Quantcast
Channel: webDICE 連載『DICE TALK』
Viewing all articles
Browse latest Browse all 193

「ライヴの歌詞も検閲される」シンガポールのインディーズ・ミュージック事情

$
0
0

2013年12月7日UPLINK FACTORYにて行われた、The Observatoryとサンガツのインプロセッションより


2013年12月、シンガポールのバンド、The Observatoryが渋谷UPLINK FACTORYで行われたイベント「シンガポール、音楽とアートの環境」を皮切りに、全国ツアーを行った。7日のイベントではバンドとオーディエンスとのQ&Aセッション、そして日本のサンガツとのライヴ・インプロヴィゼーションも行われた。今回は、このツアーを企画した、アジアでインディペンデントに活動するアーティストを紹介するサイト・Offshoreの山本佳奈子さんに、各地をまわってみて、日本でアジアのインディペンデントなバンドを招聘しライヴを行うことへの思いを綴ってもらった。











Offshoreとして第二弾となるアジアのバンド来日ツアーが終了。前回のタイDesktop Errorに引き続き、彼らとも親交のあるシンガポールThe Observatoryが日本にやってきてくれた。彼らのツアーを私のプロジェクトOffshoreが担当することになった経緯に関してはこちらを参照していただきたい。

Offshoreとしての仕事は各地公演のブッキング、移動手段と宿泊先の確保。結果、残念ながら全会場満員御礼とはならなかった。しかし、彼らの重く深い音が、それぞれの会場に来ていた各地のオーガナイザーやバンド関係者、特に玄人と呼ぶべき音楽通を唸らせた。





約10日間彼らと共に過ごした。彼らから聞き出したシンガポールの事情や彼らの活動方針、そして彼らの生活、考え、習慣、いろいろなものに驚き、カルチャーショックの連続だった。12月7日にUPLINK FACTORYにて開催した『シンガポール、音楽とアートの環境』Q&Aトーク内容の簡単なレポートも交えつつ紹介したい。日本ではまだまったくの無名ではあるが、東南アジアでは大御所バンドとしてその名を轟かせる彼らの第2回目の来日ツアーがいつか実現できればとも思う。




日本でアートと音楽の境界線上で活動するバンド、サンガツと、シンガポールでアートと音楽を行き来しながら活動するThe Observatoryの即興セッション。インプロヴィゼーションという音楽奏法は、言葉ではなく音を使ったキャッチボールであり会話である。どの人物が何を問いかけるのか、緊迫した空気感で始まりつつ、少しずつ音の会話は盛り上がっていく。総勢9名の音の会話がUPLINK FACTORYに響き渡る。インプロヴィゼーションでの奏法には、違った環境で生まれ育ったそれぞれのキャラクターが明確に映される。できるだけ具体的に主張する、西洋的な国シンガポールのThe Observatoryと、場の空気を読みつつ抽象的な表現から主張をしていく日本のサンガツの、キャラクターの違いのようなものを感じた。




webDICE_02HamamatsuLIVE

浜松拠点アーティストyamanohiroyukiオーガナイズで開催された浜松でのライヴ。



【The Observatoryの音楽と社会の関係性】



シンガポールを拠点とするThe Observatoryは、シンガポールのアーツカウンシルによって運営されるグッドマン・アーツ・センターで自身のスタジオスペースを持っている。また、プロのミュージシャンとして活動資金の一部はアーツカウンシルから助成を受けている。





UPLINK FACTORYで彼らの音楽性について触れたとき、ボーカル・ギターのレスリーとシンセベースのビビアンはは「シンガポールの社会と密接に関係している」旨を答えてくれた。シンガポールでは年々精神病患者が増えていたり、また独裁政権により国民は監視されていると感じることもあるとのこと。ライヴの際には歌詞を提出しないといけないと言う。反政府を歌う歌詞は検閲対象になる。しかし実はハードコアやカウンターカルチャーから生まれた音楽も盛んなシンガポールでは、検閲を受けない為にはアンダーグラウンドで非公式にやるしか方法がないという。





UPLINK FACTORYで歌詞検閲の話に驚いた翌日、浜松でのライヴ終了後の食事会で、その他にもシンガポールのルールや法律を話してくれた。一定量以上の大麻覚醒剤所持で即死刑、警官はいつでも誰にでも職務質問と薬物検査を執行可能。反政府運動は政府の強権により起こり得ないと言う。犯罪率が低く日本と同じく優良国家と見られるシンガポールだが、海外に対するプロモーションには敏感なので、「発表されずに隠蔽された犯罪ケースはあるかもしれない」とのこと。




webDICE_04NagoyaLIVE

名古屋DAYTRIPでのライヴ。


ドラムのハイカルはムスリムでインド系マレー人。彼は普段シンガポールで頻繁に職務質問されるとのこと。理由を聞くとハイカルは「たぶん僕の髭がテロリストっぽく見えるんじゃない?」と笑う。

また、カジノに入り浸るシンガポール人が増えていることも社会問題になっていると言い、(外国人は無料で入場できるがシンガポール国民は約10,000円の入場料が必要な為、一度入場したら週末の数日間をカジノの中で過ごす人が多いそうだ。)その反面、外国企業のシンガポール進出に対しては、最初の5年間は無税と優遇される。そして先日44年振りに起こったシンガポールのインド人街での移民労働者による暴動。

The Observatoryはそんな暗雲立ちこめるシンガポールをまさにObserve=観察して音楽を作る。「しかしそれは、ただ傍観しているのではなくて、そこから何か問題や解決策を見出そうとしているんだ」と、レスリーはバンド名の由来について語ってくれた。




webDICE_05Kyoto_off

京都でのオフ日に訪れた、日本屈指の前衛音楽ショップ、パララックスレコーズにて。


【海外アーティストの来日ツアーTips】



東京UPLINK FACTORYを皮切りに、浜松、名古屋、京都、大阪と駆け回った。ツアーとなれば生活も共にすること。海外アーティストやミュージシャンとのツアーを今後行なうかもしれない方の為に、今回私が学んだTipsを紹介したい。



・宿泊地やライヴ会場近くのベジタリアンレストランを調べておく。

先述の通りThe Observatoryの場合はハイカルがムスリムのため豚がNG、彼の場合は豚以外の肉類も一切食べないとのこと。ベジタリアンが外食しづらい日本。海外では菜食主義は決して珍しいことではない。前もって各地の菜食レストランを調べておくとかなり安心。



・対バン形式や常設アンプ機種は、あくまでも日本のスタンダード。

日本のライヴハウスで圧倒的に多いギターアンプはマーシャル、ローランドJC-120。しかしこれは日本のスタンダードであって、シンガポールや東南アジアではマイナーな機材らしい。以前UPLINK ROOMで開催した「香港でライヴハウスを運営するということ」でも少し触れたが、そもそも日本以外のアジアには防音設備と機材が常備された大音量ライヴ専用のライヴハウスが少ない。それから、対バン形式によって毎日ライヴハウスでライヴが繰り広げられているのも日本でのスタンダードであって、シンガポールで3バンドも4バンドも集まって短いセッティング時間と短い演奏時間で演奏することは少ないとのこと。日本の対バン形式の概要も知らせておくとメンバー達も安心だろう。また、これは私のアイディアだが、バンドには来日直前に普段使っているリハーサルスタジオ以外で数回リハーサルしてもらってから来てもらうと良い。対バン形式の場合はリハーサルでも本番でも素早いセッティングが求められるし、また、会場によってアンプ機種や音の鳴りが違うのはもちろんのこと。日本の環境に対応する為の練習として、まずは自国内で異なった環境でリハーサルをしておいてもらうと日本に到着してからも安心だ。



・他のバンドとの交流を打ち上げに頼らない。

日本のインディーライヴでは、出演者同士の交流は打ち上げにかかっているようなところがある。が、シンガポールは日本ほどアルコールが重要視されない。むしろ、The Observatoryのメンバーは日本のアルコールへの異常な寛容さに驚いていた。アジアに限らず、宗教的理由や独自の思想でアルコールを摂らない人は世界にたくさんいる。ライヴ=打ち上げ=飲み、と常に結びつけるのは、海外からのゲストにとって酷な時もある。





webDICE_06Kyoto_reharsal

京都メトロにて毎月開催される名物イベント、全アクトフロアライヴの『感染ライヴ』にて。サウンドチェック風景。



【彼らが知った日本~アジアに注目する人の少なさ・集客の難しさ・売上分配のシステム~】



The Observatoryが日本で過ごした約10日間に、私は日本のいろいろなことを話した。彼らもたくさんカルチャーショックを受けていたと思う。例えば、こんなにも彼らの存在や日本以外のアジアのインディー音楽が日本人に知られていなかったこと。そして、日本にはおびただしい数のライヴハウスや会場が点在していて、集客することが難しくなっていること。また、彼らにとっては日本の固定ハコ代、固定ギャランティのシステムがあるということも不思議だったようだ。シンガポールで彼らがオーガナイズする時は、関係者全員で宣伝に力を注ぐために、イベント時の収入はパーセンテージで会場とアーティスト達と分けるとのこと。「固定金額の支払いは理不尽で、それでは全員がイベントのプロモーションに参加しなくなり、一部だけに負担がかかる」と。それも確かにそうだ。




webDIDCE_07Osaka_dinner

大阪での最後の夜、アメリカ村『味穂』にて。昔アメリカ村に訪れたことのある彼らは数年で街が大きく変化したことに驚いていた。



【エクストリームな音楽を演奏するThe Observatoryを日本で売ること】



ツアー行程がすべて終了し、経済面のミーティングも終え、最後の食事で私と彼らは音楽の未来についていろいろ話した。今回のツアーでは集客、物販売り上げなどなかなか思うように行かなかった面が多いが、私も彼らも非常に前向きだ。次はこうすればいいんじゃないか、という風にアイディアもたくさん出た。今全世界で音楽ビジネスは低迷していると言われているが、The Observatoryのビビアンは「今はみんなが新しいモデルを模索している時代」と言った。私もそう思っているとともに、一度古い音楽ビジネスのシステムが崩壊したため、何もかもやりやすくなっていると感じることもある。だからこそ、日本人が聴いたことのない音楽を日本に届けるということに、個人で挑戦する意義もある。エクストリームな音楽も飽和しきってしまった状態の日本であるが、まだまだこの日本には新しい音楽を探しているエクストリームなリスナーはいるし、この極東の島国には外部から受ける刺激でさらに変質した面白い創作を生む可能性が充分に残っていると思う。

私たちは、The Observatoryの音楽が非常に狭いターゲットを狙っていることから、逆に間口を広げる為に日本国内での音源流通を次の目標にした。難解な音楽こそ、簡単な手段で入手できるように、という戦略だ。2014年5月頃には新作のリリースを予定しているというシンガポールのThe Observatory。私は彼らのクリエイティビティや日本では類を見ない活動方針に期待と信頼を抱いている。今後も長い付き合いになっていきそうだ。




【The Observatory今後のライヴ情報】



最後に、彼らの間近に迫ったライヴ情報を紹介。シンガポールに行く予定のある方はぜひ遊びに行ってみてほしい。




・Laneway Festival Singaporeに出演

2014年1月25日 会場:THE MEADOW, GARDENS BY THE BAY

http://singapore.lanewayfestival.com

オーストラリアのプロモーターによって世界各地で開催されるこのフェスティバル、シンガポールでのLanewayでは初のシンガポール地元勢が出演することが決定。The Observatoryも、CHVRCHES、MOUNT KINBIE、James Blakeなど蒼々たる面々とともに出演決定。



(文:山本佳奈子)




webDICE_03Hamamatsu_dinner

浜松、共演のオシロスコッティ、共演兼オーガナイズのyamanohiroyuki、ZOOT HORN ROLLOスタッフの皆さん、浜松にてシェアハウス「ゲンモク」を宿泊場所として提供してくれたジミーと。










▼UPLINK FACTORYにて行われたサンガツとのインプロセッションの模様

[youtube:gHzRwRYxsIw]





▼名古屋DAYTRIPでのライヴ映像

[youtube:FWqrNNsScQA]








【関連記事】

「商業音楽の方法論を破壊する」シンガポールのバンドThe Observatory、サンガツと共演
12/7渋谷アップリンクにてQ&A+ライヴ開催、アジアのバンドが活動を続けていくのに必要な環境とは?(2013-12-04)

http://www.webdice.jp/dice/detail/4049/


Viewing all articles
Browse latest Browse all 193

Trending Articles