映画『ぼくたちの家族』より ©2013「ぼくたちの家族」製作委員会
『川の底からこんにちは』『舟を編む』の石井裕也監督が妻夫木聡、原田美枝子、池松壮亮、長塚京三ら豪華俳優陣を迎え、「家族」をテーマに挑んだ最新作『ぼくたちの家族』が5月24日(土)より公開される。ある日突然、脳腫瘍が発見され余命一週間と宣告された母親と、父親そしてふたりの息子の奮闘と再生を描く今作。これまでの作品においても、独特の「間」を生かした演出により人間関係の機微を捉えてきた監督が、どのように「家族」を描いたのか、石井監督に聞いた。
ニヒルを気取る次男坊の感じはよくわかるんです
── 今作の原作は、小説家・早見和真さんが自身の体験を元にした作品「砂上のファンファーレ」ですが、制作のきっかけから教えてください。
きっかけは、永井プロデューサーからの企画持ち込みでした。原作となる早見和真さんの「砂上のファンファーレ」は2011年3月に刊行され、6月に読みました。僕自身の話だ、と思いました。家族構成は全く同じで、僕は次男で、7歳の時に母親を病気で亡くしています。距離を置いて家族をじっと観察して、“くだらねえ”とニヒルを気取る次男坊の感じはとてもよくわかるんです。兄に対しては、言葉にし難い思いがあり、家族に起こる出来事を兄は弟よりも直接的に背負っている、とどこかで感じていた。まるで浩介を見る俊平のように。
原作に書き込みを施し、すぐに53ページもあるプロットが出来上がった。映画の骨子はその時すでに出来上がっていました。主人公は、兄の浩介になっていました。
映画『ぼくたちの家族』の石井裕也監督
これは「母を救う話」だと思いました。僕の場合は幼かったので、病気の母親のために何もできませんでしたが、もう一度その機会があるのならば、全てを背負いこみたい、と思ったんでしょうね。弟の立場は痛いほどよくわかるのですが、今回は兄貴の立場に立って奮闘したいと思いました。脚本は改訂を重ね、19稿で決定稿となりました。
映画『ぼくたちの家族』より ©2013「ぼくたちの家族」製作委員会
── 物語のなかで「とっくにこの家族なんてぶっ壊れてんだ」という次男の台詞がありますが、家族について多くの問題を抱える現在の社会のなかでそれぞれの思いを投影して観ることができる作品だと思います。撮影現場はどのようなムードでしたか。
この若菜家を「自分の家族」と重ね合わせて撮影していました。それは僕だけだと思っていましたが、話を聞くと他のスタッフや役者さんも自分の家族を重ね合わせていたようです。それができたのは、原作に普遍的な要素が詰まっていたからだと思います。
映画『ぼくたちの家族』より ©2013「ぼくたちの家族」製作委員会
池松君の大人の男になる瞬間を撮れるかもしれないと思った
── 浩介と俊平、性格のまったく異なるふたりの息子役に妻夫木聡さんと池松壮亮さんを起用した理由を教えてください。
妻夫木聡さんと池松壮亮くんに関しては、二人の顔が同時に浮かんだキャスティングでした。妻夫木さんはずっと好きな役者さんでした。実は最も難しい「普通の男」を色っぽく艶やかに演じられる稀有な存在だと思います。しっかり考え、悩んでいる痕跡がくっきりと顔に刻まれているんです。そういう男は、同性から見てもカッコいい。池松君も妻夫木さんと同じ匂いがします。でも彼は、当時まだ「少年」でした。この映画で、大人の男になる瞬間を撮れるかもしれない、と直感的に思いました。
映画『ぼくたちの家族』より 妻夫木聡 ©2013「ぼくたちの家族」製作委員会
映画『ぼくたちの家族』より 池松壮亮 ©2013「ぼくたちの家族」製作委員会
── それでは、余命一週間と宣告される母親役の原田美枝子さん、それから家族を建て直そうと奮闘する父親役の長塚京三さんについては?
原田美枝子さんは、僕が言うのも恐れ多いですが、かわいいんです(笑)。玲子は脳腫瘍が原因で、だんだん少女化していく。天真爛漫で少女のような要素が絶対的に必要で一番大事にしたかった部分。彼女に対して、長男、弟と父がついていく。気品・少女性のある母親を演じられるのは原田さんしかいなかったと思います。
長塚京三さん演じる父親は、多額の借金を抱えていますが、それでも許せてしまうのは長塚さん自身が持つお茶目さや人間っぽさがにじみ出ているから。いわゆる「ダメな親父」は以前にも「あぜ道のダンディ」などの作品で描いていますが、今回は一度失墜した父権をもう一度取り戻す、という「新しい父親」を目指しました。浩介が父になっていくように、父ももう一度「お父さん」をやり直していくのです。
映画『ぼくたちの家族』より 原田美枝子 ©2013「ぼくたちの家族」製作委員会
映画『ぼくたちの家族』より 長塚京三 ©2013「ぼくたちの家族」製作委員会
── 監督にとっては20代最後の作品となりましたが、どのような感慨がありますか?
これで「若者」としての映画制作は終わると自覚していました。ある種の総決算的に、若い感性を振り絞って、一度家族というものを見つめ直し、全力でやってみようという気概がありました。撮影が終わって、ああ、これで20代が終われた、やり残したことはないという気持ちになりました。
映画『ぼくたちの家族』より ©2013「ぼくたちの家族」製作委員会
── 一生懸命になればなるほど、悲哀と可笑しみが溢れてくる妻夫木さんの演技や、原田さんの天真爛漫な母親のキャラクターなど、とてもリアルに現代の家族が描かれていると思います。この家族の物語を撮るにあたり、主題をどこに据えようとしましたか。
この映画を言葉で語るのは非常に難しいです。明確なテーマを持たずに映画を作ったからです。それは僕にとって初めての経験でした。テーマは不必要でした。家族というワケのわからない「業」のようなものに理屈で向き合っても仕方ない、と思いました。上手な宣伝文句が何も言えないことが歯痒いですが、それでもこの映画では、素晴らしい俳優たちの「演技合戦」が見られると思います。言葉では説明のしようがない家族、人間というものを、彼らの演技を通して垣間見ることができると僕は確信しています。
(オフィシャル・インタビューより)
【関連記事】
[骰子の眼]「時代の虚無感や閉塞感を逆手にとって、少しでも前向きに捉えることが今やるべき事」石井裕也監督が新作『川の底からこんにちは』に込めた思い
http://www.webdice.jp/dice/detail/2407/
石井裕也 プロフィール
1983年埼玉県出身。大阪芸術大学の卒業制作として2005年『剥き出しにっぽん』を監督。この作品で第29回ぴあフィルムフェスティバル「PFFアワード2007」にてグランプリ&音楽賞(TOKYO FM賞)受賞。続けて監督した『反逆次郎の恋』(06)、『ガール・スパークス』(07)、『ばけもの模様』(07)と共に第37回ロッテルダム国際映画祭、第32回香港国際映画祭で特集上映される。2008年にはアジア・フィルム・アワードで第1回「エドワード・ヤン記念」アジア新人監督大賞を受賞。第19回PFFスカラシップ作品として監督した『川の底からこんにちは』(10)ではモントリオール・ファンタジア映画祭2010にて最優秀作品賞を受賞のほか、国内外で多数の映画賞を受賞した。さらに『舟を編む』(13)で第86回米国アカデミー賞外国語部門日本代表作品に史上最年少で選ばれる快挙を成し遂げ、同作は日本の映画賞を総なめにした。その他の主な監督作に『あぜ道のダンディ』(11)、『ハラがコレなんで』(11)がある。
映画『ぼくたちの家族』より ©2013「ぼくたちの家族」製作委員会
映画『ぼくたちの家族』
5月24日(土)より、新宿ピカデリー他 全国ロードショー
監督・脚本:石井裕也
出演:妻夫木聡、原田美枝子、池松壮亮、長塚京三、黒川芽以、ユースケ・サンタマリア、鶴見辰吾、板谷由夏、市川実日子 他
撮影:藤澤順一
編集:普嶋信一
美術:栗山愛
衣装デザイン:馬場恭子
音楽:渡邊崇
原作:早見和真「ぼくたちの家族」
製作:『ぼくたちの家族』製作委員会
配給:ファントム・フィルム
2014年/日本/カラー/117分
公式サイト:http://bokutachi-kazoku.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/bokutachikazoku
公式Twitter:https://twitter.com/bokutachikazoku/
▼映画『ぼくたちの家族』予告編
[youtube:Z29PIqq5oc4]