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Channel: webDICE 連載『DICE TALK』
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歴史をふまえてアイデンティティと向き合っていくこと ひらのりょうが新作『パラダイス』で見つめる景色

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『パラダイス』より



アニメーション作家、ひらのりょうが新作『パラダイス』を発表。それを記念して、2014年1月12日(日)渋谷アップリンク・ファクトリーにて、七尾旅人や伊藤ガビンらを迎えての公開記念イベントが行われる。開催にあたり、ポップかつトリップ感を持つ彼の作品とそのバックグラウンドについて聞いた。










日本ってどういう国なのか、ちゃんと勉強しなきゃいけないなと思った




ひらのりょうは1988年、埼玉県春日部市で生まれた。現在25歳。都心から電車で1時間足らずの典型的なベッドタウンには今なお彼の制作の拠点となっている実家がある。



「僕の住んでいる街にはなんにもないんです。山もなければきれいな川もなく、関東平野のど真ん中の平たい場所で。国道が走ってて、『紳士服の青山』があって、平均的な郊外で、特殊な部分がない。あまりアイデンティティや郷土愛的なものを持っている人がいないベッドタウンで、普通の街なんじゃないでしょうか」



美術教師である父のもと、ひらのは幼少の頃から自然と美術に触れていく。しかし熱中するほどではなかった。ひらの自身がどこでもいる平均的な子どもだったと振り返る少年時代、学校で興味を持てるものはなにもなく、フラストレーションを抱えていた。だが高校時代に「新しい環境に身を置かせてもらえるなら」と軽い気持ちでニュージーランドに留学。結果それはひらのにとってあたらしい「自分」というものに目覚めるきっかけとなった。現地で「英語をしゃべらなくて済む授業」として選択した美術で他者とコミュニケートする体験を肌で感じたひらのは、自らをそして「日本」を見つめ直した。



「ニュージーランドは移民が多く、どこかでアイデンティティを保っていないとカルチャーが消えてしまうので、そういった教育はしっかりしてるんです。自分たちがどこのトライブの人間かというのを、若い人たちでも言えるのは衝撃でした。いろんな国の人たちのなかにいると、どうしても自分のことを、ただの人間として紹介するのは難しい。日本にいても出身地のことを説明することがありますが、それとそんなに変わらないかもしれません。ただ、自分はあまりにも説明できなかった。だから日本ってどういう国なのか、ちゃんと勉強しなきゃいけないなと思ったんです」



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新作『パラダイス』を発表したひらのりょう


美術表現という新たな人生の選択肢を手に入れたひらのは帰国後、美術大学へと進路をとり、アニメーション作家の道を歩み始める。初期の作品について彼は次のように語る。



「はじめて作品を作るようになった段階では、すごくパーソナルな状態のものしかなかった。でも、どこかのタイミングで、自分をもう少し平均的に見始める時期があって。ものを作るときって、どこか自分が特別な才能を持っていて、自分にしか出せないものがあるんじゃないかと思って作り始めると思うんですけれど、ぜんぜんそんなことないなって」



「自分の作品と向き合っていくと、オリジナリティが消え去っていく、壊れはじめる瞬間があるんです。それを反転させて、自分を含めた遠い目線で見始めるというか。自分は平均的な人間だし、みんな一緒なんじゃないかっていう状態を起点にして、自分のアイデンティティを、生まれた国の歴史をふまえられるくらいに思考を広げて作るようになったと思います」



自分自身に対峙しつづけた結果、ひらのは自分からすこしだけ離れた、俯瞰的な視点で自分を見はじめるようになる。そこから、彼の作風は徐々に変貌していく。



「作ることは辛いですね。のめり込むと、長距離走のように走れば走るほど、これが正しいのか分からなくなってくる。頭のなかで、完成したものを作る前に何回か上映会を開いている感じはあるんです。頭のなかで上映したものと実際に作っているもののギャップには毎回打ちひしがれますが、やり続けるしかない」







生活と離れていない視点から作りたかった




ひらのは、大学卒業制作での『ホリデイ』以来となる完全オリジナルのアニメーション『パラダイス』を完成させた。持ち前の素朴なタッチと可愛いけれどちょっとグロテスクなキャラクターたちが、〈歯〉〈陰毛〉〈電波〉といった印象的なモチーフとともに、時間と場所を20分にわたり縦横無尽に駆け巡る。



「パラダイスってけっこう漠然としていて、どこ、と特定しない言葉だったのがタイトルにした理由です。パラダイスを作り上げる、そこを目指して生きる、全ての生命体はそう動くんだと思います。わざわざ辛いところに行こうとする人なんていないし。それでも、そういう風に生きているなかで、辛いことはどうしてもある。それを含めて『パラダイス』なのかなと思います」



レイヤーを幾層にも重ねた構成はサイケデリックなのにポップさもあわせもつ、観ていて非常に不思議なトリップ感を得るのだが、実は日本の歴史観についても丁寧に踏まえたうえで描かれている。沖縄戦をはじめとした戦争史、伝統文化、80年代~10年代カルチャー、そして311といったモチーフが、彼が敬愛する大林宣彦監督の『この空の花 ―長岡花火物語』のように重層的に現れる。



「生活と離れていない視点から作りたかった。それって特別なことではないから、他の作品との共通点や発見は多くなるのかもしれないです」





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『パラダイス』より




削ぎ落とされ限りなくミニマルな会話と息遣いも、この作品を語るうえで外せない特徴だ。時空を超えるタイムトラベルという壮大な設定とは真逆ですごく生っぽい。普段の会話がゴロッと落ちてる感じがする。両方に振り切っているからこそ、シンプルでプリミティブな感情が喚起されてくる。あの人に想いを伝えたいとか、会いたいとか、ロマンティックな感情がダイレクトに脳に入ってくる。



「会話をどういう口調にするか、演技的なものにするのか、くだけたものにするのか悩みました。熊がギャルっぽい性格で軽い感じでしゃべる、そのギャップが可愛いかなと。さらに作中に母の声をこっそり録ったのを使ったり、絵もセリフもそのあたりのバランスを混ぜてドロドロにしているんです」



スマホに入れたお気に入りの曲をイヤホンで聴き、LINEを送りながら、同時にTwitterやFacebookもチェックして頭の中では好きな人のことを考えたり……僕らは現実世界とネット上で違う名前、複数のキャラ設定を使い分ける。それと同じように、ひらのは『パラダイス』で、いくつものコラージュを加え、幾層にも重ねた舞台を時空を超えて、恐ろしくリアルに今を描く。絶妙な距離感を保ちながら世界を、自分を、見つめ続けてきた彼の眼にはまた新しい景色が見え始めてきているかもしれない。



「アニメーションはもちろんですけれど、今も実写を入れながら作っているので、そのへんの壁はぜんぶ取っ払って、アニメを絵描く人っていう感覚はなくしたい。技法としてのアニメーションにもこだわらないし、映像にもこだわらないと思います。これからは、かわいいアニメーションを作りたいし、子供でも観られる作品も作りたいですし、とにかく自分で壁を作らないようにしたいです。あ、あとアクション映画作りたいです」



(インタビュー:石井雅之 構成:駒井憲嗣)









ひらのりょう プロフィール



1988年埼玉県春日部市生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。お化けや恋、日々生きている時間からあふれた物事をもとに、映像、アニメーション作品を制作している。2011年『ホリディ』で学生CGコンテストグランプリ受賞。2011年『Hietuki-Bushi』(with Omodaka)で文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門新人賞ほか多数受賞。現在、クリエイターマネージメントFOGHORN所属。

http://ryohirano.com/










ひらのりょう「パラダイス」公開記念パーティー

【はじめてのトリップ】

2014年1月12日(日)渋谷アップリンク・ファクトリー




料金:1,500円+2ドリンク(1000円)軽食サービス付(数に限りがございますので予めご了承下さい)

開場:15:00/初回上映開始:16:00

〈ゲスト/演目〉

七尾旅人(アコースティックミニライブ)

伊藤ガビン & ひらのりょうトークライブ

ミクラフレシア(手芸作品展示)

ほか

※定員に達したため、予約は締め切らせていただきましたが、ひらのりょう新作『パラダイス』は3回上映(1度の入場で複数回鑑賞可)となっております。1回目満席でも2回目、3回目は空席が出る可能性がございます。当日受付にてお待ちいただけるようであれば、上映毎に空席のお知らせをご案内させていただきます。また、開催日以前にキャンセルが出ました場合、その旨HPにてお知らせ致します。お客様のご理解・ご協力を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

http://www.uplink.co.jp/event/2013/20471



▼ひらのりょう『パラダイス』予告編

[youtube:yh86GdB9aME]

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