『ダイアナ』のオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督
1997年8月31日に交通事故で亡くなった元英国皇太子妃ダイアナの人生を描く映画『ダイアナ』が10月18日(金)より公開される。『ヒトラー ~最期の12日間~』で高い評価を得たオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督がダイアナ役にナオミ・ワッツを迎え、華やかなシンデレラ・ストーリーの後、王子との破局を迎えるものの、心臓外科医のハスナット・カーンと出会い、ひとりの人間として自立していく姿を確かな筆致で描いている。ヒルシュビーゲル監督に、ダイアナの人物像そして制作の模様について聞いた。
何が起こったのかを正確に伝えたい
── 最初今作においては、ダイアナ妃の生涯のなかでどの部分にフォーカスを当てようとしたのでしょうか?
これはダイアナの最期の2年間を描いた作品です。つまり彼女の人生が行き詰まり始めた頃からの話です。彼女自身、人生がどこに向かっているのかよく分からなくなっていました。ケンジントン宮殿で孤独に耐えていたのです。チャールズ氏との離婚もまだ成立していませんでした。彼女は目的を探していたのです。というのも、その状況では……何の展開も望めなかったからです。そんな時、パキスタン人の心臓外科医に出会いました。そして、一目で彼に恋をしたのです。それが引き金となり、彼女の内面が変化しました。目的意識が芽生えたのです。彼女は人生で初めて、真実の愛を知ったのでしょう。その後のことは、皆さんご存じだと思います。この物語はあまり知られていません。多くの人は、恋人がドディ・アルファイド(ダイアナとともに交通事故で死亡した人物)だと思っているでしょう。ドディとダイアナが一緒に過ごしたのはたったの26日間だけです。それは本当の恋愛関係ではありません。それは一種の反動のようなものか、友情といったものでしょう。ですから、ここで歴史を正し、何が起こったのかを正確に伝えたいのです。
映画『ダイアナ』より ©2013 Caught in Flight Films Limited. All Rights Reserved
── そうした歴史的事実を描く実録ものという側面とともに、今作はダイアナと心臓外科医ハスナットのラブ・ストーリーとして描かれていると思います。
とても美しい愛の物語です。ダイアナが彼といたことを、人々に伝えるのはとても意義があると思います。というのも、ふたりの愛は本物で偽りがなく、リアルだからです。であると同時に、映画のようでもありますよね。外国から来た違った文化を持つ普通の男性が、世界で一番有名な女性に恋をするのです。それは……すばらしい物語が常にそうであるように、多くのことを私たちに教えてくれます。ふたりの関係は受け入れられず、窮地に陥りました。どこにも行き場がなかったのです。彼女には立場がありましたからね。ただいなくなることも、無名になることも、2人の王子の母親であることをやめることもできません。そして彼は医者です。ただ人を癒し助けたいと考えていました。それに公人になることには、まったく興味がありませんでした。プライバシーが大切だったのです。慎み深い一般人でした。そんなふたりが不幸にも恋に身を焦がしたのです。まるでシェークスピアの劇のようです。
映画『ダイアナ』より ©2013 Caught in Flight Films Limited. All Rights Reserved
── ダイアナとハスナットの関係について、どう分析しますか?
ふたりはすぐに互いにソウル・メイトだと気付き、それを受け入れたのだと思います。それは人生において時に起こることです。誰かと出会った時、生涯を共にしたいと思うことがありますよね。それにふたりは、私が言うところの「精気にあふれる人」でした。強い気の流れがあるのです。とても敏感で洞察力が鋭く、周りの要求を知り、独特の雰囲気を持ち、高い意識があったのです。ふたりには癒す力がありました。彼は、医者になるべく生まれ、今でも続けています。それに彼女にも同じような能力があったのだと思うのです。それを職業にすることはありませんでしたけどね。でも、ある種の人だけが持つ、人を癒やす力がありました。このことを話した人はみんな、私の見解に同意してくれました。彼女は誰かを見つめ、手を握ることで、元気づけることができたのです。すべてはふたりが出会った時にはじまりました。そしてふたりはそれを……互いに分かっていました。つまりふたりは愛し合っていたのです。
映画『ダイアナ』より ©2013 Caught in Flight Films Limited. All Rights Reserved
映画化にあたりハスナットには会わなかった
── 監督が感じたダイアナの人物像についてお聞かせください。
ダイアナは世の中に飛び出した人でした。人々へと手を伸ばし、手をとり、握り締め、抱きしめたのです。そんなことをしたのは、皇室では彼女が初めてでした。彼女は流れを大きく変えたのです。であると同時に、世界中の女性から愛されていました。彼女は皇室に入り、できることを考え、決断したのです。2つの選択肢があります。規定通りの生活をする方法。孤独で、女性にとっては面白みがないでしょう。もう1つは、挑戦することです。皇族でありながら、それに立ち向かうのです。彼女がやったのは正にそういうことでした。私が彼女を好きなのはそこなのです。彼女は挑戦者でした。ですから不安や恐れを感じていました。でも同時に彼女は挑戦し闘ったのです。すばらしいです。私は祖母の言葉……ハスナットの祖母ですが、彼女の言った「ダイアナはメスのライオン」というセリフが好きです。実際、脚本にもあります。すごくいい表現です。彼女はメスのライオンそのものでしたから。
映画『ダイアナ』より ©2013 Caught in Flight Films Limited. All Rights Reserved
── そのダイアナを演じたナオミ・ワッツについて、どのように評価しますか?
ナオミはすばらしいです。魅力にあふれる女優です。ぬきんでていますね。彼女は……彼女の優れたところは、カメレオンのようになれることです。スイッチがはいると、どんな役にもなれます。それでいて、うわべだけの見せ方ではないのです。私たちはナオミを見て、彼女だと分かっています。でも同時に、その役でもあるとも認識します。いつの間にかダイアナを見ているのです。それは並はずれた才能です。それは彼女にとって、他の面でもラッキーです。というのも、その能力があれば、彼女が通りを歩いていても、だれも彼女だと気付かないですから。彼女もそれをありがたいと思っています。
映画『ダイアナ』より ©2013 Caught in Flight Films Limited. All Rights Reserved
── ハスナット役のナヴィーン・アンドリュースについては、どういった経緯で起用したのですか?
脚本を読んだ時に、最初に浮かんだのが彼でした。アンソニー・ミンゲラが監督した『イングリッシュ・ペイシェント』を思い出したのです。当時、ナヴィーン・アンドリュースが演じたインド人とビノシュのラブ・ストーリーが大好きでした。それに一番感動しました。「あのような俳優が必要だ」と思ったのです。それに、彼のことは「ロスト」でも見ました。「これは……自分の求めているものだ」と思いましたね。同じ俳優だと思わなかったのですが。両方を確認し、ナヴィーン・アンドリュース、同じ俳優だと分かり、驚きました。幸いにも彼のスケジュールの調整がつきました。他の俳優も考えましたけど、やっぱり彼が一番よかったのです。ナオミも同じです。
映画『ダイアナ』より ©2013 Caught in Flight Films Limited. All Rights Reserved
── 映画化にあたり、ハスナット・カーンには会いましたか?
彼には会いませんでした。プライバシーを大切にする人ですから。私自身、会いたかったのかどうかも分かりません。といのも、誰かを深く愛した人、愛している人は、相手を失えばどんな気持ちになるか分かるからです。ふたりは別れ、ダイアナはドディとヨットに乗ったり、旅をしていましたが、ハスナットとダイアナは、まだ強く愛しあっていたのだと、私は確信しています。ふたりは互いに想い焦がれ、求めあっていたのです。ですから、とても悲しくつらい思いをしているはずです。
── この映画はダイアナとハスナットのラブ・ストーリーであると同時に、ロンドンの風景ももうひとりの主人公であるように感じました。
私の主要な目標の1つはロンドンを表現することでした。というのも、私が認識しているロンドンを表現している映画があまりないからです。とはいえ、ロンドンでの撮影は大変でした。多くの規制があり、問題がありました。特に、交通量の多さです。大金を投じなければ、コントロールすることは不可能です。臨機応変に対応する必要がありました。それが苦労した点です。でもうまくいったと思います。
(『ダイアナ』オフィシャル・インタビューより)
オリヴァー・ヒルシュビーゲル プロフィール
1957年、ドイツ、ハンブルグ生まれ。ハンブルグ芸術大学で学んだ後、1986年にTV映画「Das Go! Project」で監督デビュー。その後、「ザッピング/殺意」(92)、「小さな刑事 ベビー・レックス」(97)などのTV映画を手掛ける。2001年には、スタンフォード大学心理学部で実際に行われた模擬刑務所の実験を基に描いた『es[エス]』を監督。人間の心理の闇に迫る問題作として批評家の絶賛を浴び、モントリオール世界映画祭最優秀監督賞を受賞する。2004年、ヒトラーの個人秘書の目を通して独裁者の知られざる顔に迫った『ヒトラー ~最期の12日間~』でも高く評価され、アカデミー賞(R)外国語映画賞にノミネートされた他、英国インディペンデント映画賞、ロンドン映画批評家協会賞など数々の賞に輝き、ドイツが誇る監督として広くその名を知られる。 その他の作品は、ニコール・キッドマン主演の『インベージョン』(07)、サンダンス映画祭の監督賞を受賞した『レクイエム』(09/未)、TVシリーズ「ボルジア 欲望の系譜」(11)など。
映画『ダイアナ』
10月18日(金)よりTOHOシネマズ有楽座ほか全国ロードショー
1995年、夫と別居して3年、ダイアナは、ふたりの王子とも離れ、寂しい暮らしを送っていた。そんなある日、心臓外科医のハスナット・カーンと出逢い、心から尊敬できる男性にやっと巡り逢えたと確信する。BBCのインタビュー番組に出演して別居の真相を告白、“人々の心の王妃”になりたいと語って身内から非難された時も、ハスナットだけは「これで、君は自由だ」と励ましてくれた。それから1年、離婚したダイアナは、地雷廃絶運動などの人道支援活動で、世界中を飛び回る。自分の弱さを知るからこそ弱者の心を理解できるダイアナは人々を癒し、政治をも動かす力を持ち始めていた。 一方、永遠の誓いを交わしたハスナットとの愛は、ゴシップ紙に書きたてられ、彼の一族からも反対される。ダイアナはドディ・アルファイドとの新しい関係に踏み出すのだが……しかし、その瞬間は刻一刻と近づいていた。最期まで彼女が求めていたものとは──?
監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル
出演:ナオミ・ワッツ、ナヴィーン・アンドリュース、ダグラス・ホッジ、ジェラルディン・ジェームズ、チャールズ・エドワーズ、キャス・アンヴァー、ジュリエット・スティーヴンソン
製作:ロバート・バーンスタイン、ダグラス・レイ
脚本:スティーヴン・ジェフリーズ
製作総指揮:マーク・ウーリー、ティム・ハスラム、ザヴィエル・マーチャンド
共同製作:ポール・リッチー、マット・デラジー、ジュヌヴィエーヴ・レマル、ジェームズ・セイナー
アソシエイト・プロデューサー:ケイト・スネル
撮影:ライナー・クラウスマン
編集:ハンス・フンク
原題:DIANA
2013年/イギリス/113分
配給:ギャガ
©2013 Twentieth Century Fox
公式サイト:http://diana.gaga.ne.jp
公式Twitter:https://twitter.com/gagamovie
公式Facebook:https://www.facebook.com//gagajapan
▼『ダイアナ』予告編
[youtube:RWGnt7AH4gA]