ろくでなし子さん
7月12日、3Dプリンターで自分の女性器の造形を出力できるデータを配布したとして「わいせつ電磁的記録媒体頒布罪」の疑いで警視庁小岩署に逮捕・勾留され、7月18日に釈放された漫画家のろくでなし子さん。
なし子さんは、クラウドファンディング・サイト「CAMPFIRE」において行われた「マンボート」制作プロジェクトで、3,000円以上の募金を行った30人に、お礼としてマンボート制作のためにスキャナーで読み取った、自らの女性器の3Dプリンター用のデータをダウンロード可能なURLを「CAMPFIRE」のサーバーから一斉送信。7日間限定のストレージサービスを使用したため、その後、募金した人から「データをもらっていない」という問い合わせがあり、3月18日、1月にスタートしたなし子さんの女性器の3Dデータを使ってプロダクトデザインまんこ作品を作るという「デジまんコンテスト」の応募者への告知とともに、届いていないという人への案内を掲載。3月20日に、問い合わせのあった人にダウンロードできるURLをEメールで再送信した。今回の逮捕容疑は、このメールに関してとされている。
この事件については、なし子さんが各メディアでの取材や外国人記者クラブでの記者会見を行い、「日本での『女性器は隠して当たり前』という常識を覆すために活動を続けてきた」と自身の表現活動について説明している。
webDICE編集部では、今回の逮捕について、そして自身の表現活動について、これまでのなし子さんの報道のまとめとともに、直接なし子さんと須見健矢弁護士に話を聞いた。
■逮捕の経緯
──まず今回のクラウドファンディング・サイト「CAMPFIRE」でのプロジェクトについて教えてください。
ろくでなし子(以下、なし子):アート活動の一環として行っていた『わたしの「まん中」を3Dスキャンして、世界初の夢のマンボートを作る計画に支援を!」というプロジェクトのファンドをスタートし、6月25日に合計125人の参加によりサクセスしました。協力に対するリターンとして、3,000円以上の人へのお礼として、3Dデータを配布しました。3,000円以上の寄付は65人でした。データ自体を送ったように取られがちなんですけれど、firestorageでオンライン上に保管してあるデータを7日間以内にダウンロードすれば開ける、というURLを送ったんです。クリックすればダウンロードできますが、7日間以内にしないと自動的に消滅します。
CAMPFIREプロジェクトページより
【CAMPFIRE】
わたしの「まん中」を3Dスキャンして、世界初の夢のマンボートを作る計画
目標金額514,800円 達成額1,000,000円
http://camp-fire.jp/projects/view/662
──何人がそれをダウンロードしていたのですか。
なし子:私は把握していないです。警察発表の30数人は、URLを送った人で、何人が実際に開けたかは不明なんです。憶測で、送った人のなかに友人もいたので、聞いてみたんですけれど、開けてないという人がけっこういて。これは去年の9月に資金が集まってサクセスしたプロジェクトなんですが、警察は2014年の3月20日に送ったというデータを問題にしていまして、確かなことは覚えていなんですけれど「このプロジェクトに支援したのにデータもらってないよ」という人が何人かいたんです。支援して下さった方がたくさんいて、アカウントやお名前を覚えきれなかったので、そう言われたら、とりあえず送っていたんです。それとは別に、1月から行っていた「デジまんコンテスト」の応募者にもデータを送っていましたので、警察が問題にしている香川県のSさんという男性がどのようにメールを受け取ったのか、そしてSさんが警察関係者で垂れ込んだのかどうかは分からないです。
須見健矢弁護士(以下、須見):もらってないという人のためにホームページで告知をしたことも、警察がかぎつけた理由にあったと思います。
【ろくでなし子公式HP】
デジまんコンテストご応募者さまへ(2014年3月18日)
この日のエントリーで、3Dデータが届いていないというCAMPIRE協力者へ告知を行った
http://6d745.com/2014/03/18/デジまんコンテストご応募者さまへ/
なし子:それから去年から週刊現代や週刊ポストといった男性週刊誌がずっと「女性器特集」という特集を組んでいたなかに、ときどき私も出ていたんですよ。
週刊現代2013年8.17・24合併号に掲載された女性器特集記事より
須見:こういう犯罪が行われている可能性があるということで裁判所から令状をとったかもしれないですが、そこまでは把握できないです。そのSさんという人が訴えたのではなく、警察が調べたら、Sさんがダウンロードしていることが分かったということだと思います。
──ブログを読めば3Dデータを配布していることが分かる。クラウドファンドでお金を払っていないけれど「届いていない」と連絡した人にも送った可能性もある、ということですね。
須見:はい。だから、なにかのきっかけで捜査令状を取ってfirestorageに情報を開示しろといったのかもしれないですが、そのあたりは裁判になってみないと分からないです。証拠が出てきませんから。
■逮捕そして留置所での生活
──逮捕されたのはいつですか?
なし子:7月12日土曜日の朝に自宅にガサ入れが来ました。作品やそれに関連する書類、「今年の目標」を書いた紙とかそんなの持ってくのか、というようなものまで持っていかれました。
──その今年の目標は何だったんですか?
なし子:「まん個展を成功させる」とか「まんこアプリゲームを作る」とか「まんこを世界に発信する」と書いてあって、今となってみれば、全部叶った!と思うんですけれど。あと「レディー・ガガと友達になる」と書いてあって。
須見:通常の逮捕状が家宅捜査と同時に出ていたので、警察はその場で逮捕でした。
なし子:警察はガサ入れのときにまんこと言えなくて。「これは五十嵐さんのあそこですか」と確認されて、「わたしのまんこです」とずっと言っていたんです。そうしたら後半まんこ麻痺してきて、「まんここっちにもありました」とか言っていて。
ガサ入れは12時くらいまでやっていて、その後、「そのまんまでいいから行くよ」と言われて。私その前の日に風呂に入っていなかったので「いやちょっとこんなんじゃ」と言ったんですけれど「いいからいいから」とどうでもいいような感じで連れていかれそうになって。ぜったいこれは2chで祭りになると思ったので、制止をとめて顔だけは作っていったんです。「今言いたいことは?」と聞かれ、出る直前に手錠をかけられました。そうしたら案の定、小岩署に入る直前のところで写真を撮られました。
──なぜマスコミがなし子さんが逮捕されることが分かったんでしょう?
なし子:警察がリークしているからとしか考えられないです。「けっこう人来てたね」とか言っちゃって。
小岩署に向かっているはずなのに、乗った車のカーナビが超ボロくて、行くまでに散々道に迷っていて。「今用賀駅に向かってます」って誰かとやりとりしているんですけど、どう考えても反対の方走っていて。土地勘がぜんぜんないんですよ。
ファンドをしてくれた人とのやりとり、留置所での様子については下記も参照
【弁護士ドットコム】
「留置場はひどいところだった」ろくでなし子さん、外国記者の質問に答える(全文)(2014.7.29)
http://www.bengo4.com/topics/1842/
――選挙に出る気はあるか?(フランス10・男性記者)
ろくでなし子:「まんこ党・・・ですか?(笑) 弁護士さんと相談します(笑)」
ろくでなし子:「お風呂に、この夏の季節に、週2日しか入れないんですよ。あと、私は痔持ちなんですけれども(笑)、トイレで、痔がちょっと痛いんでボラギノールとかくださいっていったんですが、そんなものはないと言われ・・・。痔の人はどうしたらいいんですかって言ったら、月2回の健康診断の日まで待てと言われました。あとですね、いろいろな病気を持っている方とも部屋が一緒になってしまうんですが、たとえば、水虫を持っている人とかと同じ部屋になったりして、とても移ってしまうんじゃないかと不安と怖さがあります。まだ、いろいろあるんですけれども・・・マンガにします」(会見全文より)
──小岩署についてから、なにをしたのですか?
なし子:署に着いたのは14時近かったのですが、供述調書として、自分の生い立ちから、なぜこのアートをやることになったのかという動機と、今後もどうしたいかというのを聞かれたんですけれど、調書をとるまえに黙秘権を伝えることをしていなかったんです。なのに、供述調書がフォーマットになってプリントアウトされたときに「私は黙秘権を聞きました」という文になっていて。「聞いてないです」と言ったら「いいじゃん」と言われたので、「よくない!」っと言い返して。「私は黙秘権を聞いてません。しぶしぶ後から聞いて了解しました」という文章に直してもらって、署名しました。
そして、「あんたのやっていることをわいせつと認めた記録だから」と科捜研の書類を見せられて、「これ見てどう思う?」と言われたんですけれど、あとで先生に聞いたら、データを3Dソフトに入れれば開ける、ということを証明する書類だったらしいんです。でもそこに署名している科捜研の人の名前が男3人だったので、「これ男が3人で、女の人が入っていないから公平じゃない。ぜったいわいせつじゃない」と認めなかったんです。それも供述調書に書いてあるかは、覚えていないんですけれど。
──最初の供述のときはなにをしゃべったのですか?
なし子:「CAMPFIRE」になぜ出したのか、という話だったと思います。そしてこれからもアーティスト活動を続けていきますと。
──警察は真剣になし子さんのことを犯罪者だと思っていたのでしょうか?
なし子:単に私がへこたれるのを、すいませんでしたというのを待っていたんじゃないかなと思います。
──アートとして女性器を作っている理由をどのように説明したのですか?
なし子:その経緯は私のマンガ『デコまん』に詳しく書いてあります。漫画家として、ビラビラを切除する整形まんこのマンガを書いたんです。それがネタとして面白いから、3話のマンガにしたんですけれど、出版社の人から「続きを書け」と言われて、じゃあ型でもとってみよう、さらにそれを装飾してみようと。型は直接やったら痛いので、歯の型をとるときのような素材で型をとって、それを石膏にしてデコレーションをしていたんです。
ろくでなし子『デコまん』より
ろくでなし子さんの書籍『デコまん』は現在Kindleで発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/B00LTJM01I/webdice-22
漫画家ろくでなし子が、自分の女性器を型取り石こうしてデコレーションする「でこマン」というアート活動を行なうことになるまでを描く物語。田舎の平凡な女の子で自身の容姿にコンプレックスを感じていたろくでなし子は、ブサイクな自分とさよならするため東京で整形することを夢見る。東京の大学に進学しサークルでアイドル的人気となったものの、彼氏から陰毛について指摘され自信を失ってしまう。漫画家への道を進みはじめたたなし子は、美しいまんこを目指し陰毛のエステ、そして性器の整形美容を行なうことを決意する。手術により自分の大事な部分を心から好きになり、自分に自信を持てるようになった彼女は、「でこマン」として、女性器を型にとって発表するという表現を生み出す。これは性の開放をうながす活動になると感じた彼女は、この活動をライフワークとすることを決め、まんこをテーマにしたアート作品を次々と発表。海外のアートイベントにも出品し、世界へまんこアートを発信していく。
それがネットのニュースになったときに、2ちゃんねるでめちゃくちゃ叩かれて。まんこ全否定みたいな感じで、なんでここまでまんこが叩かれなきゃいけないんだと、そこから真剣にやるようになりました。でも「隠蔽するなら嫌なものを見せてやろうと思った」というところに飛躍されると困るんです、見せたくてやってるのではなくて、まんこがなぜだめなのか、ということをまんこの形のボートを作るとか、ばかばかいしことをやることを通して伝えたいんです。
──今の社会で「まんこ権」を求めて作品化しているということですね。
なし子:それが今回、犯罪とされてしまったんです。取り調べの後、供述調書を間違っていないか警察官が朗読するのですが「女性器って言っていいですか?」と聞かれたのですが「ダメです、この通り言ってください」と言って。
──それこそなし子さんがやろうとしていたアートじゃないですか。
なし子:そうです、国家権力にまんこと言わせた(笑)。
──供述調書にもまんこと出てくるのですか。
なし子:女性器というのをまんこに書き直してもらったんです。ぜったいこれ裁判になったら、言うんだろうなと思ったので。プリントアウトされたたときに、ぜんぶまんこにしてもらいました。
──その時点では3Dデータといっても、画像ではなくデジタルデータですよね。それがどうして女性器だと分かるのですか?
なし子:調書を取られるときに、科捜研が開けますよ、という証明みたいな書類を見せられました。
──科捜研はわいせつだと言っているわけではなく、このデータは3Dソフトで開けば女性器の立体になるであろう、ということですか。
なし子:私も取り調べの際に、警察官から画像を示されて分かったのですが、立体といっても、超リアルなものではなく、3D化しているモブみたいな、白っぽい板状の表面が凸凹したもので、それも画面で見えるのはプレビュー画像です。実際にプリントして出てくるのは立体の板状のものなんです。
インタビュー当日になし子さんが書いた、データを3Dプリンターで出力したらできるであろうモノ
──最初は弁護士もお金がかかると騙されてつけることができず、その後担当になった須見先生はたまたま当番だった?
須見:そうです。もちろん(当番弁護士に)登録しているくらいですから刑事事件一般はやっておりますが。
なし子:最初に須見先生と会って、何をやったか説明するときに、まんこのアートといってもポカーンとされていて。説明が難しかったです。それに須見先生はまだまんこと言えないんです。
──いまは世界が注目する事件の弁護士となりましたが、初めはどのように感じましたか?
須見:最初は変な事件だなと思いました。私は失礼ながら、なし子さんのことはまったく知らなかったんです。本名で派遣の依頼が来るのですが「五十嵐恵さん(なし子さんの本名)のために当番弁護士行ってください」と言わて、たぶんエロ本かなんかさばいて捕まったのかな、と思っていました。行ったら「私、ろくでなし子の名前でこういうことをやっています」ということで、彼女の話を聞いていたら、「突拍子もないことをやってるなぁ」と笑ってしまったんです。それと同時に、警察はよくこんなので捕まえたなと思いました。よくよく聞いたら科捜研の話とか、いかにも騙していることが分かりました。
なし子:1泊する前はぜったい闘うつもりだったのですが、携帯も取り上げられて誰も味方と連絡がとれなくなって孤独になったときに、心が折れて。同じ部屋の人に「その罪だったら認めたら罰金15万円だよ」と言われて、「認めちゃったら早く出れますかね」ということも言ってたから。
──須見先生はマンボートやまんこちゃんといったなし子さんの作品を見てどう思いましたか?
須見:普通にかわいいなと思います。別にはしたないというイメージはないです。この3Dプリンターで出力したものを手形のように並べたとしてもも何か分からないと思うんです。知ってるからあそこだと分かる。マンボートはガサ入れで、上の部分を押収されました。
ろくでなし子さんのブログより、押収されたマンボートの上部
──なぜ2日目からすぐは出せなかったのですか?
須見:72時間の逮捕に対しては不服申し立ての手段はありません。勾留されて初めて、不服申立てができる。もちろんいろんな手段はとって、勾留するなといっても勾留されてしまったわけです。勾留に対する準抗告(不服申立手続き)はいろんな準備をしていかなければいけないので、それに3日くらいかかったということです。それまでに調書がもうできているから、これ以上は釈放しても証拠隠滅の恐れがないという判断になっているので、もし勾留直後にやっても、必要な捜査が終わっていないと言われてだめだった可能性があるんです。だからタイミング的にはちょうどよかったと思います。
──何の容疑で逮捕状をとったと言われたのですか?
須見:逮捕状は、なし子さんがメールにわいせつな3Dデータを貼付して送ったということでした。
──正確には、3DデータをダウンロードできるURLを送ったということですが、警察発表は貼付しているということになっていますよね。
須見:そのような報道になっていますが、勾留したときになし子さんの指摘で修正されました。
なし子:何度も説明しても誤解していたんです。firestorageと「CAMPFIRE」を混同していたり、firestorageの概念さえ分かっていなかった。クラウドファンドのなかのひとつのサイトが「CAMPFIRE」なのに、何度も説明した後に「サイト名クラウドファンド」がと供述書に書いてあって、まったく話が通じていなかったんです。
──それは「新宿歌舞伎町のあの本屋に行けば、無修正のエロ本が買えるよ」という地図のようなもので、住所を教えているだけですよね。
なし子:しかも7日以内に開かなければないよ、ということです。
須見:そう言いたいんですけれど、平成23年度の刑法改正のときに、電磁的記録自体が明確にわいせつ物頒布の対象物になってしまったんです。
【刑法175条】
175条1項 わいせつな文書,図画,電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し,又は公然と陳列した者
→ 2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料 又は懲役及び罰金を併科
電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者
→ 同様(2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料 又は懲役及び罰金を併科)
2項 有償で頒布する目的で,前項の物を所持し,又は同項の電磁的記録を保管した者
→ 同様(2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料 又は懲役及び罰金を併科)
http://park.geocities.jp/funotch/keiho/kakuron/shakaihoueki3/fuzoku1/22/175.html
──今回は頒布ではなく、ある場所を教えただけなのに、犯罪になるのですか?
須見:そこはこれから法律論を主張するところですね。だから、おっしゃるような理解に基づけば頒布じゃないと言えます。動画がダウンロードできるエロサイトは、サイト側が送信しているというよりも、会員側が受信しているんだから送信じゃないんじゃないかと争われた裁判例があります。結果的にはそれも送信にあたるという判断となった。その事案だと海外にサーバーを置いて、日本にダウンロードできるようにしたことが送信にあたる、ということになっているんです。
──わいせつ物を頒布したという刑法175条で逮捕したということですよね。まず僕は、URLを教えたことが頒布したことに、拡大解釈すれば繋がるのはなんとなく分かるけれど、ウラビデオを売っている場所の地図を教えただけじゃないというようにも思えました。そして、貼付じゃなくダウンロードさせたものが、3Dプリンターで出力するためのデータなわけですよね。これがわいせつかどうかというと、どう考えてもデータ自体は僕はわいせつじゃないと思います。
なし子:私もそう思います。
──もし検察が起訴したら再審制度により高裁、最高裁まで7、8年はぜったいかかるでしょう。僕が闘ったメイプルソープの裁判の場合は関税定率法69条だったので、刑法175条ではなかったんですが「わいせつ」という概念では同じです。自分の裁判の経験から、わいせつの概念は、時代ごとに裁判によってアップデートしていく。これは「裁判の判例でその時代ごとに社会が決めていきなさい」という、法律を作った人の声だと僕は理解したんです。だから裁判することは、法律を作った人が望んでいることだと思います。時代によって判例を作って、ここまでは見せていいんだよって。
かつてわいせつだと言われた「四畳半襖の下張」も今はわいせつではないし、ヘアヌードは、篠山紀信さんによる樋口可南子と宮沢りえの写真集で一気にオープンになった。性器に関しても昔の概念とぜんぜん違う。裁判することはいいことだと思うんだけれど、でも手間はかかります。
例えば『ラヴァーズ・ガイド』というHow To Sexの本は日本で普通に出版されています。そこには女性器も男性器も正面からカラー写真で掲載されています。メイプルソープの写真集は男性器が写っていますが最高裁でわいせつではないと結論が出ています。刑法175条でいうわいせつという概念は、性器をわいせつだとは言っていません。だってもし性器がわいせつだったら、人の存在自体がわいせつですよね。しかも駅に貼ってあるポスターやコンビニで売っている雑誌ではなく、なし子さんのケースは本人とやりとりした人だけに、合意の上でデータを渡しているので、不特定多数に配っているわけではない。わいせつという概念は完全に恣意的なもので、みんなの性器は、ある時はわいせつ物にもなるし、あるときはそうでないと。
なし子:私はそれを主張しています。今回は被害者もいないですし。3Dデータで新しい事例を出したいのではないでしょうか。
──先日お台場のライヴ・イベントの展示会で、裸眼で立体に見えるホログラムで等身大のダンサーが踊ってるのを見たんです。彼女がストリップしたり股を広げたらいったいどうなるんだろうと。3Dもホログラムも元はデジタルのデータだから、データを持っていること自体がわいせつになるのか、あるいはデータを海外から輸入したり、あるいは誰かに売ったりしたら法に反するのか。それをどんどんSF的に発展させて、ろくでなし子さんをクローン技術でコピーをひとつ作って、そのコピーを300万で売りますといったら、それもダメになるのか。国家は3Dプリンターに恐怖感を抱いているんでしょうか。
【朝日新聞】
容疑者、米ネット情報を利用 3Dプリンターで銃自作(2014.5.9)
http://www.asahi.com/articles/ASG585F65G58ULOB00T.html
須見:そのような見方もありますけれど、予防するという意図もあるのかなと。例えばAV女優の誰々さんの女性器を販売するとか、そうしたことを氾濫していくのを防ごうとみせしめに逮捕したんじゃないかと思うんです。
なし子: AV女優のまんこの型をとったオナホールとか、既に売っています。3Dデータではなく手どりでかたどったのを量産しているんだと思うんですけれど。
──権力サイドは何を怖がっているんでしょうか。
なし子:まんこという3文字。産経のニュース記事に載っていた「思想犯」という呼び名がばからしくて。権力はまんこを怖がりすぎなんです。
【警察発表を元に書かれた産経新聞記事より】
「女性器の3Dデータは「わいせつ物」か「芸術」か ろくでなし子氏逮捕の深層」
(2014.8.3)
捜査関係者は「取り調べ中にも何度も直截的な表現で自説を唱えていた。この3文字がこれだけ記載された供述調書は初めて。わいせつ犯というより思想犯だ」と苦笑する。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140803/crm14080318000001-n4.htm
──裁判所はなぜこんな案件で逮捕状を出すのですか?
須見:逮捕の要件というのは、罪を犯したと認める相当な理由というだけなので。ホームページの資料を見てわいせつにあたるという証拠にしたのかなと思います。その時点で、警察は逮捕状をもらうために裁判所にも証拠を出しているんです。
なし子さんは裁判官とも、勾留を決めるかどうかで会いました。その時点で裁判官宛に私のほうで勾留請求却下の意見書は出しているのですが、結局通らなかったんです。彼女がいろいろ自説を述べたんだけれど「あなたの思想は聞いてない」と言って、勾留するということになったんです。
なし子:検察もクラウドファンドの意味を分かっていませんでしたが、裁判官もそうだったんです。概念を知らなすぎる。検察は女性の方で、私のやってる活動そのものについて、ポカーンという感じでした。
須見:その後、準抗告となりましたが準抗告というのは勾留した裁判官ではなく、同じ東京地裁の3人の裁判官の合議体で勾留が間違ってないかどうかというのを確かめます。普通なら高裁みたいな立場ですよね。控訴審みたいな。そこに申し立てをして、勾留の決定自体が間違っていたという判断だったんです。
──最初の裁判官が間違っていたということですね。
須見:形式上はそうなんですけれど、ただ、勾留されてから3日間日数が経ってから判断しますので、いま出しても何も証拠隠滅できるものがないだろうということも理由にあったと思います。準抗告の場合は、判断する時点で勾留する必要があるかを判断することになっているんです。
──最初に逮捕状を出した裁判官は将来の出世に影響するのですか?
須見:それはわかりません。
──なぜ釈放された現在も取り調べがあるのですか?
なし子:まだ無罪放免になったわけではなく、起訴不起訴の処分が決まってないからです。
──裁判の費用はどうするのですか?
須見:弁護士も増え5、6人態勢となっていますが、今のところ、支援してくれる方たちのお金で賄っています。
──彼らにとってまんこという言葉や概念自体が社会を揺るがすインパクトがあるということなわけですね。なし子さんの逮捕自体が現代アート、国家権力の口からまんこと言わせたというパフォーマンスですよね。このアートを続けてもらうために、心のなかでは起訴してほしいと思ってしまいます。
なし子:私も闘いたいです。でも浅井さんのメイプルソープ裁判のように、8年はいやですね。
須見:やはり、なし子さんの普段の生活でいろいろな不自由や制約がありますから。
なし子:いちおううかつなことを言えないから仕事もセーブされてしまっていて。
──僕の場合はメイプルソープの写真集をいったん海外に持ちだして、日本に輸入してはダメだと言われたので、原告が僕、被告が国で、行政訴訟として、国を相手に裁判を起こしたんです。僕が今回の3Dデータをもらって海外に持っていって、成田空港で「このUSBにいま問題になっているなし子さんのまんこデータが入ってるんですけれど、このまま日本に持ち込んでいいですか」と言えば、税関が「これはダメです」と言ったら、「それはおかしい」と行政訴訟を起こせます。確かに175条の被告人扱いされているのと、国を訴える側とはぜんぜん心の持ち方が違うので。
須見:なし子さんは現在、警察から犯罪者であると言われています。もし裁判になって有罪とされた場合でも、長期間刑務所に行くような事案ではありませんが、やはり裁判になった場合の負担は大きいので、不起訴で終わらせたいと思います。
──大家さんが出ていってほしいと言ったり、仕事関係にマイナスにならないんだったら、裁判は弁護士さんにまかせておけば、裁判が長引いても問題ないと思いますよ。
なし子:それが東京砂漠で、私が捕まったこと大家さんやマンションの誰もぜんぜん気づいていないんですよ。普通に歩いていても特になにもないですし。マンガは書きたいです。せっかく留置所であれやこれやあったので。女性の留置所体験記はあまりないですし。さっきもとある出版社から「書籍を出しませんか」と連絡が来ましたよ。
須見:獄中日記として6泊7日の小旅行を書いても、悪いことはないですね。でもやっぱり公判中に出す人はいないと思います。裁判になにか影響しないか、というのがあるんでしょう。
なし子:本が売れたら、裁判費用も印税で賄えますよね。電子書籍として発刊する手配はもうしていますし、コマ割りももう考えています。
──どうやってガサ入れして最終的にまんこと言わせたのかというところから、6泊7日の留置場生活までを再現して短編映画にして、英語の字幕を入れれば、レディー・ガガに届くんじゃないですか。
なし子:ガガと友達になれますね。海外からも「おかしい」と取材が来ていて、欧米の反応は、日本では「かなまら祭り」とかでちんこがまつられているのに、なぜこれはダメなのか意味がわからない、というものでした。
【英ガーディアン】
Japanese vagina selfie artist vows legal battle against obscenity charges(2014.7.16)
http://www.theguardian.com/world/2014/jul/16/japanese-artist-igarashi-vagina-selfie-arrest-legal-fight
■今後の方針
──この先なし子さんと弁護団はどのような方針を考えているのですか。
須見:あくまで不起訴を求めるのが弁護方針です。単純に弁護士としての法律論を展開する事案としては面白いと思います。でも、やっぱり不起訴になるのがいちばんだと思います。面白いだけじゃやれないですから。
──もし起訴された場合は、須見先生はどこを争点に闘っていくのですか。
須見:もちろんメインは3Dデータのわいせつ性ですよね。あとはさきほど言われたURLを送っただけが頒布になるのかという点もありますよね。
──それは写真の時代からあったじゃないですか。国家権力サイドも性器はわいせつだと言っていないし。
なし子:いや、警察は性器はわいせつだと言っていますよ。
──裁判所は判例で性器をわいせつにはしていないです。だって性器をわいせつにしたら、みんなわいせつじゃないですか。取り調べしている警察官にも「わいせつなもの持ってるじゃないですか」といってあげればいいんじゃないですか。
なし子:でも世の中みんなそういう風潮じゃないですか。
須見:表現されて出来上がったものがわいせつかどうか、ということなんですね。
──ただ僕は、誰にでも見せたり、コンビニでエロ本を売ったりすることは反対です。表現の自由は100%あるべきで、その表現物をどう人の目にさらすかは制限があってしかるべきだと思っています。そういう意味では映倫の年齢制限によるレイティングもR18+より厳しいレイティングを例えばXレイティングを作った上で表現の自由が保証されるのなら賛成です。そして、上映場所に規制をかければいいのです。フランスではそのXレイティングが上映できる映画館は限られていると聞きます。また、ドイツでは街角にポルノショップがたくさんあり、日本で言うところの無修正のポルノは普通に販売されています。ただ誰に販売するのか相手が見えない通信販売は禁じられていると聞きました。
なし子:私もまんこのデータをばらまきたいわけじゃないんです。趣旨に賛同してくれる人に記念品みたいなかたちで、「欲しい」と言われたらあげるよ、みたいな感じですけど、リアルまんこは気持ち悪いですから、これくらいデフォルメしたほうが好きなんです。
ろくでなし子さんの作品、まんこちゃんソフビ
──マンボートはデフォルメしたんですか?
なし子:デフォルメしました。作品として出ているものは基本的に全てデフォルメしたり装飾したりしています。
須見:産経新聞にも「作品自体であれば何も問題なかった」と書いてあるんですよ。あくまでスキャンしたデータを問題にしている。
【産経新聞より】
「女性器の3Dデータは「わいせつ物」か「芸術」か ろくでなし子氏逮捕の深層」
(2014.8.3)
ただ、警視庁幹部は「逮捕容疑となった3Dデータは作品そのものではなく、素材となるデータ。一般的な感覚からいってもわいせつ物であるのは明らかだ」と強調する。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140803/crm14080318000001-n3.htm
──でもこの概念でいくと、美術の予備校などでデッサンのための裸体のヌードのモデルが捕まってしまうということですよね。限られた空間だし、裸になっている人は了解のもとちゃんと契約してお金もらってやっているし、その裸体自体は作品の素材である。なし子さんも「著マン権」「まんこのオープンプラットフォーム化」と言っていましたよね。
なし子:3Dのまんこデータを拡大縮小して使って、携帯にしたり時計にしたりマウスパッドにしたりしてもらうことを望んでいるんです。
ろくでなし子さんホームページより、「まんこのオープンプラットフォーム化」
──素材となるデータがわいせつだということは、人体モデルの場合はモデルさんがわいせつということになりますよね。普通の人がわいせつで服着て歩いているということですよね。
なし子:そもそも切り取った性器がわいせつか、という話で。しかもスーパーリアルではなく、今回の3Dデータは樹脂製の白いモブみたいなものですから。
【産経新聞より】
「女性器の3Dデータは「わいせつ物」か「芸術」か ろくでなし子氏逮捕の深層」
(2014.8.3)
昨年6月には、知人の女性器をかたどって作成した石膏型を全国に販売していた男がわいせつ物頒布容疑で逮捕され、罰金数十万円が科せられるなど、性器そのものの型をわいせつ物として認める判決は確立されてきている。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140803/crm14080318000001-n3.htm
須見:女性器をかたどった石膏の販売がわいせつ物頒布にあたると判断されている事例が報道されています。ただし、この昨年6月の事件の人は争わず、罪を認めて罰金を払ったので、産経新聞の「確立されてきている」というのは言い過ぎで、こういう事例があったというレベルです。
──あくまでわいせつだというのは警察の判断で、例えばレスリー・キー事件も当人は罪であったことを認めて裁判で争われていませんからね。猥褻の概念は裁判で争い、最高裁で毎年新しい判例を作るくらいしないと世の中の動きに法律が追いついていないと思います。警察がまんこを思想だと思っているということ、そして、須見先生がまんこと口に出せないのはなぜか。そこになし子さんがアートとしてやろうとしている本質があるのだと思います。
なし子:先生がこの前「まんたく」までは言ってたから、「まんこ」ももうすぐですね。
須見:いえ、私はまだ言えません。
(2014年8月6日、渋谷アップリンクにて インタビュー:浅井隆 構成:駒井憲嗣)
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メイプルソープ写真集裁判、最高裁猥褻の基準見直し!映画からボカシがなくなる!?(2008-02-19)
ろくでなし子 プロフィール
まんコラム二スト。日本性器のアート協会会員。自らの女性器(まんこ)を型どりデコレーションした立体作品「デコまん」造形作家。単行本『デコまん~アソコ整形漫画家が奇妙なアートを作った理由』ぶんか社刊。2013年9月まんこの3Dスキャンデータを使った世界初のマンボートを制作。2014年5月 新宿眼科画廊にて初の個展となる「まんことあそぼう!よいこの科学まん個展」開催。漫画とデコまん創作活動を続けている。
公式ホームページ:http://6d745.com/
写真のまんこちゃんソフビ、ろくでなし子さんが着用しているポリゴンまんこTシャツは、新宿眼科画廊にて取扱中。 http://ganka.buyshop.jp