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曽我部恵一が『二重生活』ロウ・イエ監督に教わる「緑茶女とフェニックス男」

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ロウ・イエ監督(右)と曽我部恵一氏(左)


ロウ・イエ監督作品の大ファンを公言するミュージシャンの曽我部恵一氏が、26日、渋谷アップリンクで行われた映画『二重生活』のトークイベントに出席。「何か近いものを感じる」というロウ監督と、時折ユーモアを交えながら、愛について、音楽について、映画について、さらには現代中国の実態について、熱く語り合った。




私の映画と音楽の共通点、

それはアンダーグラウンド(ロウ監督)



本作は、天安門事件を扱った『天安門、恋人たち』で映画製作・上映禁止処分を受けたロウ監督が、禁止令解除後、5年ぶりに中国で製作した衝撃のメロドラマ・ミステリー。経済発展が著しい武漢市を舞台に、事故死した女子大生、彼女と最後に接触した男、その妻と愛人が織り成す複雑な人間模様をスキャンダラスに描く。



曽我部恵一(以下、曽我部):ロウ監督の映画は、毎回音楽がいいんですが、今回もエンドロールに流れるあの曲、凄くよかったですね。「愛はすべての傷を癒すだろう、でも俺はあっさり捨て去るだけさ」っていう歌詞もいい。あれは何ていう曲なんですか?





曽我部恵一氏

曽我部恵一氏


ロウ・イエ監督(以下、ロウ):中国のインディーズバンド「沼泽乐队」(Zhaoze/The Swamp)の「惊惶」(fear)という曲です。私の映画と彼らの音楽は「アンダーグラウンド」の世界で共鳴し合っていますね。




曽我部氏といえば、自身のアルバム『PINK』に収録されている「春の嵐」が、ロウ監督の2010年の作品『スプリング・フィーバー』に感銘を受けて作ったというほど筋金入りのファン。「何か近いものを感じる」というように、同じクリエーターとして、ロウ監督がどんなスタイルで創作活動に着手しているのか、気がかりで仕方がない様子。



曽我部:ロウ監督は「これを映画にしたい!」と思う瞬間とか、急にひらめく瞬間ってあるんですか?



ロウ:インスピレーションが瞬間的に湧くことはあります。ただ、それが映画にする、というのは、また別の問題。映画というのは手のかかる仕事で、1本撮るためには大きな資金がかかるし、いろんな役者を探さなければならない。さらに完成までに非常に長い時間もかかりますので、思い付いたことをすぐに映画にするということは、なかなか容易ではありませんね。



曽我部:確かに映画は大変ですよね。1本撮り終えて、完成した時はどういう気持ちになるんでしょう。



ロウ:やはりホッとしますね。リラックスして気が休まります。そして、その時に自分の映画と「さよなら」をするわけですね。ただ、この『二重生活』の場合は、2年前に製作された映画なので、いま、当時の気持ちを一生懸命思い出しているところです(笑)。




曽我部:僕の場合は、映画と比べればとても規模が小さいものですが、作品を作り終えると、やっぱり少し寂しいというか、落ち込むというか、気力がなくなり、鬱のような状態になる。



ロウ:なるほど。この映画の主人公ヨンチャオは、一人の女性と付き合って、愛を語り合ったあともまだ足りなくて、ちょっとグッタリしているんですが、曽我部さんのその雰囲気、まるでヨンチャオのようですね(場内爆笑)。




映画『二重生活』より

映画『二重生活』より



ロウ監督の作品は、

社会問題とラブストーリーが一体化している(曽我部氏)



曽我部:毎回、ロウ監督の作品は、深いところをグッと握られる感じがするのですが、本作に関しては、恋愛や人生について、誰が幸せなのか、誰が良くて、誰が悪いのか、友人と議論になりました。ヨンチャオは重婚に近い感じですが、決してダメなこととして描かれていない。むしろしょうがないことのように描かれています。



ロウ:二重生活まで行かなくても、愛人や一夜だけの関係など、今の中国では普通に起きていること。ヨンチャオの遊び相手として登場する女子大生、彼女のような子たちを中国では「緑茶女」って言うんですよ。見た目は清楚で飾り気がないが、裏では複数の男たちを喜ばせているから。一方、ヨンチャオのように、妻や愛人の力を利用して、自分は悠々自適に暮らしている男は「フェニックス男」と呼ばれているんです(笑)。



曽我部:今おっしゃったように、ロウ監督作品の最も特徴的なところは、本作のような現代中国人の実像であったり、天安門事件であったり、セクシャル・マイノリティであったり、社会的問題と愛憎劇が一体となって描かれているところにあると思うんです。それは狙いでもあるんでしょうか?



ロウ:社会的問題とラブストーリーは一つのこと、相互に反映し合っています。時代が違えば、愛のカタチも違ってくる。本作で言えば、ヨンチャオが本妻に、「君を愛している」と言いますが、本心ではない。愛しているという言葉が変質してしまっているんですね、つまり、「愛」にも社会性があるということです。



映画『二重生活』より

映画『二重生活』より



曽我部:最近、中国の要人たちが若い女の子を囲っているとか、ニュースなどでよく見かけますが、政治家と愛人の話がロウ監督の手にかかると、どうなるんでしょうね。



ロウ:私は政治家の性生活なんて関心ないですね。第一、ぜんぜん面白くないでしょう?(場内、再び爆笑)



曽我部:もう一つ気になるのが、ロウ監督ご自身のこと。映画では、愛が成就することはあまりありませんが、私生活の中で「愛で満たされているなぁ」という瞬間はあるんでしょうか?もしかすると、それを探していることが愛なのかな、とも思うのですが。



ロウ:よく聞かれるのですが、それは答えにくいですね(笑)。愛にはいろんなものが含まれているので、はっきりと「こうだ!」とは言えない。不確定なものだと思います。この映画でいえば、ヨンチャオがどんな時に愛を感じるかというと、本妻と居る時でもない、愛人と居る時でもない。彼が一番、愛を感じるのは、本妻の家と愛人の家を結ぶ大橋を行き来する車の中なんですね。ヨンチャオを演じたチン・ハオと「彼は車の中で何を考えていたんだろう」とよく話し合いましたが、自分に引き寄せて考えてみると、この行ったり来たりの時間が最も孤独で、そして最も人間的な時間なんだと思います。



曽我部:僕も孤独な時が一番自分に近いと思います。そこで誰かを求めたり、自分に欠けたものを埋めようとしたりして、結局、それがうまくいかず時間が過ぎていく。ロウ監督のその部分の描き方が凄くきれいで好きなんです。



ロウ:人がそれぞれ違うように、愛のカタチもそれぞれ違うもの。愛というのは、人間が存在するために必要なものだと思うんですよね。




映画『二重生活』より

映画『二重生活』より




愛に一つの答えがないように、映画に明確な答えを求めるのは、どこか道理が間違っているように思える。ロウ監督は、映画製作についてのこだわりをこう語る。「現代中国の「闇」の部分だけを描きたいのなら、映画なんて作る必要はない。それなら言葉で伝えればいいだけのこと」。何かを直接的に伝えるのではなく、もっと曖昧で、感覚的な世界を表現するからこそ、映画の存在意義がそこに生まれる。余白の部分を埋めるのは、観客である我々の作業であり、そして、それがきっと映画の醍醐味なのだ。



(2015年1月26日、渋谷アップリンクにて 取材・文・写真:坂田正樹)













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映画『二重生活』

新宿K's cinema、渋谷アップリンクほか

全国順次公開中




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監督・脚本:ロウ・イエ

脚本:メイ・フォン、ユ・ファン

撮影:ツアン・チアン

編集:シモン・ジャケ

音楽:ペイマン・ヤズダニアン

出演:ハオ・レイ、チン・ハオ、チー・シー、ズー・フォン、ジョウ・イエワン、チャン・ファンユアン、チュー・イン

配給・宣伝:アップリンク

原題:Mystery(浮城謎事)

2012年/中国、フランス/98分/1:1.85/DCP



公式HP:http://www.uplink.co.jp/nijyuu/






▼映画『二重生活』予告編

[youtube:Z58mbWAgVMY]

▼映画『二重生活』エンドロールに使用されている沼泽乐队「惊惶」

[youtube:KVvi0tqfy0Y]

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