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Channel: webDICE 連載『DICE TALK』
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『私の男』熊切和嘉監督が桜庭一樹の文学に映画として挑戦

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映画『私の男』より





熊切和嘉監督が浅野忠信、そして二階堂ふみを迎え、第138回直木賞を受賞した桜庭一樹の小説を映画化した『私の男』が6月14日(土)より公開される。北海道を舞台に10歳で孤児となった少女と、彼女を引き取ることになった遠縁の男の「禁断の愛」のかたちが描かれる今作。熊切監督が原作にどのように対峙したのか、そしてキャスティングや撮影について語った。



先日のプレミア上映会で熊切監督は、「文学では描かれているテーマだが、日本映画が避けがちなので、映画も負けていられない。匂い立つような、映画ならではのアプローチをした」と語っていた。また本作のテーマである「禁断の愛」に絡めてニコニコ動画で大島渚監督の『愛のコリーダ』、キム・ギドク監督の『絶対の愛』などを期間限定でプロモーションのために無料配信するという。世界に衝撃を与えた『愛のコリーダ』と比べてもその衝撃度はひけをとらない作品に仕上がっている。

熊切監督は、そのテーマである禁断の愛のシーンで血の雨をこれでもかと降らせるという映画ならではの表現方法で描き、桜庭一樹の文学に対して映画としての挑戦を行っている。

また、撮影素材を二階堂ふみ演じる"花"の幼女時代を16ミリで、少女時代を35ミリで、そして東京に出てきてからをデジタルで取り分けているのが興味深く、フィルムの粒状性の加減と有無が過去と現在、記憶の深度、紋別と東京といった違いを効果的に描写するのに成功している。音楽は熊切監督の『海炭市叙景』『夏の終り』に続き、風景と人物の情景と心情を表現する事に長けた音楽を作曲するジム・オルークが担当している。



父娘の関係を手触りとして信じられた




──原作との出会いはいつでしたか。また、読んだ印象をお聞かせください。


『海炭市叙景』がひと段落した2010年ごろに、人に勧められて読みました。すぐに、これは次に自分が撮るべき物語だ、と直感しました。北海道が物語の重要なところを占めている点にも惹かれましたし、やはりこの父娘の関係と運命には強く惹きつけられました。観念的にではなく、手触りとして信じられたというか。これを映画的に再構築したら、とんでもない作品ができるぞ、と勝手にゾクゾクしていました。



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映画『私の男』の熊切和嘉監督




──読みながら、ロケ地や撮影のイメージは浮かんできましたか。


流氷のシーンや雨の銀座のシーンなどは非常に映像的なので否応なしに浮かんできましたが、全てではないです。空間的にも、時間的にも大きなうねりのある、ドラマティックな映画にできそうだな、とは感じました。



──『海炭市叙景』でも北海道を描いていらっしゃいましたが、また、北海道でドラマを紡ぎたいという思いがあったんでしょうか。


ありましたね。僕は北海道出身ですし、『私の男』の舞台である紋別にも何度か訪れたことがあったので。『海炭市叙景』は、生活者の視点に立って作り上げていったのですが、『私の男』は、生活者の視点もありつつ、ふいと日常を超えるところもある原作だったので、そこが面白いと思いました。花という子は独特の感性を持った子だと思うので、基本的にはある一定の距離感を持って撮りながらも、要所要所で彼女の感性に寄り添うような尖った表現方法を織り交ぜていこうと思いました。




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映画『私の男』より




──実際に作品が動き始めたのはいつ頃ですか。


原作を読んで間もなく、たまたま知人の紹介で西ケ谷寿一さん、西宮由貴さんという二人のプロデューサーに会うことになったんです。その時は特に具体的な話をする予定ではなかったのですが、雑談の流れで今やりたい企画は何か、という話になったので、咄嗟に「私の男」をやりたいと話しました。お二人は『南極料理人』のプロデューサーだったので、流氷ロケも含めてできるんじゃないかと、お会いして直感的に思ったんです。その後、2011年に『私の男』の企画が釜山国際映画祭でAPM企画賞をいただいたことで、現実的に動き出しました。



──主演のキャスティングについて、イメージはあったのでしょうか。


浅野さんについては、原作を読んだときからイメージがありましたね。浅野さんは、僕たちの世代にとっては特別な存在ですから。学生時代からスクリーンで観ていてずっと憧れていたので、いつかご一緒したいなと思いながらなかなか叶わなかったんです。花役はどうしようかな、と思っていたときに、別作品のオーディションに二階堂さんがいらっしゃって、「あ、花がいる」とほんとに思ったんです。





──浅野さんと藤さんは『アカルイミライ』以来の共演ですね。


藤さんはすごく大好きな俳優さんですし、やっぱり今回のようにタブーに挑戦する映画で『愛のコリーダ』の方に出ていただきたかった、というのはあります。



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映画『私の男』より




多くの方に「体感」してもらい、

その心を震わせることができたら



──脚本を作るのは、大変だったのではないですか。


脚本の宇治田隆史には、残してほしいポイントだけ伝えて、基本的には任せました。原作は時代を遡っていくけど、映画は時代を追っていったほうがいいんじゃないかなと僕も思っていたんですが、宇治田もそういう風に書いてきたから、映画で物語るにはこれが正解なのかな、と思いましたね。ただ、流氷のシーンをはじめとして撮影するにはあまりに難易度が高いシーンが多くて、「撮れるもんなら撮ってみろ」という宇治田からの挑戦状を受け取った感じがして、意地でも撮ってやる、と奮起しました。まあ、原作を読んだときから流氷は外せないと思っていましたが。いざ映像にするには、どうしていいかすぐには分かりませんでした。また、映画にするうえで一番気を配ったのは、花が被害者に見えないようにすることでした。原作以上に花が主導権を握っているように描きました。




──今回、フィルムとデジタルをシーンによって使い分けていると伺いましたが。


『私の男』という作品が、16年にわたるドラマであるという点において、ダイナミックに時間を飛ばす際に使い分けができたら面白いんじゃないか、と思ったんです。また、僕らは自主映画を撮影するときにフィルムを使っていた最後の世代なので、フィルムでしか出せない質感のよさも解りますし、デジタルのよさも知っているのでやってみたかったということもあります。舞台が東京に移ってからの回想シーンで、雪の坂道がフィルムの質感で戻ってきたりすると、グッとくるんじゃないか、と。もっと言うと、流氷は何がなんでも35㎜で撮りたかった、というのもあります。そこで、花の幼少時代を16㎜フィルム、北海道の冬篇を35㎜フィルム、東京篇をデジタルで撮影することにしました。結果的に、使い分けができたのはとても面白い経験でした。




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映画『私の男』より



──劇中で何度か流れるドヴォルザークの「新世界より」が印象的でした。



「新世界より」は、東京篇で淳悟が夕方一人ソファに座ってコーラの空き瓶を吹いているシーンの段取りを行っているとき、ちょうど17時になって、偶然チャイムとして流れてきたんです。メロディが、浅野さんのお芝居と見事にハマっていて……。その後、録音の吉田憲義さんと「紋別の坂道で流したりして、ふたりの思い出のメロディにしよう」というような話で盛り上がりました。



──流氷でのロケをはじめ、記憶に残る撮影だったのではないですか。



流氷での撮影は、体力的に大変でした。湾の中に集まってきた流氷の上で撮影をしていたのですが、満潮になる度に氷の配置が変わってしまうので、毎朝、日の出とともに僕と撮影の近藤龍人くんとチーフ助監督の海野敦くんとで撮影ポイントを決めて動線の確保をやっていました。また、室内のシーンと屋外の広大なシーンとのギャップを出すため、部屋の中がものすごく濃密な空間になるように作りこみました。



とにかく去年一年間は丸まる『私の男』にかかりきりで、正直まだ自分では全然客観的に観ることができていませんし、上手く言えないんですが、何というか、今回の映画は理屈を超えて感覚に直接訴えかける映画になればなあと思って作ったので、多くの方にまずは「体感」してもらい、そしてその心を震わせることができたら嬉しいです。



(オフィシャル・インタビューより)













熊切和嘉 プロフィール



1974年9月1日、北海道生まれ。97年、大阪芸術大学の卒業制作作品『鬼畜大宴会』が第20回ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリを受賞、大ヒットを記録し、第48回ベルリン国際映画祭パノラマ部門ほか、10ヶ国以上の国際映画祭に招待され一躍注目を浴びる。その後、PFFスカラシップ作品として制作した『空の穴』(01)、第60回ヴェネチア国際映画祭コントロ・コレンテ部門ほか数々の映画祭に出品され話題を呼んだ『アンテナ』(03)をはじめ、『揮発性の女』(04)『青春☆金属バット』(06)『フリージア』(06)など意欲的な作品を発表し続け国内外で高い評価を得る。08年の『ノン子36歳(家事手伝い)』は第38回ロッテルダム国際映画祭スペクトラム部門ほか映画祭に出品され、「映画芸術」誌の2008年度日本映画ベストテンで1位に輝いた。その後、10年の『海炭市叙景』も国内外で多数の受賞を果たす。近年の主な監督作品に『莫逆家族 バクギャクファミーリア』(12)『夏の終り』(12)など。










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映画『私の男』より


映画『私の男』

6月14日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー



奥尻島を襲った大地震による津波で家族を失った10歳の花は、遠い親戚と名乗る男・腐野淳悟に引き取られることになった。家庭に居場所がないと感じながらも、一度に全てを失い茫然自失の花。淳悟もまた、家族の愛を知らないまま、白銀の冷たく閉ざされた町で独り生きてきた。「今日からだ」。紋別に向かう車の中、失ったものとこれからの不安とで、堰を切ったように泣く花の手を握りしめ話しかける淳悟。「俺は、おまえのもんだ」。孤独な魂が共鳴するように、ふたりはお互いの手を握り続けた。




監督:熊切和嘉

出演:浅野忠信、二階堂ふみ、高良健吾、藤 竜也、モロ師岡、河井青葉、山田望叶

原作:桜庭一樹『私の男』(文春文庫)

脚本:宇治田隆史

音楽:ジム・オルーク

撮影:近藤龍人

照明:藤井勇

録音:吉田憲義

美術:安宅 紀史

編集:堀 善介

VFX スーパーバイザー:オダ イッセイ

2013年/日本/129分/5.1ch/シネマスコープ/カラー/デジタル/R15+

©2014「私の男」製作委員会



公式サイト:http://watashi-no-otoko.com/

公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/私の男/518962304811458

公式Twitter:https://twitter.com/watashinootoko




▼映画『私の男』予告編


[youtube:NwxOl1pmYyU]

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