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Channel: webDICE 連載『DICE TALK』
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サハラ青衣の遊牧民が奏でる革命の音楽、バンド「トゥーマスト」インタビュー

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サハラ砂漠の遊牧民、トゥアレグ族のバンド「トゥーマスト」。支配と反乱の歴史を塗り替えるために闘う彼らを追ったドキュメンタリー映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』が渋谷アップリンクにて2015年2月28日(土)より公開される。公開に先駆けて2014年12月16日(火)にはピーター・バラカン氏、デコート豊崎アリサ氏、2015年1月16日(金)にはサラーム海上氏(よろずエキゾ風物ライター)、粕谷雄一氏(金沢大学教授)を迎えてのトークイベントの開催も決定している。webDICEでは「トゥーマスト」ムーサ・アグ・ケイナ氏のインタビューを掲載する。













「私は主義主張のために、革命のために音楽をやっているんです」

ムーサ・アグ・ケイナ、インタビュー



トゥアレグ族とは、ベルベル人系の遊牧民族である。サハラ砂漠を遊牧していたが、20世紀初めにフランスによる植民地政策が始まり、60年代にはアルジェリア、ニジェール、リビア、マリ、プルキナファソの5つの国に分散した。また、ニジェールは世界有数のウランの産地でもあり、トゥアレグ人の居住地区で発掘されるウランの領有権問題(ニジェールのウランは仏アレバ社が権益を保有し、日本にも多く輸出されている)や放射能汚染が問題となっている。



青衣(あおごろも)の民としても知られる彼らは、一般のイスラム世界とは逆に、男性が衣装で顔や身体を隠し、女性は肌を露出していることもある。また、一夫一婦制で、女性が夫を選ぶ権利を持つ女系社会である。



本作の主人公であるトゥーマストの中心人物、ムーサ・アグ・ケイナは、80年代にリビア、カダフィ大佐の元で兵士としての訓練を受け、そこで西洋の文化や音楽に触れたことでギターを手にし、銃ではなく音楽で世界を変えるための戦いをすると決意したという。政治難民として20年前にフランスに移住したという彼に、パリの自宅で話を聞いた。



映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』


映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』

「トゥーマスト」ムーサ・アグ・ケイナ






トゥアレグ社会での階級とは部族のようなもので、すべての階級は平等。そしてイスラム教ではあるが、最も崇めているものは"自然"である。



トゥアレグ族の正確な人口は誰も知りません。遊牧民で、身分証明書も出生証明もないですから。アルジェリア、リビア、ニジェール、マリ、プルキナファソにいるトゥアレグを合わせると250万人くらいいるんじゃないでしょうか?砂漠は広いから、人口密度はすごく少ないですけどね。



映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』

トゥアレグ族が住むサハラ砂漠西部



トゥアレグの社会は、大統領制とか民主主義のシステムではなく、昔ながらの家長システムです。家長、その上に酋長、さらにその上にも長がいます。長はだいたい年寄なんですが、死んだら息子が継ぐのではなく、よそから知性のある人を連れてくることになっています。



カーストがありますが、インドのカーストとは違い、部族のようなもので、すべてのカーストは平等。トゥアレグ族というのは、元々同じ母から三人の兄弟が生まれ、そこから派生したものだ、という神話のようなものがあります。母系社会なのです。



宗教に関しては、イスラム教ではありますが、礼拝などの義務はありません。でも、トゥアレグが最も崇めるのは、自然です。砂漠、太陽、植物、どれも何物にも代えがたい大切なものです。そして、トゥアレグにとって一番重要なのは、自由であること。結婚に関しても、家族同士のしがらみよりも、愛が重要。"愛があれば幸せになれる"という考え方なんです。



家族愛も同じです。遊牧民ですから日々砂漠を移動するわけですが、子どもが大きくなって結婚して子供を持ち、独立して一緒に移動しなくなったとしても、「テントが離れても心は近く」という格言があるように、心はいつも近くにあります。私は今パリにいて、兄はサハラにいますが、心はいつも一緒です、私の心はいつでもサハラにあります。パリは必要があるから住んでいるけど、好きではないです。現在、フランス国内にトゥアレグは80人くらいいるけれど、来てもすぐに砂漠に帰ってしまう。街の喧騒がストレスになるんです。あくせくするよりも、日々のゴハンを食べられれば満足、というのがトゥアレグのメンタリティだから、都会には合わないんでしょうね。




映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』

映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』より






トゥアレグの言葉で砂漠を指す言葉は「無」を意味する。砂漠は無であり、全てである。



ニジェールは世界でも有数のウラン産出国です。そこに、フランスのアレバが入ってきた。採掘権の問題はもちろんですが、放射能汚染による被害も深刻です。古くからのトゥアレグの言い伝えで、直接的に放射能汚染のことを言っているわけではないけど、「土地に手を加えると人間に影響がある」というような言い伝えがあります。「土地は人のものではない。自分たちが土地に属しているんだ」というように、人間は自然の一部なんだと教えられてきました。



例えば、木を理由なく切ってはいけませんし、土は人間と同じく生きものだと思っています。木や植物は人間と同等。もちろん土も同じ。



砂漠はトゥアレグにとって全てです。家族であり、祖先であり、自由です。砂漠が僕を作ったと思っている。血肉です。砂漠は生き物です。「サハラ」というのはアラブ人の言葉で、我々トゥアレグは「ティネリ」と言います。ティネリとは「無」のことです。砂漠は無であり、全てなのです。フランスの2.5倍もの広さがあり、昼は暑くて夜はあまりに寒い。なにも目印もなく、先へ進むのも、トゥアレグのガイドがなければ無理でしょう。なにもないところですが、歌を歌ったりダンスをしたり話したり、我々のすべてがそこにあります。



映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』

映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』より




ギターを選んだのは、インターナショナルだから。私は革命のために音楽をやっている。



我々トゥアレグは文字を持ちません。そしてラジオも新聞などのメディアもないので、音楽でメッセージを伝えました。ですから、1976~97年の期間、すべてのトゥアレグの音楽は禁止されたんです。今は取り下げられましたが、例えば戦争を直接訴えるような内容のものはNG。政治的なものは今でもだめなんです。



銃をギターに持ち換えてから20年ほど経ちます。兵隊として闘うよりももっと手ごたえがあります。ミューシャンとしてアメリカに行って、NYタイムズで経歴を紹介してもらったり、テレビに出たり、ヨーロッパではいろんな音楽フェスに出て、世界中の様々なメディアが取り上げてくれます。音楽を通してメッセージを伝えられているという実感があります。



もともとトゥアレグ人はギターを弾きませんでした。リビアに行って西洋の文化に触れ、ギターを始めました。兄貴分のティナリウェンが第一世代で、私たちは第二世代。ギターという楽器を選択した理由はインターナショナルだからです。トラディショナルなものだけをやってるよりは、ギターを介した方が開かれている。私は主義主張のために、革命のために音楽をやっているんです。






Festival Vieilles Charrues 2007のライヴ映像




土地も、資源も、学校や病院も持たないトゥアレグが闘いの先に望むもの。



まず自分たちの土地を自分たちで管理する自治区にしたい。政府がその土地で資源を発掘したら、我々トゥアレグも権利を共有したい。我々にはそういった権利はもちろん、学校も病院もなにもないんです。フランスのお仕着せの教育は、裏になにかあるように感じます。我々の言葉やトラディショナルなものをなくさないのなら良いとは思いますが…我々が昔から培ってきたものを捨ててフランスに迎合するつもりはありません。だから、私たちの学校や病院を作りたい。生まれた赤ちゃんがなくなったり、母親も大量出血で亡くなるケースも多い。そういうのを救いたいんです。



映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』

映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』より











TOUMAST(トゥーマスト)プロフィール



リビア、カダフィ大佐の元でレジスタンス兵として訓練され、同じくレジスタンス兵で「砂漠のブルース」の旗手的なバンド、ティナリウェンのメンバーと出会い、音楽を始める。2008年にピーター・ガブリエルのワールド・ミュージックのレーベル「Real World」より1stアルバム『ISHUMAR』MP3版)でCDデビュー。現在はパリ在住で、ヨーロッパ各地でコンサートを行い、活躍している。

http://toumast.net/










映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』

2015年2月28日(土)より、渋谷アップリンクにて公開



監督:ドミニク・マルゴー

出演:トゥーマスト

(スイス/2010年/ 英語/カラー/88分)

配給・宣伝:アップリンク

公式サイト




2014年12月16日(火)

『トゥーマスト』を通して見る、抵抗運動と音楽について


ゲスト:ピーター・バラカン(ブロードキャスター)×デコート豊崎アリサ(ライター/ジャーナリスト/写真家/「サハラ・エリキ」主宰)

詳細・チケット購入はこちら



2015年1月16日(金)

アフリカ音楽と「砂漠のブルース」について


ゲスト:サラーム海上(よろずエキゾ風物ライター)、粕谷雄一(金沢大学教授)

詳細・チケット購入はこちら




映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』


















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