映画『フルートベール駅で』より ©2013 OG Project, LLC. All Rights Reserved.
2009年の元旦早朝、アメリカ西海岸の地下鉄駅構内で、若い黒人青年オスカー・グラントが鉄道警官に射殺されるという事件が起きた。武器を持たず取り押さえられたままの彼が銃で撃たれた様子を複数の利用客が携帯で撮影しネットでアップしたことから、警察に対する抗議が殺到し、全米で抗議集会が行われるなど、大きな波紋を巻き起こした。この事件を元に、オスカーの死に至るまでの1日を描いた『フルートベール駅で』が2013年3月21日(金)より公開される。2013年サンダンス映画祭で作品賞と観客賞を受賞した本作が初長編作となる27歳のライアン・クーグラー監督に、制作の経緯を聞いた。
オスカーの人間性が失われてしまったように感じた
──この作品を作ろうとあなたを駆り立てたものは何だったのですか?
この作品を作らなければと僕を駆り立てさせたのは、事件そのものとその余波だった。事件が起こった時、ちょうどクリスマス休暇で学校からベイエリアに戻ってきていて、ベイエリア高速鉄道(Bay Area Rapid Transit―以下BART)の駅で誰かが撃たれ、次の朝に息を引き取ったと聞いた。元日にニュース映像を見てすごく心動かされた。オスカーは僕であってもおかしくなかったと思ったんだ……。年も同じぐらいだったし、彼の友人たちは僕の友人たちと似ていたし、こんなことがベイエリアで起こったことに大きなショックを受けた。
裁判の間、状況が政治化するのを目の当たりにしていた。その人の政治的な立ち位置によって、オスカーは彼の生涯の中で何ひとつ悪いことをしていない聖人か、又は受けるべき報いをあの晩受けた悪党かのどちらかに分かれた。その過程で、オスカーの人間性が失われてしまったように僕には感じたんだ。亡くなったのが誰であろうと、悲劇の真髄はその人ともっとも近しかった人々にとってその人がどういう人だったのかというところにある。
映像、裁判、そしてその余波は僕をとてつもない無力感に陥らせた。ベイエリアコミュニティの人の多くが抗議活動に、そしてその他の人々も集会やデモに参加した。また、自暴自棄からの暴動もたくさん起きた。僕も状況を変えるために何かしたいと思って、映画を通してこの話に命を吹き込み、オスカーのような人物と観客とが一緒に時間を過ごす機会を作れれば、このような出来事が再び起こるのを減らせるかもしれないと思ったんだ。
映画『フルートベール駅で』のライアン・クーグラー監督
──作品を発展させるのに必要とした時間は?どのような障壁がありましたか?
プロデューサーのフォレスト・ウィテカーに作品の企画を提案したのと同時期に、アウトラインを作りつつ、遺族の弁護士を務めるジョン・ブリスと組んでいる友人エフライム・ウォーカーから公式記録を取り寄せ始めた。ウィテカーのプロダクション会社、シグニフィカント・プロダクションズが作品にゴーサインを出した後、遺族に会いに行って、オスカーの物語の権利をシグニフィカントに保有させてくれるよう交渉したんだ。遺族側の信頼を勝ち取るのが本当に大変で、いかなる場合でもこの話を扇状的に扱うことはしないと保証しなければならなかった。僕がやりたかったのは、オスカーと同年代で、人口統計的にも同じところに属する人間の視点とベイエリアからこの物語を語ること。これには時間がかかったね。遺族に僕が製作した短編を見せて、僕自身のことも話し、なぜインディペンデント映画の視点からこの物語が語られるべきだと思うか説明した。最終的に遺族はこの映画を進めることを承諾してくれた。
映画『フルートベール駅で』より ©2013 OG Project, LLC. All Rights Reserved.
もうひとつ困難だったのは、低予算で作りながらも、ある一定の芸術性を保つことだった。我々はベイエリアで、そしてスーパー16ミリで撮影したかった。これらのことは、物事を創造的に解決していくことと、早いペースで進めることを意味していた。撮影期間は20日間で、キャスティングに関してはコネが何もなかった。製作が終わってもこの怒濤のスケジュールは終わらなかった。2012年7月に撮影して、6ヶ月後にはサンダンスで上映していたからね。このスケジュールは本当に大変で、関わったすべての人々にとってストレスの種となった。
もっとも困難だったことのひとつは、実際の事件の現場となったBARTで主に撮影したかったことに起因していた。BARTの駅や電車でのシーンをどう撮るのかについては心配が尽きなかった。同社や地域にとってこれが痛みを伴う出来事だっただけに、協力を疑問視する人が多かったんだ。彼らに会って、プロジェクトの内容を説明し、なぜBARTの施設内で撮影したいのかを説明した。僕らの企画意図を聞き、彼らは製作に協力することを承諾してくれたんだ。
映画『フルートベール駅で』より ©2013 OG Project, LLC. All Rights Reserved.
観客にオスカーをできるだけ身近に感じてもらいたい
──オスカー・グラントの物語は全国的なメディア狂乱を巻き起こし、大論争と報道の加熱に繋がりました。なぜこの物語をドキュメンタリーではなくドラマにしようと思ったのですか?
この作品をドラマにしようと思ったのにはいくつか理由がある。まず一つは、このような出来事は繰り返し起こるから、時間を空けずに作りたかった。フィクション映画製作がノンフィクション映画製作に対する利点のひとつに、早く完成できるということがある。僕の好きなドキュメンタリーはみんな完成までに数年かかっていたからね。もう一つの理由は、キャラクター先導のフィクション映画とドキュメンタリー映画の視点の違い。僕が個人的に思っていることだけど、うまく作りさえすれば、ドラマの方がドキュメンタリーよりも登場人物に深く感情移入させられる。この作品では、観客にオスカーをできるだけ身近に感じてもらいたいと思っていたから、自分が撮影されることを意識することから来る違和感をできるだけ避けたかった。ドキュメンタリー映画では得てしてそれが障壁となるんだ──タイトなスケジュールでは特にね。
映画『フルートベール駅で』より ©2013 OG Project, LLC. All Rights Reserved.
──この射殺事件と悲劇的な死について知ってもらう他に、この作品で世の人々に知らせたいことは何ですか?
オスカー・グラントという人間が確かに存在していたことを観客に伝えたいね。あがいていたり、個人的な葛藤を抱えていたけれど、希望や夢や目標をもった人だった。そして彼がもっとも愛していた人たちにとって、彼の命がとても大切だったことも。この作品を通じて、新聞の見出しを読むだけでは得られない、オスカーのような人物に近しさを感じてもらえたらいいなと思っている。
(オフィシャル・インタビューより)
ライアン・クーグラー プロフィール
1986年5月23日カリフォルニア州生まれ。南カリフォルニア大学で映画&テレビ製作の修士号を取得。2011年に、娘の安全のために闘う若い娼婦を追った短編の学生映画「FIG」(未)が、ディレクターズ・ギルド・オブ・アメリカの学生映像作家賞(Student Filmmaker Award)と2011年度アメリカン・ブラック映画祭のHBO短編映像作家賞(HBO Short Filmmaker Award)を受賞。2012年『フルートベール駅で』の脚本がサンダンス・インスティテュート・スクリーンライターズ・ラボに選出された。
映画『フルートベール駅で』より ©2013 OG Project, LLC. All Rights Reserved.
映画『フルートベール駅で』
2014年3月21日(金・祝)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
サンフランシスコのベイエリアに住んでいる22歳のオスカー・グラントは、前科者だが心優しい青年だ。2008年12月31日彼は恋人ソフィーナと、彼女とのあいだに生まれた愛娘タチアナと共に目覚める。いつもと同じようにタチアナを保育園へ連れて行き、ソフィーナを仕事場へ送り届ける。車での帰り道、大晦日が誕生日の母親ワンダに電話をし「おめでとう」と伝える。母と会話をしながら彼は新年を迎えるにあたり、良い息子であり、良い夫であり、良い父親であろうと、前向きに人生をやり直したいと思っていた。大晦日の晩は家族、親戚一同が揃い、母の誕生日を祝った。オスカーとソフィーナは新年を祝いに仲間たちとサンフランシスコへ花火を見に行くことにし、タチアナをソフィーナの姉に預けに行く。オスカーを見送るタチアナは不安を口にする。
監督:ライアン・クーグラー
出演:マイケル・B・ジョーダン、オクタヴィア・スペンサー
製作:フォレスト・ウィテカー、フォレスト・ウィテカー
脚本:ライアン・クーグラー
撮影:レイチェル・モリソン
プロダクションデザイン:ハンナ・ビークラー
編集:クローディア・S・カステロ、マイケル・P・ショーヴァー
音楽:ルートヴィッヒ・ヨーランソン
配給:クロックワークス
2013年/アメリカ/85分/PG12
©2013 OG Project, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://fruitvale-movie.com
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▼映画『フルートベール駅で』予告編
[youtube:p4gk1RrUJ3c]