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マイク・ミルズ監督「〈落ち込んでいると感じてはいけない〉という社会の声があっても、自分に正直になること」

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原宿VACANTにて開催された映画『マイク・ミルズのうつの話』先行上映イベントにて 左より、スカイプで登場したマイク・ミルズ監督、プロデューサーの保田卓夫さん、通訳の江口研二さん


グラフィック・アーティストそして映画監督として活躍するマイク・ミルズ監督が日本のうつをテーマに挑んだドキュメンタリー映画『マイク・ミルズのうつの話』。その先行上映イベントが、東京・原宿VACANTで行われた。当日は、マイク・ミルズ監督がロサンゼルスの自宅からスカイプで出演したほか、今作のプロデューサーである保田卓夫さんも登壇。撮影当時のエピソードやこの映画に込めた思いについて観客の前で語った。会場には、今作に出演するMIKAさんも現れ、スカイプを通してマイク・ミルズ監督と再会を果たした。
『マイク・ミルズのうつの話』は、10月19日(土)より渋谷アップリンクほか全国順次公開となる。



うつを抱えた彼らがほんとうに戦いながら一歩踏み出してくれたことに感嘆した



── 『マイク・ミルズのうつの話』で日本のうつを抱える5人を追っていますが、どうしてアメリカ人のあなたが日本を舞台にこのテーマを撮ったのでしょうか?



マイク・ミルズ監督:大きく2つの理由があります。ひとつは、私は日本に来ることが多く日本人の友人も多いのですが、たまたま友人の女性のひとりが抗うつ剤を飲んでいるのを見たのです。アメリカから発信されている薬が、日本に輸出され入り込んでいることに興味を持ちました。そしてもうひとつは、ニューヨーク・タイムズの記事でパキシルとグラクソ・スミスクラインのこと、そして「Does Your Soul Have A Cold?」という広告キャンペーンについて知ったことで、この問題に興味を持ちました。



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映画『マイク・ミルズのうつの話』より



── そのフレーズはこの映画の原題になっていますね。マイク・ミルズ監督から「保田さんはこの作品のプロデューサーとして関わり、うつという心の病を抱えたセンシティブな方が多かったので気配りをしてくれた」と聞いています。



保田卓夫(以下、保田):気配りをする以前に、この映画の制作にとりかかった時は、恥ずかしながらうつについては全く無知で、無知であることも知らなかった状態で、普通にドキュメンタリーを撮る手順で制作を始めました。オーディションのようなかたちで、いろいろな方とお会いしてお話をさせていただく機会を持ちました。その時に、埼玉に住んでいて、杉並の僕の自宅に来る予定だった方がいて、「行き方が分からない」と電話をかけてきたんです。私は駅からの道順を伝えたのですが、しばらくしてその方が家に来ると、すごいぐったりした状態でした。「どうしたのですか」と聞いたら、「実は何年も家から出たことがなくて、でも、どうしてもこの映画の力になりたかった。何年かぶりに電車に乗って、駅までくれば駅前にタクシーがあるだろうと思ったんだけれど、小さな駅でタクシーが一台も停まっていなかったので、困って電話しました」とおっしゃいましたこういう人たちとこれから映画を作っていかなければいけないんだ、とガーンと頭でハンマーを殴られたような気持ちになり、目を覚まされました。それが僕にとってのひとつの大きな事件でした。



マイク・ミルズ監督:保田さんとは、ほんとうの意味でのパートナーとして仕事をしてきましたので、今日、保田さんとこうして会えることができてすごく嬉しいです。自分がアメリカ人として関わるなら、みなさんに敬意を表して撮りたい思いがありました。アメリカ文化の状況と違うのは、この映画に関わってくれた人たちが「うつに対する社会の考え方を変えたい」「状況を理解してもらいたい」ということを伝えて、役に立ちたいと、何かに尽くすような感覚だったところです。



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映画『マイク・ミルズのうつの話』より


保田:僕もアメリカで映画制作をしたことがありますが、アメリカの人はすぐ映画に出るのを許可してくれるし、素人でも撮影できたりする。けれど、日本に来ると「すみません」と顔を隠して撮られることを避けがちです。ですから、この企画を作りはじめるときに誰が出てくれるか心配でした。ところが、実際オーディションをはじめると、使命感を持って、積極的に映画に関わっていきたいという方が数多くおられたことが驚きとしてありました。完成した映画をご覧になったみなさんもよく分かったんじゃないかと思いますが、「どうしても自分のいる状況をみなさんに伝えたい」という気持ちを持っておられる方ばかりでした。うつというのは、ある意味、外部から遮断された世界に閉じ込められてしまうようなところがあると思います。そこにいるからこそ「どうしても手を伸ばしたい」「声を伝えたい」という気持ちを持っているんだ、ということが、制作しながら僕が学んだことのひとつです。



マイク・ミルズ監督:私もうつの時期が少しあったので、その状況がどれだけ大変なのかは分かっているつもりです。感嘆したのは、彼らがほんとうに戦いながらそういう状況から一歩踏み出してくれたこと。ほんとうに敬意に値することでした。



── うつを抱えていてもそうでなくても、毎日辛いことはみなさんあると思いますが、そういったものに向き合いながら、どうやって自分の人生を良くしていこうか、というところがこの映画のメッセージであり、さらに、端から見ると少し滑稽だなというところも、まるごと肯定してくれるところが励みになる作品だと思います。

本日はサプライズ・ゲストとして、映画に出演したMIKAさんに客席にお越しいただいています。MIKAさんは嫌いなお酢を毎日飲んだりヨガをしたりして、自分を整えようと努力していた方です。



マイク・ミルズ監督:お元気ですか?また会えてうれしいです!あらためて、映画に出てくださってほんとうにありがとうございます。この状況でまた会えるなんてすごく不思議ですね(笑)。



MIKA:私はこの映画を撮り終わって1年後くらいに、薬を止めることができて、今は元気に生活しています。



マイク・ミルズ監督:すばらしいですね。薬を止めることが良いか悪いかではなくて、MIKAさんの気分が良いことがいちばん素晴らしいことです。MIKAさんはとても愉しくおかしく、頭の良い女性でしたから、さらにそうなっているんじゃないでしょうか。



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映画『マイク・ミルズのうつの話』先行上映イベントにスカイプで登場したマイク・ミルズ監督




MIKA:元気な姿をお伝えできてよかったです。ありがとう。



マイク・ミルズ監督:私もすごく嬉しいです。MIKA、これが見えますか?赤ちゃんが生まれたんです(と、写真を見せる)。



MIKA:よかった!



── MIKAさん、ありがとうございました。




自分が良い気分で生きることができる方法を探している人を撮る




(観客からの質問):7年前くらいにこの映画の出演者を募集されているのをmixiかなにかで見て、できるのを心待ちにしていましたので、今回観られることができてすごくよかったです。自分からこの映画に出演したいと申し込んだ方は最終的に何名いらしたんですか?



保田:具体的には覚えていないのですが、たくさんの方に「出たい」という意思を示していただきました。今回は「都内在住であること」「抗うつ剤を飲んでいること」「日常生活をありのままに撮らせてくれること」という条件がありましたので、何人かの方に絞っていきました。オーディションのプロセスを経て、撮影の段階であと3人くらいいらしたんですけれど、映画の内容にぴったりくるかという監督の判断で、編集の段階で割愛させていただきました。



(観客からの質問):日本での公開が今年になった理由を教えてください。



マイク・ミルズ監督:それは私にも分かりませんが、自分の選択として、医者にインタビューをしませんでしたし、抗うつ剤を服用しながら対処している人たちに直接話してほしいと考えていました。そしてナレーションにも専門的な人を入れませんでしたので、閉じないエンディングになりすぎているのかもしれません。そうしたこともすぐに公開されなかった理由にあると思います。アメリカでは2007年にケーブルテレビで放映されましたが、映画に参加してくれた人のおかげでほんとうに完成したと思っています。







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映画『マイク・ミルズのうつの話』より



(観客からの質問):なぜあの5人だったのですか。特にKENさんを映す意図は何だったのですか。彼のパートだけ別の映画のように見えたんです。



マイク・ミルズ監督:最終的な5人の他に、他にも撮った人たちが本編に入らなかったのは、十分にいいかたちで彼らを描ききれなかったからです。KENさんは、とてもおもしろくて真面目で、変わった人でもありますが、同時にとても伝統的で、昔の日本を代弁するような家や家族を持っています。そうしたいろいろな興味深いものを抱えていたのが、彼を撮った理由です。私の興味は薬を服用している人でしたが、もうひとつ、自分自身が良い気分で生きることができる方法を探している人に興味がありました。KENさんのあの縄のシーンを入れたのは、それが、彼自身のより良い気分になれる方法だったからです。あの場面を入れたことで、あまりに変だと思ったり、利用しているように映るかもしれませんが、あのシーンはKENさんの人生の選択なのです。



(観客からの質問):KENさんにとっての気分を上げる、コントロールするための方法だということで、映すことにしたのですね。



マイク・ミルズ監督:薬を服用している人、というとても狭い基準以外に、生活のうえで気分をよくするための様々な方法を描きたかった。絵だったり、エクササイズだったり、タカトシさんのようにチャートをつけたり、KENさんの縄もそうです。そして、彼が感じている家族や社会に対する感覚が、彼のうつの原因になっているのではないか、というところもあると思うんです。それが彼を入れた理由です。




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映画『マイク・ミルズのうつの話』より





── 落ち込んだり辛かったりするときに、監督や保田さんはどのように自分のモチベーションを上げていますか?



保田:僕はこの問題についてエキスパートでないのですが、例えば映画などアートを見たり読んだりすることの理由のひとつとして、人ががんばっているのを見ることが出口に繋がるということがあると思います。でもやっぱり落ち込みますし、落ち込んだときに処方箋があるかといえばないですし、その時その時がんばるしかありません。この映画で、僕より数十倍辛い経験をしていながら、はるかに明るく生きている人たちを間近に撮影させていただいたという経験は、ひとつの宝かもしれないです。



マイク・ミルズ監督:難しいですね……。落ち込んだ時というのは、自分で気分を上げてというのはとても大変なことです。この映画に出てくる人たちのように、基本的に誠実であることが必要だと思います。自分の気持ちに対しても、人との関わりにおいても正直であること。それで何かしらの親密さを自分なりに見つけることが大切だと思います。うつのような感情を感じてしまったときは、「落ち込んでいると感じてはいけない」という心の声や、社会の声が聞こえてしまうことがあります。でも、自分の気持ちに正直になることで、その状況を破ることができるのではないでしょうか。




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映画『マイク・ミルズのうつの話』より


保田:それが僕もこの映画を通して学んだことです。いろんなうつの方と話していくなかで、みなさんが共通して持っている対処法は「無理をしない」ということです。



── 最後に日本での公開にあたり、メッセージをお願いします。



マイク・ミルズ監督:東京で撮影したということもあって、今日はVACANTで観ていただけて、とても嬉しいです。この映画で描いたうつという問題は大きすぎて、そしてまだ知らないことが多すぎて、簡単にメッセージを言えるような立場ではないので気が引けますが、あえて言えば、優しさはいつでも大切なことだと思います。



(2013年10月5日、原宿VACANTにて 通訳:江口研一 取材・文:駒井憲嗣)










マイク・ミルズ プロフィール



1966年生まれ。カリフォルニア州サンタ・バーバラ出身。高校を卒業後、ニューヨークのアート・スクールへ入り、次第にグラフィック・アーティストとして頭角を現す。X-GirlやMarc Jacobsなどにロゴやデザインを提供。また、ソニック・ユースやビースティ・ボーイズ、チボ・マットなどのアルバム・デザインやミュージック・ビデオを制作し、90年代のNYグラフィック・シーンの中心人物となる。やがて、ジム・ジャームッシュの影響を受け、映画を撮り始める。90年代末、友人であったスパイク・ジョーンズとソフィア・コッポラの紹介で、ローマン・コッポラとディレクターズ・ビューロー社を設立。ナイキやアディダスなどのCMや、エール、モービーといったミュージシャンを題材にしたドキュメンタリーを手がけながら、長編映画監督デビュー作『サムサッカー』(05)を発表、サンダンス映画祭で評価され映画監督としても注目を集める。長編2作目となる『人生はビギナーズ』(10)では、自身の父親との関係を題材にオリジナルの脚本を執筆し、インディペンデント・スピリット・アワードの監督賞と脚本賞にノミネートされ、ゴッサム・アワードの作品賞を受賞した。「社会のアウトサイダー」が、彼の一貫したテーマである。



保田卓夫 プロフィール



東京生まれ。ニューヨーク大学で映画製作を学び、卒業後はニューヨークを拠点にNHKのドキュメンタリー番組などに多数参加。ニューヨーク在住中の1998年に長編劇映画『アートフル・ドヂャース』(出演:いしだ壱成、西島秀俊他)を発表。2001年に帰国後は、MTV Japanでプロデューサーを務める。2003年末にMTV Japanを退社し、制作プロダクション・Incredible Quacksを設立。2004年にはエリック・クラプトンを追ったドキュメンタリー『セッションズ・フォー・ロバート・J』にライン・プロデューサーとして参加。2005年にはTVドキュメンタリー「MTV Biography: Jim Jarmusch」を演出、劇映画『TKO HIPHOP』(監督:谷口則之、出演:山根和馬、武田航平他)をプロデュース、ハリウッド映画『GOAL!2』に助監督として参加するなど、多方面で活躍している。











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映画『マイク・ミルズのうつの話』

2013年10月19日(土)より、渋谷アップリンク他全国順次公開




監督:マイク・ミルズ

撮影:ジェイムズ・フローナ、D.J.ハーダー

編集:アンドリュー・ディックラー

制作:カラム・グリーン、マイク・ミルズ、保田卓夫

出演:タケトシ、ミカ、ケン、カヨコ ダイスケ

配給:アップリンク

宣伝:Playtime、アップリンク

原題:Does Your Soul Have A Cold?

84分/アメリカ/2007年/英語字幕付

公式サイト:http://uplink.co.jp/kokokaze/

公式Twitter:https://twitter.com/uplink_els

公式Facebook:https://www.facebook.com/kokokaze.movie




▼映画『マイク・ミルズのうつの話』予告編

[youtube:R7T4BYQ0Ct0]

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