたのリサーチの成果ですか?



もちろんです。大ホールで移民達のためのパフォーマンスが行われていました。例えば、ダンスカンパニーの写真が証拠として残っています。偉大なオペラ歌手のカルーソーもあのシーンに登場しますが、彼は実際にあそこで歌ったんです。できるだけショーを本物らしくしたかったので、現代のカルーソーとも言われる、オペラ歌手のジョゼフ・カレジャにカルーソー役を依頼しました。この映画のオペラ的精神ともぴったりするような気がしましたしね。今回、移民受け入れの中心だったエリス島での撮影が実現したのですが、それまで移民受け入れをテーマにエリス島で撮った映画がなかったということにショックを受けました。再興以来、いくつかの映画がエリス島で撮影されましたが、これらは古いエリス島を再現したわけではありませんし、エリア・カザンが『アメリカ アメリカ』で、フランシス・フォード・コッポラも『ゴッドファーザー PART II』でこの島を再現しましたが、彼らはエリス島で撮影する機会はなかったのです。



私はこのエリス島で撮影できるという、極めてユニークな機会を得ることができたことで、できる限り正確に当時を描きたかった。たくさん本を読み、もちろん写真や私の一族全体の書類も山ほど目を通しました。祖父とエリス島を訪れたとき、私達のツアーの中に泣いている女性が一人いました。彼女はあまり英語を話さなかったのですが、祖父が彼女に話しかけました。見たところ彼女は自分の姉妹とそこで生き別れになったらしいのです。こうしたエピソードも物語に組み込んでいきました。




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映画『エヴァの告白』より © 2013 Wild Bunch S.A. and Worldview Entertainment Holdings LLC


メロドラマと「メロドラマ的」ということの差



── 撮影監督ダリウス・コンジとの仕事はいかがでしたか?



物語のオペラ的な性質を反映できるような視覚的な美を生み出したいと思っていたので、ダリウスとの仕事はとてもうまくいきました。彼は非常に繊細な人で、彼と私は制作の1年の間、兄弟のようでした。美術館に一緒に行ったり、絵画やオートクローム(20世紀初頭のカラー写真)を見たりしました。建築家でデザイナーだったカルロ・モリーノが撮った1960年代のポラロイド写真も見ましたよ。色の彩度と黒の濃さという点で、現代の技術で得られるものとしてはオートクロームに最も近いものです。ダリウスと私は色彩や画面全体、セットのどの部分にどう照明を当てるのかといったところについて綿密に話し合いました。私のこれまでの作品は、光がどこから来ているのか常に感じられるような、写実的な画を心がけていましたが、今回はそれをやめました。『エヴァの告白』では、寓話を伝えたかったからです。



──どういう点でこの映画は寓話なのですか?



神話や寓話を求めるとき、人は真実を求めようとします。社会の中で生き残り、働こうとするのはどういうことなのかという真実です。エヴァは、古典的な意味で、大いに苦悶しながら何かを達成するという意味で、ヒーローです。ブレッソンや、ドライヤー、またフェデリコ・フェリーニについて私が大いに感心するのは、余計な騒音を取り除き、根本的なこと、すなわちこの世界で人間であるための苦闘に焦点を絞るという彼らの能力です。これが今、私が達している境地なのです。『エヴァの告白』で、私はジャンルというお膳立てのない映画を作ることができました。ジャンルというものを取り去り、独自のジャンルに属する、オペラを映画に転換した作品、を作りたかったのです。



──何故それ程メロドラマに惹かれるのですか?



感情を表現しようとしているとき―または、単に観客に取り入ろうとするよりも、むしろ正直になろうとしているとき―、自分はこの状況を忠実に伝えているだろうか、と考えなくてはなりません。言い換えれば、俳優が伝えようとしていることは、物語の文脈としてふさわしいかどうか?俳優が説得力を持って表現しているのか、それとも役柄に無理やり合わせてしまっているのか?ということです。俳優が完全に役柄と一体となっていれば、「やりすぎ」とか「もの足りない」ということはないのです。真実か真実でないかのどちらかしかないし、そしてこれが私にとってはメロドラマと「メロドラマ的」ということの差なのです。全力投球していれば、不自然にもこじつけにもなりません。依存関係という極めて現代的な心理的状態を描くのに、幅広い感情を伴う、このようなメロドラマという発想を使って映画を制作することは、他の映画にはない試みになるだろうと思ったのです。2人の人間が、どんな屈折した形であれ、互いを必要とすることになるという映画。人生は常に我々を不利な状況に追いやりますし、こうしたシナリオはしばしば悲劇によって損なわれますが、だからこそよい物語にもなるのです。



──このメロドラマという発想は、女性的な視点のために考え出されたものでしょうか?



そうですね、実際、アメリカ映画には長いこと女性の物語を伝えるという素晴らしい伝統があります。特に1930年代、40年代はそうでした。これは奇妙なことです。あらゆる点で、当時の社会は女性の扱いにおいては完全に遅れていますからね。しかし、前に進むためには、時に振り返ることにも意味があると思いますし、そうする過程でベティ・デイビスやバーバラ・スタンウィック、グレタ・ガルボなど、多くの当時の女優について考えました。男たちよりもむしろ、エヴァの人物像に焦点を当てることが重要だと思いました。観客にとって、男たちが幾分つかみどころがない存在に見えるのは、エヴァにとって男たちがつかみどころがないからです。エヴァは、彼女の立場にとどまる限り、決して本当には誰のことも信頼することはできませんでしたし、私にとって、それは人物像を形作る上で非常に大きな力となる状況なのです。



(オフィシャル・インタビューより)












ジェームズ・グレイ プロフィール


1969年アメリカ・ニューヨーク市生まれ。1994年25歳のとき、『リトル・オデッサ』で監督デビューするや、同作でヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞。同年、インディペンデント・スピリット賞新人作品賞・新人脚本賞にノミネート。『裏切り者』(01)と『アンダーカヴァー』(08)『トゥー・ラバーズ』(08/未)では、カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映。『アンダーカヴァー』はセザール賞外国語映画賞にノミネート。『トゥー・ラバーズ』では、インディペンデント・スピリット賞監督賞と主演女優賞(グウィネス・パルトロー)とセザール賞外国語映画賞にノミネート。インディペンデント映画監督として高い評価を得ている。











映画『エヴァの告白』

2014年2月14日(金)TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館他全国順次ロードショー



1921年、戦火のポーランドからアメリカへ、妹と二人で移住してきたエヴァ。夢を抱いてNYにたどり着くが、病気の妹は入国審査で隔離され、エヴァ自身も理不尽な理由で入国を拒否される。強制送還を待つばかりのエヴァを助けたのは、彼女の美しさにひと目で心を奪われたブルーノだった。移民の女たちを劇場で踊らせ、売春を斡旋する危険な男だ。彼の手引きで厳格なカトリック教徒から娼婦に身を落とすエヴァ。彼女に想いを寄せるマジシャンのオーランドに見た救いの光も消えてしまう。生きるために彼女が犯した罪とは?ある日、教会を訪れるエヴァ。今、告解室で、エヴァの告白が始まる──。




監督:ジェームズ・グレイ

出演:マリオン・コティヤール、ホアキン・フェニックス、ジェレミー・レナー

撮影:ダリウス・コンジ

脚本:ジェームズ・グレイ、リチャード・メネロ

製作:ジェームズ・グレイ

2013年/118分/アメリカ、フランス

配給:ギャガ



公式サイト:http://ewa.gaga.ne.jp/

公式Facebook:https://www.facebook.com/ewa.kokuhaku

公式Twitter:https://twitter.com/@ewagaga4





▼映画『エヴァの告白』予告編


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フランソワ・オゾン監督が新作『17歳』で思春期の自我とセクシャリティをテーマにした理由

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映画『17歳』より ©MANDARIN CINEMA-MARS FILMS-FRANCE 2. CINEMA-FOZ


フランソワ・オゾン監督の新作『17歳』が2月15日(土)より公開される。裕福な家庭に育った17歳の少女・イザベルが、SNSを介して男性たちと知り合い情事を重ねていく過程を、彼女自身の自我の変化や、彼女の秘密を知ることになる家族や友人たちとの関係を交え描き出している。四季の移り変わりとともに、思春期の少女のセクシャリティの変化をダイレクトに捉えたオゾン監督が、今作のテーマや制作のきっかけについて語った。



思春期とホルモンの関係を掘り下げる



──最初に『17歳』の制作のきっかけからお願いします。



『危険なプロット』の監督として、エルンスト・ウンハウアーとバスティアン・ウゲットと仕事をし、充実した時を過ごせたから、若手俳優や女優ともう一度仕事をしたいと思った。初期の短編や長編映画では、思春期のテーマを掘り下げたが、『まぼろし』以降、主に年齢層が上の俳優と働いてきた。だから、『17歳』は、現代の若者たちを取り上げた映画を撮りたいという希望から始まった。前作で少年たちとの撮影を終えたばかりだったから、若い女性が中心の映画を撮りたいと思ったんだ。



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映画『17歳』のフランソワ・オゾン監督


──主人公のイザベルはただの若い女性ではなく、売春をしています。



この作品では、17歳の感覚がどういったものなのか、そして肉体が変わっていく経験をテーマとして取り上げた。映画では思春期がよく理想化されて描かれる。僕にとっては、思春期は人間としての複雑な移行期だ。それは痛々しいものだし、僕は何ら郷愁を感じない。僕は思春期を単に感情が揺れ動く時期としてだけ描くことから一歩踏み出し、思春期とホルモンの関係を掘り下げたかった。僕たちの体は強烈な生理学的変化を経験していくが、僕たち自身はそれを敏感に感じ取れていない。だから、何かを感じるために体をあえて傷つけたり、肉体的な限界を試したりする。売春というテーマにより、それをクローズアップして取り上げられるし、思春期に持ち上がる自我や性の問題を綿密に描くことができる。そこでは、性はまだ感情と密接な関係で結ばれていないんだ。



──イザベルの家庭はお金に不自由していません。つまり、彼女はお金のために売春をしているわけではないのですね。



イザベルは生きるためや学費を払うために客を取っているわけではない。彼女は何かに突き動かされて、そうしている。彼女は、秘密なことや禁じられたことをしたいから、薬に走っていたかもしれないし、拒食症になっていたかもしれない。思春期という時期は何でもできる年齢だし、実りも多い。だからこそ思春期は刺激的だし、それがランボーの詩「物語」で謳われている精神だ。世界に対して心を開き、道徳には縛られない。イザベルは人生という旅路に足を踏みだし、実体験を積み始めたわけで、性的に倒錯しているから売春に手を染めているわけではない。



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映画『17歳』より ©MANDARIN CINEMA-MARS FILMS-FRANCE 2. CINEMA-FOZ





──イザベルは、特に彼女が処女を失う時に顕著にみられるように、快楽を追い求めているというよりも、自分の希薄な感情と向き合っているように感じます。



マリナ・ドゥ・ヴァン(脚本家/オゾン監督の『まぼろし』や『8人の女たち』の脚本を手がける)と話し合っている時に、イザベルが大人になるその大事な局面で、キャラクターの二面性を見せるという着想を得た。少年も少女も、性というものを発見した時、超現実的な感覚を経験する。その場にいる感覚がすると同時に、いないような感覚もする。自分が主役であるが、客観的に見ている部分もある。そのシーンには、イザベルのその後の人生の二重性を観客に予感させる意味を持たせた。



──映画は、イザベルの弟が双眼鏡で彼女を見ている場面で幕が上がります。彼女は、始まってすぐに、プライバシーが「侵害」され、盗み見られる対象として登場します。



その通りだ。イザベルの振る舞いは、近くにいる人たちから強い反発を受け、強烈な反応を引き出してしまう。映画の中の四季は、異なる登場人物の視点で始まる。夏はイザベルの弟、秋は彼女の顧客、冬は彼女の母親、春は継父だ──どの季節のシーンもすぐにイザベルの視点に戻ることになるけどね。四季が移り変わる円のようなイメージで物語を展開したかった。『ふたりの5つの分かれ路』のように、ストーリーをより綿密に描くために、そういった特別な瞬間に集中したんだ。


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映画『17歳』より ©MANDARIN CINEMA-MARS FILMS-FRANCE 2. CINEMA-FOZ


彼女が売春をする理由は、背徳を通してある種のすがすがしさを得られるからだ




──それぞれの季節にフランソワーズ・アルディの歌が使われています。



そうだね。ある秩序立った枠組みを設けて、その中で完全な自由を手に入れたかった。僕にとって、物語が一学年度にわたり展開するということが大事で、歌で区切りをつけながら、成り行きをかたずをのんで見守る構成にしたかった。アルディの歌を使ったのは、『焼け石に水』の中に使った曲「夢を追って」、『8人の女たち』で使った曲「告白」に続いて3回目だ。アルディは、失恋や幻滅といった10代の恋愛の本質をとらえているから好きなんだ。良く知られる彼女の歌にのせて、若々しいイザベルを描写するのは面白いと思った。イザベルは、心の奥底では、そういう感傷的で理想化されたよくある思春期像を受け入れたいと思っていて、彼女の両親もイザベルにそういう思春期を送ってほしいと思っている。だが、イザベルは本当に誰かと恋に落ちる前に、まず本当の自分を見つけたり、心の中の葛藤を直視しなければならないんだ。



──イザベルが顧客に会いに行く時、地下鉄のエスカレーターやホテルの廊下を繰り返し通ります。遊び心を持って、そういったロケーションをうまく使っていますね。




人が秘密の経験をする時に見られるように、衣装や、繰り返し出てくるロケーションには、儀式的な意味合いがある。イザベルは、その儀式的な側面を好んでいる──ネットに接続し、相手がどんな人か想像し、料金を交渉し、会いに行く、といったような流れだね。イザベルは、実際に顧客と寝る時には、ほとんど何も感じていない、と彼女の精神科医に打ち明ける。彼女が売春をする理由は、冒険的な側面や、ともすれば退屈な10代の日常を突き破り、背徳を通してある種のすがすがしさを得られるからだ。僕の映画の多くの登場人物は、日常から抜け出したい欲求を持っている。観客の中には、映画の最後の方で、彼女は薬物中毒のように売春がやめられなくなり、また顧客を取り始めると感じる人もいるかもしれない。




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映画『17歳』より ©MANDARIN CINEMA-MARS FILMS-FRANCE 2. CINEMA-FOZ


──10代の売春は大きな問題になっています。イザベルの行為を安易に現実の社会問題に置き換えて捉えられないように、どう工夫してこの物語を構築しましたか?



社会状況は僕が10代の頃とは違うからリサーチをしたよ。特に性情報について携帯やネットが果たす役割などについてを。僕が10代の時はミニテル(80~90年代にかけて全盛期を誇ったフランスの情報通信サービス)を使っていたからね!リサーチのために、非行少年・少女を担当している警察官や、新手の売春を専門に取り締まる警察官、問題を抱えるティーンエイジャーを見てきた精神分析医のセルジュ・ヘフェズと会った。この作品で僕が持っていた直感が正しいと確認し、それを掘り下げたかったんだけれど、一方で物語がフィクションとして受け入れられるように心掛けた。



──イザベルの父親が不在ですが、それと彼女の振る舞いを結びつけた説明はありませんね。



そういう説明はしなかったが、観客が理解できるような手掛かりをいくつかちりばめたつもりだ。イザベルの行動を説明する理由はたくさんある。作品を見る人それぞれが、自由に解釈したら良いと思うよ。観客に、そういう自由裁量を与えたい。僕だってイザベルの理解できない点がたくさんある。いわば昆虫学者が研究している生き物の魅力に取りつかれるように、僕の方が理解しようとして彼女というキャラクターを追いかけていたね。イザベルは口数の少ない女性で、唯一、心を開いて話すのは、彼女が2回目に精神科医と話す時だ。そういう構成にしたのは、観客がイザベルに付き添うような感覚を持ったり、感情移入してもらうためだ。観客は、イザベルや彼女の両親が経験する多くのことに共感を持つことができる。それを達成できたのは、そういう登場人物の置かれた状況が現実に根差したものであり、出演者の演技がリアルだからだ。どのキャラクターも複雑な状況下であがいているが、その中でも自分なりに最善を尽くして問題に対処しようとしている。



──どんなことを念頭に置いてセックスのシーンを撮影しましたか?



セックスシーンはリアルに描きたかったが、下劣にならないように心掛けたし、不道徳という判断が下されないように気をつけた。ご覧の通り、イザベルの顧客の中には少し変人もいるが、要はイザベルが行為に適応する様子を見せたかった。イザベルは、まだ自分の欲望が何なのか不確かな時に、他人の欲望を受け止めなければならない。ある面では、他人が彼女のもとで欲望を感じることは、彼女にとって意味のあることだと思う。僕は現実に尾ひれをつけるつもりはないが、ある意味では、イザベル自らがそういう方向を欲したのかもしれないね。



──顧客の1人のジョルジュは、ほかの顧客と比べて異色です。



そうなんだ。イザベルとジョルジュには、互いに通じ合うものがある。彼女は彼との関係を快楽とさえ感じているかもしれない。彼が彼女を見つめたり、体に触れたりする様子は、特別なものだ。2人の関係には優しさがあふれ、他の顧客との間にある実務的な側面がない。ジョルジュは高齢にもかかわらず、とても魅力的だし、セクシーで、女性が誘惑されやすい男だ。それを踏まえて、僕はヨハン・レイゼンをキャスティングした。観客が見た時、本当にイザベルに魅力をアピールしていると信じるに足る役者が必要だった。レイゼンは、美しく彫りの深い顔をしているし、人をうっとりさせる声やアクセントを持っている。さらに、クリント・イーストウッドなどアメリカ人俳優のような体つきをしているしね!



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映画『17歳』より ©MANDARIN CINEMA-MARS FILMS-FRANCE 2. CINEMA-FOZ


イザベルの美しさにより、周囲の人間は自らの偽善に正面から向き合わざるをえなくなる




──マリーヌ・ヴァクトをイザベル役に選んだ理由は何ですか?



『危険なプロット』の主人公役を演じた若者のように、成熟さや達観したところを持ち、演じる役よりも少し年が上の女優と仕事をするべきだと思った。マリーヌのことは、セドリック・クラピッシュ監督の『フランス、幸せのメソッド《未》』で見ていた。会った時に、とてつもないもろさを感じてびっくりしたが、彼女には力強さもある。スクリーン上でも栄えるし、内面からにじみ出るものも見えるんだ。彼女と仕事をしながら、『まぼろし』で撮影したシャーロット・ランプリングを思い出したよ。イザベルの顔や、皮膚感を見るにつけ、その内側には何か特別なものがあると思わざるをえない。彼女の肉体的な美しさは神秘や秘密といったものを内包しているよ。だから、僕たちの好奇心がそそられ、もっと彼女について知りたいと思うようになる。



──彼女にとって初の主演作品です。



しかも重みのある役だね。事前に徹底的に話し合ったし、他の役者と本読みやリハーサルも重ねた。脚本の改訂も踏まえながら、彼女が役作りに没頭できるように気を配ったほか、彼女自身にもイザベルにふさわしい衣装を考えてもらった。彼女には僕を信用してもらいたかったし、僕たちが作ろうとしているものを理解し、ジェラルディン・ペラスやファンティン・ラヴァなど他の演者との絆を深めてほしかった。モデルの仕事をしているから、体を道具のように自由に使えるという利点もあったね。ほかの女優が同じ役を演じていたら、彼女みたいに自分の体に心地よさを感じることはなかっただろう。





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映画『17歳』より ©MANDARIN CINEMA-MARS FILMS-FRANCE 2. CINEMA-FOZ


──イザベルの母親役もとても重要です。



そうだね。作品のある時点で、焦点をイザベルから母親に移すべきだと思った。娘の恋愛ではなく性生活に対する彼女の反応をきちんと描写するためにね。もちろん、売春がそこに関わると極端な例になるが、どの親も直面する問題というものがある──-子供の性行動は、どういう影響を親に及ぼすか、親が抱える恐怖や不安とはどういうものなのか、親は子供の私生活についてどの程度知るべきなのか、そしてどの程度介入するべきなのか、といった問題だ。



──娘と母親の関係について、どう描こうと思いましたか?



母と娘が友達みたいに見えるのを避けつつも、年齢を近づけようと思った。そして観客には、良い母親と映るように心掛けた──母親との関係から、イザベルが売春に手を染めたと受け止められるのを防ぐためにね。僕たちの世代の多くの母親のように、イザベルの母親はとても現代的な女性だ。近年の多くの映画に見られるような母と娘のライバル関係を避けるために、この作品の母親はとても美しく、性的にも満たされている女性にした。2人の関係はライバル関係とは程遠いものだ。母親が、娘が夜遅く義理の父と話をしているのを見てしまった時でさえ、彼女は別に脅威を感じない。この作品は、娘が母親の居場所を乗っ取るような映画ではないんだ。だが、イザベルには悪魔的な側面がある。それは、母親の友人が、夫が彼女を家に送ることに反対するシーンでも描かれている。



──その友人は、イザベルの振る舞いそのものよりも、欲望のメカニズムに対して恐れを抱いているわけですね。



まったくその通りだ。イザベルの周囲にいる人間の頭の中にだけ、彼女が売春婦のような振る舞いをし、みんなをその毒牙にかけるという考えがある。イザベルは、そうは考えていない。周りの人がそう考えている。イザベルの美しさや官能性により、周囲の人間は、欲望に対する自らの偽善に正面から向き合わざるをえなくなる。



──イザベルは、母親に恋人がいることに対して怒っているというよりも、自分を信頼せずにそれを秘密にしていたことに対して怒っています。



思春期というものは、子供が両親のことをいろいろと発見するため、難しい時期だ。親は子供が思っていたようなヒーローではないし、物事を子供から隠すし、嘘もつく。ティーンエイジャーには真実や誠実さを持って接するべきだ。子供たちは、大人の世界は偽善やウソに満ちていることを突き止めるし、信頼を失った親に対して敵意を持つことになる。



生徒の朗読のシーンはドキュメンタリーのように撮った。




──母親が娘をぶつシーンに、衝撃を受けるというよりも、感動を覚えました。



僕はそのシーンについて、複数の女友達と長い時間をかけて話し合った。イザベルの母親のように、娘が売春をしていると知ったらどうするか聞いた。大勢の意見は「そんなことが起きると考えたら、ゾッとするわ。自分を責めるでしょうね。どうしてそうなったか理解しようとするわ」といったものだった。多くは、前向きで、娘に理解を示す姿勢を見せていた。だが、ある女性が、娘が薬物に手を出したことが分かった時、彼女をなぐったと打ち明けてくれた。僕にはそれが自然に思えた。親が、ムスッとして内にこもったティーンエイジャーに対し、どうしていいか、何を言っていいか分からない時、衝動にかられてなぐってしまうことは、ありえることだ。ジェラルディンは母親として、たたくという行為に理解を示してくれたが、感情にまかせた悪い行為だということに気づき、すぐに謝ることも大事だと感じていた。




──ジェラルディン・ペラスを母親役にキャスティングした理由は何ですか?



マリーヌの出演が先に決まっていたから、肉体的に母親として通用する女優を探した。つまり、自然に母性のオーラが出ているような女性が理想だった。ジェラルディンは、『ふたりの5つの分かれ路』に脇役で出演してくれたので、面識はあった。今回の撮影前にいろいろ試してみて、とてもうまくいったよ。彼女はこの母親に感銘を受けていたし、自分自身の経験をストーリーに重ね合わせていた。この作品に深くかかわってくれたし、いろいろな面でマリーヌを保護してくれ、そういう姿は美しく見えたよ。2人は強い絆で結ばれ、ライバル関係などはまったくなかった。



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映画『17歳』より ©MANDARIN CINEMA-MARS FILMS-FRANCE 2. CINEMA-FOZ




──イザベルと、シャーロット・ランプリングが演じるジョルジュの妻の間にもライバル関係はありませんね。



そうだね。ジョルジュの妻はイザベルと意気投合する。シャーロット・ランプリングも、ジェラルディンも女優として、自分自身の姿を投影してマリーヌを見ているね。2人ともかなり若い時に女優としての道に進み、体を露出するシーンを多く経験してきた。作品の中のほかの女優たちには、マリーヌに対して善意ある気持ちを感じてほしかった。僕にとって、ほかの女優たちが、何らかの形でマリーヌと相通じるものを持っていることが重要だった。マリーヌをキャスティングしたあと、シャーロットを選んだのは自然なことだったよ。彼女は、不道徳で性的に特徴づけられた役を多く演じてきたからね。彼女は、映画の中で、よく性的ファンタジーを具現化された人物として受け止められているから、善悪の判断を押しつけることなくイザベルのことを理解する女性の役として、理想的な選択と言える。彼女がイザベルをホテルの一室に連れていく時、シャーロットにはまだ以前と同じような不道徳で危険なオーラが強く感じ取れる。





──そのシーンですが、現実のものですか?それともイザベルが想像している世界ですか?



最後のショットは、イザベルが想像しているだけかもしれないが、現実か空想かは重要ではなく、そのどちらであってもそのシーンには癒しがある。イザベルが母親と交わすことのできなかった、真実味を帯びたコミュニケーションがそこにはある。それにより、イザベルは、自分の行動の責任に思いをはせることができるんだ。



──実際に精神科医であるセルジュ・ヘフェズが、イザベルのカウンセラーとして出演しています。



僕が脚本を書いている時に、リサーチの一環として彼に会った。彼に脚本を読んでもらい、ポイントになる箇所について意見を聞いた。特に、イザベルが、売春で稼いだお金で精神科医に支払いをしようとすることについて、どう思うか聞いてみた。配役については、数人の有名な俳優の名前が念頭にあったが、セルジュ自身が魅力的で知的なので、彼に出演を打診したら、受諾してくれたよ。彼の実際のオフィスから着想を得て、映画の中のオフィスを考えたし、彼は僕たちに彼のオフィスのイスを貸してくれたんだ!彼は撮影前のスクリーンテストでとても見映えが良かったが、少し微笑み過ぎると感じた。だが彼は、現実にティーンエイジャーにカウンセリングをする場合、そういう風にして接すると言っていたよ。彼らはたいてい、自分の意思に反して、親の命令でカウンセリングを受けさせられるから、カウンセリングの始めに意気投合することが大事らしい。親は精神科医にそう望んでない場合でも、自分は彼らの味方ということを態度で示すんだ。僕はイザベルが母親と精神科医に会うシーンにその考えを取り入れ、精神科医がイザベルの味方であることを描写した。



──生徒たちがランボーの詩を朗読し、意見交換するシーンについて教えてください。



僕はそのシーンで、思春期のもろさや美しさを表現したいと思った。そのシーンの生徒たちは、マリーヌと、彼女の友達を演じた役者以外は、すべて普通の学生だ──アンリ4世高等学校の生徒たちも、その中に含まれている。詩を朗読した後、本当の授業で行われるようにそれを分析し、何を感じたか表現し、どう解釈したか僕たちに伝えてくれるように指示した。そこで生徒が話す言葉は脚本に書かれたものではなく、ドキュメンタリーのようにそのシーンを撮影した。最近、青春や売春について描かれた『女と男のいる舗道』という映画を改めて観てみたが、その中でゴダールが、本物の売春婦にインタビューしている。僕の映画も現実に根ざしたものにしたかったから、今の若者の考えや物の見方に耳を傾けた。もしかしたら、その目的は、今の若者も僕が17歳の時と同じような目で世界を見ていると確認したかったのかもしれないね。




(オフィシャル・インタビューより)



















フランソワ・オゾン プロフィール



1967年、フランス・パリ出身。90年、国立の映画学校フェミスの監督コースに入学。次々に短編作品を発表し、『サマードレス』(96)でロカルノ国際映画祭短編セクション・グランプリを受賞。97年の中編『海をみる』を経て、翌年に発表した長編第一作目『ホームドラマ』がカンヌ国際映画祭批評家週間で大きな話題となる。99年には『クリミナル・ラヴァーズ』がベネチア国際映画祭に正式出品され、続く『焼け石に水』(00)で、ベルリン国際映画祭のテディ2000賞を受賞。01年、『まぼろし』がセザール賞の作品賞と監督賞にノミネートされ国際的にも高い注目を集め、翌年には『8人の女たち』で、ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。その後『スイミング・プール』(03)、『しあわせの雨傘』(10)など多種多様な作品を発表し続けている。待機作として『Je suis femme(原題)』が控えている。
















映画 『17歳』

2014年2月15日(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかにて全国ロードショー



夏のバカンス先で初体験を終え、17歳の誕生日を迎えたパリの名門高校生・イザベル。バカンスを終えてパリに戻った彼女は、SNSを通じて知り合った不特定多数の男たちと密会を重ねるようになる。そんなある日、馴染みの初老の男が行為の最中に 急死、その場から逃げ去ったイザベルだったが、まもなく警察によって彼女の秘密が家族に明かされた。快楽のためでも、ましてや金のためでもないと語り、あとは口を閉ざすイザベル。いったい彼女に何が起きたのか……?



脚本・監督:フランソワ・オゾン

出演:マリーヌ・ヴァクト、ジェラルディン・ペラス、フレデリック・ピエロ、シャーロット・ランプリング 他

製作:エリック&ニコラス・アルトメイヤー

撮影:パスカル・マルティ

録音:ブリジット・テイランディエ

美術:カティア・ウィスコップ

衣装:パスカリーヌ・シャバンヌ

編集:ロール・ガルデット

音楽:フィリップ・ロンビ

配給:キノフィルムズ

2013年/フランス/94分/R-18




公式サイト:http://www.17-movie.jp

公式Facebook:hhttps://www.facebook.com/pages/映画17歳/689814121042897

公式Twitter:https://twitter.com/17jyunanasai








▼映画『17歳』予告編



[youtube:wn6EsOG1TMw]

彼らがいたからこそ今オバマがホワイトハウスにいる─黒人執事の目を通して隠れたアメリカ歴史を暴く映画

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映画『大統領の執事の涙』より ©2013,Butler Films,LLC.All Rights Reserved.



『プレシャス』『ペーパーボーイ 真夏の引力』のリー・ダニエルズ監督が、 ホワイトハウスで歴代7人の大統領に仕えた黒人執事の人生を通してアメリカの50年に渡る歴史を描いた『大統領の執事の涙』が2月15日(土)より公開。ダニエルズ監督が、実在の人物をモデルにした執事セシル・ゲインズ役のフォレスト・ウィテカーをはじめとしたキャストについて、そして演出スタイルについて語った。



大統領たちを人間として描きたかった




── まず、その仕事ぶりが認められ、大統領の執事になったこの人物を描くことにした理由を教えてください。



これまでも公民権運動をテーマにした映画はあったが、時系列に描く映画を観たことがなかった。この運動の最初から終わりまで、オバマ大統領が就任するまでのものは観たことがない。しかも大統領に仕えるセシル・ゲインズと、息子であり公民権運動に身を投じるルイスという父と息子の目を通して、黒人や白人を越えて描くことが、僕にとってとても重要だった。これは公民権の物語だが、父と息子の物語でもある。父と息子の物語こそが人種を超越するんだ。




The Butler

映画『大統領の執事の涙』のリー・ダニエルズ監督




── 50年に渡るアメリカの歴史を捉えるというスケールの大きな物語ということで、撮るにあたり不安はありませんでしたか。



これは一味違う映画だ。だからこの物語を語ることを光栄に感じたし、謙虚な気持ちになった。それが一番適切な言葉だ。自分がこの美しい物語を語るに値しない人間だと感じたくらいだ。実に美しい物語だよ。



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映画『大統領の執事の涙』より ©2013,Butler Films,LLC.All Rights Reserved.



── 多くのキャストが登場しますが、キャスティングの過程について教えてください。



なによりも、大統領役のキャスティングが難しかった。ニクソンを演じているのがジョン・キューザック、アイゼンハワーはロビン・ウィリアムズ、ケネディはジェームズ・マースデンなのだが、彼らが演技していると感じさせたくなかったからだ。役者の存在を消し去らねばならない。しかもケネディの有名な演説がパロディにならないようにこころがけた。なによりも、大統領たちを人間として描きたかったんだ。



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映画『大統領の執事の涙』より ©2013,Butler Films,LLC.All Rights Reserved.


フォレスト・ウィテカーは編集室で僕がすることを理解した上で演じる



── 『プレシャス』ではプロデューサーだったオプラ・ウィンフリーが、今回は久々に演技に復帰していますね。



オプラは長い間俳優としての仕事をしていない。だから『カラーパープル』(85)の時と同じような重責を彼女に負わせることに緊張感はあった。彼女は『カラーパープル』でソフィアという、男からの暴力や白人に屈しない強い女性を演じた。あの映画の彼女は天才的だったからね。彼女の撮影初日、バスのシーンを撮影したが、その日彼女は溢れる活気とともに現れた。準備を整えてね。「ソフィアのパート2を演じるわよ!」。僕は「任せてくれ!」と大手を広げた。最高だったよ。




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映画『大統領の執事の涙』より ©2013,Butler Films,LLC.All Rights Reserved.



── フォレスト・ウィッテカーについてはいかがですか?



フォレストとの仕事はオプラとの仕事と似ている。ずっと監督を続けてきて、自分をしっかりもっている人たちは、とても謙虚だと思う。フォレストは、特に、僕が仕事をした中で最も謙虚な俳優だ。




── 彼と撮影を共にしての印象は?



ウィテカーとの仕事は光栄だった。彼は優れた俳優で、レベルが違う。なんというか、相手の頭の中に入るんだ。彼は編集室で僕がすることを理解した上で演じる。それほど聡明なんだ。言ってみれば、彼と一緒に編集しているような感じだった。だから僕は撮影中、常に彼が望むものを提供できるよう心がけた。もしそれができないと、彼は自分で望むテイクを見つけ出す。だから、そのとき僕ができるベストを彼に提供させてもらうことに力を注いだ。多くの俳優は、それを理解するほど賢くないので、自分を監督に委ねるべきだ。170%ね。少なくとも僕には、それしかない。しかしウィテカーは、材料を僕に提供し、僕はどうやってこのシチューを作ろうか考える担当なんだ。塩を少々、胡椒を少々まぶしたり、あるいは生姜を使うかもしれない。彼はその全てを僕に提供した。そうした共同作業ができることは、ほんとうに稀なことだよ。




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映画『大統領の執事の涙』より ©2013,Butler Films,LLC.All Rights Reserved.




彼らは学校で子供たちが教わらないヒーローだ



── この作品で自身の演出スタイルは確立されたと思いますか。



僕はその瞬間の真実に生きていると信じている。人が僕のことをどう思おうと、僕は今の自分に正直だ。愚かに見えようと、横柄に見えようと、どう見えようと、僕は僕であり続ける。それを俳優たちは見抜くのだと思う。俳優の欠点を受け入れる僕を、俳優自身は見抜いている。だから、僕の映画の現場では、俳優たちの不安という壁が崩れ落ちるんだ。彼らも欠点があっていいと思うようになる。そしてその欠点が消えると、本当の精神が現れる。本当のオーラ、誠実なエネルギーがね。欠点を少しずつ崩すのは難しいが、崩さなくてはならない。人間の仮面を、世界に見せようとしているものを解き放つまで。でも人が本当の内なる自分、内なる子供、真の魂であるなら、僕はそれをスクリーンに捉えることができる。それが秘訣だよ。真実であるべく、彼らに魔法をかけるんだ。




── 観客は、執事セシルの生き方を通して、アメリカの歴史を知ることができると思います。



この歴史的で壮大な物語を引き受けることには、とても不安があった。実話を元にしているから、正しく描いていることを確認せねばならないし、フィルムメーカーとして、そして語り手としても、自分が正しい物語を語っているか、確かめたい。緊張するよ。でも僕はそれを心から楽しんだ。僕がこれまで作ってきた、ほかの物語同様にね。僕は人々に忘れないでほしいと思う。起こったことを忘れないように、僕たちはそれをメモリーバンクにログインし、祖国のために亡くなった人々を記憶に留めよう。彼らは学校で子供たちが教わらない、僕たちがウワサも耳にしないヒーローだ。でも彼らがいたからこそ、いまオバマがホワイトハウスにいるんだ。人々に、このヒーローたちを覚えていてほしいと思う。



(オフィシャル・インタビューより)









リー・ダニエルズ プロフィール



初プロデュース作品『チョコレート』(01)で、米アカデミー賞ノミネートと受賞を果たした、唯一のアフリカ系アメリカ人プロデューサーとなった。『サイレンサー』(05)で監督デビューを果たす。監督二作目の『プレシャス』(09)では、国内外数々の映画祭で賞賛を浴び、米アカデミー賞R6部門にノミネートされ、最優秀助演女優賞、最優秀脚本賞を受賞した。今最も注目される監督・プロデューサーの一人である。近作は、脚本/監督/製作を担当した『ペーパーボーイ 真夏の引力』(12)がある。











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映画『大統領の執事の涙』より c2013,Butler Films,LLC.All Rights Reserved.


映画『大統領の執事の涙』

2014年2月15日(土)新宿ピカデリー他全国ロードショー



黒人差別が日常で行われていた時代のアメリカ南部。幼いセシル・ゲインズは、両親と綿花畑で小作農として働いていた。しかし、ある事件で親を失い、ハウス・ニガー(家働きの下男)として雇われる事に。「ひとりで生きていく」努力の末、見習いから高級ホテルのボーイになった青年は、その仕事ぶりが認められ、遂にはホワイトハウスの執事となる。キューバ危機、ケネディ暗殺、ベトナム戦争……。アメリカが大きく揺れ動いていた時代。気づけば、歴史が動く瞬間を最前線で見続けることとなったセシル。彼の仕事に理解を示しながら、寂しさを募らせる妻。父の仕事を恥じ、国と戦うため、反政府運動に身を投じる長男。その兄とは反対に、国のために戦う事を選び、ベトナムへ志願する次男。大統領の執事でありながらも、夫であり父であったセシルは、家族と共にその歴史に翻弄されていく。













監督:リー・ダニエルズ

出演:フォレスト・ウィテカー、オプラ・ウィンフリー、ジョン・キューザック、ジェーン・フォンダ、テレンス・ハワード、レニー・クラヴィッツ、ジェームズ・マースデン、デイヴィッド・オイェロウォ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、アラン・リックマン、リーヴ・シュレイバー、ロビン・ウィリアムズ

脚本:ダニー・ストロング

原作:ウィル・ヘイグッド

製作総指揮:ダニー・ストロング、ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、アダム・メリムズ

製作:パメラ・ウィリアムズ、ローラ・ジスキン、リー・ダニエルズ、バディ・パトリック、カシアン・エルウェス

撮影:アンドリュー・ダン

美術:ティム・ガルヴィン

音楽:ロドリーゴ・レアン

編集:ジョー・クロッツ

衣裳デザイン:ルース・イー・カーター

配給:アスミック・エース



公式サイト:http://butler-tears.asmik-ace.co.jp/

公式Facebook:https://www.facebook.com/AsmikAceEntertainment

公式Twitter:https://twitter.com/asmik_ace





▼映画『大統領の執事の涙』予告編



[youtube:QJ3C6JCewAQ]

パラダイスとは実現されない夢と欲望の象徴─ウルリヒ・ザイドル監督が3部作を語る

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映画『パラダイス:神』より © Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema


オーストリアのウルリヒ・ザイドル監督が、セックス観光や過激な信仰心、ロリコンなどにのめりこんでいく3人の女性を描いた3部作『パラダイス:愛』『パラダイス:神』『パラダイス:希望』が2月22日(土)より公開される。この3作は2012年のカンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭、2013年のベルリン国際映画祭のコンペティション部門に続けて出品され話題を呼んだ。楽園(パラダイス)を求め猛進する彼女たちをなぜ3部作として製作したのか、そして社会と身体性の関係について、独自のメソッドを発揮するザイドル監督が語った。




俳優が彼ら自身として物語に現れるように撮る



──当初は1本の映画として考えられていたそうですが、どのように物語を作ったのですか?



私たちは従来通りの脚本は書きませんでした。シーンごとに詳細に描写しましたが、それぞれの話の筋は短編小説のように独立し、重なり合いません。編集台の上でようやく関係が生まれます。これは私の方法論の成果ですが、その基本的な原則は、完成台本をただ実行するのではなく、準備段階や撮影中に起こる事を取り入れていくことです。そして可能な限り時系列にそって撮影し、その作業が新しい方向性やアイデアに対して開かれていることを確認してゆきます。またどの映画でも常に自分自身に新たなチャレンジを課すことを心がけています。『パラダイス』では、必要に応じて俳優が彼ら自身として物語に現れるように撮ることを目論んでいました。



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映画『パラダイス3部作』のウルリヒ・ザイドル監督



撮影した素材は80時間にものぼり、3つの物語をお互いに関連づけようと、膨大なラフカットとともに1年半も編集室で過ごしました。部分的には上手くいきました。それでも、5時間半の長大なひとつの作品として機能したヴァージョンはひとつもありませんでした。物語が互いに強化されるどころか、実際には弱めあっていたのです。結局、1本ではなく3本の独立した映画にすることが芸術的にベストな方法だという結論にいたりました。それはそれで簡単ではありませんでしたが。




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映画『パラダイス:愛』より © Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema



──どのように3部作の順番を決めたのですか?



編集室にいる間は長いこと、娘を描いた『希望』が母親の次、第2話だと思っていました。そして最も強力で難解な『神』が最後になるはずだったのです。しかしある日『希望』を最後にしてみたところ、解放感がありました。救いがあったのです。途端に3部作として機能しました。



実現されていない夢と欲望を自覚しようとしている3人の女性を描く




──なぜ3部作は3人の女性を扱っているのですか?



……それは、どう思われているか判りませんが、私は女性の映画を作る映画監督だからです。この映画はいくつか異なる出発点から生まれています。例えば、私は長い間50代女性の映画に興味がありました。また妻のヴェロニカ・フランツと私はかつて、6つの違う話を持つ観光産業についての脚本を書いたことがありましたが、それはどれも第三世界と呼ばれる場所での、西洋の観光客のある種のヴァケーションを扱っていました。その中でセックス観光というテーマを何度も扱っていたのです。私たちはそれを2人姉妹とその娘という家族の話に発展させました。3人の女性は、美の理想が普通とは違う男性、要は、ウェルベックやイェリネクを引用すれば、市場価値の低い男性を探し求めています。つまり彼女たちは性的に満足することを求め、さらには愛さえも求めている。この映画(『愛』)の場合、それはアフリカの黒人男性なのです。





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映画『パラダイス:神』より © Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema


──3部作のタイトルを『パラダイス』と名付けたのは何故ですか?



聖書の感覚では、パラダイスは永遠の幸せを約束するものです。しかし観光産業においては、太陽、海、自由、愛そしてセックスに対する欲望を多くの人に呼びおこさせる言葉としてよく乱用されています。だからこのタイトルは、実現されていない夢と欲望を自覚しようとしている3人の女性を描いた3作全てを象徴しています。




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映画『パラダイス:希望』より © Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema




──ケニアのセックス観光、ウィーンの過激な布教活動、青少年のダイエット合宿……なぜこのような設定に?



3人の女性が恋に落ち、愛を経験し、その過程で失望する。10代の肥満の子のためのダイエット合宿で夏休みを過ごす少女にとって、それは人生で初めての恋であり絶対不変です。愛(もしくはセックス)を求めてケニアを旅する彼女の母親にとっては、それは積年の失望の末の意識的な選択です。そして母親の姉は他でもなくイエスを愛し、だからこそ精神的で完全に知性的な性愛ですが、それがいささか行き過ぎてしまいます。地上で得られないものを、約束されたパラダイスである天国に望んでしまうのです。





──映画はルシアン・フロイドの絵画、例えば彼の描くヌードの致命的なはかなさを想起させます。人間の身体を演出することとは?また3部作に共通する現代の理想的な美への疑問はどこか生まれたのですか?



身体性はいつでも私の映画にとって重要です。至近距離から肌を捉え、ありのままの肉体性を見せたいのです。私にとってそれは正に美化しないということですが、人々がそこに美のようなものを見いだします。社会的圧力によって屈折してしまうのは問題です。女性たち、そして男性たちも、自分の身体を社会的に定められた基準に合わせようと一体何をしているのでしょうか。





(オフィシャル・インタビューより)










ウルリヒ・ザイドル プロフィール



1952年生まれ。オーストリアのウィーン在住。初期には山形国際ドキュメンタリー映画祭で優秀賞を受賞した『予測された喪失』や『Good News』『Animal Love』『Models』などのドキュメンタリー作品で数々の賞に輝く。初の長編『ドッグ・デイズ』は2001年のヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞。2003年に制作会社Ulrich Seidl Filmproduktionを設立。続く『インポート・エクスポート』が2007年カンヌ国際映画祭コンペティション作品に選出される。4年を費やし制作された「パラダイス3部作」(『パラダイス:愛』『パラダイス:神』『パラダイス:希望』)は、世界三大映画祭であるカンヌ、ヴェネチア、ベルリンのコンペ部門に相次いで選出され、『パラダイス:神』はヴェネチアで2度目の審査員特別賞に輝いた。












映画『パラダイス:愛/神/希望』

2014年2月22日(土)よりユーロスペースほか、全国順次ロードショー




『パラダイス:愛』

50代のシングルマザー、テレサは、一人娘のメラニーを妹アンナ・マリアの家に預け、ヴァカンスを過ごしにケニアの美しいビーチリゾートへやって来た。青い海と白いビーチに面したホテルはまるで楽園のよう。だがここでは現地の黒人青年(ビーチボーイ)が、白人女性観光客(シュガーママ)に“愛”を売っていた。

出演:マルガレーテ・ティーゼル、ピーター・カズング

原題:PARADISE: Love/120分




『パラダイス:神』

ウィーンでレントゲン技師として働くアンナ・マリアは、妹テレサのようにヴァカンスに出かけるでもなく、イエスのために夏休みの日々を過ごす。讃美歌や鞭打ちの苦行、聖母マリア像を携えての布教活動、それだけで休暇を過ごすにはありあまるほど。敬虔で頑固なカトリック教徒の彼女にとって、パラダイスはイエスと供にあるのだ。

出演:マリア・ホーフステッター、ナビル・サレー

原題:PARADISE: Faith/113分



『パラダイス:希望』

母テレサがケニアに行き、叔母アンナ・マリアが布教にいそしむ一方で、テレサの13歳の娘メラニーは夏休みの青少年向けダイエット合宿に参加する。人里離れた山奥で、規律正しく運動と栄養学のカウンセリングをくりかえす合宿はまるで軍隊のよう。子どもたちは大人たちの眼を盗んでバカ騒ぎをし、恋愛話で盛り上がる。

出演:メラニー・レンツ、ジュセフ・ロレンツ
原題:PARADISE: Hope/91分



監督:ウルリヒ・ザイドル

配給:ユーロスペース




公式サイト:http://www.paradise3.jp/

公式Facebook:https://www.facebook.com/paradise3.jp

公式Twitter:https://twitter.com/Paradise3LFH




▼映画『パラダイス3部作』予告編


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この映画は憂鬱な現代を映しだしている─『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』A・ペイン監督語る

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映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』より ©2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.


『アバウト・シュミット』『サイドウェイ』『ファミリー・ツリー』のアレクサンダー・ペイン監督の『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』が2月28日(金)より公開される。100万ドルの賞金が当選したという詐欺を信じ込む父親ウディと、彼を連れて旅に出る息子デイビッドとの騒動を通して、家族とのつながりを描く味わい深い物語となっている。ペイン監督に製作の経緯や、ウディを演じカンヌ国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞したブルース・ダーンとの撮影について聞いた。なお今作は、本年度のアカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、助演女優賞、撮影賞の6部門にノミネートされている。




人生そのもののような脚本




──最初に、ボブ・ネルソンが執筆した脚本を初めて読んだ時の印象を教えてください。彼は、高齢者たちが出版社の情報センターへインチキの商品を受取に現れた、という実話をきっかけに、自身の家族の体験を盛り込み、この物語を作り上げたそうですね。



この美しい脚本を最初に受け取ったのは、2004年のことだった。ユーモラスで哀愁が漂っていて、まるで人生そのものだと思ったね。それにボブ・ネルソン自身の体験も織り交ぜてあったから、脚本家が物語の中の世界に実際に暮らしているようで、とてもパーソナルに感じられるところも気に入った。だけど、ちょうど『サイドウェイ』が完成間近の頃だったから、続けてロードムービーを撮るつもりはなかったんだ。それで、この脚本をしばらく預かることにした。



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映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』のアレクサンダー・ペイン監督


──2011年に『ファミリー・ツリー』で成功を収めた後、ついに本作に取り組むことにしたのですね。脚本を9年間寝かせていたということは、不安ではありませんでしたか。



9年の歳月が経っていたけれど、この脚本に対する僕の愛情は、決して消えることはなかった。それに、非感傷的で成熟したこの物語を映画化するのは、むしろ今こそがベストなタイミングだと気付いたんだ。僕たちがこの作品に取り掛かるまでに、世界では様々なことが起きた。実社会の方が追い付いて、これこそが現代の“憂鬱な時代”を描いた物語だと感じたんだ。どんな映画も、作られた時代の空気を帯びると僕は思う。時代の風というのは、意識的であれ無意識的であれ、作品の中を流れているものなんだ。





──アメリカの原風景とも言える中西部の風景のなかで不器用な父子の旅を描くにあたり、モノクロ映像を選んだのはなぜですか。



本作を作るにあたって、モノクロで撮ることは真っ先に決めたことだ。最初に脚本を読んだ時から、ずっとモノクロをイメージしていたから、この作品にとって、とにかく正しい選択だと思ったんだ。この控え目で飾り気のない物語と、登場人物たちの人生を描くには、荒涼として平坦で直接的なビジュアル・スタイルがうってつけなんだ。それに以前からずっと、モノクロ作品を作りたいと考えていた。モノクロ映画は真に美しい形式だ。



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映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』より ©2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.



ブルース・ダーンとの信頼関係



──100万ドルに当選したというインチキに騙されて、住んでいるモンタナ州から1,500キロ離れたネブラスカまで4つの州を越えてはるばる出かけようとするウディと、彼に愛想をつかし毒舌を吐く妻のケイト、そして、それまで距離を置いていた父の望みを叶えようと車での旅を企てる息子デイビッド。2002年の『アバウト・シュミット』をはじめ、監督はこれまで故郷であるネブラスカ州での多くの作品を撮影してきていますが、このグラント一家を巡る物語を強い思い入れのあるネブラスカで撮影できたことには、どんな意味がありますか。



ネブラスカ州で撮ることで、より一層深く物語に踏み込むことができた。いろいろな意味で、アメリカのどの場所で撮影しても物語は成り立つけれど、僕がよく知っている場所になったことで、映画にたくさんのディテールを持ち込むチャンスができた。僕はネブラスカ州のオマハ出身だけれど、主人公のグラント一家の出身地よりはずっと都会だから、ネブラスカ州の田舎を探索する機会は、エキゾチックと言ってもいいもので、とても楽しかったよ。



──決して多くを語りませんが、周りの言うことを聞かず懸賞金が当たったことを頑固に信じて、生まれ故郷のネブラスカに赴くウディ役のキャスティングには、非常に悩んだそうですね。



最初にブルース・ダーンと決めた後、あらゆる可能性を考え直した。その間ずっと、娘のローラが僕に電話してきて、「パパをキャスティングして!」ってうるさかった。それで決めたわけじゃないよ(笑)。最終的に、やっぱりブルースだと確信した後は、決して後戻りはしなかった。




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映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』より ©2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.


──ブルース・ダーンはこれまで、反逆的な人物や殺し屋などの役どころで知られてきましたが、今回のウディはまったく異なる役柄ですね。撮影前に、ダーンとはどんな話をされたのですか。



僕とブルースとの仕事の仕方は、早いうちから信頼関係を築くというシンプルなものだった。撮影がはじまる何週間も前から、僕たちは一緒にブラブラしては様々なことを話し合った。ただ、この映画についての話だけは除いてね。それで撮影開始の頃になると、全てはごく自然に流れていったよ。





──夢見ることはとうに終えたけれど、それでも「幸運」と自分の生き方を貫き通そうとするウディというキャラクターについて、ダーンの役作りはどうでしたか。



これまでの経験で培われた独創性を生かしつつ、そこからさらに進んで、人間臭い面と人並み外れた面の両方を持って楽しそうに役にのめり込んでいくブルースを見ることができたよ。俳優としてどのようにウディにアプローチするかは、ブルース次第だった。ブルースはウディを、毎時間20分くらいかけて物を調べるような男だと分析していた。ブルースは僕が求めていた、相反する資質の全てを、ウディに持ち込んでくれた。ブルースは気難しいかと思うと、同時に軽妙さも表現できるんだ。僕がブルースに何よりも感謝しているのは、彼が僕を信頼してくれたことだ。どんな監督にとっても、それは驚くべき贈り物だ。彼はどんなことにでも挑戦した。ある時、車の中で、僕の演出はただ「痛ましいボロ雑巾みたいな感じでいてください」と言っただけだったけれど、ブルースはまさにそのとおりにやってくれたんだ。



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映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』より ©2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.


──では、父との旅を通して家族の絆を再び築こうとする実直で息子のデイビッド役のキャスティングについても教えてください。これまでコメディにたくさん出演してきたウィル・フォーテを起用した理由は?



デイビッドも僕にとって、大切なキャラクターだった。僕自身、ふたりの老いた両親がいるから、デイビッドと共感することができた。もちろん、デイビッドと全く同じ境遇というわけではないけれど、同様の感情は理解できる。この物語で僕がとても気に入ったことのひとつは、父親に威厳を持たせようとデイビッドが望んでいるところだ。このテーマは僕にとって重要だし、パーソナルなものだった。デイビッド役はオーディションで選んだけれど、ウィル・フォーテには即座に納得させられたよ。彼を信じたんだ。ウィルは誠実さと優しさを伝えてくれるけれど、同時にダメな感じもある。僕たちはウィルの演技を見て、ブルース・ダーンとジューン・スキッブから、こういう人間が生まれただろうと心底感じることができたんだ。



(本国プレスより)












アレクサンダー・ペイン プロフィール



1961年、ネブラスカ州オマハ生まれ。祖父はギリシャからの移民。スタンフォード大学で歴史とスペイン文学を学んだ後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の映画科で修士号を取得する。卒業作品『The Passion of Martin』がサンダンス映画祭で上映され、早くから注目される。1996年、『Citizen Ruth』で長編映画監督デビューを果たす。続くリース・ウィザースプーン主演の『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』では、全米脚本家組合賞、ニューヨーク映画批評家協会賞の最優秀脚本賞を受賞、アカデミー賞脚色賞にノミネートされる。名優ジャック・ニコルソンを主演に迎えた『アバウト・シュミット』は、カンヌ国際映画祭のコンペティションでプレミア上映され、ゴールデン・グローブ賞脚本賞を受賞すると共に監督賞にノミネート。日本でリメイクされたことでも知られ、全米で大ヒットした『サイドウェイ』では、アカデミー賞脚色賞に輝いた。ジョージ・クルーニー主演の『ファミリー・ツリー』でも同じく脚色賞を受賞する。













NEBRASKA

映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』より ©2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.



映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』

2014年2月28日(金)、TOHOシネマズ シャンテ&新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー!



“モンタナ州のウッドロウ・グラント様 貴殿は100万ドルに当選しました”──誰が見ても古典的でインチキな手紙を、すっかり信じてしまったウディは、はるか彼方のネブラスカ州リンカーンまで、歩いてでも賞金を取りに行くと言ってきかない。息子のデイビッドは、大酒飲みで頑固な上に年々思い込みが激しくなっていくウディとは距離を置いていた。だが、母と兄に止められても決して諦めようとしない父を見兼ね、骨折り損だと分かりながらも彼を車に乗せて、4州にわたる旅へ出る。行く先々で騒動を起こすウディのおかげで、旅は回り道ばかり。途中に立ち寄ったウディの故郷で、賞金をめぐる騒動に巻き込まれながらも、デイビッドは想像すらしなかった両親の過去と出会うのだが──。



監督:アレクサンダー・ペイン

製作総指揮:ジョージ・パーラ、ジュリー・M・トンプソン、ダグ・マンコフ、ニール・タバツニック

製作:アルバート・バーガー、ロン・イェルザ

出演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ステイシー・キーチ

脚本:ボブ・ネルソン

撮影監督:フェドン・パパマイケル

美術:デニス・ワシントン

衣装:ウェンディ・チャック

編集:ケビン・テント

音楽:マーク・オートン

2013年/アメリカ/115分/英語/シネマスコープ/B&W/ドルビー・デジタル

原題:NEBRASKA

提供:東宝、ロングライド

配給:ロングライド




公式サイト:http://nebraska-movie.jp/

公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/映画ネブラスカ-ふたつの心をつなぐ旅/1434185190127735

公式Twitter:https://twitter.com/nebraska_movie




▼映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』予告編


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観光絵葉書では見られない、リアルなベルリンを体感できる映画『コーヒーをめぐる冒険』

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映画『コーヒーをめぐる冒険』より © 2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved


ドイツの新鋭、ヤン・オーレ・ゲルスター監督が、ベルリンを舞台にひとりの若者の「ついていない」1日を描く映画『コーヒーをめぐる冒険』が3月1日(土)より公開される。大学を中退してモラトリアムな日々を過ごしていた主人公ニコが、行く先々でコーヒーを飲むチャンスを逃してしまいながら、様々な人々との出会いを続けていく、というオフビートなコメディだ。歴史と文化の根付く街・ベルリンをモノクロームのスタイリッシュな映像で捉え、2013年ドイツ・アカデミー賞では最優秀作品賞、監督賞、脚本賞のほか、主演男優賞助演男優賞、音楽賞の計6部門を受賞。ゴダールやトリュフォー、ジャームッシュら巨匠とも比較されるこの瑞々しいデビュー作について、ゲルスター監督が語った。



モノクロは観客に選択肢を与えられる





──まず、モラトリアムな日々を送っている主人公ニコのさえない1日を捉えたこの映画において、舞台となるベルリンの風景は、もうひとりの主人公とも言える大きな要素ですね。



私は13年前にベルリンに移り住みました。とても芸術的な街で、活気があり生き生きとしていて、そこが他のドイツの都市と違うところです。ベルリンには、歴史が息づいています。商業エリアを歩いているかと思うと、突然東ドイツの社会主義時代の建物が現れます。私が見せたかったのは、観光絵葉書のようなベルリンでも、今風のヒップスターのような一面でもありません。現代のベルリンを舞台としていますが、時代を映すポートレートではなく、時代の壁を越えた普遍的な姿を捉えたかったのです。





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映画『コーヒーをめぐる冒険』のヤン・オーレ・ゲルスター監督



──それがモノクロームで撮った理由でしょうか?



物語に主人公の私的な要素を取り入れる場合、モノクロで撮ると一種の距離を持たせることができ、観客に選択肢を与えられると思うのです。客観的に見るか、または共感するか、見方の自由の幅が広がります。




──恋人の家から始まるドタバタを描いていますが、彼が過ごした時間というよりも、彼が出会う人々を中心に構成されていて、どちらかというと断片的ですね。



最初に脚本を書いていたときは構成を重視して考えていましたが、途中でそれが最も退屈な作業だと気づきました。それよりも私が興味を持っていることは、そこに流れる雰囲気であり感情なのです。また、ロードムービーの定義も取り入れました。最後にはたくさんの経験から自分の可能性に気づくという、素敵な隠喩がいつもあるからです。




──主人公の男・ニコの素姓については、2年前に大学を退学して、父からの送金で暮らしていることなど、僅かなことしか観客は知らされません。しかし、友人のマッツェやアパートの上階に住む住人や売れっ子俳優、退学したことを咎める父親など、彼が出会う人々が、ニコ自身のポートレートの断片のような気がします……。




ニコは彼が出会う人々によって、より浮き彫りにされていきます。彼らは、自分たちの不満や悩みを包み隠さずに出します。ニコは彼らとの出会いで、自分がどうすべきかが見えてくるのです。私の大好きな本の一つに、サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」があります。小説の中では“インチキな”という言葉が繰り返し使われます。インチキなものは本物ではないし、自分自身に嘘をつく人々です。撮影中、トムを演出する時は繰り返し言っていました。ニコには“インチキな”人たちを見抜く能力があるのだということを。



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映画『コーヒーをめぐる冒険』より © 2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved



──キャスティングについて教えてください。主演のニコ役にトム・シリングを起用したのは?



トム・シリングは、古い友人の一人です。でも脚本を執筆中には彼のことは頭にありませんでした。当初、ニコ役には30代前半のもう少し成熟した人を考えていたのです。しかし彼は脚本を読み、役をやりたいと言ってきたのです。そして同じ頃、彼は私生活で父親になり、幼さが抜けました。最終的に今回の配役は正解だと思いました。あとは知り合いの役者たちを使いましたが、ドイツの有名俳優たちも数名、1日撮影することを承諾してくれて、このようなキャスティングが実現しました。





生活の中に存在する歴史的な場所を描く




──今作の原題は『OH BOY』ですが、他にもタイトル候補を考えましたか?



脚本の執筆中、いつもビートルズを聴いていました。生活の中の詩的な瞬間のことを彼らは上手に歌詞に反映していて、大きなヒントやインスピレーションになりました。「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」は “I read the news today oh boy...”という歌詞で始まります。“オー、ボーイ”この深く誠実なビートルズの溜息が、脚本段階での仮題となり最後まで残りました。実際に後で考えたドイツ語のタイトルよりも存在感を持ち、はっきりとした方向性を持っていました。




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映画『コーヒーをめぐる冒険』より © 2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved



──本作はヌーヴェル・ヴァーグへのオマージュともいえますね。モノクローム、街、そして冒頭のショートヘアの女性はゴダールの『勝手にしやがれ』のジーン・セバーグと同じようなセイラーTシャツを着ています。



私は全てのトリュフォー作品を入念に研究し、そのエッセンスを映画の中に落とし込みました。冒頭シーンの女性がジーン・セバーグに似ていたのは全くの偶然で、撮影中スタッフで盛り上がったくらいです。







──ベルリンの街並みに流れるジャズがぴったりだと感じました。音楽をジャズにしたことについて理由を教えてください。



編集段階で試行錯誤しました。まず様々なジャンルを合わせてみました。音楽は、映画の登場人物になります。ジャズは、感傷的な登場人物に釣り合う皮肉さが根底にあります。ジャズが街を表しているのです。そしてカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭への出品が決まる1ヵ月前、まだ確信の持てる音楽が決まっていなかったちょうどその時、4人のジャズを勉強している学生たち“ザ・メジャー・マイナーズ”に出会い、彼らに音楽を依頼することにしました。






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映画『コーヒーをめぐる冒険』より © 2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved




──ニコが映画の撮影現場を訪れるシーンでは、第二次世界大戦を扱ったドイツ映画を揶揄してもいますね?



ドイツにはこの戦争を扱った映画があまりにもたくさんあり、まさに芸術的な危機というべき問題に直面しています。私にとってそれ以上に興味があるのは、生活の中に存在する歴史的な場所を描くことです。若い世代は、この重すぎるテーマを背負って向き合わなければならないのと同時に、新しいドイツを具現化していかなければならないのです。第二次世界大戦というテーマを、映画の中で記憶に留めようとしていることはとても興味深いことだと思いますし、尊重しますが、同時に怖れもあります。




──ラストシーンで、ニコが出会うナチス政権下を生き抜いた老人が、水晶の夜事件(1938年11月9日、10日にドイツの各地で発生した反ユダヤ主義暴動)について語ることで、このテーマを直接的に取り入れています。



この事件を経験した人と人生で初めて出会い、まるで遠い過去が私に近づいてきたようでした。しかし多くのナチスを描いた映画と違って、この出来事について説明したり意見を言ったりはせず、事実のみをスケッチしたのです。ニコと老人は同じ世代ではなくても、同じ孤独の時間を分かち合います。そしてニコは自分の置かれている状況に向き合い、考えるのです。このシーンを取り入れることに、とてもこだわり議論しました。ユーモラスな雰囲気を重くしているというのが周囲のスタッフたちの意見でしたが、この映画は、まさに悲喜劇なのです。ユーモアがそれぞれの悲劇的な状況を軽く持ち上げているのです。





Oh Boy!

映画『コーヒーをめぐる冒険』より © 2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved



──ニコが再会する元同級生・ユリカが参加している、という設定で、ベルリンの芸術・前衛演劇も登場しています。



どこかの劇団のもったいぶったステージを見せたいとは思いませんでした。ニコの親友はこの場に受容性があるとは思えず、見て笑ってしまいます。しかしニコは、舞台の上で踊っているユリカに何かが起こっていることを感じ取ります。この舞台を見たことが物事を見分け、より大きな視点で彼の周りに何が起こるのかを感じる大事な経験になるのです。




──ベルリンで一杯の安いコーヒーを見つけることは、本当に難しいのでしょうか?



そんなことはありません!ニコが何かを達成するための動機として、シンプルな目標が必要だったのです。これは彼が本当に望んでいることを表していると同時に、映画の中で彼が何であれ見出したものも象徴しています。私としては、1日の始まりは、まずコーヒーからですけどね!



(オフィシャル・インタビューより)









ヤン・オーレ・ゲルスター プロフィール


1978年、ドイツ・ハーゲン生まれ。Xフィルム・クリエイティブ・プール社でインターンとしてヴォルフガング・ベッカーのアシスタントにつき、『グッバイ、レーニン!』(03年)の準備から撮影、編集、ポストプロダクションまで広くかかわり経験を積む。2003年からはドイツ映画テレビ・アカデミー(DFFB)で演出および脚本執筆を学ぶ。在学中に『グッバイ、レーニン!』のメイキングドキュメンタリーなどいくつかのプロジェクトに参加、オムニバス映画「Deutschland 09 - 13 kurze Filme zur Lage der Nation」(09年)の一篇「Krankes Haus」でヴォルフガング・ベッカーと共同脚本も務める。自身でも短編映画を数本製作した後、2010年からDFFB卒業作品としてとりかかった本作によって、2012年ミュンヘン映画祭でデビュー作を対象とする「新しいドイツ映画 奨励賞」最優秀脚本賞を受賞。2013年バイエルン映画賞で脚本賞受賞、2013年ドイツ・アカデミー賞では最優秀作品賞、監督賞、脚本賞に輝く鮮烈なデビューを飾る。












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映画『コーヒーをめぐる冒険』より © 2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved

映画『コーヒーをめぐる冒険』

2014年3月1日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



2年前に大学をやめてから、ベルリンでただ“考える”日々を送っているニコ。恋人の部屋でコーヒーを飲みそこねた朝、ツイてない1日が幕を開ける。車の免許は停止になり、銀行のキャッシュカードはATMに吸い込まれ、アパートの上階に住むオヤジに絡まれる。親友マッツェと街に繰り出せば、ダイエットに成功してまるで別人の元同級生ユリカ、クサい芝居の売れっ子俳優等々、ひとクセある人たちが次々に現れる。さらに退学が父親にバレ、ユリカに誘惑され、行く先々でコーヒーにふられ──と災難は続き、逃げ出した夜の街で、ナチス政権下を生き抜いた老人と出遭う。果たして、ツイてない1日の幕切れは──?




監督・脚本:ヤン・オーレ・ゲルスター

出演:トム・シリング、マルク・ホーゼマン、フリデリーケ・ケンプターほか

製作:マルコス・カンティス、アレクサンダー・ワドー

撮影:フィリップ・キルスアーマー

編集:アンニャ・ズィーメンス

美術:ユリアーネ・フリードリヒ

衣装:ユリアーネ・マイヤー、イルディコ・オコリクサンニ

音楽:ザ・メジャー・マイナーズ、シェリリン・マクニール

原題:OH BOY

2012年/ドイツ/85分/ドイツ語/モノクロ

日本語字幕:吉川美奈子

協力:Goethe-Insutitut Tokyo東京ドイツ文化センター

配給・宣伝:セテラ・インターナショナル

宣伝協力:Lem

© 2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved



公式サイト:http://www.cetera.co.jp/coffee/

公式Facebook:https://www.facebook.com/coffee.cetera

公式Twitter:https://twitter.com/ceteramovie







▼映画『コーヒーをめぐる冒険』予告編



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デモに参加する人がプラカードにスローガンを書くように、私はスクリーンにスローガンを書き込む

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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』より ©Prince Production




『ガッジョ・ディーロ』『愛より強い旅』のトニー・ガトリフ監督が、「ウォール街を占拠せよ」に代表されるデモのバイブルとしてベストセラーとなったステファン・エセルの『怒れ!憤れ!』を映像化した『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』が3月1日(土)より公開となる。2011年5月、22万人が集結したスペインから火がついた大衆運動〈INDIGNADOS(怒れる者たち)〉の現場を、移民の少女の物語を挟みながら、生々しく捉えている。ガトリフ監督が制作の経緯などを語った。





移民やロマの人々の強制退去に対して、私には映画をつくる以外に何ができるのかと思った



──この映画を製作するきっかけは何だったのですか?



すべての始まりは、2010年7月の終わりだった。7月30日にサルコジ(仏大統領 *当時)がグルノーブルで行った発言は、移民の人権を差別し、またロマの人々を傷つけるものだった。しかもこの発言は、数人のサルコジ内閣の大臣によってその後繰り返された。本当に恥ずかしい発言だった。これまでも十分に苦しんでいる人々に、なぜそんな事が言えるのだろう。怒りを感じた。発言の後、政府はすぐに動き、彼らがした事は「虐殺」と言ってもかまわないやり方だった。移民やロマが暮らすキャンプが焼き討ちされ、キャンピングカーに手榴弾が投げ込まれた。そしてついに死者さえ出たんだ。そして移民やロマの人々は強制退去させられた。私は考えた。こんな状況に対して、私には映画をつくる以外に何ができるのか。私はメッセージを持った映画をつくろうと決意した。




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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』のトニー・ガトリフ監督(左)とステファン・エセル(右)




──映画は2011年2月に死去した振付師のジャン=ポール・ドレに捧げられていますね。それはなぜですか?



2010年の秋にステファン・エセルの「怒れ!憤れ!」を読んだ時、彼の言うところの“平和的な暴動”にまったく共感した。だが当初は、別に脚本を書くつもりだったんだ。私は、哲学者で、エセルと同じ思想を持つジャン=ポール・ドレと週2回、映画の脚本のための打合せをしていた。それはまだヨーロッパで〈INDIGNADOS運動〉(*スペインの首都マドリッドの市街中心地、プエルタ・デル・ソル広場から2011年5月15日にスタート、世界を動かしている金融・経済・政治システムに疑問を投げかける運動)がおこる前のことだ。2011年の2月にジャン=ポールが亡くなり、私は映画をあきらめようかとも考えた。しかし、エセルの本に立ち戻り、彼の言葉を映像化するというやり方で製作を続けることにしたんだ。そしてエセル本人、出版に関わったシルヴィ・クロスマンやジャン=ピエール・バルーは、直ちに私に映画化権を許可してくれた。




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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』より ©Prince Production



不法移民の視点を持ち込む




──映画の主人公は、アフリカからヨーロッパへと生きるためのお金を稼ぎにやってくる少女です。彼女は、ヨーロッパに夢と希望を抱いてやってくる多くの移民たちの象徴ですね。



私はエセルが考える人間の権利に賛成する。だからこそ映画の構成を考える際に、この若いアフリカの少女の存在がとても重要だと感じた。この映画には、ヨーロッパにおいて「拒絶される者」の結晶化した存在として、不法移民の視点を持ち込まなくてはいけないと考えたんだ。労働許可を得られない者、路上で暮らさざるを得ない者、等しい権利を与えられない者たちの象徴として。




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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』より ©Prince Production


──撮影はどのように行われましたか?



2011年5月に〈INDIGNADOS運動〉がスペインで始まった時、私は緊急に、ごく少ないクルーともに駆けつけた。すぐさま映画を撮らなくてはならないと考えた。しかし、望遠レンズで遠くからデモの様子を撮影するようなドキュメンタリーを撮るつもりはなかった。そこで不法移民のアフリカの少女の物語を語るのだ。だが、近距離での撮影となると、運動の参加者の誰もが歓迎する訳ではないだろうから、私はまず、〈INDIGNADOS運動〉のスポークスマンに会い、撮影の許可を得た。さらにカメラの前の人々に、撮影の目的や、エセルについて、自分自身について説明した。彼らはその場でインターネットを使ってエセルや私ことを調べ、そして撮影を受け入れてくれたんだ。



──この映画のタイポグラフィは、ゴダールやクリス・マルケルを思い起こさせますね。



タイポグラフィは〈INDIGNADOS運動〉がいかに実践されたかという事実から来ている。彼らがプラカードや壁にスローガンを書くように、私はスクリーンにスローガンを書き込みたかった。




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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』より ©Prince Production




──オレンジが転がるシーンに目を奪われました。



オレンジは、“アラブの春”のきっかけともなった、2010年12月17日にチュニジアで焼身自殺をした青果商人モハメド・ブアジジを象徴するものでもあるんだ。彼は野菜や果物を乗せた重いカートを引っ張って商売をしていたが、いつかピックアップ・トラックを買いたいと夢見ていた。カートが道路のでこぼこに引っかかりバランスを崩すと、果実は路上に転がり落ちた。オレンジはどんどんと転がっていく。「貧乏人には生きる権利がない」と発言する者にも、このオレンジを止めることはできないんだ。






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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』より ©Prince Production




──最近では、運動に参加している人々から「いくら叫んでも、誰も聞いてくれない」という言葉をよく聞きます。また映画の中に、「民主主義とカメラは一緒に行動するわけではない」という言葉もあります。こうした状況に対するあなたのお考えは?



私は、フィクションの形式で現実を映す映画が好きなんだ。そして、この映画は、現実のドラマ化ではないが、現実のためにフィクションが機能する映画になっている。ギリシャでの撮影で、「民主主義とカメラは一緒に行動するわけではない」と書かれたバナーを撮ったが、それは間違いでもあると、それを書いた人に伝えたかった。たしかにすべてのカメラが民主的であるとは言えないが、映画製作者が人々の視点を捉えた多くの民主的なカメラも存在するんだ。

この映画を見てくれた人たちが、アフリカからの不法移民であるベティや、スペインで〈INDIGNADOS運動〉をするイサベルや、すべての怒れる者たちの瞳の輝きやプロテストソングの歓喜を感じ取ってくれることを願っている。




(オフィシャル・インタビューより)











トニー・ガトリフ プロフィール



1948年生まれ。フランス人の父、ロマの母の間に生まれる。舞台で俳優として活動を始め、75年に初めての映画短編を監督。90年『ガスパール/君と過ごした季節(とき)』がスマッシュヒットし、人気監督となる。2004年の『愛より強い旅』で第57回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞。2009年の『Korkoro』(日本未公開)ではモントリオール世界映画祭最優秀作品賞などを受賞。自身の出自であるロマを題材にした秀作を数多く発表している。自ら作曲も手掛けるなど音楽の造詣も深く、映像・音楽に秀でた感覚を持つ。












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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』より ©Prince Production


映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』

2014年3月1日(土)よりK's cinemaほか全国順次公開!




家族へ。ヨーロッパから良い報せを送ります。アフリカからヨーロッパにやってきた少女。たどり着いたのはギリシャ、アテネ。仕事を探すものの、仕事どころか眠る場所にさえありつけず、警察に拘束されて強制退去させられる。少女はフランスにたどりつく。パリ。市民や観光客の目の届かない裏通りには、多くの不法移民や差別され追放された者たちが路上に暮らす。バスティーユ広場には「真の民主主義を」と訴える若者たちが集まっていた。少女は再び、警察に捕らえら、アテネへと送り返される。その街で声をかけてきた少年の手配で、少女は1ユーロで水を売るが、何の足しにもならない。少女はよりよい場所を求めて、密航する。スペイン。世界に絶望しかけた彼女の前に、世の不正義に反対する若者たちの声が聞こえてくる……。




監督:トニー・ガトリフ

原案:ステファン・エセル著「怒れ!憤れ!」(日経BP刊)よりの自由な翻案による

撮影:コリン・オウベン、セバスティアン・サドゥン

編集:ステファニー・ペデラク

出演:ベティ

言語:ウォロフ語、フランス語、ギリシャ語、スペイン語、ポルトガル語、英語ほか

原題:INDIGNADOS

2012年/フランス/88分/カラー/1:1.85/DOLBY SRD

配給:ムヴィオラ



公式サイト:http://moviola.jp/dofun/

公式Facebook:https://www.facebook.com/dofuneiga

公式Twitter:https://twitter.com/dofun_com



▼映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』予告編



[youtube:dPc4cFQPCmM]

世界共通の問題「認知症」に学習療法で明るく挑戦するアメリカのおばあちゃんたち

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映画『僕がジョンと呼ばれるまで』より ©2013仙台放送





アメリカ・オハイオ州にある平均年齢80歳以上の高齢者介護施設を舞台に、認知症の改善を目指す人々を追ったドキュメンタリー『僕がジョンと呼ばれるまで』が3月1日(土)より公開される。今作は、高齢者とスタッフが対面でコミュニケーションを取りながら簡単な「読み」「書き」「計算」を行う認知症改善プログラム「学習療法」をテーマに、日本で誕生し、アメリカで初めて実践されたこの療法に取り組む現場を捉えている。プロデューサーの太田茂氏とともに共同監督を務めた風間直美監督が、撮影の状況や演出方法などを語った。



一人ひとりの症状に配慮しながらの撮影





──撮影以前、風間さん自身は今作のテーマである認知症をどのように受け止めていましたか。



介護の大変さばかりがクローズアップされている中で、一般的な情報としての認知症は知ってはいても、家族や親戚など、自分の身近に認知症の人がいなかったので、正直、今ひとつ実感がなかったんです。撮影が決まってから、まずは自分なりに介護される側とする側の気持ちをわかりたいと思って、川島先生(「学習療法」を提唱する東北大学・川島隆太教授)の学術論文や本を読み、認知症をテーマにした映画をいろいろ見ました。日本で学習療法を実践している施設の見学にも行きましたが、自分がどういったスタンスで取材をしたらいいのか、かなり迷っていましたね。




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映画『僕がジョンと呼ばれるまで』の風間直美監督



──介護施設のあるクリーブランドには、どのくらいの頻度で通ったのですか。



2011年5月から11月までほぼ毎月一回、一週間ほど密着取材を、また経過を見るため、2011年12月と2012年4月にも足を運びました。この取り組みは、アメリカで初めての学習療法の実践で、関係者の方々もナーバスになっていたので、いろいろ気を遣いましたね(笑)。最初は入居者の方の情報もほとんどなかったんです。簡単なパーソナル・データをもらったのは初回のロケが終わる頃で、それでようやく顔と名前が一致したという感じで。ただ、先入観なしに入居者の方や施設の雰囲気をじっくり観察できたのは、むしろよかったのかなと。言葉も文化も違う日本人が取材することに対して、スタッフやご家族のみなさんも、多少なりとも不安があったでしょうし、私たちも学習者やそれ以外の入居者の生活を乱したくはなかったので、ことある毎に話をうかがいました。たとえば「あの人は何かが気になると、すぐに食事を止めてしまう」という話を聞いたら、彼女の目に入らない位置にカメラを構えようとか、一人ひとりの症状に配慮しながら撮影を工夫していきました。互いの信頼関係をつくるうえで、コーディネーターの本山さんが熱心に情報を収集してきてくれて、本当に助けられました。




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映画『僕がジョンと呼ばれるまで』より ©2013仙台放送


「自分らしさ」を取り戻す挑戦




──カメラで誰を追いかけるか、どのように決めたのですか。



なぜこの人を、というのは難しくて、まずは勘に頼っていました。今回は学習者が歩んできた人生について直接インタビューしたくても叶わない状況だったので、松本カメラマンがファインダー越しに感じた印象が大切でしたね。



93歳でアルツハイマー認知症のため入居しているエブリン・ウィンズバーグさんは、初回はカメラを嫌がっていたのですが、翌月行った時はこちらを意識している感じだったので、挨拶から始めて徐々にカメラを向けていって。また、お話ししたいと思って横に座った時、私の日本人的な発音の英語を理解しようと耳を傾け、応えようとしてくれて……。そんなエブリンさんだったからこそ、自分の祖母と一緒にいるような「縁」を感じられたし、彼女のおかげで取材にも自信がもてるようになりました。



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映画『僕がジョンと呼ばれるまで』より ©2013仙台放送



──月に一度、定点観測をしたことで、みなさんの変化をより明確に感じやすかったのではないでしょうか。



みなさん高齢なので、体調や気分がよくないときに休むことはあっても、基本的には楽しそうに学習療法に参加していましたね。記録をお願いしたジョンやサポーターの人たちも、日々彼らの変化を感じていたそうですが、1ヵ月ごとに通っていた私の場合、さらなる驚きがありました。認知症の方々は鬱もあって、引きこもりになりがちなのですが、1ヵ月ぶりに行くと、ハイと手を振ってくれるなど、社交的になっていて……。女性の学習者は、髪をきれいにセットしたり、エブリンさんも食事の後に口紅を塗るなど、おしゃれになっていくんです。その時初めて、本来の彼女と出会ったような気がしました。女性が自立する時代を切り開いてきた彼女たちが、今度は「自分らしさ」を取り戻す挑戦を続けていることに、女性としての底力さえ感じました。残念ながら、取材中に亡くなられた学習者もいたのですが、ご家族は、“最後にお母さんをあんなに輝かせてくれてありがとう”と、本当に喜んでいました。「安全に暮らして欲しい」「生きていてくれれば、それでいい」と、日々の介護の中でいろんなことを諦めていたご家族だけに、自分を取り戻していく母の姿が嬉しかったのだと思います。



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映画『僕がジョンと呼ばれるまで』より ©2013仙台放送


──当初は取材の制限もあったそうですが、記録、そしてナレーションという重要な役をこの介護施設で働く男性、ジョン・ロデマンに頼んでいます。



基本、居住エリアでの取材は、学習療法のサポーターが同行してもらえる時間に限られていて、終日密着できるわけではありません。ジョンは施設全体のメンテナンスが主な仕事なので、入居者との接点は実は少なかったのですが、高齢者と話すのが大好きという明るくてきさくな人だったので、記録係をお願いしました。はじめ「認知症についてどう思う?」と質問したとき、彼は「怖いという印象しかないな」と答えたんですよ。それが自分に近いなあと感じて、だからこそ彼に私の視点を投影できると思ったんです。もし認知症にすごく詳しい人だったら、エブリンやビー、メイの小さな変化を当たり前の経過のひとつとして受け流してしまうかもしれない。でもジョンは驚き、感動して、私たちが行くたびに自分が察知した細かい変化を丁寧に教えてくれました。実は、彼は高齢者ケアとは別の仕事を探していたのですが、学習療法にかかわって「サポーターこそが僕の天職」と、人生の方向が変わってしまったんです。



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映画『僕がジョンと呼ばれるまで』より ©2013仙台放送


──撮影現場・対象がアメリカということで、編集や構成において、風間監督がこれまで制作してきたドキュメンタリーのスタイルとは違う面もあったのでしょうか。



認知症はシリアスなテーマだからこそ、わざわざ暗い面に焦点を当てた演出は初めから頭にありませんでした。むしろ「自分の名前が書けない」「孫を忘れてしまう」といった日常生活が崩れる瞬間のせつなさを、学習者やご家族、施設スタッフの「温かさ」や「笑い」の裏に感じてもらえればと。その上で、海外を舞台にしたドキュメンタリーだったので、やはり海外で見てもらえる映画にしたい、また私も海外ドキュメンタリー風の演出に挑戦したいと思い、ロケ時から構成の武田さんには相談に乗ってもらいました。



難しかったのは「どこまで説明をするのか」という点です。学習者たちの変化は一見してわかるものではないので、ついカットを長く編集してしまうんです。ただ構成のロジャー・パルバースさんに“説明の押しつけは観る人の想像を狭める”と、欧米的な視点を指摘されて、ああそういうものかと。取材の水野と2人で編集室に閉じこもりながら、編集のカットを試行錯誤しました。



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映画『僕がジョンと呼ばれるまで』より ©2013仙台放送


──実際、海外での評判は高いようですね。



初受賞となったアメリカンドキュメンタリー映画際では、「観客賞」として映画のタイトルがコールされたにもかかわらず、太田さんも本山さんも初めは全く気づかないほど、私たちにとって予想外の嬉しい初受賞でした。

上映後、観客からスタンディングオベーションをいただいた時は、取材に協力してくださった方々、仙台放送の認知症取材にかかわってきた方々、映画スタッフ全員の努力が報われた気がしました。「自分にも認知症の家族がいる。希望が持てた。ありがとう」「認知症を描いた暗い映画はたくさんあるけれど、暗い面ばかり知っても仕方ない。この映画の明るさがよかった」ということばを聞いて、私たちの映画が小さくとも明るい光を観客の心の中に灯したのではないかと思っています。



この映画は認知症の全てを描けているわけでありません。けれど今や認知症が世界共通の課題であるからこそ、最期の時に一歩一歩近づきながらも、自分らしさを取り戻してゆく学習者たちの姿や、介護をする方々の温かさや笑いの中に、一片の希望を見出してくれたらと願います。




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映画『僕がジョンと呼ばれるまで』より ©2013仙台放送



──実際、みなさんの症状は改善され、明るくなっています。



学習療法のいちばんのポイントはコミュニケーションが生まれることなんです。プログラムはペアの参加者にサポーターが1人つくのですが、ここで自然に会話が交わされ、横のつながりが生まれることで、みなさん徐々に社交性を取り戻していきました。驚いたのは学習者の方々だけでなく、ご家族にも変化が見られたことです。エブリンさんの娘さんは、お母さんと接している時、笑顔が多くなりました。子どもにとって親が認知症を患っていることを理解はできても、どんどん進行していく症状に心がついていかないものです。けれど学習療法によって、失われてしまった時間を少し取り戻し、進行を和らげることができる。これは私なりに感じたことですが、ご家族にとって取り戻した時間というのは、最期の時に向けての心構えの時間ではないかと。「もう一度、自分の背中を押すことばをかけて欲しい」「思い出のアイスクリーム屋に、もう一度行きたい」。そんな何気ない日常をもう一度叶えてくれる、それが学習療法なのだと思います。




(映画『僕がジョンと呼ばれるまで』オフィシャルインタビュー 公式プログラムより転載 聞き手・構成 塚田恭子)










風間直美 プロフィール



新潟県生まれ。共同テレビジョン/演出・プロデューサーとしてドキュメンタリーやバラエティー、国際共同制作番組を手掛ける。「ハイビジョン特集京都茶の湯大百科」(2008) 「浅田真央17歳の伝説」(2008) 「Jブンガク」(2009~) 「ハイビジョン特集わたしのラストオペラ」(2010)「新日本風土記」(2011~) 「セロのマジカルバケーション」(2012) 「ノバク・ジョコビッチの覚醒」(2012) 「柿谷曜一朗 覚醒の時」(2013)他、和田アキ子記念DVD 「Akiko Wada Power &Soul」(2008)フィギュアスケーター浅田真央DVD 「20歳になった氷上の妖精」(2011)を演出。仙台放送では「脳テレ」(2010~2012) 「アメリカ感動ロード」(2012)。









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映画『僕がジョンと呼ばれるまで』より ©2013仙台放送


映画『僕がジョンと呼ばれるまで』

2014年3月1日(土)より東京都写真美術館ホールほかにて全国公開




平均年齢80歳以上のアメリカ・オハイオ州にある高齢者介護施設。ここに暮らす多くの方が認知症です。スタッフのジョンは施設で暮らすおじいちゃんおばあちゃんに毎日たずねます。 「僕の名前を知っていますか?」でも、答えはいつも「いいえ」。何度名前を伝えても覚えていません。そんな彼女たちが挑戦した学習療法が、彼女たちの毎日を変えていきます。それはスタッフと一緒に、読み書きや簡単な計算などをすることで認知症の改善を目指すというもの。エブリン(93歳)は認知症と診断されて2年。自分の名前も書けず、ジョンとの会話も噛み合いませんでした。しかし彼女にも大きな変化が表れます。
趣味の編み物を再びはじめ、笑顔でジョンに話しかけるようになりました。そして、かつてお得意だった辛辣なジョークまで復活したのです。



監督:風間直美、太田 茂

プロデューサー:太田 茂

脚本:武田浩、ロジャー・パルバース

技術協力:コスモスペース・オブ・アメリカ

制作協力:共同テレビジョン

制作・著作・配給:仙台放送

2013年/83分/HD/16:9/カラー/日本/ドキュメンタリー




公式サイト:http://www.bokujohn.jp/

公式Facebook:https://www.facebook.com/bokujohn





▼映画『僕がジョンと呼ばれるまで』予告編


[youtube:yG619xktW6M]

伝説のポルノ女優を描く映画『ラヴレース』監督が語る、彼女から学ぶべきこと

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映画『ラヴレース』より ©2012 LOVELACE PRODUCTIONS,INC.ALL RIGHTS RESERVED


アマンダ・セイフライドを主演に迎え、1972年公開の『ディープ・スロート』でアメリカの社会現象となった伝説のポルノ女優リンダ・ラヴレースの数奇な半生を描く映画『ラヴレース』が公開される。ドキュメンタリー『ハーヴェイ・ミルク』や『セルロイド・クローゼット』などで知られるロバート・エプスタインとジェフリー・フリードマン監督
にラヴレースについて、そして舞台となる70年代の美的感覚ついて聞いた。




『ディープ・スロート』はたった17日間の撮影だった




──なぜ今回リンダ・ラヴレースをフィーチャーした映画を制作しようと思ったのですか?このテーマに興味を持った経緯を教えてください。


ロブ・エプスタイン:実際のところは、企画が既にあったうえで監督として声がかかりました。プロデューサーと打ち合わせをする前に、脚本の初稿とあわせてできるだけ多くリンダに関する資料を読み、僕たちのビジョンを持ったうえで打ち合わせに臨みました。それが功を奏して晴れて監督として選ばれたわけです。そんなに簡単で単純なことでもなかったのですが、ざっくばらんにご説明するとそのような流れでこのプロジェクトに関わることになりました。



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映画『ラヴレース』のロバート・エプスタインとジェフリー・フリードマン監督




──プロデューサーから依頼を受けた際、どのような印象を持ちましたか。


ジェフリー・フリードマン:異性愛者の女性ポルノスターを題材とした映画の監督として僕たちにオファーをしてきたのは面白い選択だと思いました。なかなか思いつかない選択肢ですよね。過去の僕たちの作品を見て、プロデューサーが僕たちにきちんとリンダの物語を伝えることができると、信頼してもらえたことが嬉しかったです。





──前作『Howl』は、ジェームズ・フランコがアレン・ギンズバーグを演じ、ビートニク詩人たちの活躍を描いた作品でしたが、それに続く実在の人物をベースにしたドラマですね。



ジェフリー・フリードマン:『ラヴレース』は僕たちの前作の延長線上にあります。実話に基づくストーリー、時代背景は僕たちが実際に経験した時代、そして文化に多大なるインパクトを与えた人物が主役。撮影スタイルとしてはたくさんの動きや派手なシーンなど自由に撮らせてもらうことができました。でも何よりも楽しかったのは登場人物たちが暮らす世界を創り上げ、そして俳優たちとともに物語に命を吹き込む作業でした。





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映画『ラヴレース』より ©2012 LOVELACE PRODUCTIONS,INC.ALL RIGHTS RESERVED



──今作はリンダ・ラヴレースが時代の寵児となったその裏で、夫でありマネージャーのチャックから家庭内暴力を受けていたという事実を捉えています。



ロブ・エプスタイン:彼女については、何年かかけてリサーチしました。記事や写真や文献を集めファイルが何冊にもなり、美術や衣装、撮影のロケーションを選ぶときにとても役立ちました。リサーチしてもっとも驚いたことは、リンダが実際ポルノを撮影したのはたったの17日間だったということです。




──ストーリーはラヴレースのデビュー前から脚光を浴びた17日間の後、自伝を書くという段階でチャックとの出来事がフラッシュバックするという構成になっています。このような構成にした理由を教えてください。



ジェフリー・フリードマン:誰でも自分たちの物語を語るとき、時代が変われば物語も変わってくるものです。今僕が20代のころを思い出すと、その当時とは全く違った見方をするでしょう。僕はバカで、冒険好きで、賢かったけれど混乱していた。過去は常に当時思っていたよりも複雑なんです。




──1970年代末から1980年代にかけてのポルノ業界を描く映画といえば、どうしてもポール・トーマス・アンダーソン監督の『ブギーナイツ』を思い出してしまいますが、今作は『ブギーナイツ』よりもよりシリアスで、ラヴレースの人生に寄り添った作品になっていると思います。制作にあたって『ブギーナイツ』の存在は意識しましたか?



ジェフリー・フリードマン:もちろん明らかな類似点はありますが、物語は全く違ったものです。『ブギーナイツ』は男性ポルノスターで『ラヴレース』は女性。それだけで全く違った観点になります。『ブギーナイツ』は大作で、僕たちはそれにインスパイアされることはあっても全く違う物語です(製作費も格段に多いです!)。




──『Howl』では脚本も手がけていましたが、今回は『チャット~罠に堕ちた美少女~』のアンディ・ベリンが脚本を担当しています。彼とのコラボレーションはいかがでしたか。



ロブ・エプスタイン監督:僕たちはお互いのことを良き共同制作者だと思っていますが、それは映画製作にあたって絶対に必要な条件です。アンディとの仕事はとても楽しく、作品の世界観に浸ることができました。



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映画『ラヴレース』より ©2012 LOVELACE PRODUCTIONS,INC.ALL RIGHTS RESERVED




あの時代を表現するために16mmで撮影





──主演のアマンダ・セイフライド、そして夫役のピーター・サースガードとは撮影にあたり、どのようなディスカッションを行ないましたか。



ジェフリー・フリードマン:ラッキーなことにアマンダとピーターとのリハーサルの時間を一週間もらえました。僕たちはその時間を二人のキャストが互いに慣れて親しい関係を築くのに費やしました。二人の関係がスクリーンの上でも必ず影響してくるからです。二人の相性は素晴らしく、互いに全面的に信頼し合い能力を最大限に引き出しあっていました。



ロブ・エプスタイン監督:どんな役者にも、演じるキャラクターに忠実であることが求められます。アマンダはリンダと彼女のストーリーを信頼し、ありのままを表現しようとしていました。





──今作は70年代の映画が持っている華やかさや猥雑さや自由さ、その反対の保守的な部分をストーリーだけでなく、映像の質感でも再現しています。



ジェフリー・フリードマン:70年代はとても独特で派手な美学があった時代で、その美学を追求するために色々と調べました。あの時代のきめの粗いフィルムの質感を表現するために、16mmのフィルムで撮影し(もしかすると16mmで撮った最後の作品かもしれません)自分たちが記憶している表情豊かで鮮やかな色彩を再現したかったのです。



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映画『ラヴレース』より ©2012 LOVELACE PRODUCTIONS,INC.ALL RIGHTS RESERVED




──リンダ・ラヴレースの存在や、彼女の出演した映画が、現在の映画界にいまだ与え続けている影響について、どのように考えますか?



ロブ・エプスタイン:映画製作の観点から言うと、『ディープ・スロート』は一般受けを狙った俗な部分があると思います。しかしリンダ・ラヴレースという人物から僕たちが学ぶべきは、「自分を守るために私生活でもエージェントを雇うべき」ということ。そのことほうが重要な意味があると思います。




──これまでドキュメンタリーを撮り続けてきた監督にとって、今作は2作目のフィクション・ドラマとなりますが、ドキュメンタリーとフィクションの境界について、あらためて思うところがあれば教えてください。



ロブ・エプスタイン:ドキュメンタリーの出身だからこそ題材の真実や細かい事実を追求するようにしており、この姿勢は僕たちのフィクション作品に対するアプローチを大きく特徴付けています。しかし広義で言えばドキュメンタリーも映画ですし、ストーリーテリングをするという意味に置いて大きな違いはありません。




──『ディープ・スロート』公開時の記憶もあると思いますが、本作を撮られる前と後でのリンダ・ラヴレースに対する印象の変化を教えてください。



ロブ・エプスタイン:普段映画を観るときに、スクリーンに映るキャストたちが撮影時にどんな様子だったか―どんな生活だったかなんて考えることはほとんどないですよね。でも『ディープ・スロート』では撮影当時の彼女に何が起こっていたのか考えずにはいられません。



(インタビュー・文:駒井憲嗣)









ロバート・エプスタイン ジェフリー・フリードマン プロフィール



ロブ・エプスタインは、1955年生まれ。70年代後半にサンフランシスコを拠点にドキュメンタリー映画を作り始め、84年の監督作『ハーヴェイ・ミルク』(78年に暗殺されたゲイの政治家/社会運動家の生涯を追った作品)では、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞に輝いた。ジェフリー・フリードマンは、1951年生まれ。70年代に『エクソシスト』(73)や『レイジング・ブル』(80)といった作品の編集補助としてキャリアをスタートさせた。2人は、89年の『Common Threads:Stories from the Quilt』(アカデミー賞Rの長編ドキュメンタリー映画賞を受賞)で初めてコンビを組み、その後も『セルロイド・クローゼット』(95)、『刑法175条』(00)といった数々のドキュメンタリー映画の秀作を共同監督で発表しつづけている。また、ビートニク詩人、アレン・ギンズバーグの若き日を題材とした『Howl(原題)』(10年、主演ジェームズ・フランコ)では初のフィクション・ドラマ作品にも挑戦し、話題を呼んだ。










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映画『ラヴレース』より ©2012 LOVELACE PRODUCTIONS,INC.ALL RIGHTS RESERVED


映画『ラヴレース』

2014年3月1日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー



1970年、21才のリンダ・ボアマンは、フロリダの小さな町で、厳格なカトリック教徒の両親と暮らしていた。ある夜、リンダは地元でバーの経営をしているチャック・トレイナーと知り合う。チャックの優しい言葉に惹かれ、彼とつきあい、すぐに結婚する。その半年後、バーでの売春容疑で逮捕されたチャックは、保釈金やあちこちへの借金で行き詰まり、妻のリンダをポルノ映画へ出演させるというアイディアを思いつく。




監督:ロバート・エプスタイン ジェフリー・フリードマン

出演:アマンダ・セイフライド、ピーター・サースガード、シャロン・ストーン、ジェームズ・フランコ、クロエ・セヴィニー、クリス・ノース ほか

脚本:アンディ・ベリン

撮影:エリック・エドワーズ

美術:ウィリアム・アーノルド

音楽:スティーヴン・トラスク

編集:ロバート・ダルヴァ、マシュー・ランドン

2012年/アメリカ/ビスタ/93分/R18+

©2012 LOVELACE PRODUCTIONS,INC.ALL RIGHTS RESERVED




公式サイト:http://lovelace-movie.net/

公式Facebook:https://www.facebook.com/lovelacemovie3.1

公式Twitter:https://twitter.com/lovelace_japan





▼映画『ラヴレース』予告編


[youtube:qBb2zttjIfY]

枠にはまらない、のではなく「はまれなかった」コントカンパニー、ミラクルパッションズ

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3/9(日)に渋谷アップリンクで公演を行なうミラクルパッションズ(左より、畑中実、伴秀光、ワクサカソウヘイ)



中学男子が休憩時間にするおふざけを恐ろしく高度なレベルで繰り出す馬鹿馬鹿しさ。テレビカルチャーを著しく斜めから愛と皮肉と羨望を込めた眼差しで観察するユニークな視点。それらをハイブリッドすることにより「能でDr.スランプアラレちゃん」や「めだかの学校をブルーハーツのトレイントレインの歌詞で歌う」や「学校の先生が実は火の鳥だった」などの前衛的コントは生まれた。



そしてこの2月、屋台骨を支える脚本担当のワクサカソウヘイはテレビブロスでの連載をまとめた『夜の墓場の反省会』を上梓し、いよいよ今年ブレイク秒読みではないかと巷では噂されている。 来たる3月9日にテレビブロスとの共催により渋谷アップリンクで行われる、脂身たっぷりいいとこどりのベスト・オブ・ベスト公演に向け、3人の出会いからミラクルパッションズ結成と、現在に至るまでを聞いた!





「ツッコミ」と「動き」と「人間味」



──まずは簡単な自己紹介からお願いします。



ワクサカソウヘイ(以下、ワクサカ):ミラクルパッションズの全部のコントの脚本を担当しております。現在30歳でして、メンバーはみんな同じ歳ですね。



伴秀光(以下、伴):ミラクルパッションズでは、リーダーをやらせてもらっています。



畑中実(以下、畑中):僕は、特にこれといってやってることはないです。



ワクサカ:ボケ・ツッコミみたいな感じでいうと、主にですけど、僕がツッコミで、畑中くんが「動き」で、伴くんは「人間味」ですね、「業」っていうのかな。



伴:あとは「概念」とかやってますね。



──すごく大きな部分を(笑)。3人の出会いは何だったんですか?



畑中:伴くんとは小学校が同じで、ワクサカくんとは高校が同じですね。



──地元が一緒なんですか?



ワクサカ:東京は東京なんですけど、2人は葛飾っ子で、僕は練馬っ子です。それで、畑中くんを介して伴くんと知り合うわけですけど。高2か高3の頃に、とにかくモテたくてバンドをやろうってなって。それで、バンド内恋愛みたいなものをやってみたいと思ったわけですよ。



──バンド内恋愛(笑)。



ワクサカ:憧れのサークルラブっていうんですか? とにかく人を集めようって、21世紀だからみたいなのもあって、21人集めたんですよ。女子多めで、でも結局何にもなかったのが、この3人なんですよ。結局モテなくて。しかも残っちゃった3人が楽器ができなかったもんだから。それで始めたのがコントなんですよ。



──そうすると、18歳の頃からもう「ミラクルパッションズ」として?



ワクサカ:そうなんですけどね。芸歴聞かれると困るんですよね。いちおう6年か7年くらいにしていて。というのも、高校卒業してから、1年に1回くらいしかやらないっていう感じだったんですよね。もうコントは卒業するっていうようなことが何回もあって、リーダーなんて脱退宣言を何度したことか。



伴:しましたねぇ。節目節目で脱退しようとしましたね。



ワクサカ:昔は、「ミラクル☆パッションズ」って「☆」が入ってたんです。けど、ちゃんとやろうってなって「☆」を取ったんですよね。こんな浮ついてちゃいけないって。なので芸歴のスタートは「☆」を取った日からってことにしてますね。



──結成当時から名前はすでに「ミラクルパッションズ」だったんですね。



ワクサカ:そうですね。バンド名どうしようって言って、相談した時に畑中くんが。



畑中:そうでしたね。最初はバンド名として考えていて、しかも当初は、漢字だったんだよね。「魅裸狂パッションズ」って。



ワクサカ:だせぇ名前にしちゃえみたいな18歳のノリで。パッションズも漢字にしたかったんだけど思い付かなくてカタカナに(笑)。あと、1回、「もっこりガイズ」になったよね。その後に「もっこりハム太郎」になって戻したんですよね。酒飲んでて決めちゃったから。トリオ名はいまでも足かせですね(笑)。



伴くんは、普通に話してる時もチャゲアスみたいなことを言っていた



──コントへ移行していったのはどういった経緯だったんですか?



畑中:バンドを辞めてコントをやろうって話になったんだけど、何にもしない期間がずっとあって、最終的に僕が所属していた演劇部の卒業公演をするってなった時に、その前座としてミラクルパッションズで何かやらせてよって部長にお願いしたんですよね。



ワクサカ:それでディズニーランドをモチーフにしたド下ネタのコントをやってねぇ。



──伴さんは、その前座公演にも他校から参加されたんですかね? そんなに自由に他校から参加できるものなんですか?




ワクサカ:いや、彼だけですよね。文化祭でも他校から来た伴くんを連れ回して、「握手会だ!」って言って校内をパレードしたんですよね。



伴:何も知らずに、練り歩きましたね。



ワクサカ:よく連れ回されるんですよね。



畑中:あと中学の時、おかしな坊主頭になった時も葛飾練り歩いたよね。



伴:まだtwitterとかないし、練り歩くしかないからね。



ワクサカ:だからいまもその衝動でコントやってるだけですよね。とにかく伴くんを連れ回したい。伴くんを練り歩かせたいっていう思いがね……。



畑中:葛飾からやっと渋谷まで来たね。



伴:市中引き回しだねぇ。



畑中:いまはこんな感じにまとまっててまだいいんですけど、当時は思春期のリビドー真っただ中で、変なロン毛で、アメ横で買った変なシャツで、髪立てるの流行ってたから立ててはいたんだけど、仕上がりはサリーちゃんのパパみたいな感じで(笑)。そんな人が他校から来て校内を練り歩いてたりして、すごく変な目で見られたっていう。



──それは何か影響を受けてそういうファッションにしてたんですか?



ワクサカ:それはもう僕たちも教えてほしいですよね。



伴:まぁなんでしょう。僕は工業高校だったんで、女の子の反応とかもよく分からなくって行き詰まりに行き詰まってなんとか打開しようと思ってやったのがあの髪型だったんですよね。



ワクサカ:彼はそう言ってごまかしてますけど、本当はL'Arc~en~Cielが大好きだったからhyde感は出してましたよね。



──なるほど(笑)。



ワクサカ:畑中くんに紹介されて初めて伴くんに会った時も、彼は極度の人見知りなのに、「かましてやれ!」みたいなのがあって。



畑中:ちょうど高校1年生だったんで、デビューしたてだったんですよね。



ワクサカ:チョケてチョケてのおチョケがすごい時期だったから、シルバーアクセサリーを両手につけてて。普通に話をしてたら、ムカついてきちゃったみたいで、「いまからアイツ殴りに行こうぜ」ってチャゲアスみたいなこと言ってたもん。ほんとに言ってたよね?



畑中:そう。中学校の時の同級生の話してたら「アイツ、ムカつく」って言い出してね。なんかよく分かんないゴツゴツしたドクロのやつしながら。



伴:あぁ、クロムハーツね。



ワクサカ:使い方によってはメリケンサックになるやつね。



畑中:金のネックレスも付けて、けど真っ白のシャツの中に思いっきりNIKEのマークが透けて見えて(笑)。



伴:隠しきれない葛飾感ね(笑)。



畑中:途中でメシ食いにファミレスでも行こうよってなったら全部(アクセサリー)外したよね。



伴:そうそうカラまれちゃうと怖いから



──ワクサカさんのことはどんな印象でしたか?



畑中:とにかく美少年だったんですよ、ワクサカくんて。高校の時なんてとくに。お肌ツルツルだったし、こんなにハゲ上がってなかったし。ほんとにキレイな顔してるんだけど、間近で見た時にすごく変な顔って思いましたね。



伴:僕には前情報として、「国分太一そっくりの友達が出来た!」って言ってましたけどね。すごいモテモテのヤツが来るって、家に連れて来たら、当時マッシュルームカットで目パチクリさせながら変な感じで来て、なんだコイツって。



ワクサカ:殴ってやろうかって(笑)。



児童公園で「地獄」を作っていた



──高校を卒業されてからはどんな活動を始めたんですか?



ワクサカ:いろんなことやりましたね。舞台もやったし児童公園で「地獄を作ろう!」って言って、鬼の格好したり、ゾンビの格好したりして、8時間ぶっ通しだったけ? 「雨天決行だ!」って言って。



畑中:10時間かな。



ワクサカ:だんだんひよって5時間にしたんだっけ。



──ゲリラライブってことですか?



ワクサカ:船橋の方でね、なんかコントやってる人たちがいるらしいってだまされた人がいたみたいで、ちょっと何かやってくれませんかってなったんですよね。それで船橋にいい公園がありますねって、地獄作ってね。そういうことやったりはしてましたね。23、24歳の頃は道をいろいろやりすぎて真人間に戻れなくなってた時期もありましたね。なので、ほんと3人でしっかりやろうってなったのは。そのあとの2007年くらいかな。




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2008年に船橋・本町四丁目公園で行われた5時間ライヴ「地獄温泉」の会場の様子






──HPには2003年頃の情報からアップされていますが。



ワクサカ:うん。アバウトだよね。2003年は初めて舞台でコントをやったっていうのからのカウントなので、いまは僕らの精神の話をしてるよね。



──なるほど(笑)。



ワクサカ:なので気持ちは2007年ぐらいですね。それまではこの3人以外にも人が出たり入ったりしてたんですよ。



畑中:なんだかんだ抜けていくわけですよ。それで残ったのがこの3人ですよ。



ワクサカ:また残るわけなんですよね。バンド辞めて3人になっちゃってからまたっていうね。「コントやる!」って言ってると何人かは嗅ぎつけてまた来るんですよね、でもその人達もいなくなるんですよね。だから、もう、嫌われ者ですよ。



──そんなことはないかと(笑)。



ワクサカ:話してて寂しくなっちゃった……。あと、そういえば高校の頃、映像もやってたんですよ。それで、畑中くんと一緒に上映会をやったんですよ。それに伴くんはお客さんで来てたんですよ。まだメンバーに入ってるような入ってないようなフワフワしてた頃だったんで。それで、当日、上映会スタートってなったら、上映が出来なくて。



畑中:なんか単純なトラブルで映像が流れなかったんですよね。



ワクサカ:結局、上映が中止になっちゃって、深々と頭を下げて、畑中くんなんかは泣いちゃったんですから。それなのに、伴くんは客席から「金返せ!」って言ったんですよ。



(一同、笑)



伴:当時高校生でおこづかい制だったんで、交通費もバカにならなかったんで。わざわざ呼びつけてふざけるな、と。



ワクサカ:それがいまのリーダーです。



畑中:一番の敵がね。



ワクサカ:クレーマーが(メンバーに)入るっていう新しい形ですね。



──そうですね(笑)。「新しい」というと、ミラクルパッションズの活動自体、新しい形だと思うのですが、これまでいわゆる芸人さんの事務所に所属されなかったのはどうしてなんですか?



ワクサカ:「芸人」になりたいの前に、「コントがやりたい」の方が先にきちゃったんですよ。たぶん芸人さんとはモチベーションが違うなと思うのが、お笑い芸人になりたいっていうのが先にあるんだと思うんですよね。僕らはリビドーとしての「コントやりたい」が先にあって、それが強かったので。もう事務所の入り方とかよく分かんない時期を何回も通り過ぎちゃってて。いちおう括りとしては「お笑い芸人」で括らせてもらってはいるんですけど。



──なるほど。



ワクサカ:テレビで芸人さんと絡んだりしても、芸歴がよく分からないので、困られるんですよね。ほんと生態系を壊してるブルーギルみたいなやつらですよ。



──かなり珍しいですよね。



ワクサカ:たぶん、いないでしょうね。未だに演劇の方にジャンル分けされがちなんですけど、演劇のこともよく分かんないし。でもある意味、自分たちのマーケティングの中でやっている活動ですね。







若干、気持ちがヤリチン(畑中)ヤリマンっていうかね(ワクサカ)



──コントは選曲も含めてワクサカさんが作ってるんですか?



ワクサカ:いや、選曲は3人で。



──絶妙ですよね。ちょうどダサい感じで。



ワクサカ:オシャレさがないから、そこ目指しちゃうと終わりだっていうことに、たしか2年前に気付いたのかな。



──けっこう最近なんですね(笑)。



ワクサカ:やっぱりモテたくてね。



伴:色気がまだあったからね。



ワクサカ:パルコで買い物すればおしゃれぐらいの価値観だったからね、俺ら。それで、(2年前に)気付いてからは、冒険はしないでありのままを出してますね。「ダサさ」っていうのは楽しんでほしいところですよね。



──ネタ作り自体はどんな感じでされてるんですか?



ワクサカ:3人でとにかく喫茶店で何時間もネタ出しして、こんなんがいいんじゃないかとか言って、これとこれ面白かったから持って帰って脚本作るわって感じですね。




──ちなみに、3年前には、ニューヨークで公演をされてますが、それはどういった経緯で?



ワクサカ:僕らね、やりたいことはすぐやる、コント界の「すぐやる課」なんですよ。なので次のライブでもある音楽家の時事ネタをぜったい入れたいと思ってるんですけど。



伴:さっそくね。



ワクサカ:もういまやりたいぐらいなんですけどね。だからニューヨーク行きたいと思ったら、すぐ行きたいんですよね。経緯も何もなくて、自分たちで旅費を払って、スタジオ押さえて外人に見せようと。そこで生まれたのが「能でDr.スランプアラレちゃん」っていう僕らの中での名作なんですけど。それを外人にぶつけようって言って、客も完全にNYで集めて、サイト作ってってやったら8人集まったんですよ、現地の人が。



──すごいですね!



ワクサカ:えぇ。それが全員日本人だったんですよ、現地のね。



(一同、笑)



──でも、ほんとにすごい行動力ですね。



ワクサカ:そうですね。暇だからですね。行動しないとなんでもなくなっちゃうから。



畑中:若干、気持ちがヤリチンみたいなところがあるよね。



ワクサカ:ヤリマンっていうかね。だから、すぐやっちゃうんです。



畑中:我慢ができないんですよね。



ワクサカ:この後、彼氏と会えるの分かってるんだけど、気持ちいいからやっちゃうみたいな。ヤリマン気質ですね。って何の話ですか、これ。



演劇やお笑いの事務所に属さず、オルタナティブなスタンスで居続けていることを芸人界の生態系を乱しまくる「ブルーギル」と自らを形容しうそぶいてみせるが、彼らの織り成すコントにはそのスタンスゆえの覚悟と行動力、既存のテレビ的お笑いでは成し得ない痛快さがある。それは既存のお笑いに対するカウンターカルチャーともいえる。





(取材・文・構成:石井雅之/ヤマザキムツミ)











ミラクルパッションズ プロフィール


2007年より3人で活動を開始したコントカンパニー。無数のコントを積み上げることでひとつの世界を出現させる「コントコラージュ」という独自の手法を用いて、精力的にLIVEを行っている。近年より単独LIVEのチケットはソールドアウト状態が続いている。2010年にはNYでのコントLIVEを敢行した。そんな感じだが、知らない人に「何ていうチーム名で活動しているの?」と聞かれると、いまだに口ごもる。

公式サイト:http://mp-s.net/










ワクサカソウヘイ『夜の墓場で反省会』出版記念LIVE

「ミラクルパッションズ、たえまなくそそぐあいのなを大全集とよぶことができたなら」

2014年3月9日(日)渋谷UPLINK FACTORY




第1回公演 17:30開始/第2回公演 20:00開始

料金:予約1,000円(別途ドリンク代)/当日2,000円(別途ドリンク代)

【キャスト・スタッフ】

作・演出・出演:ワクサカソウヘイ、畑中実、伴秀光

音響:髙嶋早紀

照明:小林千紘、こんきりこ

映像:工藤尚輝

構成協力:木村樹

企画・制作:瀬川卓見、ミラクルパッションズ

共催:テレビブロス、UPLINK

☆各回終演後サイン会あり

ご予約は下記より

http://www.uplink.co.jp/event/2014/23099












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夜の墓場で反省会

著:ワクサカソウヘイ

発売中



1,575円(税込)

191ページ

東京ニュース通信社

ISBN-10: 4863363842

ISBN-13: 978-4863363847




★作品の購入はジャケット写真をクリックしてください。

Amazonにリンクされています。










▼ミラクルパッションズ公演より『能でDr.スランプアラレちゃん』



[youtube:3BvgK1m_m3o]

▼ミラクルパッションズvol.10『老人の撃ち合い』



[youtube:5B1j3CBsBNQ]

奴隷制度というアメリカ史の一部を、観客にベルト・コンベアに乗ったように見てほしかった

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映画『それでも夜は明ける』より キウェテル・イジョフォー(左)、ベネディクト・カンバーバッチ(中)、ポール・ダノ(右)© 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.





奴隷制度廃止前の19世紀中頃、アメリカ南部を舞台に、突然身柄を拘束され奴隷として生きることを余儀なくされた黒人ヴァイオリニストが、再び再び妻子と会うまでの壮絶な12年間を描いた『それでも夜が明ける』が3月8日(金)より公開される。主演を務めたキウェテル・イジョフォーのほか、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ポール・ジアマッティ、ブラッド・ピットといった俳優陣が集結し、実在したアフリカ系アメリカ人ソロモン・ノーサップの自伝を映画化。本年度アカデミー賞の作品賞、助演女優賞(ルピタ・ニョンゴ)、脚色賞(ジョン・リドリー)を受賞した今作について、スティーブ・マックィーン監督が語った。



ホロコーストについての映画はあるのに、奴隷制度についての映画はない





──とてもパワフルな映画した。奴隷制度という問題についてここまでストレートに描いた作品ということで、制作には困難が伴ったのではないですか。



奴隷制度についての映画を作るべきか止めるべきか悩んだが、最終的に映画を作る必要があると決断した。自分が何をしようとしているのか、目的は何かを決める必要があった。僕の目的は、映画のために、そして実在したソロモン・ノーサップのために僕ができる限りの最善を尽くすことだった。





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映画『それでも夜は明ける』のスティーヴ・マックィーン監督




──以前から奴隷制度についての映画を作りたいと思っていたのですね。



その通りだ。奴隷制度についての物語を語りたいと思っていたし、面白いアングルから語る方法を見つけたかった。北部の自由民の男についての物語を考えていた。男は家族をもちながら誘拐されて南部に連れ去られる。そういうアングルを選んだ理由は、その人間を観客全員が自分の中に感じ取り、観客を奴隷制という不幸なベルト・コンベアの上に連れ出したかったからだ。奴隷制度を通して不運な立場に置かれた人々は何百万人といる。そんなことを考えていたら、妻が「それなら、奴隷制の実話を探してみたら?」とこの「12 YEARS A SLAVE」という本を見つけて、勧めてくれた。手にした途端に、僕の夢が叶った気持ちだった。突然、数年間考えてきたことが、僕の手の中にやってきたんだ。最高に興奮したよ。本を開いた瞬間から、止まらなかった。「ピノキオ」や「グリム童話」のように読める、暗いおとぎ話のような物語だった。




──この本を読んで、一番驚き、一番ショッキングだったのはどのようなことでしたか?



ソロモン・ノーサップの生き残ろうとする意志だ。ボリュームのある本だが、ページをめくるたびに、これで彼は生き延びることができたが、今度こそダメだろうと思った。でも違う、彼は最終的に生き残ったんだ。そこがとてもエキサイティングな驚きだった。





──主人公のソロモン・ノーサップに、キウェテル・イジョフォーを起用した理由を教えてください。



この役にはキウェテルしかないと思っていた。長い間彼を見てきた。彼ならこの難しい役を演じきる演技に到達できると感じたし、彼ならできるとわかっていた。僕たちはたくさん話し合った。彼をそういう心境に追い込み、指導した。いや指導ではないな。ボクシングの試合のように毎ラウンド、彼はコーナーに戻ってきた。だからいくつかアドバイスし、また彼をリングに追いやったんだ。それは彼に能力があり、カメラとこの映画全体を一つにまとめる気高さがあったからだ。




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映画『それでも夜は明ける』より、キウェテル・イジョフォー(左)、マイケル・ファスベンダー(右)© 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.



──今作のプロデュースを務めたブラッド・ピットは、あなたが『SHAME -シェイム-』(11)を作る前からアプローチしたようですが、彼はあなたと仕事をしたいと思っていたのですか?



僕がデビュー作となる映画『ハンガー』(08)を作った頃から、彼の会社が僕との仕事に興味を持っていた。とても熱心だったから、奴隷制度の映画を作りたいというアイデアを話したんだ。



──ピットの反応はどうでしたか?奴隷制度についての映画は、ハリウッドではあまり人気のある題材とはいえません。



人気はわからないが、以前に一度も作られていないと思っただけだ。彼の反応は「どうして奴隷制度についての映画がなかったのだろう?ホロコーストについての映画はあるのに、奴隷制度についての映画はない」というものだった。そして彼は「やりましょう」と言ったよ。



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映画『それでも夜は明ける』より ブラッド・ピット © 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.




──冷酷な奴隷主エップスを演じるマイケル・ファスベンダーとは『ハンガー』『SHAME -シェイム-』に続き3度目の仕事になります。



マイケルは僕の大の親友だし、素晴らしい俳優だ。だからこの映画で役を演じる必要があった。僕が作るどの映画も、彼と一緒に作ってきたし、それにエップスは彼にぴったりの役柄だった。彼には感謝しているよ。彼への演出については、どうなるかはわからないし、問い掛けもしなかった。ただやってみたんだ。多くの場合、何か言おうと彼に近づくと、彼は「ええ、わかってます。そう思っていました」と言う。でも率直に誠実になるべき場合もある。そしてどうあってほしいかを率直に伝えるべき時がある。彼自身素晴らしい俳優だが、演出を非常にうまく受け止める。セットでクレイジーになったり、解放し過ぎたりしない。完璧なプロだ。スクリーン上で見るものは全て、彼が追求した結果なんだ。





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映画『それでも夜は明ける』より マイケル・ファスベンダー © 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.




──雇い主からの凄まじい暴力に耐えながらソロモンとともに綿花畑で働く若い黒人女性パッツィーを演じたルピタ・ニョンゴを起用した経緯は?そして彼女の中に何を見たのでしょう?



パッツィー役のために1000人を超える少女をオーディションし、ついにルピタを見つけた。キャスティングのフランシーン・マイスラーが最初に見つけて、僕に彼女のテープを見せてくれた。そのテープを見て彼女だと思ったんだ。それからフランシーンは彼女をニューオリンズまで連れてきてくれた。素晴らしい女優だ。当時彼女はイェール大学の学生で卒業していなかった。僕はこの役をオファーし、彼女は両手でそのチャンスをつかんだ。ルピタにはもろさと、途轍もない強さ、パワー、力がみなぎっていた。そこに驚いた。彼女には僕をとても謙虚にさせる存在感がある。驚くべき女優だ。



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映画『それでも夜は明ける』より ルピタ・ニョンゴ © 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.



──音楽は、これまで数々の大作を手がけてきたハンス・ジマーが担当しています。彼との仕事については?



彼がこの映画に関わりたいと思ってくれるなんて、嬉しかったよ。彼とは知り合ったばかりだった。彼はロンドンで多くの時間を過ごし、僕たちにはある意味阿吽の呼吸があった。彼も僕もロンドン子だからね。彼の仕事ぶりを見られるなんて最高だったよ。彼は驚くほど寛大で、驚くほど辛抱強い人だ。たくさんの人に囲まれて仕事をしている。一緒に仕事ができたのは喜びだった。彼は芸術家だ。



人々はこの映画を受け入れる準備ができていると思う



──今作の制作において、あなたが乗り越えねばならなかった一番の困難はどのようなことでしたか?



人々をまとめ続けることだ。撮影の現場は強烈な暑さだった。実在の大農園で、凄まじい暑さの中、毎日20時間、綿を摘む仕事をしていた人々のことを考えた。凄いことだ。同様に、全員をまとめ、グループを一つにし、撮影の間中彼らの正気を保つ。良い時も悪い時も、全員を一つにまとめることが必要だった。




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映画『それでも夜は明ける』より ベネディクト・カンバーバッチ © 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.



──なぜこの物語が今語られねばならないと思いますか?観客として我々は何を心に留めるべきなのでしょうか?



人々はこの映画を受け入れる準備ができていると思う。トレイヴォン・マーティン君のような不幸な事件もあるし(※2013年2月、10代の黒人少年トレイヴォン・マーティン君が自警団を自称する近隣の若者に射殺された。マーティン君はコンビニで買ったキャンディーとアイスティを両手に持ち、フード・スウェットを着て、電話をしながら家に帰る途中だった。容疑者の若者は正当防衛を主張し、地元警察は彼の証言を認め放免。その後、大きな抗議活動に発展した)、今は黒人のオバマ大統領の時代でもある。多くのイベントや記念日、奴隷制度の廃止記念、ワシントン大行進記念もある。だから人々はこれまでになく黒人の差別の問題に関して活気づいていると思う。我々がこの映画にその活気を生かし、人々が反応してくれることを願っている。



──今作は奴隷に対する残酷な仕打ちがリアルに描写されていますが、同時に希望についてもはっきりと描いていると思います。



できる限り多くの人にこの映画を届けたいと思う。この映画を受け入れてほしい。これはアメリカ映画だからだ。そしてアメリカの歴史の一部分、アメリカ史のある側面であって、それはもはやそこには存在しない。アメリカは驚くべき方法でそれを乗り越えてきた。それにこの原作自体が重要なアメリカ史の一部なんだこの映画もまたアメリカ史の一つであって、人々にこの映画を受け入れ、起こったままを見てもらい、そして前進してほしいと思っている。




(オフィシャル・インタビューより)










スティーヴ・マックィーン プロフィール



1969年、イギリス・ロンドン生まれ。 ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインとゴールドスミス・カレッジで学び、在学中に映画を作り始める。卒業後は、彫刻家、写真家としても活動する。99年にはロンドンの現代芸術複合センターICAなどでエキシビションを行い、イギリスの美術賞ターナー賞を受賞。作品はテート美術館、MoMA、ポンピドゥ・センターなど世界中の美術館に所蔵されている。02年に大英帝国勲章4位、11年には3位を与えられる一方で、03年にはロンドンの帝国戦争博物館よりイラク戦争の公式戦争アーティストに任命される。 長編映画デビューは、脚本も務めた08年の『ハンガー』でカンヌ国際映画祭カメラ・ドールなど、数多くの賞に輝く。長編第2作となる『SHAME -シェイム-』(11)でヴェネチア国際映画祭の男優賞と国際批評家連盟賞を受賞、英国アカデミー賞、英国インディペンデント映画賞、インディペンデント・スピリット賞、サテライト賞など多くの賞にノミネートされた。今作『それでも夜は明ける』は第71回ゴールデン・グローブ賞で作品賞(ドラマ部門)を受賞、第86回アカデミー賞では主要9部門でノミネート、作品賞、助演男優賞、脚色賞の3部門受賞など数々の映画賞に輝いている。













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映画『それでも夜は明ける』より マイケル・ファスベンダー(左)、キウェテル・イジョフォー(中)、キウェテル・イジョフォー(右)© 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.


映画『それでも夜は明ける』

2014年3月7日(金)TOHOシネマズ みゆき座他 全国順次公開



1841年、アメリカ・ニューヨーク州サラトガ。バイオリニストのソロモン・ノーサップは、生まれた時から自由証明書で認められた自由黒人で、愛する妻と娘と息子とともに幸せな暮らしを送っていた。ある時彼は、知人の紹介で、ワシントンで開催されるショーでの演奏を頼まれる。契約の2週間を終え、興行主と祝杯をあげたソロモンは、いつになく酔いつぶれてしまう。翌朝目が覚めると、ソロモンは小屋の中で、手と足を重い鎖につながれていた。「おまえは南部から逃げてきた奴隷だ」と宣告され、ニューオーリンズの奴隷市場に運ばれ、奴隷商人から無理やり“ソロモン”という名前すら奪われる。ソロモンは、大農園主のフォードに買われていく。




監督:スティーヴ・マックィーン

出演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ポール・ジアマッティ、ルピタ・ニョンゴ、サラ・ポールソン、ブラッド・ピット、アルフレ・ウッダード

製作:ブラッド・ピット、デデ・ガードナー、ジェレミー・クライナー、ビル・ポーラッド、スティーヴ・マックィーン、アーノン・ミルチャン、アンソニー・カタガス

製作総指揮:テッサ・ロス、ジョン・リドリー

脚本:ジョン・リドリー

撮影:ショーン・ボビット

プロダクションデザイン:アダム・ストックハウゼン

衣装デザイン:パトリシア・ノリス
編集:ジョー・ウォーカー

音楽:ハンス・ジマー

原題:12 YEARS A SLAVE

配給:ギャガ

2013年/アメリカ、イギリス/シネマスコープ/134分

© 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.



公式サイト:http://yo-akeru.gaga.ne.jp

公式Facebook:https://www.facebook.com/gagajapan

公式Twitter:https://twitter.com/gagamovie





▼映画『それでも夜は明ける』予告編


[youtube:LSouln2LQ5s]

管理下で暮らしているという先入観にとらわれない作品に─北朝鮮映画制作の現場を捉えたドキュメンタリー

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映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』より ©Lianain Films




シンガポールの映像作家、ジェイムス・ロンとリン・リーが、映画大国・北朝鮮のピョンヤン演劇映画大学に通う学生たちや映画監督らを捉えたドキュメンタリー『シネマパラダイス★ピョンヤン』が3月8日(土)より公開される。金正日将軍の指導のもとで“国家事業”となっている映画制作の現場を舞台に、モブシーンの撮影風景から学生の家族の食卓まで、ニュースではなかなかうかがい知ることのできない北朝鮮のいまを生きる人々の生活をカメラに収めたジェイムス・ロン監督に聞いた。




案内人が随行、撮影した映像はすべて検閲



──本作を撮ろうと思ったきっかけを教えてください。



2008年に、カンボジアで地雷を撤去する活動を行うアキ・ラーと地雷の犠牲になった少年を追った『アキ・ラーの少年たち』という僕たちのドキュメンタリーを持ってピョンヤン国際映画祭に参加した際に、パーティで一緒に座った人たちが、映画労働者と呼ばれる映画業界の人たちでした。その中に非常に著名な女優で、北朝鮮で著名な映画『花を売る乙女』に主演をしたホン・ヨンフィさんがいまして、彼女に「何か北朝鮮で撮りなさいよ」と言われて、「いいですね、ぜひ映画業界のこと撮りたいですよね」なんて冗談で返したんです。その後、これは良い企画かもしれないな、と思って「映画業界のドキュメンタリーをぜひ撮りたい」と映画祭主催者に申し出ました。そこから取材交渉のメールのやりとりが始まりました。





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映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』のジェイムス・ロン監督





──ピョンヤン国際映画祭の雰囲気、また出会った映画人の印象はいかがでしたか?



まず北朝鮮の人たちは映画がとても好きなんですね。僕が行った年は、中国の目線から見た朝鮮戦争を描いたフォン・シャオガン監督の『戦場のレクイエム』が上映されていました。その前の年には『ベッカムに恋して』が上映されていたようです。

また映画労働者の皆さんは情熱がありますし、ある意味映画人としてのクレイジーさもあるのかとも思います。そして、彼らは自分たちを映画労働者と呼び、その任務は将軍様(金正日)に喜んでいただくため、共産主義、社会主義のユートピアに人民を導くということ。そのことを非常にはっきりと言っていました。





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映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』より ©Lianain Films





──今回、常に案内人が随行し、撮影した映像をすべて検閲に出す、という厳しい条件下での撮影だったと聞いていますが、そういう状況下での撮影はどうでしたか?



実際、北朝鮮は、案内人なしで好きに撮影するということが不可能なところですよね。ですからその現実は受け止めるしかないし、今回の撮影で僕たちを招聘してガイドや通訳として動いて下さった方と、映像の検閲を行う検閲局や秘密警察とは全く別ですよね。ですから、今回、同行者に監視されているというよりは、僕たちの撮影がうまくいくように、誠意を尽くし便宜を図ってくれているという認識でした。つまり、監視やコントロールをされている、というよりも、許可を取ってくれた彼らなくしては撮れなかったわけですし、彼らもまた、許可があれば好きに撮ってください、という関係でした。






学生たちの自然な姿をありのまま撮影




──北朝鮮での撮影期間は、どれくらいだったのですか?



撮影のための最初の訪朝は2009年秋、撮影は2日間だけでした。作品の冒頭にでてきますが、川辺で行われたピョンヤン演劇映画大学の野外授業のシーンです。撮影していて、少し人工的な感じがしましたね。「学校は改修中だから撮れません」と言われたのですが、思うに僕たちがどこの馬の骨ともわからないから、様子を見て信頼に足りうる人たちかテストされてたのでは、と思いますね。2度目の訪朝は、2010年夏で7日間撮影しました。2010年冬の訪朝が最後で、10日間にわたって撮影ができました。






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映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』より ©Lianain Films




──北朝鮮滞在時、一日の取材の動きは、実際どんな感じだったのですか?また、本作では、メインの登場人物が3人出てきますが(映画演劇大学で学ぶ男女学生とベテラン映画監督)、どういう経緯で選ばれたのですか?



まず一日の動きに関しては、だいたい毎朝朝食を食べ終わった頃にピックアップの車が来てくれて、2時間くらい撮って、また昼食を食べて、その後また2、3時間撮るという流れでしょうか。一日最高で3ロケーション移動して撮影しましたね。また大学の構内で撮ったときは、そこで丸一日過ごしました。取材対象者については、今回映画がテーマでしたから、大学の演劇科の人、そして映画監督で仕事現場の様子を、というリクエストを出したところ、ピョンヤン演劇映画大学で学ぶユンミさん、ウンボムさん、そしてピョ監督を紹介されました。



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映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』より ©Lianain Films


──映画監督と大女優を両親に持つウンボムさんは、優等生というか、カメラ前で模範的な受け答えをする一方、ユンミさんの日常生活、例えばお化粧をしたり、朝ごはんを食べているところは、よく撮影できたなぁと、非常に印象に残りました。



そうですね、北朝鮮の人の家を訪問できると言うのはそうそうあることではないので、ましてや朝と夜と2回訪問し、撮影することができたのは幸運でした。また撮影後半、例えばアイススケートのシーンなどはそうだと思うのですが、撮影を続けてきて、かなり二人ともオープンになって緊張しないで自然でいてくれたと思います。どうしてもインタビューとなるとやはりちょっと意識するのですが、二人で放っておくとかなり自然な雰囲気で、それをありのまま撮影できました。




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映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』より ©Lianain Films




──この作品でどういうことを送り手としては伝えたいと思いますか?



実は、北朝鮮での取材を終えたあと、編集にはかなり時間がかかったんです。というのも、こういった制約下で撮った映像ではあるけれど、信憑性を持たせるにはどうしたらいいかというところに悩みました。最終的には「外出する際は、必ず案内員が同行する」「撮影したものは、その日毎に検閲に出す」という制約と条件下で撮ったということを先に観客に伝えた上で映像を見せる構成にしました。



そうした構成にすることで、あの政治状況下で暮らす人たちには自由がない、洗脳され、管理下で暮らしているという先入観にとらわれない作品にしたかった。私たちに近い存在として感じられるような姿を撮ることで、北朝鮮のようなシステムの中でも、独立した個人の考えを持って生活している人がいるんだ、ということを見せたかったのです。



(オフィシャル・インタビューより)









ジェイムス・ロン プロフィール



香港生まれ。イギリスで教育を受ける。日本のプロダクションでプロモーション・ビデオのプロデューサーになるも、2001年からはインディペンデントで監督、撮影、編集を行っている。『シネマパラダイス★ピョンヤン』では、プロデューサーも兼任するリン・リーとともに共同監督を務めた。













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映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』より ©Lianain Films




『シネマパラダイス★ピョンヤン』

2014年3月8日(土)シアター・イメージフォーラムにてロードショー

他、全国順次公開




2009年、シンガポールのドキュメンタリー映像作家であるジェイムス・ロンとリン・リーは「外出する際は、必ず案内員が同行する」「撮影したものは、その日毎に検閲に出す」という条件を苦渋の思いで受け入れ、北朝鮮映画業界のドキュメンタリーのための撮影を開始した。カメラは、ピョンヤン演劇映画大学に通う二人の学生と、映画制作という“国家事業”にエキストラとして動員された朝鮮人民軍の若者を熱く演出する映画監督の姿を記録する。科学者である父親の反対を押し切り女優への道を進むユンミや、国民的映画人を両親に持つウンボム。将軍様に愛されたピョ監督。彼らは平凡な人民と言うより、むしろ特権階級の人々だろう。しかし、これまでニュースなどの報道で目にしてきた姿とは、また違う一面に観客は新鮮さを覚えるに違いない。それぞれが様々な個性と夢を持ち、北朝鮮のいまを生きる人々。その素顔から見えてくるものとは?





監督:ジェイムス・ロン、リン・リー

撮影・編集:ジェイムス・ロン

編集:ジュヌヴィエヴ・タン

プロデューサー:リン・リー、シャロン・ルーボル

原題:The Great North Korean Picture Show

配給・宣伝:33 BLOCKS

2012年/シンガポール/朝鮮語・日英字幕/93分

©Lianain Films




公式サイト:http://cinepara-pyongyang.com/

公式Facebook:https://www.facebook.com/cinepara.pyongyang





▼映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』予告編



[youtube:XFEjg_ZfFiU]

『ロボコップ』をなぜブラジルの社会派監督が手がけたのか?制作の裏側を語る

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映画『ロボコップ』より © 2013 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. and Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.


1987年に公開され、世界的ヒットを記録したポール・バーホーベン監督の『ロボコップ』。その後も続編やTVシリーズなどが制作された人気作が、劇場用映画としてリブートされ、3月14日(金)より日本でも公開される。鋼鉄のボディを身にまとった警官アレックス・マーフィの活躍と、人間かマシンか、自らのアイデンティティを探求するという哲学的な基本コンセプトはそのままに、マシンが犯罪を取り締まる荒廃した近未来のデトロイトというオリジナルの舞台から、アメリカが中東の派兵をロボットで行うようになったものの国内ではロボット配備が禁止されている、という現代の社会情勢を踏まえた設定に置き換えられている。



今作の監督を務めたのは、ブラジルの社会派監督ジョゼ・パジーリャ。実際に起きたバスジャック事件もとにブラジルの貧窮を捉えたドキュメンタリー『バス174』、そして実話をベースにスラム街の麻薬販売組織をめぐる抗争を描くフィクション『エリート・スクワッド』で高い評価を獲得する新鋭パジーリャ監督が大作に抜擢された経緯、そしてストーリーについて語った。




技術の進歩に伴う倫理的問題をとりあげる




── 今作は、当初報じられていたダーレン・アロノフスキー監督の降板後、パジーリャ監督が最初に監督候補に挙がっていたそうですね。



私はMGM役員たちから教えられるまでアロノフスキー監督が『ロボコップ』をリメイクすることを知らなかったんだ。当初『ヘラクレス』のリメイクを依頼されてハリウッドへ招聘された。そのMGMでのミーティングの際、オリジナル版『ロボコップ』のポスターを指して「『ヘラクレス』には興味ないが、僕が作りたい映画はあれだ」と言ったんだ。『ロボコップ』は素晴らしいイコン的な名作だった。この作品に対する僕の見解を話したところ、実に幸運なことに彼らがその場で「やろう」と言ってくれた。



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映画『ロボコップ』のジョゼ・パジーリャ監督



── どのようなテーマをもってリメイクに挑みましたか。




オリジナルの『ロボコップ』は未来の話だ。象徴的な映画であり、非常に成功した映画でもある。賢い映画だし、これをより深く見て、その構築のコンセプトを理解して、その世界を再現することができて、光栄に思っているよ。



義手や義足から無人飛行機や自動運転車まで。半分人間、半分ロボットというアイデアは、人々の生活の一部になりつつある。そしてそこから発生する多くの法律上、倫理上の問題に我々は直面している。アレックス・マーフィはそうした問題、すなわち機械の中に人間を入れたらどうなるか、という問題を体現しているんだ。




── 技術の進歩に伴う倫理的問題に言及していますね。



マーフィは世界一のロボット軍需会社オムニコープが売りたくてたまらない商品なんだ。彼は試作品だ。清涼飲料メーカーが新しい瓶を開発するのと同じように、オムニコープは警察に売り込むロボットとして、理想的なデザインを見つけようとしている。同社にとっては何十億ドルもの収益が見込めるだけに、多少の倫理的問題は無視するつもりだった。自走する車を買ったとしよう。その車がコントロール不能になり誰かを轢いたとする。それは誰の責任だろうか。誰が訴えられるのか。自分か。それとも車のメーカーか。警官が間違って誰かを殺してしまったらどうだろう。今だったら、警察ではなくその警官の責任だ。でも警官がロボットだったらどうなる? ロボットの中に人間を入れれば、何か問題が起きたときに、それを“ 処分” すればすむ。『ロボコップ』では、技術の進歩に伴うそうした問題を取り上げているんだ。





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映画『ロボコップ』より、ロボコップを設計するデネット・ノートン博士役のゲイリー・オールドマン(右) © 2013 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. and Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.



── それはこれからの世界を予言するような設定でもあると思います。



まもなく、戦争がオートメーション化する世界がやってくる。ロボットが兵士や警官の役割を果たすことになるんだ。今現在は、無人飛行機に関して活発な議論が行われている。無人飛行機はまだオートメーション化はされていない。遠く離れた場所から人間が状況を観察し、引き金を引くタイミングを決める。でもその決断をソフトウェアが、アルゴリズムが下すようになったらどうなるだろうか。本作で描かれていることはすべて、まもなく現実の世界のことになり、その是非が論議されることになるだろう。このストーリーの中では、機械が人間の感情を理解している、と人々が信じていなければいけない。そこでオムニコープは、アレックス・マーフィの脳をそのまま活かしておく。だから彼には感情も記憶も認知力もある。でも息子を抱きしめることも、妻とセックスすることもできないんだ。そして、オムニコープは、自分たちの製品の中に人間がいることを忘れてしまう。完全に自分たちがコントロールできるものを作り出したつもりでいたが、彼らが選んだのは、自分に与えられた新たな力を正義のために使う非常に意志の強い男だ。ロボコップでいるのは悪夢のようだが、本作は、そんな状態で自分は今後どう進んでいけばよいのか、という自身の存在に関する疑問に直面する男のドラマでもある。






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映画『ロボコップ』より © 2013 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. and Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.



ジョエル・キナマンは人間性を失う、という実存するドラマを演じることができる俳優




── ビジュアルについてもオリジナルの近未来観を継承しつつ、新しいものになっていますね。



素晴らしいビジュアルから尻込みをすることもなかったし、最先端のビジュアル・エフェクトを使用した撮影やグラフィック・デザインから尻込みをすることもなかった。反対にどんどん使っていったよ。かっこいい銃撃戦を表現したかったしね。かっこいいED-209(法執行ロボット)を作り上げたかった。テヘランに襲撃をかけるロボットたちを表現したかった。それをすべてやりこなして、映画の大きな一部となっているよ。小さな部分でさえも―アレックス・マーフィの生身の体の部分が彼のロボットの部分と作用している部分さえも―詳細とグラフィックとビジュアル・エフェクトに気を配った。そのすべてが面白い映画へと結びついて、観客に訴えかえるような映画になっていると思うよ。



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映画『ロボコップ』より、主演のジョエル・キナマン © 2013 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. and Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.



── 主人公のアレックスには、スウェーデンの俳優ジョエル・キナマンが扮しています。彼を起用した理由について教えてください。



ストーリーには非常にドラマ性があるし、最初に考えたことはどうやってロボコップ役をキャストしようか、ということだった。自分の人間性を失う、という実存するドラマを生きて演じることができる俳優が必要だった。そこでたくさんの俳優をオーディションして、ジョエル・キナマンは最初から、一つのシーンを読んだところで―まだ当時は台本がなかったので―、彼の演技は素晴らしかった。この時点でロボコップが見つかったと思ったね。



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映画『ロボコップ』より、レイモンド・セラーズ役のマイケル・キートン(右) © 2013 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. and Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.



── ではオムニコープCEOであるレイモンド・セラーズ役のマイケル・キートンについては?



まずマイケル・キートンと一緒に仕事をすること自体楽しみだったし、同じセットにいるというだけで光栄だったね。それで、実際に彼の考えるセラーズを彼が演じ始めると、天才役だから非常に賢く演じられていて、同時に面白いんだ。企業に関する皮肉やジョークを盛り込みながら、問題の深刻さや、ロボットを戦争に使うという主張、ロボットを法執行機関として使用するという主張がなされているんだ。非常にもっともだよね。ロボットには汚職がないだろうし、ロボットは疲れない。偏見もなければ人種差別もしない。だから彼はこのロボットに関する主張があり、その主張を非常にスマートに行うんだ。ちょっと変な方向に行ってしまうけど、言っていることはまとも。つまりそういう意味で、彼は通常見る「悪者」とは違う存在なんだ。そんなセラーズを演じるマイケル・キートンの演技は圧倒的なものだったよ。


(公式インタビューより)












ジョゼ・パジーリャ プロフィール


1967年ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。2002年にドキュメンタリー映画『バス174』で監督デビュー。世界各国の映画祭で栄誉に輝いた。その後、数本のドキュメンタリー映画、テレビを撮り2007年に『エリート・スクワッド』で初めて劇映画に進出、ブラジルでは商業的に大成功をおさめた。この作品は、リオデジャネイロのスラム街の麻薬販売組織とエリート部隊との抗争を描いた実話で、そのドキュメンタリックで緊迫した演出法が高く評価され第58回ベルリン国際映画祭では金熊賞を受賞した。2008年には再びドキュメンタリー映画『Garapa』を発表。2010年には『エリート・スクワッド』の続編『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』が公開され、ブラジリアン・アカデミー賞の脚本賞、監督賞、作品賞を獲得、1100万人以上という、ブラジル映画史上、最高の観客動員数と興行収入を挙げたブラジル映画となっている。2010年にはドキュメンタリー映画『Secrets of the Tribe』を監督した。





 






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映画『ロボコップ』より © 2013 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. and Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

映画『ロボコップ』

2014年3月14日(金)より、丸の内ピカデリーおよび新宿ピカデリーほか全国ロードショー



物語の舞台は2028年、巨大企業オムニコープがロボット・テクノロジーを支配する世界。海外では、オムニコープのロボットが軍事利用されている一方、アメリカでは法律で禁止されており、国内でもその技術を広めるため、機会を窺っていた。アメリカ・デトロイトで愛する家族とともに暮らす勤勉な警官アレックス・マーフィは重症を負うが、オムニコープの最新のロボット技術により“ロボコップ”として新たな命を得る。驚異的な力を身につけたアレックスを前に、オムニコープは予想をもしなかった問題に直面する。“ロボコップ”は正義を信念とする1人の警官でもあるから―。




監督:ジョゼ・パジーリャ

出演:ジョエル・キナマン、ゲイリー・オールドマン、サミュル・L・ジャクソン、マイケル・キートン、アビー・コーニッシュ、他

脚本:ジョシュ・ゼトゥマー、エドワード・ニューマイヤー、ニック・シェンク

プロデューサー:マーク・エイブラハム

製作総指揮:ビル・カラーロ

撮影:ルラ・カルヴァーリョ

美術:マーティン・ホイスト

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

2014年/アメリカ/スコープサイズ/117分

© 2013 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. and Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.



公式サイト:http://www.robocop-movie.jp/

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▼映画『ロボコップ』予告編



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映画『あなたを抱きしめる日まで』スティーヴ・クーガンが語る「笑いのなかに人々の尊厳を描くこと」

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映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED


俳優/コメディアンのスティーヴ・クーガンがプロデュースと共同脚本を務め、50年間に渡り息子を捜し続けた実在のアイルランド人の主婦と彼を取材するジャーナリストの関係を描き、本年度アカデミー賞の作品賞、主演女優賞など4部門にノミネートされた『あなたを抱きしめる日まで』が3月15日(土)より公開される。『マイ・ビューティフル・ランドレッド』『危険な関係』のスティーヴン・フリアーズを監督に、ベテラン女優ジュディ・デンチを主演に迎え、2009年にジャーナリストのマーティン・シックスミスがイギリスで出版しベストセラーとなったノンフィクションを映画化しようと思った理由について、自身もマーティン役で出演したスティーヴ・クーガンが語った。



この作品のテーマは「忍耐と協調



──最初に、原作との出会いについて教えてください。



2010年、ガーディアン紙の記事に「カトリック教会が私の子供を売った」というものがあったんです。本の著者マーティン・シックススミス氏へのインタビューや物語の詳細が書かれたその記事を読んで、心を動かされたのがこの作品との出会いでした。プロデューサーのガブリエルにこの記事の話をしたところ、「すばらしい物語。私が共同製作しましょうか?」と言ってくれたので、すぐにマーティン本人に連絡を取りました。



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映画『あなたを抱きしめる日まで』でプロデューサーも務めたスティーヴ・クーガン © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED


──マーティン・シックスミスは英国メディアではとても有名ですが、以前から知り合いだったのでしょうか?



ジェフと脚本を書き始める前に会ったのが最初の出会いでした。彼の本は、アンソニーとマイケル・ヘスの人生を描くにあたって、かなりの部分で脚本のベースとなる予定だったので、会いにいくことにしました。



──共同脚本にもクレジットされていますが、どのくらい脚本には携わったのでしょうか?



脚本には最初の段階から関わっていました。脚本は本とかなり違っていて、別の物語と言ってもいいかもしれない。本の主人公はジャーナリストで、彼と主婦フィロミナの体験談と生き別れた息子が基本的なテーマとして描かれている。しかし、僕たちは老人の女性と中年のジャーナリストという2人の旅をメインにしたかった。そんな2人が旅を通じてお互いを知っていく様子を描きたかったんです。教養があって皮肉的な中年の男と、労働者階級で皮肉とはかけ離れた性格のアイルランド人女性の人生の物語に。ジャーナリストで、インテリの中流階級で名門大学卒のマーティンが、労働者階級の退職したアイルランド人看護婦と出会う、この二人の関係はとても面白いと思いましたね。




僕は、マーティンに「映画は本とは少し違う方向性になる」と包み隠さず話しましたが、それでもマーティンはとても協力的で、インタビューにも応じてくれました。政府に解雇され、苦しい立場に追いやられたことについてどう感じていたかとかね。また、撮影していくにつれて、ドラマチックにするために脚色されていくということについてもマーティンは理解してくれました。彼自身もクリエイティブな世界に生きていますから。本当に彼は協力的で、彼の話は大いに役に立ちました。





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映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED




──10代で未婚のまま妊娠したフィロミナが家を追い出され、修道院に入れられるところから彼女の物語ははじまります。彼女の人生のどんなところに惹かれたのでしょうか?



僕はいつもはコメディ作品が多いですが、その狭間でできるようなことを探していたんです。この物語に心打たれたのは、僕自身がカトリック教徒として育ったからというのが大きいとは思いますが、同時に普遍的な物語でもあると思いました。母親、赤ん坊、子供たちといった、誰もが自分と結びつけることができる物語ではないでしょうか。



──マーティンに加え、フィロミナにも実際に会ったそうですね、どんな印象でしたか?



少し大げさな言い方になりますが、この作品のテーマは「忍耐と協調」だと思っています。それと同時に「直観 vs 知性」の物語にもしたかったんです。僕とジェフ・ポープ(共同脚本)は、脚本を執筆するのにあたり、実際のフィロミナとマーティンに何度か会いました。劇中のやり取りの多くは、この時の二人の会話の会話が基になっているんです。



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映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED




──製作と共同脚本のみならず、出演に至った経緯を教えてください。



当時、正直なところ僕は行き詰まっていたんです。コメディをやるのは好きですが、もうやり尽くしたようにも感じていて、クリエイティブで挑戦的なことがしたかったんです。どうしたらシリアスなテーマの物語を、楽しく、勇気を与えるものにできるだろう?というところから、僕の持っているコメディ要素をこの作品で活かしたいと思いました。ちなみに現場にはよくマーティン本人が来てくれていたので、彼に演技のチェックを頼んだりしていて、それを僕らは“本人チェック”と呼んでいましたね(笑)。




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映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED




悲しいお話だからこそ、コメディにする必要があった




──フェロミナ役にジュディ・デンチを起用した理由は?



脚本を書いていた時、ジェフに「ジュディ・デンチが演じてくれたら最高だな。望みは高く持とう」と言っていたんです。実際に彼女が主演を承諾してくれたときは夢が叶った感じでしたね。なんといっても、世界で活躍し多くの人が尊敬の念を抱く、アイコン的存在のデイム(ナイトの称号を授与された女性に用いるサーに相当する表現)・ジュディ・デンチと共演できたんですから。だけど同時に少し怖くもありました。自分とは全く正反対のところにいる人だったから。それでも、背伸びをしてよかったと思っています。それはもう最高でした。未だに、嘘じゃなかったよなって体をつねらずにはいられないくらい。尊敬している人と一緒に映画を作り上げられたこと、そして彼女と親しくなれたことは、本当にスリリングでした。彼女ほどアイコニックな人と共演することに対して、怖いと思う気持ちもあったけど、ジュディは僕にリラックスできるような環境を作ってくれました。それは本当に居心地よくて、光栄なことでした。



──撮影気現場では、彼女とは会話を多く交わしたのでしょうか?



僕が彼女に対して指示できることなんて全然ありませんでした。1回か2回、いや、数回かな、今のどうだった?と聞かれたことはありましたが……。テイクの間は、笑わせてばかりいました。キャラクターについて深く話し合うことはあまりしませんでした。彼女には彼女のやり方がありますから。でも彼女から学ばなければいけないことはたくさんありました。いわばテニスの試合のようなものです。彼女はすごくいい選手だからこそ、僕は試合を盛り上げなくちゃいけない。僕はできる限りの最高の演技をして、彼女のレベルに届く、いや近づけるように心がけました。



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映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED




──コメディアンとしても活躍されていますが、映画の中で実在する人物を演じることについてはいかがでしたか?



確かに僕が普段やっているのはコメディですから、今回はいつもとは少し違うと感じていました。マイケル・ウィンターボトム監督と『スティーヴとロブのグルメトリップ』(2010年)で仕事をしたとき、彼の作品はコメディでありつつもドラマ的な要素もあるので、本作で演じるにあたってとても勉強になりました。でも一口に言っても、今回はちょっとテイストが違います。作品が持つシリアスな部分を和らげるためのコメディ要素であって、僕はそれが本作の良さだと思っています。コメディを取り入れたことで観客は見やすくなる。ですから、いわゆるコメディとはちょっと違います。この役に挑戦できたことはとてもエキサイティングでした。



──スティーヴン・フリアーズは素晴らしい監督ですよね。どういった部分で、彼は特別だと感じていますか?



『クィーン』など多くの名作を手掛けてきた監督ですから、最初は少し戸惑いましたが、この物語は悲劇であると同時にコミカルでもあるということを何度も話し理解してもらいました。脚本についても活発な議論をすることができましたね。彼はとても協力的でした。現場では割と淡々としていますが、間違いなく直観的な才能がある。どうするべきなのか、肌で感じているんです。別に壮大なプランだとか大きなヴィジョンがあるわけではなくて、明らかに直観なんです。彼が下す判断は、いつだって間違っていないし、絶妙なんです。技術とか形式にとらわれていなくて、全てが自然でした。



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映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED



──この作品はコメディ要素が強いように思いますが、物語にあるシリアスなテーマをどのようにお考えだったのでしょうか?



物語自体がとても悲しいお話だからこそ、コメディにする必要があったんです。何か慰めになるものが必要でした。そうでなければ、ただの気が滅入る悲劇的な話で終わってしまいますから。一方で、やりすぎてもいけないと思っていました。自分のコメディアンとしてのバックグラウンドが個人的に心配だったんです。だから、スティーヴンに、僕がやりすぎていないかどうか見張っていてくれと頼みました。「もし僕が大げさな表情をしていたり、アニメっぽい顔つきをしていたら撮り直しをさせてくれ」ってね。スティーヴンが僕に指示する時は決まって、部屋の端から「スティーヴ!」って僕を呼ぶんです。で、僕が反応すると、(ちょっと抑えろ、というジェスチャーをしながら)手でこんな風にする。まぁ、とにかくバランスを取ることが大切で、コメディタッチにしたことで不謹慎になることだけは避けなければいけませんでした。





──ひねりの効いたセリフが多く登場することがとても印象的でした。この作品にはカトリック主義への批判といった側面はどれくらい盛り込まれているのでしょうか?



これはとても重要なことですが、カトリックを攻撃する作品にしようとは全く思っていないんです。修道院が過去に行った行為については批判的に描いているけれど、それは作品のテーマではありません。この映画で描いているのは、人間性であって、どういう風にお互いを知っていくかという部分なんです。確かに、カトリック教会の修道院を批判はしているけれど、同時に純粋に信仰を持っている人々や、信念を行動に移している素晴らしい人々の尊厳も描いている。この作品ではそういった人々に敬意を示したかった。物語には白と黒の面があるということを示すために、態度の悪い修道女と優しい修道女を両方登場させ、どちらも描くことが重要だったんです。




批判することは昨今ではいとも簡単なことだけれど、僕たちがしたかったことはそういうことではないし、そうしなかったことがとても大切だと思っています。一連の出来事を見ていると、修道院にいる人が信仰を失ってしまったと勘違いしてしまう人もいるかもしれないから、フィロミナを通じて信仰を持つ人々の威厳を表したかったんです。



フェロミーナに実際に会ったときに、修道女たちを赦すと聞いたとき、娘のジェーンが言った一言が「私は赦せない」でした。僕は、その意見を反映させることは大切だと思ったんです。劇中ではマーティンが、つまり僕が「赦せない」って言うのですが、そのあとに怒りの感情だったと気づく。でもどちらのリアクションも大切でした。人間らしいリアクションですし、だからこそそこに尊厳を持たせたかったんです。



(オフィシャル・インタビューより)










スティーヴ・クーガン プロフィール



1965年10月14日、イギリス・グレーター・マンチェスター生まれ。コメディアン、そしてコメディ作家として知られ、映画俳優としてのキャリアはおよそ20年近くある。映画デビュー作は1995年の『リトル・ヒーロー』〈未〉(95)であり、続いて『たのしい川べ』〈未〉(96)ではモグラ役に扮した。マイケル・ウィンターボトム監督とコンビを組むことが多く、『24アワー・パーティ・ピープル』(02)、『トリストラム・シャンディの生涯と意見』〈未〉(05)、『The Look of Love』〈未〉(13)などで主演を演じている。『ナイト・ミュージアムシリーズ(06・09)、『ルビー・スパークス』(12)、『メイジーの瞳』(12)などにも出演。










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映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED

映画『あなたを抱きしめる日まで』

2014年3月15日(土)より全国公開



その日、フィロミナは、50年間かくし続けてきた秘密を娘のジェーンに打ち明けた。1952年、アイルランド。10代で未婚のまま妊娠したフィロミナは家を追い出され、修道院に入れられる。そこでは同じ境遇の少女たちが、保護と引き換えにタダ働きさせられていた。フィロミナは男の子を出産、アンソニーと名付けるが、面会は1日1時間しか許されない。そして修道院は、3歳になったアンソニーを金銭と引き換えにアメリカへ養子に出してしまう。以来わが子のことを一瞬たりとも忘れたことのない母のために、ジェーンはBBCの政府の広報担当をクビになった元ジャーナリストのマーティンに話を持ちかける。愛する息子にひと目会いたいフィロミナと、その記事に再起をかけたマーティン、全く別の世界に住む二人の旅が始まる──。



監督:スティーヴン・フリアーズ

出演:ジュディ・デンチ、スティーヴ・クーガン、ソフィ・ケネディ・クラーク、アンナ・マックスウェル・マーティン、ミシェル・フェアリー、バーバラ・ジェフォード、ルース・マッケイブ

製作:ガブリエル・ターナ、スティーヴ・クーガン、トレイシー・シーウォード

製作総指揮:ヘンリー・ノーマル、クリスティーン・ランガン、フランソワ・イベルネル、キャメロン・マクラッケン、キャロリン・マークス・ブラックウッド

脚本:スティーヴ・クーガン、ジェフ・ポープ

撮影:ロビー・ライアン

編集:バレリオ・ボネッリ

音楽:アレクサンドル・デプラ

原題:Philomena

配給:ファントム・フィルム

2013年/イギリス・アメリカ・フランス/98分

© 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED



公式サイト:http://www.mother-son.jp/

公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/あなたを抱きしめる日まで/530650340356121

公式Twitter:https://twitter.com/philomena_movie





▼映画『あなたを抱きしめる日まで』予告編


[youtube:Gh4HXGq5gd8]

僅か3年の活動期間、“早すぎた”パンクバンドTEENGENERATEを捉えたドキュメンタリー

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映画『GET ACTION!!』より Photo by Masao Nakagami(TARGET EARTH)


90年代前半、3年に満たない活動期間だったものの、ソリッドなパンクサウンドを武器に、単身海外に乗り込んでの欧米ツアーや、海外のレコードレーベルからのリリースなど、現在では当たり前となったインディペンデントなバンドのあり方を体現したバンド、TEENGENERATE。彼らの2013年8月に行った活動20周年を記念する再結成ライヴまでの軌跡を追ったドキュメンタリー『GET ACTION!!』が3月15日(土)より公開される。当時からTEENGENERATEの熱狂的なファンであったことが高じて監督を務めることになった元シアターN渋谷の支配人・近藤順也さんに話を聞いた。



彼らが海外だけで認知度が高いということに納得いかなかった



「あるバンドを聴いて、自分の人生は変わった。あるバンドの影響で、今はこの舞台で、日本語で、話してる。人生はまだ変わる。それが、THIS IS FUCKIN' TEENGENERATE」



映画のオープニング・シーン、TEENGENERATE再結成ライブ。前説として登場したロックバンドCOZYのヴォーカル、スティーブ(中学生の時にTEENGENERATEに衝撃を受けて、日本語を学ぶために日本へ留学している!)は、静かにしかし熱く興奮し、つたない日本語ではあるが、逆にそれがエモーショナルな響きとなり、会場全体を異様な熱気に高めていった。



1993年。パンクシーンに現れたTEENGENERATE。活動期間はわずか3年。そのあまりにも短い活動期間にも関わらず、彼らは世界10カ国からレコードをリリースするなど、様々な場所や人たちに爪痕や遺伝子を残した。かつてホラー、パンク映画の聖地としてカルト的人気を確立し、惜しまれつつも2012年に閉館した映画館シアターN渋谷。その支配人だった近藤順也さんもまたTEENGENERATEに大きく心を奪われてしまったひとりだ。その愛情が実を結び彼らのドキュメンタリー映画を監督、完成させた。



「みなさんそうだと思うのですが、音楽や映画で自分の人生を変える作品やアーティストがいて、自分にとってはTEENGENERATEがそのなかのひとつのバンドだったんです。ずっと好きなバンドでした。先駆者的で、今でこそメジャーレーベルが売り出し方として海外ツアーやらせたりすることはいっぱいあるけれど、彼らは自分たちで全部道を切り拓いていった。だけど自分がすごく影響を受けたバンドなのに、日本の人はほとんど知らない。要はそこですよ。海外で認知度が高い、ということが納得いってない部分があったんです」



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映画『GET ACTION!!』の近藤順也監督



そう言って制作の過程を語り始めた近藤さんは以前にもいくつか音楽ドキュメンタリーを制作している。



「シアターN渋谷でもたくさん音楽ドキュメンタリー映画を上映してきましたが、日本のアーティストの劇場公開されるドキュメンタリーは圧倒的に少なかったんです。ないなら作ろうと。それで、最初に手がけたのが日本のパンクバンド「アナーキー」のドキュメンタリー『アナーキー』なんです。プロデュースしてキングレコードでDVDを出してもらって。某大物監督にやってもらおうと思っていたんですが、そこが断られてしまって、それでどうしようかというときに、川口潤の『77 BOADRUM』が素晴らしかったので、彼に頼んだらどうだろう、というので川口にやってもらうことになった。それが僕と川口潤とキングレコードの長谷川英行さん3人の最初の共同作業でした。その後、bloodthirsty butchersのドキュメンタリー『kocorono』も長谷川さんと僕がプロデューサーで川口が監督、というかたちでやりました」



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映画『GET ACTION!!』より © 2014 NIPPAN, KING RECORDS All Rights Reserved.



なぜTEENGENERATEだったのか。答えはシンプルにTEENGENERATE愛と呼んでいいだろう。さらに出演交渉も愛ゆえのストロングスタイルで驚くべき提案をする。



「次になに撮ろうというときに、自分が好きなTEENGENERATEを記録したいと。ただシアターN渋谷をやっている間もTEENGENERATEのドキュメンタリーを作れないかなと思っていたんですけれど、杉山兄弟(FifiとFink)が現役でバンドをやっているので、なかなか物語を頭の中で想像しても締まらないんです。そうこうしているうちにシアターN渋谷が閉館になった。本腰を入れてやらねばと思っていたところにちょうど結成から20周年で、メンバーと面識があったので「映画を作りたい、ついては再結成ライヴをやってくれないか」と頼んだんです。再結成ライヴがあれば、ひとつ核ができるから締まるんじゃないかと。それをOKしてくれたので、動き出したんです」



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映画『GET ACTION!!』より © 2014 NIPPAN, KING RECORDS All Rights Reserved.



きったない音だけど、すごいエネルギーがあった



そこまで彼を突き動かしたTEENGENERATEの魅力はいったいどこにあるのだろうか。



「あの頃、日本のパンクの専門誌はDOLLしかなかった。携帯もないし、当然インターネットもないし、フライヤーかレコ屋じゃないと情報が手に入らない。だから当時はDOLLの隅から隅まで、それこそメンボ(メンバー募集)のところまで穴があくまで読んでましたよ。そんなとき、93年にSUPERSNAZZがSUB POPと契約したというニュースがカラーで紹介されたんです。それまで少年ナイフぐらいしか知らなかったので、日本でもこんなに海外でやってるバンドいるんだと、聴いてみたらめちゃカッコ良かったんですよ。こういうバンド男でやってるのいないの?ということで、調べたらTEENGENERATEに出会ったんですよ。今まで聴いたことのない音色で、きったない音だけど、すごいエネルギーがあった」



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映画『GET ACTION!!』より © 2014 NIPPAN, KING RECORDS All Rights Reserved.



近藤さんにとってTEENGENERATEの存在は当時全盛を極めたグランジに対するアンチテーゼとして、痛快かつ爆音で頭の中で鳴り響いた。



「マッドハニーとかパール・ジャムとかニルヴァーナとかぜんぶ買って聴いてみたものの、どれもこれもいやでした。とにかくすぐに歌い出さない。それがいやで、曲の長さが4分とか間奏がやたら長いとか。その当時、パンクをやり続けてくれたのってラモーンズしかいなかった。ハードコアもかたちを変えて音がどんどん変化している時代でクロスオーバーとかミクスチャーも出てきて、レッチリが出てきてマッチョな要素が出てきたりしたときに、シンプルなロックンロールをやって、早いロックンロールがパンクなんだ、ということをTEENGENERATEが再認識させてくれたんだと思うんです」




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映画『GET ACTION!!』より © 2014 NIPPAN, KING RECORDS All Rights Reserved.




「結局シアターN渋谷もデジタル化の波に乗れないというところで閉館したんですけれど、確かにシネコンのほうがいいし、安いし、という部分があると思うんですけれど、シアターN渋谷のことを支えてくれたファンの方々がいて、2012年に閉館したのに、いまだに好きだったんです、と言ってくれる人がいるんです。TEENGENERATEも同じで、何も記録しなかったら、古いロックバンドがいました、というだけで忘れ去られてしまいます。それはいやだな」



綺麗で洗練されているものがいいとされる価値観がある。でも汚くて妖しいものに惹かれてしまう価値観があったっていいじゃないか。表舞台にはたつことはなくても、ひっそりアンダーグラウンドで妖しい光を放つものに。好きだから、つくる。このシンプルでピュアな気持ちこそが世の中であらゆるものを動かす最も強い原動力なのだとしたら、この作品にはそれがギュウギュウに詰まっている。





(インタビュー:石井雅之 構成:駒井憲嗣)









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映画『GET ACTION!!』より Photo by Masao Nakagami(TARGET EARTH)

映画『GET ACTION!!』

2014年3月15日(土)より、新宿シネマカリテにて限定レイトショー!!



監督:近藤順也

撮影・編集:川口潤

出演:TEENGENERATE(Fink、Fifi、Sammy、Suck、Shoe、Greg)、蕨祥裕、関口弘、Daddy-O-Nov、那須太一、セイジ(GUITAR WOLF)、TOMOKO(SUPERSNAZZ)、Ronnie Yoshiko Fujiyama(the 5.6.7.8's)、平野実生、Rockin'Jelly Bean(Jackie & The Cedrics)、Enocky(Jackie & The Cedrics)、四宮桂、オノチン(JET BOYS)、大槻洋(smallspeaker/ex.REGISTRATORS)、IWATA(The STRUMMERS)、TAYLOW(the原爆オナニーズ)、中上マサオ、飯嶋俊男、水沢そら(The Gimmies)、HIROYASU(P.C.2 aka PAYCHANNNEL)、笠井裕文(Bossmen)、Ken Stringfellow(The Posies)、Norman Blake(Teenage Fanclub)、Jack Tieleman、Bruce Milne、Andy Gortler(DEVIL DOGS)、Eric Davidson(NEW BOMB TURKS)、Tim Warren、Deniz Tek(RADIO BIRDMAN)、Mike Lucas(THE PHANTOM SURFERS)、Greg Lowery(THE RIP OFFS)、Steve Borchardt(COZY) 他

製作:日本出版販売+キングレコード

制作:アイランドフィルムズ

制作協力:TARGET EARTH、MANGROVE LABEL

2014年/カラー/ビスタ/99分

© 2014 NIPPAN、KING RECORDS. All Rights Reserved.




公式サイト:http://www.get-action.net

公式Facebook:https://www.facebook.com/Teengenerate20th




▼映画『GET ACTION!!』予告編


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