SICF14グランプリ受賞作『首吊りビリー』(2013) ビリー・ミリガンという24人の人格を持った多重人格症の実在の人物をモチーフにした体験型の作品 撮影:市川勝弘
アート、デザイン、プロダクト、ファッション、映像、音楽など、様々なジャンルの若手クリエーターを紹介する公募展形式のアートフェスティバル「SICF15」(第15回スパイラル・インディペンデント・クリエーターズ・フェスティバル)が今年も5月3日から6日までの4日間行われる。5月3日、4日のA日程、5日、6日のB日程それぞれ50組計100名のアーティストが参加し、各ブースでプレゼンテーションを行なう。最終日には、審査員によりグランプリ、準グランプリ、各審査員賞を選出、また来場者の投票によってオーディエンス賞を決定し、各賞が授与される。
開催にあたり、昨年度SICF14で発表した『首吊りビリー』でグランプリを受賞、SICF15と同時開催されるSICF14受賞者展で新作を発表する塩見友梨奈さんに、ビリー・ミリガンという24人の人格を持った多重人格症の実在の人物をモチーフにした体験型作品『首吊りビリー』について、そして自身の制作テーマについて話を聞いた。
人間の身体性と布の関係をモチーフに
── 最初に、塩見さんの作品のベースにあるテキスタイルへの興味はいつぐらいから湧いていたのですか?
高校時代から浴衣でお祭りに行ったり、着物の色合いや雰囲気が好きでした。大学進学をする頃に着物の職人になりたいと思ったのがきっかけで、京都造形芸術大学の染織コースに入学しました。最初は、染めによる模様の色鮮やかさや描写が気になって始めたのですが、大学で学んでいくうちに、布の質感や素材の方が気になってきて、その後、大学院に入学する時期には、布の平面なのに立体にできたり、模様を立体的にさせたり、二次元なのに三次元的に表現もできる部分に惹かれるようになりました。それまでも、表現として人間の身体を平面に描いていたんですけれど、立体に転換することで、人間の身体性と布の関係といったモチーフに取り組むようになりました。
塩見友梨奈さん 撮影:市川勝弘
── そこでオリジナリティを発見したという手応えはありましたか?
布には、衣服といった人が身に付けるものというイメージがあると思うんですけれど、人の体に模様を描いたり、そのなかで立体感を出す、身体のラインを作ったりするのと合わせて、身体をもうひとつ作るというか、二重にしていくというか、そういうイメージが自分のなかにありました。私自身が変身できる身体が欲しいというのがあって、それが作品になっていると思っています。
── 変身願望があるのですか?
人間の身体は脱いだり着たりができません。着脱が不可能なので、もうひとつの皮膚として衣服はあると思います。そのなかで自分の状況に合わせた身体というイメージです。生まれたときから自分の体は変わらないものなので、そこから切り離して変えてみたい、私の身体は私のものなのに偽物なんじゃないかという気持ちがどこかあって。そこから、私が作るとしたらどんな体を作るかな、という、ポジティブなイメージで作っています。
── アバターみたいな感じですね。
ちょうど修士論文で「皮膚的なもの」をテーマに書いたのですが、そのひとつにアバターがありました。自分の身体は自分でデザインしなくてはならないものというか、現代に生きている若い女性の感覚に近いものなので、(社会からの)影響は受けていると思います。
塩見友梨奈『首吊りビリー』
── 昨年のSICFでグランプリを受賞した『首吊りビリー』についてもここ数年作ってきたテーマの過程のなかのひとつと言っていいのでしょうか。
衣服に近いものを作っていた時期もあったんですけれど、『首吊りビリー』は、体験型の作品なので、いろんな人が交代して入っていって、どんどん変わっていく、そういう要素を入れたいなと思いました。
── 観る方が参加できる、体験できる作品になったのは、SICFの展示環境により考えたのでしょうか?
そうですね。ちょうどSICFの開催がゴールデンウィークで、私も会場に2日間ずっと居ると分かっていたので、なにか来場者と関わって会話できる作品がいいなと。それと、こどもの日でもあったので、子どもとも関係できるものがいいなと思いました(笑)。布を使っているので、雨に濡れたりできないという物理的な問題はあるんですけれど、『首吊りビリー』はできるだけたくさんの人に遊んでもらいたいと思って制作しました。
昨年のSICF会場の様子 撮影:市川勝弘
楽しみながら人と人を繋ぐことができるアート作品を
── SICFの雰囲気についてはどのように感じましたか?
SICFは昨年、初めて参加したのですが、会場のブースに搬入してから、ずっと子どもたちと遊んでいました。かなり幅広い方が観にきてくださっているというのは感じていました。お話していても、いろんな方がいらっしゃって、私のことを占ってくれる人とか(笑)、面白かったです。
── 発表の場で見た方と触れ合えたりする場があるということは、作品にフィードバックがありましたか?
普段の展覧会では、芸術に詳しい方と関わる機会が多いので、そうでない人と話せたのはすごく楽しかったです。私のコンセプトを言葉で伝える必要があるのかどうか、それよりも「もの」として楽しんでもらえる方がいいのか、というのは『首吊りビリー』では考えました。両方必要だとは思うのですが、誰に向けて作るか、というのをもう少し場に合わせて限定してもいいのかなと感じました。
──例えば展示の場所を指定されたり、制約やテーマがあった方が作りやすいですか?
最近は作品によって「場が変化すること」に興味があります。今回のSICFでコミッションワークとして展示するバルーン型の作品もそうですが、特に布は「場を変化させる装置」だと言われています。簡易的な装飾に使われたり、季節ごとに模様を変えたり、布は人の日常の中で変化を与えます。そういった意味で、作品を置くことによって空間が変化する作品は、興味があるので作っていきたいと思います。
それから、昨年のSICFで『首吊りビリー』を出展してから変化したことでもあるのですが、芸術を知らない人でも楽しめる作品を作りたいです。昨年から数人のアーティスト仲間と一緒に、京都の銭湯を舞台にした芸術祭を企画しています。銭湯はパブリックな空間でありながら、プライベートな空間でもあり、お客さんひとりひとりに不思議な距離感があります。そこは年齢や職業など関係なく、銭湯ではすべての人がただの裸の人間です。そういった芸術とは関係ない場所で、作品がどんな役割をもつのか考えています。
塩見友梨奈『インスタントベイビィ』 撮影:市川勝弘
現在のコミュニケーションといえばネットを通じたものも増え、身体感が失われつつあると言われていますが「対人」で行われるコミュニケーションが減った今だからこそ、作品を置くことで、今までとは違った新しい「人と人を繋ぐことができる作品」が作れるのではないかと思っています。アトラクションとは少し違いますが、一般のお客さんが楽しめる内容で、体験したり、共有したり、新たな発見を与えられる作品を目指していきたいです。
塩見友梨奈『首吊りビリー』
── アート作品を通して社会と関わっていくこと、というのは意識していますか?
大学時代は、特に染織の職人を目指していたので、誰も見ないような、自分しか気にしないような細かいところにまで気にして作品を作っていました。その頃、恩師に言われたのが「それはあなたのエゴでしかない」という言葉です。こだわることは作品に不可欠ですが、こだわりだけでは作品にならないと思います。鑑賞者がいて、はじめて作品と呼べるものになると思うので、まずは身近な人から、作品の意見をもらいます。身近な人が味方になってくれないような作品では面白くはならないと思うので、まずはそこから考えます。
── 最後に、今後の表現活動のヴィジョンについて教えてください。
素材として、布だけではなくビニールや他のソフトなものや、FRP、金属など、色々な可能性を探しているところです。作品によって必要な表現方法や素材も変わってくるので、幅を広げていきたいです。最近の作品は、彫刻に近かったり、体験できたり、やってみたいことはたくさんあるので、もっと表現の幅を広げて、今までと違った身体観を表現していきたいと思っています。
(インタビュー・文:駒井憲嗣)
塩見友梨奈(しおみゆりな) プロフィール
【略歴】
2010年 京都造形芸術大学 美術工芸学科 染織コース卒業
2012年 京都造形芸術大学院 修士課程 芸術表現専攻修了
【主な受賞歴】
2012年 ULTRA AWARD 2012 優秀賞
2013年 SICF14 グランプリ
2013年 京都府美術工芸新鋭展2013 選抜部門 大賞
【主な活動】
2008年 着物ブランドプロジェクト商品化(京朋株式会社)
2010年 ART CAMP 2010(サントリーミュージアム天保山/大阪)
2011年 個展「サーカス」(id Gallery/京都)
2012年 個展「浮遊する境界線」(新風館・TOKYU HANDS TRUCK MARKET gallery・Gallery Ort Project/京都)
2012年 ULTRA AWARD 2012(ART ZONE・ULTRA FACTORY/京都)
2012年 Hongik International Art Festival(弘益大学/韓国・ソウル)
2013年 SICF14(スパイラルホール/東京)
2013年 Christmas Show 2013(ラディウムレントゲンヴェルケ/東京)
2013年 京都府美術工芸新鋭展2013(京都文化博物館/京都)
2014年 京都府美術工芸新鋭展2014(京都文化博物館/京都)
2014年 ULTRA×ANTEROOM Exhibition(ホテルアンテルーム京都/京都)
SICF15(第15回 スパイラル・インディペンデント・クリエーターズ・フェスティバル)
A日程:2014年5月3日(土・祝日)~4日(日・祝日)11:00 - 19:00
B日程:2014年5月5日(月・祝日)~6日(火・振替)11:00 - 19:00
※両日程ともに50組2日間ずつ
会場
スパイラルホール(スパイラル3F)
〒107-0062東京都港区南青山5-6-23
東京メトロ銀座線・千代田線・半蔵門線「表参道」駅B1、B3出口すぐ
入場料
一日券:一般700円/学生500円
審査員
浅井隆(有限会社アップリンク 社長/「webDICE」編集長)
佐藤尊彦(BEAMS プレス)
紫牟田伸子(編集家/プロジェクトエディター)
南條史生(森美術館館長)
岡田勉(スパイラル チーフキュレーター)
主催:株式会社ワコールアートセンター
協賛:東京リスマチック株式会社
協力:CLIP、株式会社ステージフォー
企画制作:スパイラル
グラフィックデザイン:FORM::PROCESS
お問い合わせ:03-3498-1171(スパイラル代表)
【同時開催】SICF14受賞者展
日程:2014年5月3日(土・祝日)~6日(火・振替)
11:00 - 19:00
会場
エスプラナード(スパイラルM2F) / スパイラルホールホワイエ(スパイラル3F)
*スパイラルホール ホワイエの展示は"SICF15"の入場料が必要です。
公式サイト:http://www.sicf.jp/