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右派・左派を代表する弁護士の証言とともに「靖国とは何か」を問いかけるドキュメンタリー『靖国・地霊・天皇』

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映画『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014



2011年の『天皇ごっこ-見沢知廉・たった一人の革命-』をはじめ、天皇制をテーマに多くの作品を発表してきた美術家、映画監督の大浦信行による最新作『靖国・地霊・天皇』が7月19日(土)より公開される。今作には、合祀撤廃と政教分離を訴えた“ノー!ハプサ(NO!合祀)訴訟”で弁護人を務める大口昭彦、そして右派陣営の代理人弁護士として歴史認識問題や靖国問題についての事件を数多く手掛けている徳永信一という、左派・右派を代表する弁護士が登場。ふたりがそれぞれの靖国への考えを語るインタビューを軸に、劇団態変の金滿里のパフォーマンスなど、大浦監督がこれまでも用いてきたフィクションのシーンを織り交ぜる手法により「靖国とは何か」を問いかけるドキュメンタリーだ。今回は大浦監督がどのような思いで今作を作ったのかを書いたディレクターズ・ノートを掲載する。




「遠近を抱えて」から「靖国」・「地霊」を巡る旅

──大浦信行



僕はかつて、昭和天皇をモチーフにした版画連作『遠近を抱えて』をつくった。日本とニューヨークという時間と空間のずれの中で、宙吊りにされた自分自身の自画像をつくろうと思ったのが、そもそもの動機だった。それは皮膚の毛穴の中にまで染み込んで在る「内なる天皇」を捜す旅でもあった。身体の内部を空洞化させ、最も遠くに自己を投げ出していく作業を開始する。そのような自己放棄と自己破壊を、想像力によって意識的につくり出していく。云ってみれば、自分自身を自らテロることによって「内なる天皇」に出会えるだろうと、僕は思ったのだ。



webDICE_大浦監督写真2

映画『靖国・地霊・天皇』の大浦信行監督



2014年の今、僕は『靖国・地霊・天皇』という映画をつくった。『遠近を抱えて』から30数年、大きな円を描いて自分の裏側に辿り着きたいと思ったのだ。云ってみれば、自分の背中の風景を見たいと。それは結局のところ、たった数センチ動いただけのことだったんだなあと思い、しかしその数センチのために人生を賭けてきたのもまた、事実だと思ったりする。



つくること、想像すること、そして死んでいくこと……そんなことをあれこれ立ち止まって考えさせられた今回の映画だった。




webDICE_「靖国」メイン

映画『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014





皇居・千鳥ヶ淵から九段坂を昇った数分の場所に靖国神社はある。天皇制と表裏一体となってアジア侵略を行い、植民地支配を推し進めてきた扇情する巧妙な装置であった靖国は、創建から140数年たった今、ローソクの灯が燃え尽きる寸前に大きな光を発するようにゆっくりと肥大化し、膨張と収縮を繰り返している。そして天皇制が営々と築き上げてきた体系を腑分けし、体系そのものを無化するかのように終焉に向かっての浸蝕を始める。それは次第に、無数の死者たちの集積がつくり出す幾重もの襞を持った巨大な軟体動物へと変容し、体系の軛(くびき)からも解き放たれて、死者たちが奏でる沈黙の声を発し始める。その声にじっと耳を澄ます時、そこからは新たな「未来への物語」の誕生を予感させる微かな呟きが、出口を求めてうごめいているのを僕は感じ取る。



「地霊」となってさ迷う死者たち。その死者たちに複眼的な色彩を与えたい。日本の渦巻く混沌と深い闇、そして地霊。錯綜するこの思いを映画の軸に据え、僕は『靖国・地霊・天皇』を描きたいと思った。



「地霊」はやがて、闇の世界の破れ目に一条の月光を注ぎ入れる天上の巫女へとその姿を変えながら、しなやかに旋回し、日本を越え東シナ海を渡り、遠くアジアへと繋がっていく。その中から、根源的な魂が希求する汎アジアの古層に横たわる「白い陰」が溢れ出し、壮大な叙事詩を形成し始める。それは交響する死のめくるめく旅である。地霊自らの寄る辺を捜す旅の道程は、やがて豊饒なエロスに裏打ちされた無名の人々のエネルギーがつくり出す「祝祭の場」と共振していくだろう。そして、生と死が混然と溶け合う祝祭の場から日本を逆照射するその時、何処からともなく天啓のように響いてくる一つの声がある。「もし地霊が現実に先行するものならば、われわれが現実と呼んでいるものは逆に不確定なものになる。すると地霊こそが現実である」



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映画『靖国・地霊・天皇』より、大口昭彦弁護士 ©国立工房2014


webDICE_「靖国」サブ③

映画『靖国・地霊・天皇』より、徳永信一弁護士 ©国立工房2014




大文字で書かれ、縦軸で構成された歴史の裏側に脈々と息づき、地下水脈のようにたおやかに流れている神話的世界。この神話的世界を確実なものとして捉えようとする想像力なしには、この現実を生き抜くことは出来ないと、僕は思う。変革し呼吸し続ける神話の創出によって、新たな輝きをもって見えてくる「現実」という逆説。



神話は荒唐無稽な物語などでは決してなく、本来、無名の人々がつくり出す想像力によって、この苛酷な現実を確かなものとして生きていくための、宇宙と交換する人類の知恵が作り出したものなのだ。だから権力の道具としての神話を、血の色をした死者たちの手に取り戻さなければならない。やがてそこからは「宇宙音楽を奏でる場」が創出されてくるに違いない。新たな神話的世界を内包した地霊は、靖国の地底深くに在って、今まさに深い眠りから醒め、この現実の真っ只中に現出する。唸り、吠え、しなやかな指の動きと伴に舞い踏む地霊。



この地霊こそは、位相をずらした僕自身の姿だ。のたうち廻る地霊に自己を重ね合わせながら、「もう一つの時間」を求めて、僕は映画の時空を駆け抜けたいと願った。



地霊によって反復される行為の数々。すると、我々を支配していた重力は歴史の後方へと席を譲り、すべての事物は重さを失った等価なものとなって、新たな存在の輝きを獲得する。その時、刻々と変化し続ける死者たちの複眼的肖像の数々は、微光を発する蛍となって、夜の静けさの雫を吸いながら再生されるのだ。それは破壊と憂鬱さの気分を携えながらやってくる。




webDICE_「靖国」サブ①

映画『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014





突き動かす情動と繰り返される新たな衝突によって、絶対的彼岸としての「死の根源」へと歴史を反転させていくこと。そして周縁に追いやられた果てに、忘れ去られてしまった死者たちの断片を拾い集めながら、それらが星座のように配置される時、血の色をした「死者の歴史」がその姿を現そうとする。だから有機的に重なり合う死者の記憶の層から生まれる未来の神話は、「死」の凝固した血を食べて育つのだ。そこで新たな未来を求める「死の旅」が、背後に「純化された自由」を携えて、ゆっくりとゆるやかな曲線を描きながら徐々に螺旋する輪を拡げ、古代から現代へと巡る空間の中をうごめき廻る。



死者たちの深い哀しみと叫びの集合が、「肉体の虹」となって天空に溶け入っていくのが見える。それはやはり「白い陰」だ。





そのような想いを込めて、僕はこの映画をつくった。



(オフィシャル資料より引用)



webDICE_「靖国」サブ⑤

映画『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014













大浦信行 プロフィール



1949年富山県生まれ。1976年より86年までニューヨークに滞在。昭和天皇を主題としたシリーズ「遠近を抱えて」14点が日本の検閲に触れ、富山県立近代美術館によって売却、焼却処分とされた。それを不服として裁判を起こすも、一審・二審を経て、2000年12月最高裁で棄却とされ全面敗訴。2009年、再び沖縄県立博物館・美術館において、「遠近を抱えて」14点の展示拒否・検閲が行われた。天皇作品問題を描いた映像作品『遠近を抱えて』(1995年)、美術・文芸評論家針生一郎を主人公に据えた『日本心中 針生一郎・日本を丸ごと抱え込んでしまった男。』(2001年)を発表。その続編ともいうべき、ジャーナリスト・重信メイという新たな主人公を得た『9.11-8.15 日本心中』(2005)では、崩壊の予兆を孕んだ激動する現在の世界に真正面からぶつけ、あるべき未来の姿を指し示した。こうした活動を経て、2014年に最新作『靖国・地霊・天皇』が完成した。











webDICE_「靖国」サブ⑥

映画『靖国、地霊、天皇』より ©国立工房2014





映画『靖国、地霊、天皇』

2014年7月19日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開






監督・編集:大浦信行

撮影:辻智彦

撮影助手・編集:満若勇咲

録音:清水克彦、根本飛鳥、百々保之

整音:吉田一明

制作:葛西峰雄

特別協力:辻子実

出演:大口昭彦、徳永信一、あべあゆみ、内海愛子、金滿里、鶴見直斗(声の出演)

製作・配給:国立工房

2014年/日本/HD/カラー/90分

c国立工房2014



公式サイト:http://yasukuni-film.com/

公式Twitter:https://twitter.com/yasukuni_tirei







▼映画『靖国、地霊、天皇』予告編

[youtube:atMxAgbc6Go]

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