映画『ビフォア・ミッドナイト』より c2013 Talagane LLC. All rights reserved.
リチャード・リンクレイター監督が『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(1995年)、『ビフォア・サンセット』(2004年)に続きイーサン・ホークとジュリー・デルピーを三たび起用した『ビフォア・ミッドナイト』が1月18日(土)より公開となる。主人公ジェシーとセリーヌのロマンティックな出会いのエピソード『ビフォア・サンライズ』、そこから9年後に再会を果たしお互いの複雑な気持ちを確認し合う『ビフォア・サンセット』を経て、この『ビフォア・ミッドナイト』は出会いから18年後、40代になったふたりの生き方を、シリーズに共通するふたりのリアルな会話劇により描いている。リチャード・リンクレイター監督に、「友人同士であり、コラボレーター」であるというふたりとの制作プロセスについて聞いた。なお今作は、第86回アカデミー賞脚色賞にリチャード・リンクレイター、イーサン・ホーク、ジュリー・デルピーの連名でノミネートされている。
イーサンとジュリーと僕はまるで家族のような間柄だった
── 本作はシリーズ3作目になりますが、当初から3部作の予定だったのですか?
いや、違うよ。18年前は僕もイーサンもジュリーも、自分たちが今頃、3作目を引っ提げてこの場にいるなんてことは考えてもみなかった。そんな話は、まったくなかったね。実のところ、1作目『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』を終えた時でさえ、続編を作りたいと思っていたのは僕たち3人だけだったんだから。その他には誰もいなかった。だけど考えてみると、2作目『ビフォア・サンセット』の終わり方は、3作目があるかどうかはぐらかした形になっている。そういうことで今回は、前よりもプレッシャーを感じたね。なぜなら前の2作を観てくれたファンの人たちは、たとえば「次はイーサンはどんなことをしてくれるのだろう」とかって何かしらの期待を膨らませていたから。続編を期待する声はあったけど、そういうことは考えないように努めたよ。
映画『ビフォア・ミッドナイト』のリチャード・リンクレイター監督 cKaori Suzuki
──2作目を撮り終えたあと、ふたりと連絡を取り合って、続編について話し合うことはありましたか?
まあ、そうだね。だけどすでにその頃、イーサンとジュリーと僕はまるで家族のような間柄だった。僕たちは親しい友人同士であり、コラボレーターでもある。続編を作るに至った経緯は、前の2作の時とほとんど同じだったと思うよ。どういう感じかというと、5~6年の間は何も考えもしないか、たとえ冗談で話題にしたとしても、具体的なアイデアは持ち合わせていなかった。だけどいつからか、ちょうど6年目くらいの頃になって、3人のうちの誰かが「ねえ、もしかしたら……」なんて言い出すんだ。つまり何が起きているかというと、前作で登場人物たちを取り巻いていた環境がまったく別の新しいものになっているということに、僕たちが気づいてくると続編の話が出る。僕たち自身も、人生において新たな局面を迎えていることに気づき、そういったところに何を表現できるのかを見出す過程が必要なんだよ。
そういうわけで、今は続編があるかどうかは分からないけど、今から5~6年後に「ねえ、あのさ……」と誰かが口を開いても不思議ではないよ。その頃には、僕たちは50代の彼らを撮ることになるね。僕らの身に何かが起きているかもしれないけど、先のことなんて誰にも分からない。そうだろう?
映画『ビフォア・ミッドナイト』より c2013 Talagane LLC. All rights reserved.
──会話の多くは即興でしたか?
いいや、本作ではまったくなかった。即興の会話はひとつもね。前の2作を含めて3作ともすべてだよ。セリフはすべて台本に書き起こし、構成を練り、それを基にリハーサルを重ねたんだ。3人で一緒に執筆していると、ある特別な瞬間を度々迎えることになる。どういうことかというと、3人の脚本家という立場から、2人の俳優と、作品を撮らねばならない1人の監督という立場に分かれるんだ。そのたびにイーサンとジュリーは思い知ることになる。「なんてことだ、会話の量が膨大すぎて、演じるのが大変だぞ」なんて具合に、毎回気づかされるのさ。2人がその努力に見合うほど十分に評価されることはないと思う。なぜなら、彼らの演技は自然体に見えるからだ。それがこの作品の目指したところではあるんだけど、2人の見えない努力に気が付く人はいないだろうね。
──これまでの2作と同様に、歩きながら話し続けるふたりを捉えた長回しのテイクが多くありましたが、常に動いている人物を撮り続けるというのは難しくはありませんか?
たやすくはなかったよ。だけど、どんな映画にも、その作品なりの苦労がある。ある種の課題みたいなものだね。だけど、そういった課題は、僕たちが自分自身の前に設定するものだ。ただ、それが観客を作品の世界に引き込むのに間違ったものであればやらないよ。
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僕たちは人として変わらないのか、それは永遠の問い
──ワンシーンで、最高、何テイク撮りましたか?
そんなに多くはなかったよ。どのシーンでも、10テイクを超えたことはないんじゃないかな。
──ということは、みなさんはそれぞれの役割を完ぺきに把握していたと?
そう、リハーサルをしたからね。僕らは一度も……なんというか、この3作の制作期間は合わせても55日ほどだった。というのも、これは規模としてはよくある映画で、スケールの大きい映画とは違ったからだ。そんなわけで、撮影に時間はかけなかった。予算も多くはなかったしね。だからリハーサルがすべてだったというわけさ。
──人は誰でも、時の流れとともに変わっていくものです。本作の登場人物たちに見られる変化は、みなさん自身の実生活での変化に伴ったものなのでしょうか?
そうだね。僕が思うに、それは永遠の問いなんじゃないかな。彼らは変わったのか、僕たちは人として変わらないのか、というのは。考えてごらん。自分のことをよく知らない人は、「ああ、あなたは変わらない」と言ってくるのが常だ。すると自分は「馬鹿にされているのだろうか?」と思うだろう。というのも、心の中では、自分はかなり成長した気になっている。より多くのことを学び、以前よりも面白味が増して、深みのある人間になっているはずだと。けれども、実際はひとつも変わっていないのかもしれない。自分で思い込んでるだけでね。だから、どうだろうな。人は変わるんだろうか。僕が思うに、ジェシーとセリーヌというキャラクターには、一種の不変的な要素がある。2人は昔のままだけれど、その人生は劇的に変化した。彼らを取り巻く環境もだ。そういったことに、人は影響されてゆく。でも、人が変わるのか、誰かがどのくらい変わるかなんてことは、僕には分からないよ。
── 先ほどもお話ありましたが、次に私たちがジェシーとセリーヌに再び会える可能性は、どのくらいあるとお考えですか?
それは誰にも分からないよ。先のことなんて読めないものだろう?僕たち3人の誰かに何かが起きているかもしれないしね。今は3部作だけど、それだって驚きだ。そんなの意図してなかったからね。でも結果的にこういうものが出来上がったことは、すごくうれしいよ。この作品は、ジェシーとセリーヌの人生の移り変わりを描いている。そのままでもクールだけど、その先にはもっと面白い段階が待っているんだ。僕はイーサンとジュリーより年上だから、それが分かる。もう僕は、次の段階に進んでいるわけだね。
(オフィシャル・インタビューより)
リチャード・リンクレイター プロフィール
1960年7月30日、米・テキサス州ヒューストン生まれ。サム・ヒューストン州立大学で文学と演劇を学ぶも中退。1985年にオースティン映画協会を設立。監督デビューは、オースティンの大学街を舞台にしたドキュメンタリータッチの作品『Slacker』(91)。95年には同郷のイーサン・ホークと運命的な出会いを果たし、ジュリー・デルピー共演で監督した『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』がベルリン映画祭銀熊賞(監督賞)に輝いた。その後も『ウェイキング・ライフ』での実験的映像を試みる一方で、『スクール・オブ・ロック』などのエンターテインメント作品も作り上げるなど、多彩な活躍を続けている。また、オースティン映画協会は97年より、テキサスで活動する映画製作者たちに対して120万ドルを援助し続けており、その芸術活動支援の実績が認められ、99年には米国監督組合より表彰されている。現在の活動拠点はハリウッドとテキサス。
映画『ビフォア・ミッドナイト』
1月18日、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9、ほか全国ロードショー!
パリに住む小説家のジェシーと環境運動家のセリーヌは双子の娘たちちとともに友人に招かれ、シカゴでジェシーの元妻と住む息子のハンクも一緒にギリシャの海辺の街でバカンスを過ごしている。ジェシーは、夏休みが終わってひとりシカゴへと帰るハンクを見送るため、空港へとやって来ていた。次は演奏会に行くからというジェシーに対し、「ママはパパを嫌っている」と言うハンク。今までで最高の夏休みだったとハンクは言ってくれたものの、ジェシーは複雑な思いを抱えていた。
監督:リチャード・リンクレイター
出演:イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー、シーマス・デイヴィー=フィッツパトリック、ジェニファー・プライアー、シャーロット・プライアー、ゼニア・カロゲロプーロ、ウォルター・ラサリー、アリアン・ラベド、ヤニス・パパドプーロス、アティーナ・レイチェル・トサンガリ
脚本:リチャード・リンクレイター、イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー
キャラクター原案:リチャード・リンクレイター、キム・クリザン
プロデューサー:リチャード・リンクレイター、クリストス・V・コンスタンタコプーロス、サラ・ウッドハッチ
エグゼクティブ・プロデューサー:ジェイコブ・ペシュニク
撮影:クリストス・ブードリス
編集:サンドラ・エイデアー
作曲:グレアム・レイノルズ
原題:Before Midnight
2013年/アメリカ/英語・仏語/108分/ビスタサイズ/デジタル5.1ch
後援:ギリシャ大使館
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
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公式サイト:http://beforemidnight-jp.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/ビフォアミッドナイト/167918560072207
公式Twitter:https://twitter.com/beforemidnight1
▼映画『ビフォア・ミッドナイト』予告編
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