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Channel: webDICE 連載『DICE TALK』
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アーヴィン・ウェルシュ『フィルス』を語る「この腐った社会に生きる主人公のトラウマに目を向けた」

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アーヴィン・ウェルシュ ©Jeffrey Delannoy



90年代のサブカルチャーを牽引した映画『トレインスポッティング』の原作者・アーヴィン・ウェルシュ、彼が最も映画化を熱望していたというブラック・コメディ「フィルス」が出版から15年を経て映画化され、日本でも11月16日(土)より公開となる。

『トレインスポッティング』の監督ダニー・ボイルによる新作『トランス』で主演を務めたジェームス・マカヴォイがポルノ・売春・不倫・アルコール・コカイン中毒にまみれたイカれた刑事に扮し、残忍な日本人留学生殺人事件の真相に迫っていくという物語だ。9月27日にウェルシュの地元スコットランドで上映がスタート、その後10月4日よりUK全土で公開され、オープニング週末の興行成績2位という大ヒットを記録している今作について、制作の経緯を聞いた。

また、日本公開に先駆けアーヴィン・ウェルシュがジョン・S・ベアード監督とともに来日し、11月11日にトークショー付き試写会に登壇することが決定。webDICEではこの試写会の招待企画を実施している。




ジェームス・マカヴォイの変身ぶりは凄いよ




──1998年に原作は出版されているわけですが、当初から映画化の話はあったのですか?そうだとしたらなぜこんなに長い時間かかったのですか?



そうなんだよ、出版されてから15年が経つんだ。ハーヴェイ・ワインスタインが映画化の権利を買ったんだが、様々な理由から映画化が実現しなかった。イギリスに会社を新たに設立して映画を作るという案があったが、そのビジネス案が軌道にのらなかったんだ。それで映画化の権利がどこにあるのかもめて5年が過ぎた。そのあと5年はイギリスの二人のプロデューサーが映画を作りたいと名乗りをあげた。良い脚本があったにもかかわらず、どの監督も自分で脚本が書きたいと言って自分の脚本を書いたんだ。それがあまり良くなかったせいで資金も集まらなかった。良いキャストもつかず……。そうしているうちに、キャス・ペナントを通してジョンと出会ったんだ。彼らが言うにはジョンは僕の小説が好きで特に『フィルス』の大ファンだって。実際に会ってみると凄く気があった。その彼もまた"自分で脚本が書きたい“って。それで僕は”またか~~っ“て思ったんだよ (笑) 。




ところが10カ月ほど後に完成させて持ってきた脚本が凄く良かったんだよ。まるでジョン・ホッジの書いた『トレインスポッティング』の脚本を読んだ時みたいな気持ちになった。原作を凄く良く理解していて、それを自分なりの映像に置き換えている。それで俺がプロデュースしたいから一緒にハリウッドに行って資金を集めようと言うことになったんだ。偶然エージェントも同じで。制作に入る前にいろんな国から資金を集めようという事になったんだ。ジェームスがキャストとして決まる前から反応はすごく良かったんだ。ジェームスがキャストに決まったら、制作が本格的に動き出した。主演の候補には何人かいたんだ。ジェームスは若すぎるんじゃないかと思った。本人は凄くやる気で、カメラ・テストの映像をみたらとっても良かった。カメラの前では何もかもが可能な、そんな説得力に溢れていたんだよ。彼の変身ぶりは凄いよ。





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映画『フィルス』より ©2013 Lithium Picture Limited.





──主演のジェームス・マカヴォイはハリウッドでも引っ張りだこなので、彼が主演となるとこころ強かったと思いますが。



そうなんだ。自分の方からやりたいと言ってくれたんだ。彼の場合、ハリウッド大作ですでに成功しているから、またこんな小規模な映画に出るってある意味でリスクなんだよね。その彼の演技は、誰が観ても驚きだよ。今回の演技は、彼の名演の1本になるんじゃないかな。



──でももしこの映画化が15年前に実現していたら、ジェームスの主演はありえなかったでしょうね?まだ10代だった!(笑)待っていた甲斐があったて良かったですね。



そうだよね。監督のジョンにしたって若すぎた。だから遅れたせいでこんな素晴らしいメンツが集まったとも言えるんだ。だから時間がかかってよかったなとも思えるんだよ。まるで映画の神様に“ジェームス・マカヴォイが大人になるまで待っておれ!”とお告げをもらった感じかな。ガハハハ……(笑)。





──ご自身でも映画好きで音楽ビデオや映画を撮ったりするんですよね。自分で原作を監督したいなんて誘惑にかられませんか?




自分でやるのは脚本書いたり、プロデュースしたりが多いね。それもイギリスよりアメリカでの仕事が主だ。監督もしたけれど、やっぱり監督というのは片手間ではやれない仕事だと思うよ。僕はあちこちいろんな事に手をだしているから、長編に手をだすつもりはないよ。



──本作の映画作りとあなたの関係は?作家というのは、全く映画化に関係せず距離を置く人が多いですが。あなたの制作に関しては距離を置きましたか?




そうだね。関わったのはプロデュース・サイドで、撮影には口出ししなかった。ジョンは一所懸命やっていたし、彼のエネジーをかき乱すようなことはしたくなかった。制作が可能になる状況を作りだすことに手を貸したというのかな。『トレインスポッティング』のジョン・ホッジの時もそうだったけれど、あれほど僕の原作に夢中になってくれた人が書いた脚本に介入して映画をかき乱したくなかったんだよ。





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映画『フィルス』より ©2013 Lithium Picture Limited.



自分の出演シーンがカットされたのを気づかないほど気に入った



──完成作を観たときの第一感想は?




感激したよ。実は僕がカメオで出演したんだけれど、最終的にはその部分が編集でカットされたんだ。DVDのエキストラには入るそうだが。で、初めて見たとき凄く夢中で見て、自分の部分がカットされてたことさえ気が付かなかったんだ。それほどまでに気に入ったってことだよ。



──原作自体が非常に実験性の高い内容ですよね。それを映画化するというのは至難の業ではないかと思いますが?



そうだね、様々な決断が必要になってくる。本に出てくる寄生虫はブルースの意識の流れみたいなものなんだ。ブルースには意識があるがそれが行動と分離している、というのを映像で見せることは可能だよね。



──明らかに映画化にあたり何点か変わった点がありますが、そこで最も重要な点とは?




それは多くのシーンを撮影したんだ。ブルースの世界の様々な側面をね。核にあるのはブルースの世界だから。またジム・ブロードベンドやエディー・マーサンやシャーリー・ヘンダーソンやイモージェン・プーツやキャストも豪華だから。それぞれのシーンは残念ながら短いんだが、キャストの演技に焦点を集めたシーン、ブルースと一緒の見ごたえあるシーンがそれぞれにあって、それはシェイクスピアとかギリシャ悲劇のような形式にも似ていると思う。それぞれのキャラの大きなシーンがあるという点は重要だよ。



──原作はエディンバラの方言が発音通りにつづられていて、英語が母国語の人でもそれがなんという言葉か探りながら読まなければならないように書かれていますね。それを映画化するにはどうしたのでしょう?




映画の場合は、誰にも理解できるようにしなければならない。俳優のしゃべる台詞が聞き取れなかったら、意味も失われるし。映画の場合観る人が時間をかけて考える時間もない。そんな点でそこは妥協が必要になってくる。だからわかり易い英語で話すのは避けられない点だったんだ。



──たとえばそれよりはるかに飛躍してアメリカ英語になったらそれは行き過ぎ?




やっぱり特定のどこか、設定が必要になってくるから、スコットランドという設定は、背景を絞るという点で欠かせないと思う。





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映画『フィルス』より ©2013 Lithium Picture Limited.


現在と1998年で世界はそれほど変わっていない




──原作は1998年の世界が描かれているわけですが、それが現在2013年にどういった意味を持つと思いますか?




人が思っているほど世界は変わってないと思う。とくに本作はスコットランドの警察の世界が背景だし、警察の世界は閉ざされていて、社会の他の世界に比べると変化が少ない。また中心になっているブルースの個性、人格は時代に関係ないし……まあ典型的なスコットランド人像を描いている。ただあまり前向きではないスコットランド人像だが(笑)。




──ブルースは人間としての醜い目を多くもった人物であり、また彼の生きる世界を通して社会の悪や裏側を指摘し暴く、そういった面があなたの作品にはあります。これがあなたの作家としての究極的なゴールでしょうか?




というかそれは偶然というのかな。人間を観察して、彼らの欠点や間違いや、そういったことを観ることで、社会の一面をのぞき見ることができるというのかな。ブルースには3つの層があると思うんだ。彼はこの腐った社会に生きていて、そこで変化しつつある組織にいる。それに彼は適応していかなければならない。また彼自身の中には弟や家族を失った。その3つのレベルで彼のトラウマに目を向けるのがこの本なんだ。




──さて、これから発表される新作について教えてください。



5月に新しい小説がでる。同時にテレビと映画のプロジェクトがそれぞれ二つずつ進行中だ。とても忙しいんだ。




(インタビュー・文:高野裕子)











【関連記事】

アーヴィン・ウェルシュ原作、ジェームズ・マカヴォイがブッとんだ刑事に扮するダーク・コメディ『フィルス』

アーヴィン・ウェルシュ、ジョン・S・ベアード監督トークショー付試写会に参加して感想をツイート!(2013.10.24)

http://www.webdice.jp/dice/detail/4016/











アーヴィン・ウェルシュ プロフィール



1958年生まれのスコットランド出身の小説家。エディンバラで労働階級の家庭に生まれる。16歳で学校を辞め、電気修理などの仕事に就きながら、ロンドンでヘロインに溺れる生活を送る。その後生活を改め不動産業で働き、結婚。その後、故郷に戻りエディンバラ地区評議会で研修員として働きながらヘロイット・ワット大学でコンビュータ・システムを学び始める。この時期に半自伝ともいえる「トレインスポッティング」の原形が生まれ、93年に処女作として出版、ブッカー賞選出など絶賛を浴び、舞台化、映画化を果たす。「フィルス」は自身の原作の中で最も映画化したかった作品の一つ。











映画『フィルス』

2013年11月16日(土)より渋谷シネマライズ新宿シネマカリテにて公開



監督・脚本:ジョン・S・ベアード

原作:アーヴィン・ウェルシュ 「フィルス」渡辺佐智江 訳(パルコ出版より11月2日発売)

出演:ジェームズ・マカヴォイ、ジェイミー・ベル、イモージェン・プーツ、ジョアンヌ・フロガット、ジム・ブロードベント、シャーリー・ヘンダーソン、エディ・マーサン、イーモン・エリオット、マーティン・コムストン、ショーナ・マクドナルド、ゲイリー・ルイス

編集:マーク・エカーズリー

音楽:クリント・マンセル

撮影監督:マシュー・ジェンセン

提供:パルコ

配給:アップリンク パルコ

宣伝:ブラウニー オデュッセイア エレクトロ89



2013年/イギリス/97分/カラー/英語/シネマスコープ/R18+



公式サイト:http://www.uplink.co.jp/filth/

公式Twitter:https://twitter.com/filth_movie

公式Facebook:https://www.facebook.com/FilthMovieJP















「フィルス」

著:アーヴィン・ウェルシュ

翻訳:渡辺佐智江

2013年11月2日発売



ISBN:978-4865060454

価格:1,890円(税込)

発行:PARCO出版





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▼映画『フィルス』R18+版予告編



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