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雨宮まみ氏、『二重生活』ロウ・イエ監督の「愛は説明できない、体が感じるもの」に納得?

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映画『二重生活』公開記念トークイベントより、ロウ・イエ監督(右)と雨宮まみ氏(左)


著書『女子をこじらせて』などで知られるライターの雨宮まみ氏が25日、東京・渋谷アップリンクで行われた映画『二重生活』のトークイベントに出席し、ロウ・イエ監督が描く「満たされない主人公たち」の姿を通して、恋愛、結婚、その先にある幸福について赤裸々に語った。




日本は正しい結婚・恋愛観を重視する国、

不倫や浮気は愚かな行為と言われる(雨宮氏)


 

本作は、天安門事件を扱った『天安門、恋人たち』で映画製作・上映禁止処分を受けたロウ監督が、禁止令解除後、5年ぶりに中国で製作した衝撃のメロドラマ・ミステリー。経済発展が著しい武漢市を舞台に、事故死した女子大生、彼女と最後に接触した二つの家庭を持つ男、彼の妻と愛人が織り成す複雑な物語がスキャンダラスに展開する。


 

雨宮まみ(以下、雨宮):この作品には、夫、妻、愛人という主に三人の登場人物がいますが、誰かの視点に偏るのではなく、均等かつ客観的に描かれていて、三者全員の気持ちが凄くわかる、という印象を持ちました。誰の選択が正しいとか、誰の生き方が正しいとかではなくて、それぞれの瞬間や状況を描く作品として意識して観たのですが、その辺りはどう思われますか?




雨宮まみ氏

雨宮まみ氏


ロウ・イエ監督(以下、ロウ):誰もがあのような行為、行動を起こす可能性があり、その結果、失敗に終わることがある。ですから、この映画を作るにあたっては、決して製作者の色眼鏡で見ない、余計な道徳、倫理観は持ち込まず、まずは、その人物を観察する、そういう気持ちで作品を作り始めていきました。



雨宮:そこが素晴らしかったですね。日本では、建前はクリーンだけれど、実際は不倫や浮気もあるし、二重生活まではいかなくても何人もの異性と関係を持っている人もいる。ただ日本では、正しい結婚観、正しい恋愛観が重要視されていて、浮気をされても「そんな男とつき合うのが馬鹿なんだ」と安易な自己責任論にされたり、「一人の男と落ち着いて幸せになるのがいい」と昔ながらの定番の幸せを推奨されていて、この作品で描かれているような男女関係を受け入れる女性は、とても愚かなものとして受け止められているんです。



ロウ:男女問わず、人は二面性を持っています。結婚はプロセスであって、結果ではない。映画では、満たされない結婚を二重生活で解決しようとしますが、うまくいくはずがない。現状から逃げる生き方は、愛も自由も守ってはいけないんですね。この映画で最も重要なのは、「虚構」と「真実」との落差。そしてもう一つ、彼らの犠牲となって事故死した女子大生の姿に「生」と「死」という意味も込められているんです。




映画『二重生活』より

雨宮まみ氏


愛は言葉で表現できない、

強いて言うなら、体が感じることだと思う(ロウ監督)



雨宮:愛に苦しみ、満たされない主人公は、ロウ監督の作品にとって欠かせない存在だと思うのですが、監督にとって、ずばり恋愛とは何ですか?



ロウ:うーん、それはすぐには答えられないですね。一言二言では表現できない(笑)。はっきりと言えないからこそリアルだし、説明できないからこそ恋愛映画が次々と作られるんだと思います。ただ、強いて言うなら「愛とは、体が感じること」。好きな人と一緒にいたいと思うことも、体が感じることではないでしょうか。それはちょうど観客と映画の関係と同じで、観客は視覚・聴覚を使い体験することで映画との交流が成立する。ですから僕は映画を作り続けているのです。



雨宮:苦しさを生々しく感じる一方で、そんなに苦しみ抜くほど夢中になれる恋愛をしていることがうらやましくもあるんですが、幸せを感じる状態、充実感のある状態って、どんな状態なのでしょうね。



ロウ:例えば、『天安門、恋人たち』の主人公ユー・ホンは、愛について悩み、苦しむわけですが、その反面、彼女はその状態を楽しんでいるかのようでもある。苦しみを楽しむ、これは往々にしてあると思いますね。逆に本作のヨンチャオのように女性と遊びまわっていても満足できない者もいる。人間には表面ではわからない、いろんな側面がある。私も5年間の中国での映画撮影禁止令は確かに苦しかったですが、その状況を利用して、アメリカのアイオワ大学で映画史を学んだり、新作の『ブラインド・マッサージ』の原作者と出会ったり、楽しいことや収穫もありました。何より、『スプリング・フィーバー』と『パリ、ただよう花』の2本を自由に撮れましたしね(笑)。




雨宮:まさに苦しい時間を楽しむ……ロウ監督ってタフですね!




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映画『二重生活』より




映画製作・上映禁止令といえば、天安門事件に触れたこともそうだが、中国ではタブーとされていた過激な性描写も原因の一つ。雨宮氏も、そこがどうしても気になる様子で、とくに男性の肉体が美しすぎると感嘆する。



雨宮:ロウ監督の作品は、男性の裸の撮り方がとても魅力的なのですが、男女の別なく人の体の魅力をどう捉えているのでしょう。



ロウ:人の体を描くことは、映画にとってとても大切なこと。体というのは、その人物を描く上で非常に重要な情報になる。そして、その情報が詰め込まれた映画というものは、非常に力を持っている。ただし、そこには、国からのさまざまな制限が加わってくる。なぜ、政治家たちは映画を恐れるのか、それは力を持っているからなんですね。彼らにとって映画は、記録するものでもなく、芸術でもなく、社会を揺るがすニュース。私は電影局とよくぶつかり合いますが、「映画はそんなに重要なものではない、だから怖がらないでください」と、よく言うんです。そう言っておけば、映画がパスし易くなるかと思ってね(笑)。




対談終了後、観客との質疑応答の中で、いくら理屈を積まれてもヨンチャオの行動が腑に落ちないという女性から、「彼はいったい何を求めているのか?」という質問が投げ掛けられた。宮台真司氏との対談でも出ていた疑問だ。これに対してロウ監督は、「彼は求めているものにまだ出会っていない。そして、自分が欲しているものを探す中で、さまざまな女性を傷つけてしまう」と真摯に答えた。裕福な生活、本妻と愛人、それでも飽き足らず女子大生にまで手を出す心の渇き……人間の心に内在する捉えようのない「闇」は、今後も議論を呼びそうだ。




(2015年1月25日、渋谷アップリンクにて 取材・文・写真:坂田正樹)











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http://www.webdice.jp/dice/detail/4571/










映画『二重生活』

新宿K's cinema、渋谷アップリンクほか

全国順次公開中




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監督・脚本:ロウ・イエ

脚本:メイ・フォン、ユ・ファン

撮影:ツアン・チアン

編集:シモン・ジャケ

音楽:ペイマン・ヤズダニアン

出演:ハオ・レイ、チン・ハオ、チー・シー、ズー・フォン、ジョウ・イエワン、チャン・ファンユアン、チュー・イン

配給・宣伝:アップリンク

原題:Mystery(浮城謎事)

2012年/中国、フランス/98分/1:1.85/DCP



公式HP:http://www.uplink.co.jp/nijyuu/






▼映画『二重生活』予告編

[youtube:Z58mbWAgVMY]

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