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Channel: webDICE 連載『DICE TALK』
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ヴィヴィッドな色彩で人々と時代の感覚を変えたインド映画

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映画『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』より (c) Eros International Ltd



インドで公開と同時に爆発的な人気を獲得し、ボリウッド映画の最高峰と呼ばれる映画『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』が3月16日(土)より、渋谷シネマライズ、シネ・リーブル梅田を皮切りに全国順次ロードショー公開される。今回は、インドでの公開時に現地の熱気を体験している、よろずエキゾ風物ライター/DJのサラーム海上氏が今作の魅力を解説してもらった。



巨大な映画館でマサラシステム状態を体験



『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』がインドで公開されたのは2007年の11月9日、ヒンドゥー教の新年にあたるディーワーリーの日だった。その日、僕は南インド・ケーララ州のヴァルカラ・ビーチにいた。すぐにでも観たかったが、近くに映画館はなく、ホテルの部屋にあったテレビで映画のミュージカルシーンやCMを一日数十回も見て期待を膨らませるだけだった。

映画を観ることができたのはそれから5日後、場所は州都ティルヴァナンタプラムのボロボロの巨大な映画館だった。もちろん超満員で、席番号など誰も守らなかったし、熱気ムンムンでエアコンが全然効かなくなっていた。そして映画が始まると、南インドの田舎の観客だけに、揃って騒ぎだし、いわゆるマサラシステム状態となってしまった。ハハハ。北の大都会ではもうそんなことは誰もやってないんだけどね。

もちろん英語字幕などないし、その頃の僕はまだヒンディー語を習っていなかった。なので、台詞は一切わからなかったが、ストーリーの大半は理解できた。それが王道ボリウッド映画の良さの一つでもある(笑)。




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『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』のポスター(2007年/南インド)


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『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』の立て看板(2007年/南インド)



映画館を出たその足で、町のCDショップに行った。サントラ盤CDには4種類のポスターがランダムに封入されていたので、お土産を兼ねてとりあえず3枚買うと、幸運な事に3種類とも異なるデザインのシャー・ルク・カーンのポスターが入っていた。ラッキー! あと1種類でコンプリート!と思い、後日、更に3枚買ってみたが、今度は同じポスターばかりが続いた。数ヶ月後にDVDボックスを手に入れたが、またしても同じポスター。結局最後の1種類、ヘルメットを被った消防士姿のシャー・ルクのポスターはいまだに手に入らないままだ。日本のAKB商法にダマされることはないが、ボリウッドだとニコニコしながらダマされている僕がいる……。


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『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』ポスターやCDなど



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『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』CDとDVDなど



'08年正月、今度は西インド・グジャラート州アーメダバードのシネコンで再びこの映画を観た。封切りから2ヵ月、しかも平日の昼だったが、500人ほどの大劇場の1/4は埋まっていた。インドを毎年のように訪れていながら、映画館でインド映画を見たことがないという日本人のダンサーを連れていくと、「こんなにキラキラして楽しかったのか!」と大喜びしてくれた。その後、彼女はボリウッド映画のミュージカルシーンで踊る外国人ダンサーのアルバイトを始めた。




ボリウッド音楽が欧米ポップ音楽を越えた瞬間


 

この映画の音楽監督は、昨年日本で公開されたボリウッド映画『ラ・ワン』と同じヴィシャール&シェーカル。今でこそ大物プロデューサーとなった彼らだが、'07年当時はまだまだ新進気鋭のデュオと言ったところ。シャー・ルク・カーンが主演し、その年最大級のヒットを期待される映画にはアカデミー賞受賞で知られるA.R.ラフマーン、もしくは売れっ子プロデューサー・トリオのシャンカル・エヘサーン・ローイ辺りが相応しかった。実際、監督とシャー・ルクは最初はラフマーンにオファーしたが、条件が合わず、ヴィシャール&シェーカルが大抜擢されることとなった。

僕は'05年のボリウッド映画『Bluffmaster!』の音楽で彼らに注目し始めた。英米の最新R&Bを見据えながらも、同時に古いボリウッド映画音楽からの引用も行う温故知新&ジャンル横断なサウンド感覚。そんな彼らの音を当時、僕は「ボリウッドの渋谷系登場」と評した。この映画における彼らの音楽もまさにそうした出来だ。懐かしさと新しさ、インド臭いメロディーと洗練されたサウンドが同居する。




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映画『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』より (c) Eros International Ltd




「ざわめくディスコ(Dard-e-Disco)」はベリーダンス風の打ち込みリズムとイントロを持つミドルテンポの四つ打ちディスコ曲。ブリブリの低音は東京のクラブのサウンドシステムでプレイしてもまったく遜色ない。「ディーワーナギー(Deewangi Deewangi)」は「オーム・シャーンティ・オーム♪」というサビが非常にキャッチーだ。僕はトルコのイスタンブルのクラブでDJをしたときに、この曲をかけたところ、トルコ人たちもこの曲を知っていて、サビを一緒に歌い、振り付けまで真似てくれた。やはりボリウッドは世界標準なのだ!



「パキスタンの宗教音楽カウワーリー出身の歌手ラーハット・ファテー・アリー・ハーンが歌う「Jag Soona Soona Lage」は傷心の主人公を、人を酔わせるカウワーリーのテクニックを応用して歌いきっている。この曲以降、ラーハットは切ないラブソングを歌わせたらボリウッド音楽ナンバルワンの男性歌手となった。



「シャー・ルクとディーピカーの'70年代ファッション七変化が楽しい「Dhoom Taana」はなんとパーカッションだけで85人、ストリングスが45人、コーラス隊が32人、総勢180人の音楽家によって演奏されている。欧米のポップスでもこれほどの人海戦術をかけられるアーティストはもはや存在しない。ボリウッド音楽が欧米ポップ音楽を越えた瞬間だ。




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映画『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』より (c) Eros International Ltd




この映画の特徴の一つである「'70年代末のレトロでキッチュなボリウッド」。実際に当時のボリウッド映画を見直すと、主演俳優や演出は今以上にギラギラしているが、ここまでヴィヴィッドな色彩は当時の照明技術や撮影機材では表現しえなかった。21世紀だからこそ作り出せるキャッチーな色彩だ。この映画以降、こうした「本物を越えて美化された'70年代インド」というイメージが様々な映画やテレビCMなどで登場することとなった。今、デリーの代官山ことハウスカース・ヴィレッジに行けば、これまで二束三文だった古いボリウッド映画のポスターを高値で売る店や、古い映画をモチーフにしたキッチュなデザインの高級小物を並べるセレクトショップが繁盛している。

一つの映画が人々の感覚、そして時代の感覚を変える。『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』は21世紀のインドにおけるそんな作品であったのだ。



2013年2月22日

サラーム海上

www.chez-salam.com



(映画『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』劇場パンフレットより)











映画『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』

2013年3月16日(土)より、渋谷シネマライズほか全国順次公開




監督:ファラー・カーン

撮影監督:V.マニカンダン

編集:シリーシュ・クンダル

美術:サーブ・シリル

作曲:ヴィシャール=シェーカル

作詞:ジャーヴェード・アクタル

衣裳デザイン:マニーシュ・マルホートラー(ディーピカー担当)、カラン・ジョーハル(シャー・ルク担当)

出演:シャー・ルク・カーン、ディーピカー・パードゥコーン、アルジュン・ラームパール、シュレーヤス・タラプデー

提供:アジア映画社、マクザム、パルコ

配給・宣伝:アップリンク

原題:Om Shanti Om

2007年/インド/169分/カラー/ヒンディー語/シネスコ




公式サイト:http://www.uplink.co.jp/oso/

公式twitter:https://twitter.com/oso_movie

公式FACEBOOK:http://www.facebook.com/OSO.jp




▼『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』予告編


[youtube:VEbPSoNN7F4]



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