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Channel: webDICE 連載『DICE TALK』
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知る権利を持つ市民よりも企業が上に立つ構造がGMO表示の問題なんだ

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映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より



食の安全を願う「家族」の視点により、遺伝子組み換え作物がいかに私たちの生活のなかに拡大しているかを取材し、遺伝子組み換え食品=GMOをめぐる問題点を描くドキュメンタリー映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』が4月25日(土)より公開。今回webDICEでは、日本公開にあたり来日したジェレミー・セイファート監督に、アメリカでの上映時のエピソードや、現在の全米各州の遺伝子組み換え食品の表示を巡る市民運動について聞いた。






企業により多くの生物多様性が失われている




──自身の家族の生活を通じてGMOに迫ろうと思った理由を教えてください。



ふだん家族で食べている食べものを調べてみると、農薬を作っている会社が私たちに食べものを売っている、その事に気づきました。その事態を深刻に感じ、この映画を作ることにしました。ですので、家族を巻き込んだというよりも、家族の映画を撮ることで、既に巻き込まれている私たちの問題を描けるのではないかと思ったのです。





映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』ジェレミー・セイファート監督

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』ジェレミー・セイファート監督




──制作にあたって、過去のGM作物をテーマにした作品を意識はしましたか?



デボラ・ガルシア監督の『The Future of Food』(2004年/邦題『食の未来―決めるのはあなた』)は観ましたが、あまり他の作品に影響されたくなかったので、それ以外は観ていないです。



──「モンサントは僕や子供たちに農薬を食べさせているのですね」という監督の言葉が出てきますが、今回の取材で最もショッキングだったことはなんですか?



いくつもありますが、Bt(微生物殺虫剤)や遺伝子組み換え作物が農薬として登録されていることです。そして、化学企業が私たちに彼らの作っている食品を買わせるようと、市場を統制していることです。私はてっきり自分たちの食べている食べものが農家から来ていると思っていましたから。確かに農家が作っていますが、企業がコントロールしている実態に大きな衝撃を受けました。



私は種について取材を続けていくなかで、限られた種類の作物を単一栽培する「産業化された農業」によりいかに多くの生物多様性が失われているかを知りました。



映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より




──小さいお子さんを出演させていることで、より親しみやすくこの問題を知ることができるようになっていると思います。



子どもたちとの制作は、様々なことに驚いたり不思議に思う気持ち、「センス・オブ・ワンダー」を私に取り戻させてくれました。世界の様々な問題は、この「センス・オブ・ワンダー」の欠如により生まれていると感じています。



子どもが一緒にいてくれたおかげで、常に「彼らにとって何が最も大切なのか?」を思い出させてくれました。私の想像力を解放させてくれたおかげで、このシリアスな問題を映画にするうえで遊び心を加えることができました。特に、遺伝子組み換え食物について説明するときにイラストレーションを多用したり、トウモロコシ畑をガスマスクをつけて走り回ってみたりすることで、農薬を作っている企業とオーガニックの対立構造を、ビジュアルで表現することができました。




映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より



──映画の冒頭にハイチの、モンサント社の種を焼く抗議運動を持ってきた理由は?



これこそアメリカ人が見るべき現実だと思ったからです。ハイチの人の運動と比べると、私たちがいかにGMOの現実について知らないかが分かりますし、アメリカ人が失ってしまったものを彼らは奪われないように闘っている。そして、奴隷制度とGMOは繋がっていると思います。



映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より、モンサントに反対するハイチの人々


アメリカ人の知る権利を否定する運動



──アメリカでの上映にあたっては、企業からの妨害や上映反対運動、取材した会社から「カットしろ」などの要求はありましたか?



直接的に私に対してというのはなかったし、訴訟を起こすということもなかったです。それは、映画で取り上げられている情報すべて事実に基づいていて正確だからです。ですので、やろうと思ってもできませんただ、いわゆる主流メディアが一切取り上げなかったということはひとつの現れだと思いますが、メディアはほとんどがGMO業界派です。その業界のメッセージに影響を受けていて、なおかつ、業界からお金をもらっているという状況があります。ですので、取り上げられなかったことは別に不思議なことではないんです。ひとつの例として、保守派の老舗雑誌・ニューヨーカーが私の作品を酷評したんです[『“OMG GMO” SMDH』(「GMO OMG」には呆れた[SMDH=shaking my damn head])]。それを鬼の首をとったかのように「この映画はこんなに酷評されているんだぞ」とモンサントがツイッターが流して、私の映画がいかにだめなのかを知らせようとしていました。



また、はっきりとした理由は分かりませんが、上映してくれると言っていた劇場が急遽キャンセルしてきたり、『DIVE!』という食料廃棄問題をテーマにした前の作品では、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ/日本のNHKにあたる放送局)から何度か取材を受けたのですが、『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』では一回もオファーされなかった。モンサント社はきっとそのNPRに賄賂を贈っているんじゃないかと思います。



それから、モンサント本社のあるミズーリ州セントルイスで今作を上映するために「AMCシアター」というシネコンを借りて、地元の新聞に「モンサント社の社員は無料でご招待します」とカラーの見開きの広告を打ったですが、誰も来ませんでした(笑)。



──ミミズも害虫も土壌病原菌も一緒に殺してしまう「種子消毒」についても紹介していますが、こうしたことで豊かな土地が失われていくのではないかと危惧しています。



今回取材したなかで、土の問題は種の次に重要です。土壌そして水が良くなければ良い作物は育ちませんし、農薬会社が推進する農業は、土の健康や肥沃さをまったく考えていません。あたかも天然肥料のように製造された人口肥料によって、人体にも影響を与えているのです。



現在の農薬会社が進めているのは、未来を考えない、愚かなやり方だと思います。昔の人々たちから受け継いできた肥沃な土壌は私たちの財産です。それがどんどん失われていき、このようなやり方を続けていては、農業ができる土壌が失われてしまいかねません。



社会全体が、どうすればこの問題を解決できるか分かっているはずです。この豊かな土壌を保つために、以前よりよりよい状態にすること、そして多くの種類の作物が作れる土壌にすることです。草の根的に、そうした土を取り戻す活動が行われていることは希望だと思います。しかし、まだ小さすぎます。もっと大きい活動にしていくことが必要です。



──遺伝子組組み換えに対抗する様々な取り組みが食品産業や消費者団体により行われていると思いますが、現在監督が注目しているものは?



アメリカ国内では小規模のオーガニック農家やファーマーズ・マーケットが急激に増えています。青空市場や地域が農家を応援するCSA(Community Supportive Agriculture、地域で支える農業)、森や伝統的な農業の知恵から学んで持続可能で高い生産性を持つ生態系を作るパーマカルチャー(パーマネント[permanent]とアグリカルチャー[agriculture]を組み合わせた「永続する農業・持続型農業」という意味の造語)、ニューヨークやシカゴなどの都市部で野菜を育てようとはじまっている垂直農法など、様々な動きが起こっています。しかし、それに対して遺伝子組み換えを推進する人たちは、TPPを利用して、私たちの動きを封じ込めようとしています。




映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より



──現在のアメリカ各州の遺伝子組み換えに対抗する動きについて教えてください。



映画を撮り始めたときは、まったく話題になっていませんでした。作り終える頃にカリフォルニアの「プロポジション37」という表示を義務付ける提案がなされて、それに続いて他の州でも同じような動きが起こりました。そうしたことで次第に認識が高まってきました。私の映画もわずかですが知ってもらうことに貢献したと思います。それでも、70パーセントくらいの人がGM食品を食べながらも、そのことを知らないのではないでしょうか。



その後、バーモント州が表示義務についての法案を通過させて、義務付ける方向に進みましたが、GMA(Grocery Manufacturing Association)という食料品店とメーカーの団体にアメリカの憲法の修正条項第1条の侵害ということで訴えられました。言論の自由、自分たちにとって悪いことは言わなくていい、つまり企業にとって不利になることは書かなくてもいい、という権利を持ちだしてきたのです。




──バーモント州は既に義務化が決定しているのですか?



通過はしましたが、訴えられてしまったためまだ実現していないです。訴訟はおそらく最高裁までいくと思いますので、3年はかかると思います。さらに、業界から各州へ、通称「DARK」(Deny Americans the Right to Know、アメリカ人の知る権利を否定する運動)と呼ばれる動きが生まれているのです。





──表示の条例については、その州だけでなく、周りの州も認めないと表示しないという内容もありましたが、それも業界団体や企業の圧力によるものなのでしょうか?



それはコネチカットとメインですね。バーモントは違います。だから他の2つの州は訴えられていないのです。圧力なのかどうかは私にはわかりませんが、ただ、すごく馬鹿げたことですよね。現在、遺伝子組み換え表示の義務化に反対する「H.R.4432」という法案が提出されています。



現在20から22の州が表示法案成立へ向けて動いています。しかし、資金不足などで十分な活動ができない状況です。



──なぜ国全体で一丸となって表示へ動き出せないのでしょう?



バイオ企業のロビー団体から何千万ドルという単位の献金や広告が投入されている。全ては金です。ロビー活動をすることによって、法案が成立しないように動いている。知る権利を持っている州の人よりも、企業のほうが上に立っているという構造になってしまっているのです。



私たち一般市民は数では彼ら大企業に負けませんが、何もしないのでは意味がありません。私たちの持っている権利を放棄したら、彼らに力を与えてしまう。選択の余地がなくなり、彼らの商品を買わざるをえなくなるという事態になってしまいます。GMOゴジラが私たちを攻撃しつつあるのです。人民の、人民による、人民のための政治である民主主義があっても、参加しなければ意味がないのと同じで、食べものについても自分たちの権利を放棄してはいけません。諸悪の根源は、利益の追求、拝金主義なのです。




種子貯蔵庫も必要だが自分たちで種を守っていくことが大切




──映画の最後に、ビル・ゲイツが建設に関わったと言われる、スヴァールバル世界種子貯蔵庫が出てきますが、監督としてはこの試みは有効だと思いますか?




ビル・ゲイツのことについては、様々な陰謀論がささやかれているので、真実を知ることが必要です。あのスヴァールバル種子貯蔵庫はノルウェー政府が建設し運営していて、ビル・ゲイツは「グローバル作物多様性トラスト」に寄付をしており、この財団が種子の輸送に資金を出しているのです。




映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より、スヴァールバル種子貯蔵庫


映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より、「グローバル作物多様性トラスト」の事務局長カリー・ファウラー


彼はGMO賛成派なので、この種子貯蔵庫の輸送に関わっていることについては反対ですが、貯蔵庫自体は、災害が起こったときのバックアップとして、あってもいいと思っています。イラク戦争の時にも、イラクにあった種子貯蔵庫が失われてしまいましたし、フィリピンの種子貯蔵庫も災害で失われてしまいました。



スヴァールバル種子貯蔵庫は、各国の種子会社は品種ごとの寿命によって新しい種を提供しなければいけません。今作にも出演しているインドのヴァンダナ・シヴァは、GMOの問題について常に取り組んでいますが、彼女もインタビューしたとき、次のように語っていました。「スヴァールバル世界種子貯蔵庫は、世界の種子の1パーセントにしか貯蔵庫が扱えません。残りの99パーセントは種子を交換したり保存したりする『Seed Saving Exchange』(種子保存交換協会)といった団体のような活動が大切になってきます。そして環境の変化に応じて作物も変わってくるので、最終的には、種の安全は自分たちで守っていかなければならないのです」。





映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より、ヴァンダナ・シヴァ




(取材・文:駒井憲嗣)











ジェレミー・セイファート(Jeremy Seifert) プロフィール



1976年生まれ。2010年、初監督作品『DIVE!』は食料問題や飢餓を解決することが環境問題における抜本的な改革として紹介し、世界中の22の映画祭でさまざまな賞を受賞した。その後、制作会社コンペラー・ピクチャーズを創設。現在、映画監督として、また環境活動家として、アメリカ中を旅して、人道主義と環境問題について講演を行っている。本作『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』は2作品目にあたる。現在(2014年)、ジェレミーと妻のジェンは、ノースカロライナ州アシュヴィルにフィン(7歳)、スコット(4歳)、パール(2歳)の3人の子供と一緒に住んでいる。










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映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』

4月25日(土)より渋谷アップリンク、名古屋名演小劇場、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開



映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より




監督:ジェレミー・セイファート

出演:セイファート監督のファミリー、ジル=エリック・セラリー二、ヴァンダナ・シヴァ

協力:大地を守る会、生活クラブ生協、パルシステム生活協同組合連合

字幕:藤本エリ

字幕協力:国際有機農業映画祭

配給:アップリンク

2013年/英語、スペイン語、ノルウェー語、フランス語/85分/カラー/アメリカ、ハイチ、ノルウェー



公式サイト:http://www.uplink.co.jp/gmo/

公式Facebook:https://www.facebook.com/gmo.movie

公式Twitter:https://twitter.com/uplink_els





▼映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』予告編

[youtube:xJaqUDz8IdE]

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