2014年10月6日、HMV record shop 渋谷にて、来日中のDAMのメンバー、マフムード・ジュレイリ(右)、スヘール・ナッファール(左)
パレスチナ史上初のヒップホップ・グループ、DAMが初の来日公演が10月7日(火)渋谷WWWを皮切りに行なわれる。自身もパレスチナにルーツを持つジャッキー・リーム・サッローム監督が、パレスチナのヒップホップ・ムーブメントを追ったドキュメンタリー映画『自由と壁とヒップホップ』により、日本でも一躍その存在を知らしめた彼ら。MotionGalleryでの来日ツアープロジェクトで2,169,500円を集め、ジャパン・ツアーが実現した。
今回は残念ながらメンバーのターメル・ナッファールが急病により来日ができなくなってしまったため、スヘール・ナッファール、マフムード・ジュレイリの2MCでのパフォーマンスとなる。ツアー開催にあたり、マフムード・ジュレイリに現地の状況について、そして自身の表現について聞いた。
なお、ツアー終了後の10月11日(日)には代官山「山羊に、聞く?」にてフェアウェル・パーティーも開催されることが決定、彼らと直接接することができる貴重な機会となっている。
また、現在『自由と壁とヒップホップ』を上映中の渋谷アップリンクでは、10月12日(日)12:50の回上映後にDAM、ジャッキー・リーム・サッローム監督を迎えてのトークショーも行われる。
リアリティはいつも僕らの音楽に影響を与える
──『自由と壁とヒップホップ』で描かれているように、あなたがたはイスラエルの街リッダを拠点とし、パレスチナ人でありながらイスラエルのパスポートを持ち、ガザでライヴすることはできない、という特殊な環境に置かれています。7月8日から8月26日の停戦合意まで続いたイスラエルとパレスチナ自治区ガザの大規模な戦闘の間、どんなことを考えていましたか?
世界の人々がこの戦闘を監視し、人々がガザについて話すことはできたり、メディアを見たりすることはできても、ガザに住む150万のパレスチナ人の状況を現実に変えることができないでいます。
映画『自由と壁とヒップホップ』より
──今回のガザでの出来事は、これからのあなたがたのリリックのテーマにどう影響するでしょうか?
リアリティはいつも僕らの音楽に影響を与えます。1948年にイギリスによる委任統治が終了し、イスラエルが誕生したときから始まった「争い」について、いつも語ってきました。僕らはアーティストとして、愛についてやダンスについて歌いたいときでも、ドラッグや犯罪、悪事が蔓延するリッドの暮らしを曲にしてきました。
でも、先日の空爆についてはあまり語りたくありません。2008年や2012年の空爆については、僕らは曲にしました。でも今回の出来事はもはや歌にできない。それは……多くの血が流れ、多くの子どもが殺されたのを目の当たりにして、僕の音楽に何ができるだろう、と思ったからです。そう考えることはたぶん間違いだと思います。このまま停戦の状態が続いてほしいと願っていますが、根本的な解決がされていないので、また戦闘は起こるでしょう。
僕たちはパレスチナの現実を、音楽を通して伝えたいと活動してきました。音楽は僕らが生きているこの世界で起こっていることを説明するための手段です。全ての人がそれぞれの方法で何か行動を起こしてほしい。それこそが、これからのイスラエルとパレスチナの戦争を止める方法だと思います。
映画『自由と壁とヒップホップ』より
──パレスチナを描いた映画といえば、日本では2015年にアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたハニ・アブ・アサド監督の『オマール、最後の選択』が公開されます。この作品はご覧になりましたか?
はい、彼とはとてもよい友だちなんです。彼のドキュメンタリー映画『Ford Transit』(2002)では僕らの音楽が使われました。『オマール』は素晴らしい作品です。実は『オマール』でもDAMの音楽が使われる予定だったのですが、最終的に監督の判断で本編には使用されませんでした。
──『自由と壁とヒップホップ』は、若い人々にとってパレスチナ、イスラエルの状況をわかりやすく伝える作品だと思います。
そうですね、僕らは普段の言葉で語っているから。音楽は人をグローバルに繋ぐことができます。パレスチナの映画シーンは、全体として人々を繋ぐ感情を伝える方向に変わってきていると感じています。CNNやBBCが報道するようなやり方では音楽もカルチャーも見えません。しかし、映画や音楽は人々がどう生きているか、それを伝えることができます。それが状況を変えるための最も強い方法なのです。
(2014年10月6日、渋谷東急インにて インタビュー・文:駒井憲嗣)
DAM プロフィール
パレスチナ最初のHIPHOPグループであり、アラビア語ラップの先駆者。2パックなどアメリカのHIPHOPアーティストに憧れ、1990年代の後半からグループを結成し、歌い始める。2000年に占領地で勃発した第2次インティファーダ(イスラエルの支配に抵抗する民衆蜂起)に触発されて制作した「誰がテロリスト?(Who's the terrorist?)」をネット公開したところ、たちまち100万回以上のダウンロードを記録し、DAMの名前はまたたく間に中東の若者のあいだに浸透した。彼らは世界各地で公演を行う傍ら、故郷のリッダで、近郊の集落もふくめたアラブ系の若者たちや、イスラエルのパレスチナ人に閉ざされているチャンスや教育を与えるため活動。地域社会におけるリーダーの役割も引き受けている。 今年8月、セカンド・アルバム『DABKE ON THE MOON』の日本盤をTuff Beatsよりリリース。
公式HP:http://www.damrap.com
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アラブ人といえば民族紛争というステレオタイプに挑戦、パレスチナのヒップホップ誕生の瞬間を活写する:ジャッキー・リーム・サッローム監督インタビュー(2013-12-13)
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パレスチナ初のヒップホップ・グループDAM来日招聘クラウドファンティング(2014-05-21)
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DAM Japan Tour 2014
2014年10月7日(火)渋谷WWW
http://www-shibuya.jp/schedule/1410/005539.html
2014年10月8日(水)大阪CONPASS
http://www.conpass.jp/5642.html
2014年10月9日(木)京都METRO
http://www.metro.ne.jp/schedule/2014/10/09/index.html
2014年10月10日(金)横浜Thumbs Up
http://stovesyokohama.com/thumbsup/live201410_1-15.html
主催:シグロ
企画:シグロ/Tuff Beats/LIVIZM
制作:LIVIZM
映画『自由と壁とヒップホップ』
渋谷アップリンクにて上映中
10月12日(日)12:50の回上映後トークショーあり!
ゲスト:DAM、ジャッキー・リーム・サッローム監督
http://www.uplink.co.jp/movie/2014/22701
監督:ジャッキー・リーム・サッローム
製作:ラムズィ・アラージ、ジャッキー・リーム・サッローム、ワリード・ザイタル
編集:ジャッキー・リーム・サッローム、ワリード・ザイタル
ナレーション:スヘール・ナッファール(DAM)
出演:DAM、マフムード・シャラビ、PR、ARAPEYAT、アビール・ズィナーティ
2008年/パレスチナ・アメリカ/デジタル/カラー/アラビア語・英語・ヘブライ語/86分
字幕翻訳:吉田ひなこ
字幕監修:田浪亜央江
配給:シグロ
宣伝:スリーピン、シグロ
公式HP:http://www.cine.co.jp/slingshots_hiphop/
公式Facebook:https://www.facebook.com/slingshotshiphop
公式Twitter:https://twitter.com/slingshothiphop
映画『オマール、最後の選択』
2015年公開決定
占領下のパレスチナに暮らす若者たちの一筋縄ではいかない友情や恋、そして、死んで英雄になるか、裏切り者として生きるのかという究極の選択を迫られ苦悩する青年オマールの状況を、切実に、サスペンスフルに描く。監督は、自爆攻撃へ向かう若者たちを描き、2006年ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞、2006年アカデミー賞外国語部門にノミネートされた『パラダイス・ナウ』のハニ・アブ・アサド。
アカデミー賞外国語映画部門(パレスチナ代表)ノミネート
カンヌ国際映画祭ある視点部門 審査員賞受賞
監督・脚本・製作:ハニ・アブ・アサド
撮影:エハブ・アッサル
編集:マーティン・ブリンクラー、イヤス・サルマン
出演:アダム・バクリ、ワリード・ズエイター、リーム・リューバニ、サメール・ビシャラット、エヤド・ホーラーニ ほか
2013年/パレスチナ/アラビア語・ヘブライ語/カラー/ドルビーデジタルSRD 5.1/スコープサイズ/DCP/97分
▼映画『自由と壁とヒップホップ』予告編
[youtube:4lml2aE74iI]
▼映画『オマール、最後の選択』海外版予告編
[youtube:WJn7vCy9M6Y]