7月2日にEARで開催された新作発売記念イベントより、尾崎友直。
曽我部恵一が主宰するROSE RECORDSより尾崎友直がアルバム『EAR』をリリース。自らミュージシャンであり、渋谷で知る人ぞ知るDJバーEARを運営し、そこから様々なアーティストとのコラボレーションを発信してきた鬼才だ。彼について曽我部氏に文章を寄せてもらった。
▼尾崎友直のアルバム『EAR』より「暴力」
[youtube:0GW1CrxUVHA]
トモナオと出会ったのは10年くらい前。
深夜、渋谷道玄坂の小さなクラブ。
お互いにお互いのことは全然知らなかったけど、すぐその場で友だちになった。
ぼくはその夜、そのクラブで少し歌ったのだった。
トモナオはそのときぼくに「きみのことは知らないんだけど、みんなきみのことが好きみたいだね」とニコニコしながら話しかけてきた。
そうしてぼくたちは友だちになった。
その夜に、彼が運営しているというEARというさらに小さなバーに行った。
クラブのすぐそばにその店はあった。
閉店後のその店で、ギターを弾いたりして過ごした。
彼のギターはとっても簡潔で生命力があって、ぼくはすごいなあと思った。
同い年だと言うこともわかった。同じような音楽を聴いてきていたことも。
でもふたりは全然違う人で、それがなんかよかった。
彼がギターを弾き、声を出すのを、この十年くらいのあいだに何度か聴いた。
素晴らしかった。自分が待っていた音楽がいつもそこにあった。
ぼくはROSE RECORDSというレーベルを運営するようになって、いつか彼の音楽をリリースできたらなあという思いを持っていた。
でも彼は自分でもEARというレーベルをやっていたし、そんなことは実現しないだろうなと感じていた。
春頃に、トモナオがフルアルバムを作ったという話を聞いた。
ひさびさにEARを訪れたら、ちょうどそのアルバムのマスタリング後のCD-Rが届いた日だったようで、彼はとても喜んでぼくに一枚くれた。
「どうやってリリースするの?」ってぼくが訊ねると、CD-Rでコピーして店で100円で売る、と言う。
ぼくはつい「トモナオの音楽は、もっとひろげなきゃ」と言ってしまった。
すぐさま彼は「ひろげることになんか全然興味ない。店で知ってる人みんなに買ってもらうことが重要」と返した。
ぼくは失言してしまったと感じながら、そうだね、と言った。
翌日の昼、渋谷を歩きながらそのアルバムをヘッドフォンで聴いた。
下北沢に着いて、彼に電話して「すごく良かった」と伝えた。
彼はそのとき大工の仕事中だったみたいだが、電話口で「ああうれしい。じゃあROSEで出してくれない?」と言った。
そうしてこのCDがここにある。
トモナオの理想だった「100円で売る」はコストのことがあって500円になった。
でも立派なCDが出来たと思う。
レーベルをやっていて良かったと思う。
夢や現実や過去や未来、そんなものがぎゅっとつまった最高の音楽。
いつだって、ぼくらが待ってるのはこんな音楽だ。
(文:曽我部恵一)
7月2日にEARで開催された発売記念イベントより、曽我部恵一。
尾崎友直プロフィール
1971年11月生まれ、東京都世田谷区桜丘出身。16歳の頃よりパンクロックに影響を受けバンド活動を開始。1989年より都内のライブハウスにてライブ活動を精力的に展開。1998年、渋谷円山町にてDJバー「EAR」を開店、同時期に自身のレーベル「EAR」を立ち上げる。1998年、EARからソロ第一作「TAKE ME HOME」をリリース。その音楽性は幅広く、エレクトリックギター演奏や声を使った変幻自在なライブパフォーマンスはジョン・ゾーンやルー・バーロウ、ジャド・フェアらからも高い評価を得ている。
EAR公式HP
尾崎友直『EAR』
発売中
ROSE 119
500円(税込)
ROSE RECORDS
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