映画『めぐり逢わせのお弁当』より © AKFPL, ARTE France Cinema, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm-2013
ボリウッドに代表される「歌って踊る」インド映画のイメージを覆す穏やかな語り口により、インドで広く利用されている弁当配達システム「ダッバーワーラー」をテーマに、誤配送の弁当によって出会った男女の心の触れ合いを描く映画『めぐり逢わせのお弁当』が8月9日(土)より公開される。長編初監督作品となる今作で2013年カンヌ国際映画祭・批評家週間の観客賞を受賞したリテーシュ・バトラが製作の経緯を語った。
監督は俳優たちの感情グラフを把握していなければならない
──どのようにして映画監督になったのでしょう?
僕はムンバイのバンドラ地区で生まれ、そこで育ちました。シデナム・カレッジで学び、その後アメリカに渡って経済学を得、後に企業戦略や経営コンサルタントを始めました。僕の祖母が新聞のコラムニストだったこともあって、自分が物を書けると思っていたこと以外、映画の世界などとは全く無縁でした。父は商船員で、母は主婦。でも僕はいつも映画監督になりたいと思っていたし、アメリカに住んで、今自分がしていることをこの先一生続けている自分が想像できませんでした。3年後、半ば冗談で仕事を辞めたんです。映画学校に応募するために短編映画を作り、そしてニューヨーク大学の映画学校に入学しました。でもそれも1年半で辞めました。主な理由は、自分にあまりしっくり来なかったから。僕は脚本を書いて、ロバート・レッドフォード主宰のサンダンス・インスティチュートに編入しました。彼自身が実際に指導してくれたんです。それは素晴らしく、強烈な体験でした。この経験を経て、僕は自分独自の道を歩く決心をし、短編映画制作と執筆を開始しました。
映画『めぐり逢わせのお弁当』のリテーシュ・バトラ監督
──ロバート・レッドフォードの指導はどのようなものでしたか?
彼はセットに来て、僕らと夕食を共にしました。とてもシャイで謙虚で、映画の制作過程に心から興味を持っていました。彼は俳優です。良き俳優は、良き監督でもある。彼が来ては、僕の耳にこう囁くんです。「監督は皆のバロメーターで、俳優たちの感情グラフを把握していなければならない」と。彼自身が俳優として、いかに俳優の技量を大切にするか、いかに演じやすいように環境を作り上げるか、ということを教えてくれました。
──『めぐり逢わせのお弁当』はどのように形を成していったのでしょうか?
2007年、ダッバーワーラー(弁当配達人)に関するドキュメンタリーを撮りたかったので僕はムンバイへ行き、カメラもノートも持たずに1週間にわたって彼らと行動を共にしました。僕たちは友人となり、彼らがダッバー(弁当箱)を集めに行く様々な家庭についての小さな物語を僕に聞かせてくれました。僕はそれらの小さな物語に、大いに惹きつけられていきました。そして、ドキュメンタリーを作るのをやめて、この小さな物語について書き始めたんです。僕は絶え間なく書き続け、ついに完成させたのが、カイロで制作した短編映画『Cafe Regular,Cairo』です。これがフランスの放送局ARTEの目に留まりました。この短編は多くの場所を巡回し、『めぐり逢わせのお弁当』を作るきっかけとなりました。というのも彼らがその一部をファイナンスしてくれたというだけでなく、カイロでの制作の傍ら、僕は『めぐり逢わせのお弁当』の最初の台本を書いていたからなんです。2011年のことです。結果、『めぐり逢わせのお弁当』は世界的に賞賛と賞を受け、ソニー・ピクチャーズ・クラシックスが北米の映画権を買い取ることになりました。
映画『めぐり逢わせのお弁当』より © AKFPL, ARTE France Cinema, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm-2013
──様々な脚本や共同製作のワークショップに参加して、本企画はどのような形をとっていったのでしょうか。
脚本を世に送り出せるという自信を持つと、僕はプロデューサーを探し始めました。『めぐり逢わせのお弁当』を国際的な共同製作にしたかったので、合作にオープンなインド人のプロデューサーを求めていました。この物語が世界へと羽ばたく可能性を持たせたかった。だから、ロッテルダムのシネマートやベルリン・タレント・マーケットといった、共同製作のマーケットに申請したんです。僕は、『Ugly』が今年のカンヌ映画祭監督週間に出品されるなど世界的に活躍するアヌラーグ・カシャプ監督のプロダクションAKFPLと、シキャー・エンターテインメントの双方を率いるグニート・モーンガーに会いました。彼女は、グローバルな資金構造にとてもオープンで、すべてをまとめ上げてくれました。それにより、インドからはシキャー・エンターテインメント、ダール・モーションピクチャーズ、NFDC(ナショナル・フィルム・ディベロップメント・コーポレーション)のプロデューサーたちが、またシネ・モザイクの代表であるアメリカのプロデューサーのリディア・ディーン・ビルヒャー(ミーラー・ナーイル監督作『ミッシング・ポイント』『その名にちなんで』)に加え、フランス(ASAPフィルムズ)、そしてドイツ(Rohフィルム)の共同プロデューサーも参入してくれました。
映画『めぐり逢わせのお弁当』より © AKFPL, ARTE France Cinema, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm-2013
国際的な資金供給は製作に違いをもたらす
──なぜ国際共同製作にそれほどまでにこだわったのでしょう。
脚本が世界に出ていくことが出来ると分かっていたからです。それに編集者、撮影監督、共同脚本家という面々が国際的に1本の映画に取り組む、そのようなコラボレーションを求めていました。この作品にはアメリカ人の撮影監督と編集者、ドイツ人の音響技師と音楽家などが携わっています。それにより、この映画が普遍的な作品となっているのです。国際的な資金供給を持つことは、製作に違いをもたらします。戦略的に多くのことを手助けしてくれるのです。コラボレーションをすることで自国以外の文化への関わりを深め、幅広い観客を獲得することを可能にします。
──キャスティングの工程はどのように行われましたか?
早期退職を控えた男・サージャン役のイルファーン・カーンの出演は、この企画をイルファーンに伝えたプロデューサーのリディア・ディーン・ピルヒャーとグニート・モーンガーを通じて実現しました。サージャンの同僚を演じたナワーズッティーン・シッディーキーは長い間、共に仕事をしたいと思っていた人物です。イラ役にはいくつかのオーディションを実施した結果、舞台を多くこなすニムラト・カウルを発見することが出来ました。僕たちは撮影前の6ヵ月間をリハーサルに充てたんですが、イラには娘がいるという設定のため、その関係性もより発展させていきました。彼女はこの役に本当に力を注いでくれ、大変念入りに準備をしてきてくれました。
映画『めぐり逢わせのお弁当』より © AKFPL, ARTE France Cinema, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm-2013
──ボリウッドから離れた本作がインド国内で受け入れられると思っていましたか?
インドで繊細な“ドラマ”にジャンル分けされる映画を作るのは難しい。というのもボリウッド映画ではないインド映画を見る観客層はインド人ではないからです。当初、本作がインド内でも観客を見つけられたら、ユーモアが地元の人たちに受け入れられ、根底にある物語の深い部分を見出して、喜んでもらえたらと願っていました。同時に、興行的にヒットを記録するのは無理だとも思っていました。でも、インドの観客の反応には、正直驚かされました。予想に反して大成功を収めたのです。時代も、インドの観客でさえも変化したという証拠だと思いました。また、僕は映画監督として、グローバルな観客にインドを伝えたいと思っています。文化が国の内側に留まらず、海外へ向かっていくことが重要だからです。そして、自分自身がまず“映画監督”であり、次に“インドの映画監督”だと考えています。そして近い将来、インド以外を舞台にした映画も作りたいと思っています。その土地に根ざし、僕にとっても特別な意義のある作品を。
──これまでにどのような映画に影響を受けましたか?
様々な多くの映画ですね、ルイ・マルやイングマール・ベルイマン、サタジット・レイ、アッパス・キアロスタミ、他にももっと!イラン映画は正直で、独特で、とても興味深いです。その土地特有であるがゆえに普遍的なものとなり、世界に飛び出すことが出来るんです。我々がその種の感受性を引き出せれば、これはインドでも起こり得ることではないでしょうか。
(プレスより引用)
リテーシュ・バトラ プロフィール
1979年ムンバイのバンドラ地区生まれ。2008年に短編『The Morning Ritual(朝の儀式)』を発表。2009年には長編劇映画脚本『The Story of Ram(ラームの物語)』でサンダンス映画祭のタイム・ワーナー・フェローとアンネバーグ・フェローに選ばれる。続く短編『Gareeb Nawaz's Taxi(ガリーブ・ナワーズのタクシー)』(10)と『Cafe Regular, Cairo(カイロの普通のカフェにて)』(11)が注目され、後者は40以上の国際映画祭で上映され、12の賞を受賞した。本作はリテーシュ・バトラの長編デビュー作で、2013年のカンヌ国際映画祭批評家週間で初上映され、絶賛を浴びた。
映画『めぐり逢わせのお弁当』より © AKFPL, ARTE France Cinema, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm-2013
映画『めぐり逢わせのお弁当』
8月9日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
ムンバイ、お昼時。ダッバーワーラー(弁当配達人)がオフィス街で慌ただしく複数の弁当箱を配って歩く。その中の、主婦イラが夫の愛情を取り戻すために腕をふるった4段重ねのお弁当が、なぜか早期退職を控えた男やもめのサージャンの基に届けられた。神様の悪戯か、天の啓示か。偶然の誤配送がめぐり逢わせた女と男。イラは空っぽの弁当箱に歓び、サージャンは手料理の味に驚きを覚える。だが夫の反応はいつもと同じ。不審に思ったイラは翌日のお弁当に手紙を忍ばせる……。
監督・脚本:リテーシュ・バトラ
出演:イルファーン・カーン、ニムラト・カウル、ナワーズッディーン・シッディーキー
撮影:マイケル・シモンズ
編集:ジョン・F・ライオンズ
音楽:マックス・リヒター
2013年/インド=フランス=ドイツ/105分/英語、ヒンディー語/原題:Dabba/英題:THE LUNCHBOX
後援:インド大使館
提供:東宝、ロングライド
配給:ロングライド
© AKFPL, ARTE France Cinema, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm-2013
公式サイト:http://www.lunchbox-movie.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/めぐり逢わせのお弁当/729045040479643
公式Twitter:https://twitter.com/lunchbox_movie
▼映画『めぐり逢わせのお弁当』予告編
[youtube:EVsWqdauGHw]