映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
SF映画しかもタイムシフトものとなるとどこか突っ込みどころがあるものだが、桜坂洋原作、クリストファー・マッカリー、ジェズ&ジョン=ヘンリー・バターワース脚本(桜坂氏によると8人の脚本家が関わっていたと言う)、ダグ・ライマン監督による本作はその点、SF的世界においてストーリーテリング上、全てが論理的に整合しており、トム・クルーズ演じるケイジの視点によるタイムループの世界に一気に引き込まれていく。SF世界を楽しめるか否かはこの脚本と設定にかかっており、更に本作では機動スーツ、宇宙人との戦闘の訓練施設などユニークなビジュアルと相まって、さすがハリウッドというエンターテインメント作品に仕上がっている。
監督が「僕はストーリーテラーだ」とインタビューで述べるように、これは宇宙人との戦いを主題にした映画ではなく、タイムループによる強制的経験により成長していく人間の物語を軸にした、アクションSF宇宙人地球制覇映画と言えるだろう。
ちなみに、「ホドロフスキーはSF映画のOSを『DUNE』において発明した」という西島大介氏の言葉を本作において検証すると宇宙人、ギタイのクリーチャーデザインにそのDNAをみることができる。ギタイは漫画のデザインとも違い、先日亡くなったH.R.ギーガーに敬意を表したと思われるエイリアン・ライクなデザインとなっている。
自分を変えることができれば世界を変えることができる
──このプロジェクトに魅かれた理由を教えてください。また映像化するにあたって、最初にどんなことを考えましたか?
まず、これはテーマがふたつある映画ではないんだ。確かに宇宙人の侵略があるし、何度も死んでは生き返って同じ日を繰り返すトム・クルーズがいる。でもテーマはひとつなんだよ。つまり宇宙人に攻撃されるけど、なぜ彼らが我々を攻撃するかといえば、彼らはその日を何度も繰り返すことができて、自分たちが勝つまで記録を続けるからなんだ。こんな状態で人間に勝ち目なんてあるはずがない。ところがトム・クルーズ演じる主人公が彼らの能力に感染したことで、突如として人類にもチャンスが訪れることになるんだ。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のダグ・ライマン監督
宇宙人の地球侵略を描いた映画には何の興味もなかったよ。だからむしろ僕が本当に魅かれた理由は、トム・クルーズ演じるウィリアム・ケイジが辿る軌跡のほうだったんだ。僕はストーリーテラーだ。ディナーパーティに行って、みんなを楽しませるような話をするのが好きなんだよ。それを恥ずかしいなんて思わないしね(笑)。誰もが大いに楽しめるような映画作りに全身全霊を注いでいると同時に、スマートで刺激的な映画を作ることに情熱を抱いているんだ。
自分以外の人間はみんな同じことを繰り返しているのに自分だけが違うという状態の戦いの中に何度も何度も放り込まれるというのは……僕にとって、人生のメタファーのようなものだ。現実には、自分に世界を変えることはできないし、他人を変えることだってできない。でも自分自身を変えることならできるよね。この自分を変えるという行為こそが劇中を通してケイジにできる唯一のことなんだ。ほかはどれも同じで変わることがないからね。彼にコントロールできるのは自分の行動だけなんだよ。
つまりこうだ。僕は宇宙人の侵略やタイムトラベルの話をしているんじゃない、人間の話をしているんだよ。現実として、自分を変えることができれば世界を変えることができるということだ。その点に僕は魅かれたのさ。
この企画にはそうした深い意味があることが分かったのと同時に、ローラーコースターに乗っているかのような驚異的なアクションシーンもあるし、キャラクター主導のコメディ要素もあるし、素敵なラブストーリーまで揃っていることも分かってね。もう即座にこの映画を作りたいと思ったよ。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
トム・クルーズと僕は常に最上を求めてお互いに刺激し合った
──本作でのコラボレーションについてはどうアプローチしたのでしょう?またこのストーリーに息吹を吹き込んだトム・クルーズ、エミリー・ブラント、その他キャストとの共同作業について教えてください。
これまでの個人的経験から、本作がほかのどの作品とも違っていた理由の一部は気持ちも楽で、協力的な環境だったと思うんだ。『スウィンガーズ』を作った時の環境に似ていたかな。もちろん、あの時は気も楽で協力的な環境だった。何しろ仕事にあぶれていた奴らが誰にも期待されていない中で頑張って1本の映画を作ろうとしていただけなんだから。スタジオもなかったし、何もなかったからね。
でも今回は、ワーナーブラザースという一大のブランドの映画の中心で、まるであの時と同じような安心感と協調性のある環境を作ることができたんだ。強いて言えば何の懸念もない大学のキャンパスにある劇場なんかにありがちな環境のようだった。何しろ大学の劇場っていうのは基本的に何の不安もない協力的な環境に恵まれている場所だからね。しかもお金を稼ぐ必要がないんだから。
僕らはそんなリラックスできる環境の巨大スタジオの中心でキャラクター、ストーリー、テーマについて話し合ったよ。最初に現場の雰囲気が決まったな、と感じた瞬間のひとつは、僕らが行った初期の話し合いの一幕だったね。より幅広い脚本の話し合いをしていた際にエミリーが僕にこう言ったんだ。「あの、私はこの手の映画が初めてなの」とね。これは本当のことだ。僕はそんな彼女に、「いや、実は僕もこの手の映画は初めてだよ」と返答したよ。これも本当のことだからね。そうしたら話し合いの後、僕らのプロデューサーのひとりであるアーウィン・ストッフが僕に言ったんだ。さっきのはこれまで映画監督がスター俳優に対して言った中で最もすごいセリフのひとつだったと。自分も人間で、これまでに経験のないことをやろうとしている、と率直に伝えることがね。でもまさにそれこそが僕にこの映画を任せようと思った理由のはずだ。もし前に同じ経験があるなら、次はどれだけオリジナリティを発揮すればいいというんだろうね。
『ボーン・アイデンティティ』を監督した時にさかのぼるけど、あの当時の僕はインディペンデントのコメディ映画を2本作った経験があるだけだった。そこからユニバーサルのアクション映画を作ることになったんだよ。だから『ボーン・アイデンティティ』の作り方を前もってすでに心得ていた、なんて言ったらそれは明らかに嘘になるよね。でもどうにかして作り上げたんだ。今回だって、僕がこの映画の作り方を心得ているなんてどうして言えるんだい?今まで経験したことがないんだよ。今までやったことがないチャレンジなのに、どうしてやり方なんて知っていると思う?自分にあるのはどうチャレンジすれば良いのか、というアイデアだけさ。もし、実際に知っているなんて言う人がいたら、それは同じ映画を2度作っているだけか、嘘をついているだけだろうね。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
とにかく僕は、まずはみんなに僕自身が自分の限界を超えるような映画を作ることに意欲的であることを伝える、というスタンスでいたんだ。それに誰のエゴもない環境の中では最高のアイデアがいつも勝つものなんだ。僕は容赦なく最高の映画を追求したよ。ひとときも手を休めることなくね。
東京で記者会見を行った際に、漫画の「オール・ユー・ニード・イズ・キル」を見せてもらったんだ。原作は漫画じゃなくて小説だけど、それを漫画化して連載していたんだね。この映画化に取り組みはじめた頃、「あ、これ日本語だ。ということはコミックだな」と思ったんだよ。ところが絵なんて一枚もなかった。だからこの世界観、宇宙人をデザインするにあたって何も参考にするものがなかったのさ。だからこの漫画にも目を通してみたよ。
仮にそれが苦渋の結末になったとしても僕はどんな時も常に追求と自問を繰り返すタイプなんだ。「これが本当に僕らのできるベストなのか?さらに良い物にできないだろうか?」とね。そしてトム・クルーズ自身がまさにそういう生き様の人なんだ。だから僕らは常に最上を求めてお互いに刺激し合うことができたよ。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
──どうやら、そこにいた誰もがあなたがこの映画のために作り出した協力的な雰囲気を楽しんでいた様子ですね。
トムもそうした環境を作り出してくれていたよ。何しろ言わずと知れた世界屈指の大スターだからね。彼は熱心に打ち込む役者なんだ。常に映画のことを気にかけて、全力を傾ける。そんな彼の姿勢がスタッフやほかの人々を刺激して伝染していくんだ。本当に素晴らしかったよ。彼はこれまでに何本もの作品に出演してきているのに、まるで今回が初めての現場みたいに周りに感じさせるんだ。まるでお菓子屋さんに来て喜ぶ子供みたいにね。
様々な理由から、トム・クルーズみたいな人は彼を置いて他にはいない。でも個人的に彼をトム・クルーズたらしめている最も大きな理由のひとつは、あの熱意と映画に対する情熱だと思うんだ。想像するのは難しいだろうけれど、撮影初日、僕らは彼に朝8時にセットに来るように頼んだのに、彼は7時45分には現場にいたんだよ。翌日も同じ時間には現場にいた。撮影最終日もだ。その頃には実は彼がすでに7時15分には現場に来ていたことに気づいていたよ。彼は常に指定した時間よりも早めに現場に入る人なんだろうね。だから8時と言えば7時45分には姿を見せるし、僕らが7時45分に合わせて準備を整えればそれに気づいて今度は7時半に現場に入るようになる。主演俳優がこんな雰囲気をもたらしてくれる環境に囲まれていたら、毎日現場に行くのが楽しくて仕方がなくなるはずだよね。
それにエミリー・ブラントも素晴らしい女優だよ。僕はいつも仕事に行く時はこの映画を絶対に最高のものにしたいという思いが強くて毎朝ストレスがいっぱいで、ある意味ではスポーツ選手が勝負をしに行くような感覚で毎日仕事に行っていたんだ。それが僕の仕事観なんだよね。1日の終りには職場から自宅に戻る中で率直にその日がどんな1日だったかを評価する。「今日の僕らは勝ったか、それとも負けたか?」とね。シーズンは長い。この映画には100シーンもある。シーズンを勝利するためにお気に入りのチームが完封ばかりする必要がないのと同じように僕らにだって勝つ日もあれば負ける日もあるんだ。でも大半は勝たないといけないけどね。
そんな感じだから、僕は毎日仕事に行くのに少しストレスを抱えているんだ。「今日は勝ちたい」と思っているからね。今回の映画の場合は、毎日トムとエミリーと仕事をするのが楽しみだった。なにしろどうやってこの日の不可能を実現させるか不安に思う僕の気持ちを彼らは打ち消してくれたからね。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
キャラクターが究極の状況にどう対処するのかに関心がある
──ウィリアム・ケイジの役作りについてトムとはどのように協力していきましたか?またトムはこのキャラクターにどのような特徴をもたらしてくれましたか?
トムほど有名な人物と仕事をする楽しみは……彼のように30本も40本も映画に出ていると、もはや観客を驚かすことなどできないと思う人もいるだろうね。でもトムは僕と同じように今までに演じたことのない新たなキャラクターを創り出すことに最大限の努力を惜しまないん人なんだよ。僕も自分の作るキャラクターを研究する。監督業のスタートを切った『スウィンガーズ』ではキャスティングと脚本を同時作業することで満足いく出来になった。ジェイソン・ボーンはマット・デイモンと創作したし、フランカ・ポテンテのキャラクターも彼女と協力して完成させているんだ。『Mr.&Mrs.スミス』も同じだよ。これはいわば僕のワークショップの一部であって、共同作業というのは単にキャラクターを高いところから伝えることを指しているだけじゃないんだ。
僕らはシーンを1パターン試してみることから始めるんだ。リハーサル時には脚本家も同席するから舞台の作り方と似ていると言えるかもしれないね。そこからリライトするんだよ。つまりリハーサルではキャラクターとトムが完璧にフィットするまで脚本を書き直すんだ。うまくハマるまでね。すぐにピンとくることもあれば、最後まで悩むこともある。でも決して諦めることはしない。とことん突き詰めて妥協はしないんだ。僕にとってはとても興奮するプロセスだよ。
トムは素晴らしいパートナーだし、挑戦を決して怖れない。高ければ高いほど落ち幅も深いと思う人もいるだろうね。もしかしたらトムも僕と実験的な試みをすることにナーバスになっていたかもしれない。でも彼は何事にもチャレンジするんだ。そうしてから、「最良を探していこう」と言ってくれる人なんだよ。彼はいろいろなチャレンジに身を投じて、そこから僕が学び、僕が良いと思うほうを決めさせてくれる。僕の提案はすべて実践してみてくれるんだ。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
もうひとつ、彼は大スターだけれど、みんな彼が才能のある役者であることを忘れているね。彼を演出することは僕の中でも最も驚くべき経験のひとつだったよ。なにしろ彼は僕が言及したことをたちどころに吸収して実践してしまうんだからね。こちらが求めているものを正確に理解して表現できるんだ。さらに僕が「カット」と言おうと口を開く前に彼は先を読んで、「君の考えがわかるよ。君が正しい。もう一回やろう」と言ってくれるんだ。それはまさにこちらが言わんとしていたことだった。こんな意思疎通ができるのは最高だったね。
僕が自分の映画にアプローチしてキャラクターを創り上げることで観客はキャラクターの視点から映画を観ることができるようになるんだ。トムが主演俳優というのも期待度を上げる要因になる。ケイジはPR担当の男というキャラクターを作り上げ、ほかの人々に戦地で戦うことを説くんだ。彼自身は避け続けてきたのにね。ところがそんな彼が最前線に送られることになって、人間が大敗を喫している戦地のど真ん中に放り出されるんだ。
他人に戦うことを説いてきたはずケイジというキャラクター自身が最前線に送られる姿を見るなんて最高に面白いよね。キャラクターの歩みとしては最高に楽しい旅路になる。命を賭して戦うことを避けていたはずなのに何度も何度も同じ戦いをさせられるんだからね。この物語の魅力は彼が戦いたくないと願うほど、毎日繰り返し戦うハメに陥るという点だ。ケイジは臆病で自分勝手でありながら、憎めない愛嬌がある。観客は彼に共感できるんだよ。ケイジは途方もない旅路を続ける驚くべきキャラクターなんだ。
僕は本作や『Mr.&Mrs.スミス』『ボーン・アイデンティティ』のように、大きくて、象徴的なアイデアに興味を覚えるんだ。というのも、彼らがどんなキャラクターで、究極の状況にどう対処するのかに関心があるからね。その点でいえば今回の作品は今のところ僕が取り組んできた中で最もパワフルな作品になっているし、トム・クルーズという素晴らしいパートナーも手に入れることができたといえるね。
──リタ・ヴラタスキ役を演じたエミリー・ブラントとの仕事はいかがでしたか?彼女はこの役に何をもたらしてくれましたか?
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』が素晴らしいのは……僕の作品を観たことがある人は僕が強い女性キャラクターが好きなことはご存じだと思う。何しろ僕は普段から強い女性に囲まれているからね。『Mr.&Mrs.スミス』では、ミセス・スミスのほうがミスター・スミスよりも強い。それが彼らの世界なんだ。別に何かがその裏にあるというのではなくて単にそういう構造をしているというだけだよ。僕は単に映画スターを起用して、そこに旬の女優を加えた映画を作るようなフィルムメーカーじゃない。脚本から練りはじめて、女性側の視点からも取り組んだんだ。だから『ボーン・アイデンティティ』ではほかのフィルムメーカーならジェイソン・ボーンになる気分はどんなものか、というポイントからはじめるところを、僕は彼とデートしたらどんなことになるのかという視点から脚本を作りはじめた、というワケさ。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より、エミリー・ブラント ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
本作の場合は、エミリー・ブラントのキャラクターの視点から見てみると、彼女はかつてトム・クルーズの持つ特別な力を持っていたことで伝説の戦士になったと言える。人々は彼女がこの戦いの結末を変えてくれることを願っているし、もしかしたらそうなったかもしれないが、すでに彼女はその能力を失ってしまっているんだ。世界は彼女が別の何かを成し遂げることを期待しているけど、それが無理なことは彼女だけが知っている。そんな時に自分が失った能力を持ったケイジと出会ったことで、彼女は彼を導けばきっと自分が出来なかったことを成し遂げてくれることに気づくんだ。
だから単にリタの視点からストーリーを伝えることもできる。エミリー・ブラントを起用して無名の男優にウィリアム役を演じさせてもきっと面白い話になるだろうね。そうなるとこれはリタの物語、パワフルな物語になるだろう。
僕がこの作品に惚れているのは、そうした物語も含めてウィリアムの物語を伝えることができるからだ。ふたりの視点が完璧に溶け合って、そのおまけとして美しいラブストーリーもある。強いキャラクターというのはこういうところから誕生するんだよ。肉体的に強いという意味じゃなくて、ストーリーを支えるだけの強さのあるキャラクターである必要があるんだ。
──エミリーはこの役のためにかなりの肉体改造をしたそうですね。そうした強さは常にスクリーンに描き出されていますか?それとも物語が進むうちに表出するのでしょうか?
エミリーはジムでのトレーニングだけでは得られない驚異的な強さを持ったキャラクターを創り出してくれたよ。筋力も必要だったから、それは幸いなことにジムでなんとかなったけどね。そして繰り返しになるが、やはりトムの存在があったからこそなんだ。トムは役の準備のために6~7か月前から熱心に準備をしていたから、エミリーも同じようにジムでのトレーニングをしたんだよ。彼はとても真剣に捉えていたんだ。監督としてはまさに夢のようだったね。
緊迫した状況や暗い瞬間をユーモアで明るくするのが人間の本性
──本作のユーモアについて質問です。トム演じるケイジとビル・パクストン演じるファレウ曹長の掛け合いなどは撮影をする中で生まれた物なのですか?
キャラクターとキャストは一心同体だからね。僕とビル・パクストンとの間の最初の一言は、「脚本を送るけど、ぜひあなたにキャラクターを作り上げて欲しいんだ。そうすることでキャラクターを成立させるために必要なことが何かを脚本から読み取れると思う。とにかく一緒に役作りについて話をしましょう」だったよ。
そして彼との最初の会話は、ケイジの所属する小隊を率いる曹長のアイデア出しだったね。曹長にとって戦場に行くというのは、ほとんど宗教的な体験なんだ。彼にしてみれば戦場で英雄として命を落とすというは解脱なんだよ。勝利と同等なんだ。そんな考えの曹長は興味深くて鮮やかなキャラクターになるけど、ケイジにしてみたら最悪の悪夢でしかない。生き延びるためなら逃げることも恐れない軍曹のほうがいいはずだ。英雄たる死を説くような軍曹なんてまっぴらご免だよね。つまりこれがキャスティングとキャラクター創作が一心同体であることの重要性なんだよ。これはビル・パクストンにしか演じることのできないキャラクターだ……僕らで一緒に作り出したんだからね。まるでオートクチュールみたいなものさ。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より、ビル・パクストン ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
ユーモアについては、僕は最低な状況の時にユーモアが飛び出すような家庭に育ったからね。昔、パタゴニアの山で遭難したことがあってね。相当ヤバい状況だった。それなのに従兄弟のゲイリーがかなり緊迫した瞬間に僕ら全員が腹を抱えて笑うようなことを言ったんだ。つまり僕は最も緊迫した状況や暗い瞬間をユーモアで明るくする家庭環境の生まれなんだ。それが人間の本性というものだと思うよ。
だからこの映画でもリアルな危機、リアルな緊張感のある世界を作り上げたかったんだ。そしてそれをユーモアでぶった切る……キャラクター主導のコメディでね……そのほうがリアルな世界の感じがすると思ったからだよ。僕が人生で最も愛している人々や家族は逆境をささやかなユーモアで乗り切る人たちだ。恐ろしくて、危機が迫る世界にキャラクターたちが良質なユーモアのセンスで応酬するようにしたかった。そしてユーモアのセンスの良い映画にしたかったんだ。
毎日現場に行くのが楽しみだった理由の一部には、トムが驚くほど面白い人物だったこともあるだろうね。エミリー・ブラントにはコメディの経験があったしね。コメディというと皆、彼女のことを思い浮かべたよ。でもトムも面白かった。撮影以外の会話ではいつも笑っていて、互いにふざけ合っていたよ。彼は本当に最高のコメディアンだ。話が弾めば弾むほど、そんな笑いをスクリーンに映し出す方法を発見していたね。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より、エミリー・ブラント ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
よりシンプルなモラル(道徳性)に立ち返り宇宙人を描く
──本作にはデジタル処理で生み出される見事な要素もありますが、機動スーツなどは実際に撮影していますね。リアルな世界と宇宙人の存在を並列させる映像についてはどのようなビジョンをお持ちでしたか?
最初にも言ったけれど、僕がこの映画を作ると決めた時、興味を覚えたのは宇宙人じゃなくて人間のほうなんだ。宇宙侵略について最も興味があるのは、それが人間にどういう影響を及ぼすのか、という点だよ。だから僕は、役者と僕の間の距離はできるだけ縮めておきたかったんだ。機動スーツはとても重たいし邪魔だし痛いけれど、その一方であえてこの装甲具を役者に着用してもらうことで、視覚効果に頼らずに実際に撮影することができた。おかげでリアルに見せることができたよ。ワイヤーやケーブルはついていたけどリアルにね。そこからリアルなパフォーマンスも生まれるんだ。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』に登場するエイリアン ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
──宇宙人についてですが、デザイン面、ビジュアル面という観点から、どんな姿、雰囲気にしたいとお考えでしたか?
宇宙人の侵略を描く映画を作る上で興味を抱いた理由のひとつが、ある種のよりシンプルなモラル(道徳性)に立ち返る、よりシンプルな時代に立ち返る機会だった、という点だったね。『Mr. & Mrs.スミス』が『フィラデルフィア物語』のような映画にインスパイアされているのと同じようにね。
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』を作っている際に僕が観ていたのは宇宙人の映画ではなくて、第2次世界大戦を舞台にした映画や敵陣の中に切り込んでいくキャラクターを描いた映画だった。第2次世界大戦というのは戦線が非常に明確だったんだ。誰もが軍服を着ていたしね。誰がどちらの軍なのか一目瞭然だったんだよ。しかもそうした状況の中に非常にロマンチックな物語もいくつか存在したんだ。
だから僕が宇宙人侵略というアイデアに魅かれたのは、つまり彼らが自分とは違う軍服を着ている敵の存在だったからなんだ。しかも戦線が非常にはっきりしている……宇宙人と人間だ。そこに曖昧さはまったく存在しない。だから宇宙人のデザインを手がけた際には、「宇宙人(alien)」という言葉と、その言葉のニュアンスにとても興味を覚えたね。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』に登場するエイリアン ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
普段、「宇宙人」というと、単に自分たちにとって未知の存在、異質な存在という意味になる。それに普段あまり使用しない言葉だよね。ましてや宇宙外からクリーチャーがやって来るという意味でこの言葉を使うことはほとんどない。むしろ理解できないものを語る時に使う言葉になっている面がある。そういう意味で僕は「宇宙人」という言葉に興味を覚えたからこそ、理解できないクリーチャーを登場させたんだ。僕らには彼らの動機も最終的な目的もわからない。わかるのは彼らが人間を殺すということだけなんだ。コミュニケーションもはかれない。そこに存在しているのはお互いに理解しあえない全く違うふたつのカルチャーであって、その理解できない状態で戦争に突入していくだけなんだ。
僕にとっては宇宙人のことを理解できないというのが非常に重要なポイントになったよ。その意味でも彼らは異質な人(エイリアン)だし、「宇宙人」という言葉は実に言い得て妙だと思う。劇中で登場人物たちが彼らについて、「奴らの目的は何だ?」と話しているように、誰にも彼らの狙いはわからないんだ。理解できない、殺す以外にないんだ。ところが同じように相手のほうも我々のことが理解できないから、殺そうとする。それほどシンプルなことなんだ。互いにとって相手はまさに「異質な存在」なんだよ。
宇宙人のデザインはこうしたコンセプトから考え出されたんだよ。彼らのすべて、つまり動き方から殺し方に至るまで、我々が想定するような宇宙人らしさを出す必要があった。その一方ですべての面において地球生まれの僕らの予想とは驚くほど違うものになっている必要もあったね。
つまり、「これは異質か?それとも普通か?」という非常にシンプルなマントラなんだ。地球にいる動物の鳴き声のような音なのか?それとも地球外生物的な音なのか?地球では聞いたこともないような音なのか?もちろん、僕が求めたのは後者のほうだったよ。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』に登場するエイリアン ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
僕らは間違いなくホームランを打った
──本作のために世界各国の役者を集めましたね。とりわけケイジが配属されたJスクワッドは国際色が豊かです。キャスティングのプロセスと彼らに決めた理由を教えてください。
僕はどちらかというと人の意見と反対のことをするタイプのフィルムメーカーだから、いつも楽な方は選ばないし、大抵は意図的に未知な方に目を向けている。宇宙人の侵略を描いたハリウッド映画の大半はアメリカの街が襲来されるパターンだ。だからまずはその点から僕は違うことをしたんだ。「ヨーロッパにしたらどうだろう?今までとは違う方がいいんじゃないか?舞台をヨーロッパにして宇宙人襲来を描いても面白いんじゃないか?」とね。
僕は自分のキャリアを通じてこうした決断を繰り返してきたんだ。つい、「どうして一般的な方法でやる必要がある?他の方法でやってはだめなのか?」と思ってしまう。でも、こうした考え方のおかげで制作をロンドンにしたことで非常に大きな恩恵に与ることができたし、イギリスとフランスを舞台にしたことで素晴らしい国際的キャストに恵まれ、世界で最も才能あふれる役者が揃う場所のひとつにアクセスすることができたんだ。
すべての役柄に映画で主演を飾れるような役者をキャスティングしたよ。例えばトム・クルーズと共に戦うJスクワッドのメンバーは全員が映画スターだ。世間がまだその事実を知らないだけだ。例えばあのビンズ・ボーンは僕らが『スウィンガーズ』を作った際にはまだ知名度が低かったけど、今では超有名人であるようにね。すべての役柄に最高の演者が顔を揃えているんだ。ブレンダン・グリーソン、ノア・テイラーも参加して優れたパフォーマンスを披露しているよ。オーストラリア出身のキック・ガリーは出演シーンすべてをさらってしまうほどだ。ジョナス・アームストロングとフランツ・ドラメーについては、このふたりだけで映画を作りたいと思うほどだね。シャーロット・ライリー、トニー・ウェイ、ドラゴミール・ムルジッチと組めるなんて映画監督にとってはまさに夢が叶ったようなものだ。もしこのキャスティングで映画を作っていい、と言われたらそれは映画監督にとってこれ以上ない幸福だね。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より、ブレンダン・グリーソン ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より、キック・ガリー ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
もし、この映画で後悔することがあるとすれば、実は今、DVD特典映像の作業中なのだけれど、DVDに収録できる彼らの映像がこれ以上ないことだね。彼らの分はすべて映画で使ってしまったよ。
──ロンドンのトラファルガー広場での撮影について教えてください。本作に登場する巨大ヘリコプターのシーンを撮影するために、あの広場を封鎖したご感想は?
トラファルガー広場を封鎖して巨大な英国空軍ヘリコプターを着陸させる、なんていうのはまさに子供のような気持ちになる興奮の瞬間だったよ。技術面から言えば、僕のキャリアの中でも最大の挑戦になったね。というのも時間の猶予は3時間しかなかったし、現場のリハーサルはできなかったうえに、巨大ヘリを扱うということで、封鎖の方法も極めて複雑だったんだ。一旦ヘリが地面をホバリングすると、騒音が大きすぎて文字通りすべてのコミュニケーションが不可能になってしまったしね。
だから事前に入念な準備をしてから3時間の撮影を迎えたよ。おかげで上手くいったね。もう一度、なんて絶対に、絶対に無理だろうね。まさに一度きりのチャンスだった。あと1分なんて言おうものならすべてが台無しになっていたよ。関係者には、「これは人生で一度きりのチャンスですよ。最大限に活用してください」と言われたよ。
そこで撮影の1週間前にリーブスデンでリハーサルを行ったんだ。芝生と道路の上にトラファルガー広場を作り上げてそこにヘリを持ち込んで撮影をしてみたことはあったけど、実際の現場では行わなかった。その際にヘリの音が大き過ぎて、すべてあらかじめ準備しておかないと本番の3時間でヘリが飛んできても話ができないことに気づいたんだ。全員が自分の役割をしっかりと把握しておく必要があったんだよ。まるで事前にダンスの振り付けを頭の中に叩きこんでおくようにね。
日曜日に撮影をしたんだけど、土曜日に1時間だけトラファルガー広場を封鎖してリハーサル用の時間を貰ったんだ。その時にはヘリはなかったけれど、広場とスタッフは揃っていた。だからヘリが着陸するエリアをテープで囲んでシーンのリハーサルを行ったよ。そして日曜日の朝を迎えたんだけどトラファルガー広場にヘリが着陸したことなんて一度もなかったから、実際にヘリを着陸させてみるまで本当に着陸できるのか、できないのかという疑問は残っていたんだ。でもトム・クルーズが実際にヘリに乗っていて、そのヘリが着陸しようとする光景はまさに映画のシーンに仕上がっていた。僕は11台のカメラをしっかり回したよ。
こうしたあらゆるプレッシャーと本作にとってのシーンの重要性も、頭上にヘリが姿を見せた途端、そんなことはすべて忘れてお菓子屋に入った子供の気持ちになって、「もしかして、今までの人生の中で目撃した最もクールな光景かも」と思っていたね。あれはまさに一生に一度の体験だったよ。
先ほども言ったように今回の経験はまさにスポーツイベントのようだった。勝ったか?それとも負けたか?あの日、僕らは間違いなくホームランを打ったね。単に勝ったのではなく大成功を収めたんだ。
(オフィシャル・インタビューより)
ダグ・ライマン プロフィール
1965年、アメリカ生まれ。1996年、インディペンデント・コメディ『スウィンガーズ』で初めて大きな注目を集めた。この作品はすぐにカルト的な人気を博し、続くインディ系のヒット作『GO』(99)で、インディペンデント・スピリット賞の最優秀監督賞にノミネートされた。これら2本のインディペンデント映画を監督しただけの実績しかなかったが、作家ロバート・ラドラムに会うためにティートン山脈に赴き、『ボーン・アイデンティティー』(02)の映画化権を獲得した。同作では監督と製作を兼ね、マット・デイモンがタイトルロールを演じ、世界中で2億1400万ドル以上の収益をあげた。シリーズ第2弾『ボーン・スプレマシー』(04)、第3弾『ボーン・アルティメイタム』(07)では製作総指揮を務めた。ほかの監督作には、アクションコメディ『MR.& MRS. スミス』(05/ブラッド・ピット、アンジェリーナ・ジョリー主演)、SFヒット作『ジャンパー』(08)、実話に基づく『フェア・ゲーム』(10)などがある。TVでは、「コバート・アフェア」の41エピソード(10?13)、「SUITS/スーツ」の28エピソード(11~14)などで製作総指揮を務めている。
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より ©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』
2014年7月4日(金)2D/3D公開
謎の侵略者“ギタイ”の攻撃に、世界は滅亡寸前まで追いつめられていた。ウィリアム・ケイジ少佐は機動スーツを装着して出撃するがすぐに命を落とす。しかし、死んだ瞬間、彼は出撃前日に戻っていた。無数に繰り返される同じ激戦の一日。ある日、ケイジは女性戦闘員リタに出逢う。繰り返される過酷なタイムループの中、リタによる戦闘訓練で次第に強くなってゆくケイジ。果たして彼は、世界を、そして、やがて愛するようになった彼女を守れるのか。
監督:ダグ・ライマン
原作:桜坂洋
出演:トム・クルーズ、エミリー・ブラント、ビル・パクストン、キック・ガリー、ドラゴミール・ムルジッチ、シャーロット・ライリー、ジョナス・アームストロング、フランツ・ドラメー
配給:ワーナー・ブラザース映画
2014年/アメリカ/113分
©2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED
公式サイト:http://www.allyouneediskill.jp
公式Facebook:https://www.facebook.com/warnerbrosjpn
公式Twitter:https://twitter.com/warnerjp
▼映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』予告編
[youtube:zuYexT62V_M]