映画『皇帝と公爵』より ©ALFAMA FILMS / FRANCE 3 CINEMA 2012
2011年に惜しくも亡くなったチリの名匠ラウル・ルイス監督。彼の生涯のパートナーであるバレリア・サルミエントがメガフォンを取り、撮影前に亡くなったルイス監督の遺志を継いで完成させた『皇帝と公爵』が12月28日(土)より公開される。ジョン・マルコヴィッチをはじめ、カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペール、メルヴィル・プポー、マチュー・アマルリック、ミシェル・ピコリら豪華俳優陣とともに、ナポレオン将軍と彼を倒したウェリントン将軍の攻防を描いたサルミエント監督に、今作への思いを聞いた。
ラウルにオマージュを捧げる
──途中からプロジェクトを引き継ぐにあたり、ラウル・ルイス監督とは作品の完成形やストーリーテリングの方向性などのビジョンを共有出来ていましたか?それによって監督を務める際のアプローチは、過去にご自身で監督をされた作品との違いはありましたか?
ルイスとは、編集者として長い間一緒に仕事をしていたので、彼の仕事のやり方はあらかじめしっていました。ただラウルはすでに体調を崩し始めていたので、この映画の為にロケハンをした時に一緒について行きロケハンをしながら、こういうことをやるつもりなんだということを聞くことができました。ただすぐにパリに戻らなければならなかったり、体調のこともあったので……ラウルのできた準備は大変少ない量でした。
その状況の中でも、編集者として彼のやり方を知っていたことと、私自身も監督経験がありましたので、このプロジェクトを途中から引き継ぐ決心をしました。実際引き継いでみて、とても簡単なことではないと思いましたが、この映画に協力・参加してくれたすべての人が、ラウルにオマージュを捧げるという意味で集まってくれていましたし、そのわたしたちの側に、常にラウルの魂が付き添ってくれているような映画作りでした。
映画『皇帝と公爵』のバレリア・サルミエント監督
──監督オリジナルのアイディアや、新たに変化を入れた部分は?
一例を挙げれば、女性キャラクターに重要性を与える、特に戦時下における女性の苦しみに焦点を当てるのは私の視点です。戦争において苦しむのは女性たちなんだということを伝えたかったのです。
また編集のリズムは、私のスタイルだとラウルのスタイルよりも早いというところもあります。
──かなりスケールの大きいロケーションですが、撮影は主にどこの国で行われていたのですか?また、難しかった撮影はどのシーンですか?
すべて歴史上に出てくる名前の通り、すべてポルトガルで撮りました。また、すべての登場人物が話すべき言葉(言語)、ポルトガル人ならポルトガル語、イギリス人は英語などオリジナルの言語で撮っています。その意味ではヨーロッパ映画と呼べると思います。それぞれの国をリスペクトして作っています。
ナポレオン侵攻時の国土の荒廃ということを描きたかったので、日常の人々を描くことが重要でした。
フランス人は、ナポレオンがブサコの戦いで負けたということを忘れている人が多いことにも驚きでした。
これはナポレオンの歴史の中でも初めて敗戦だったのです。
19世紀のフランス軍ポルトガル侵攻は現代ヨーロッパのパラレル
──ウェリントンとナポレオンは、比べられることが多いと思うのですが、本編では、ウェリントン自身の活躍はあまり描かずに、そのまわりの人々を断片的に切り取った描き方にされたのは、戦時下における人々を描きたかったということにつながるのですか?
私の興味というのは、普通の人々を通じて戦争を描くことだったので、スペシャル・エフェクトを駆使して戦争を描くということではありませんでした。
映画『皇帝と公爵』より ©ALFAMA FILMS / FRANCE 3 CINEMA 2012
──ルイス監督作品の常連だったメルヴィル・プポーをはじめ素晴しい俳優たちが出演されていて、すでに日本でも話題になっています。このキャスティングはプロジェクトの段階で決まっていたのですか?また、どのようにしてこの豪華キャストの出演が決まったのですか?
3~4人のキャスティングはラウルが念頭に置いていた人はいましたが、ほとんどのキャストは彼の死後にわたしたちが決めました。また、ラウルにオマージュを捧げたいと、ドヌーブ、ピコリ、ユペールのスイスの家族が食事をしているシーンは、特別に付け加えました。
映画『皇帝と公爵』より ©ALFAMA FILMS / FRANCE 3 CINEMA 2012
──思い出深いシーンやエピソードがあれば教えてください。
すべての撮影にとても思い出があります。ただ、最後の砦のシーンは、風がとても強い地方だったので、特に撮影に苦労しました。ポルトガルはエコロジーの国なので、発電のための風車がいたるところに立っていてどうしても映ってしまうので、そのまま撮ってあとでデジタル処理をして消しました。
メルヴィル・プポーとマチュー・アマルリックは軍人を演じなければならなかったのに、乗馬ができなかったので、撮影前に特別に先生を頼んでレッスンをしたのが、撮影前の苦労でしたね。
──撮影地が観光地化されていて苦労したということはなかったのでしょうか?
撮影は真冬でしたので、観光客はあまりポルトガルにはいませんでしたね(笑)。一般的にポルトガルの冬はそんなに厳しくないといわれるのですが、このときはとても寒かったので、軍人役の人たちは服に下にビニールを入れていたりしていましたね。
映画『皇帝と公爵』より ©ALFAMA FILMS / FRANCE 3 CINEMA 2012
──本作では、戦時下という混迷の時代に翻弄される人々の人生が"絵巻物"のように描かれているのが印象的でした。時代や環境は違いますが、現代社会を生きる我々にも通ずるメッセージあるのでしょうか?
当時の戦時下のヨーロッパの複雑な状況というのはありますが、現代ヨーロッパのパラレルというふうに考えられるのではないでしょうか?ベネツィア映画祭の上映時にもそのようなコメントが多かったです。今のヨーロッパが、過去の沢山の戦争の上に成り立っているということを忘れてはいけないと思います。現在はEUとして一つのかたちになってはいますが、その下には様々な戦争があったうえで現在のかたちになっているということを、このような映画を通してでも忘れてはいけないと思います。
映画『皇帝と公爵』より ©ALFAMA FILMS / FRANCE 3 CINEMA 2012
──今後の作品の構想はありますか?今、どんなテーマに興味を持っていらっしゃいますか?
本当にこれからどうなるかわからないわ……映画を撮り続けていきたいけれど、制作は、タイミングと資金とプロデューサーによりますので、これからどんなプロジェクトが実現するのか楽しみにしているところです。
ラウルが多くの映画を残していますが、中にはフィルムが痛んでいたり16ミリで撮ったものもあるので、修復をして、フランスのシネマテークなどで「ラウル・ルイス レトロスペクティブ上映」などをしたいと思っています。またラウルは常に色々なアイディアや次回作の構想などがありましたので、それらを脚本として形にしていくという事にも取り組んでいければと考えています。
(オフィシャル・インタビューより)
バレリア・サルミエント プロフィール
1948年チリ、バルパライソ生まれ。チリ大学で哲学と映画製作を学ぶ。69年にバルパライソ・カトリック教大学芸術院の映画学科教授となったラウル・ルイスと出会い、結婚する。その後ルイスの作品で助監督を務めると共に、短篇でルイスと共に監督と編集も担当。72年は短篇『Un sueno como de colores』を単独で監督。73年ルイスと「La expropiacion」の追加撮影をパリで行った後、そのままパリに亡命する。その後はルイスの殆どの作品で編集と担当。また、スペインのベントゥラ・ポンスや、リュック・ムレやロバート・クレイマーの作品で夫以外の作品も編集を担当。79年にはベルギーで「Gens de nulle part, gens de toutes parts」を監督。以後、ドキュメンタリー作家として活動すると共に、ルイス共同脚本の「Notre mariage」 (84)で劇映画の監督としてもデビュー。その後も『アメリア・ロペス・オニール』(91)『ストラスブールの見知らぬ人』(98)『Rosa la China』(02)『Secretos』(08)といった劇映画を、多作な夫の作品で編集を担当する合間を縫って監督。今回、撮影目前で他界したルイスの意思を継いで、本作『皇帝と公爵』を完成させた。
映画『皇帝と公爵』
12月28日(土)よりシネスイッチ銀座 他、ロードショー
1810年9月27日、圧倒的に不利な地形をものともせず、フランス軍第二大隊の兵士たちは激戦の末、ポルトガル・ブサコの斜面を這い上がり、アルコバ山頂に達した。しかし、やっとの思いで尾根に出たフランス兵たちの目に飛び込んできたのは、準備万端で待ち構えるイギリス軍の姿だった。ウェリントンの戦略により、イギリス軍は見事、フランス軍を追い払うことに成功した。だが、勝利をおさめたにもかかわらず、イギリス軍は、ウェリントンが建設した要塞“トレス線”へ、いまだ数的に圧倒的有利なフランス軍を誘い込むため、南の山地へ戦略的撤退を試みる。リスボンの手前に建設されたこの“トレス線”は、知将ウェリントンが1年前から密かに準備を進めていた、80㎞にも及ぶ防衛のための砦であった。
監督:バレリア・サルミエント
出演:ジョン・マルコヴィッチ、マチュー・アマルリック、メルヴィル・プポー、カトリーヌ・ドヌーヴ、ミシェル・ピコリ、イザベル・ユペール、キアラ・マストロヤンニ、ヌヌ・ロプス、カルロト・コッタ
脚本:カルルシュ・サブガ
撮影:アンドレ・シャンコフスキ
美術:イザベル・ブランコ
編集:バレリア・サルミエント、ルカ・アルヴェルディ
製作:パウロ・ブランコ
音楽:ホルヘ・アッリアガダ
原題:LINHAS DE WELLINGTON
2012年/ポルトガル・フランス/シネマスコープ/カラー/152分
(C)ALFAMA FILMS / FRANCE 3 CINEMA 2012
公式サイト:http://www.alcine-terran.com/koutei
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