映画『大統領の執事の涙』より ©2013,Butler Films,LLC.All Rights Reserved.
『プレシャス』『ペーパーボーイ 真夏の引力』のリー・ダニエルズ監督が、 ホワイトハウスで歴代7人の大統領に仕えた黒人執事の人生を通してアメリカの50年に渡る歴史を描いた『大統領の執事の涙』が2月15日(土)より公開。ダニエルズ監督が、実在の人物をモデルにした執事セシル・ゲインズ役のフォレスト・ウィテカーをはじめとしたキャストについて、そして演出スタイルについて語った。
大統領たちを人間として描きたかった
── まず、その仕事ぶりが認められ、大統領の執事になったこの人物を描くことにした理由を教えてください。
これまでも公民権運動をテーマにした映画はあったが、時系列に描く映画を観たことがなかった。この運動の最初から終わりまで、オバマ大統領が就任するまでのものは観たことがない。しかも大統領に仕えるセシル・ゲインズと、息子であり公民権運動に身を投じるルイスという父と息子の目を通して、黒人や白人を越えて描くことが、僕にとってとても重要だった。これは公民権の物語だが、父と息子の物語でもある。父と息子の物語こそが人種を超越するんだ。
映画『大統領の執事の涙』のリー・ダニエルズ監督
── 50年に渡るアメリカの歴史を捉えるというスケールの大きな物語ということで、撮るにあたり不安はありませんでしたか。
これは一味違う映画だ。だからこの物語を語ることを光栄に感じたし、謙虚な気持ちになった。それが一番適切な言葉だ。自分がこの美しい物語を語るに値しない人間だと感じたくらいだ。実に美しい物語だよ。
映画『大統領の執事の涙』より ©2013,Butler Films,LLC.All Rights Reserved.
── 多くのキャストが登場しますが、キャスティングの過程について教えてください。
なによりも、大統領役のキャスティングが難しかった。ニクソンを演じているのがジョン・キューザック、アイゼンハワーはロビン・ウィリアムズ、ケネディはジェームズ・マースデンなのだが、彼らが演技していると感じさせたくなかったからだ。役者の存在を消し去らねばならない。しかもケネディの有名な演説がパロディにならないようにこころがけた。なによりも、大統領たちを人間として描きたかったんだ。
映画『大統領の執事の涙』より ©2013,Butler Films,LLC.All Rights Reserved.
フォレスト・ウィテカーは編集室で僕がすることを理解した上で演じる
── 『プレシャス』ではプロデューサーだったオプラ・ウィンフリーが、今回は久々に演技に復帰していますね。
オプラは長い間俳優としての仕事をしていない。だから『カラーパープル』(85)の時と同じような重責を彼女に負わせることに緊張感はあった。彼女は『カラーパープル』でソフィアという、男からの暴力や白人に屈しない強い女性を演じた。あの映画の彼女は天才的だったからね。彼女の撮影初日、バスのシーンを撮影したが、その日彼女は溢れる活気とともに現れた。準備を整えてね。「ソフィアのパート2を演じるわよ!」。僕は「任せてくれ!」と大手を広げた。最高だったよ。
映画『大統領の執事の涙』より ©2013,Butler Films,LLC.All Rights Reserved.
── フォレスト・ウィッテカーについてはいかがですか?
フォレストとの仕事はオプラとの仕事と似ている。ずっと監督を続けてきて、自分をしっかりもっている人たちは、とても謙虚だと思う。フォレストは、特に、僕が仕事をした中で最も謙虚な俳優だ。
── 彼と撮影を共にしての印象は?
ウィテカーとの仕事は光栄だった。彼は優れた俳優で、レベルが違う。なんというか、相手の頭の中に入るんだ。彼は編集室で僕がすることを理解した上で演じる。それほど聡明なんだ。言ってみれば、彼と一緒に編集しているような感じだった。だから僕は撮影中、常に彼が望むものを提供できるよう心がけた。もしそれができないと、彼は自分で望むテイクを見つけ出す。だから、そのとき僕ができるベストを彼に提供させてもらうことに力を注いだ。多くの俳優は、それを理解するほど賢くないので、自分を監督に委ねるべきだ。170%ね。少なくとも僕には、それしかない。しかしウィテカーは、材料を僕に提供し、僕はどうやってこのシチューを作ろうか考える担当なんだ。塩を少々、胡椒を少々まぶしたり、あるいは生姜を使うかもしれない。彼はその全てを僕に提供した。そうした共同作業ができることは、ほんとうに稀なことだよ。
映画『大統領の執事の涙』より ©2013,Butler Films,LLC.All Rights Reserved.
彼らは学校で子供たちが教わらないヒーローだ
── この作品で自身の演出スタイルは確立されたと思いますか。
僕はその瞬間の真実に生きていると信じている。人が僕のことをどう思おうと、僕は今の自分に正直だ。愚かに見えようと、横柄に見えようと、どう見えようと、僕は僕であり続ける。それを俳優たちは見抜くのだと思う。俳優の欠点を受け入れる僕を、俳優自身は見抜いている。だから、僕の映画の現場では、俳優たちの不安という壁が崩れ落ちるんだ。彼らも欠点があっていいと思うようになる。そしてその欠点が消えると、本当の精神が現れる。本当のオーラ、誠実なエネルギーがね。欠点を少しずつ崩すのは難しいが、崩さなくてはならない。人間の仮面を、世界に見せようとしているものを解き放つまで。でも人が本当の内なる自分、内なる子供、真の魂であるなら、僕はそれをスクリーンに捉えることができる。それが秘訣だよ。真実であるべく、彼らに魔法をかけるんだ。
── 観客は、執事セシルの生き方を通して、アメリカの歴史を知ることができると思います。
この歴史的で壮大な物語を引き受けることには、とても不安があった。実話を元にしているから、正しく描いていることを確認せねばならないし、フィルムメーカーとして、そして語り手としても、自分が正しい物語を語っているか、確かめたい。緊張するよ。でも僕はそれを心から楽しんだ。僕がこれまで作ってきた、ほかの物語同様にね。僕は人々に忘れないでほしいと思う。起こったことを忘れないように、僕たちはそれをメモリーバンクにログインし、祖国のために亡くなった人々を記憶に留めよう。彼らは学校で子供たちが教わらない、僕たちがウワサも耳にしないヒーローだ。でも彼らがいたからこそ、いまオバマがホワイトハウスにいるんだ。人々に、このヒーローたちを覚えていてほしいと思う。
(オフィシャル・インタビューより)
リー・ダニエルズ プロフィール
初プロデュース作品『チョコレート』(01)で、米アカデミー賞ノミネートと受賞を果たした、唯一のアフリカ系アメリカ人プロデューサーとなった。『サイレンサー』(05)で監督デビューを果たす。監督二作目の『プレシャス』(09)では、国内外数々の映画祭で賞賛を浴び、米アカデミー賞R6部門にノミネートされ、最優秀助演女優賞、最優秀脚本賞を受賞した。今最も注目される監督・プロデューサーの一人である。近作は、脚本/監督/製作を担当した『ペーパーボーイ 真夏の引力』(12)がある。
映画『大統領の執事の涙』より c2013,Butler Films,LLC.All Rights Reserved.
映画『大統領の執事の涙』
2014年2月15日(土)新宿ピカデリー他全国ロードショー
黒人差別が日常で行われていた時代のアメリカ南部。幼いセシル・ゲインズは、両親と綿花畑で小作農として働いていた。しかし、ある事件で親を失い、ハウス・ニガー(家働きの下男)として雇われる事に。「ひとりで生きていく」努力の末、見習いから高級ホテルのボーイになった青年は、その仕事ぶりが認められ、遂にはホワイトハウスの執事となる。キューバ危機、ケネディ暗殺、ベトナム戦争……。アメリカが大きく揺れ動いていた時代。気づけば、歴史が動く瞬間を最前線で見続けることとなったセシル。彼の仕事に理解を示しながら、寂しさを募らせる妻。父の仕事を恥じ、国と戦うため、反政府運動に身を投じる長男。その兄とは反対に、国のために戦う事を選び、ベトナムへ志願する次男。大統領の執事でありながらも、夫であり父であったセシルは、家族と共にその歴史に翻弄されていく。
監督:リー・ダニエルズ
出演:フォレスト・ウィテカー、オプラ・ウィンフリー、ジョン・キューザック、ジェーン・フォンダ、テレンス・ハワード、レニー・クラヴィッツ、ジェームズ・マースデン、デイヴィッド・オイェロウォ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、アラン・リックマン、リーヴ・シュレイバー、ロビン・ウィリアムズ
脚本:ダニー・ストロング
原作:ウィル・ヘイグッド
製作総指揮:ダニー・ストロング、ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、アダム・メリムズ
製作:パメラ・ウィリアムズ、ローラ・ジスキン、リー・ダニエルズ、バディ・パトリック、カシアン・エルウェス
撮影:アンドリュー・ダン
美術:ティム・ガルヴィン
音楽:ロドリーゴ・レアン
編集:ジョー・クロッツ
衣裳デザイン:ルース・イー・カーター
配給:アスミック・エース
公式サイト:http://butler-tears.asmik-ace.co.jp/
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▼映画『大統領の執事の涙』予告編
[youtube:QJ3C6JCewAQ]